12
財政学13租税(7)資産課税(1201573日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授) 1

1 第13回 租税(7)資産課税(1 2015年7月3日(金)€¦ · 財政学Ⅰ 第13. 回 租税(7)資産課税(1) 2015. 年. 7月3日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

  • Upload
    others

  • View
    3

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 1 第13回 租税(7)資産課税(1 2015年7月3日(金)€¦ · 財政学Ⅰ 第13. 回 租税(7)資産課税(1) 2015. 年. 7月3日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

財政学Ⅰ 第13回 租税(7)資産課税(1) 2015年7月3日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

1

Page 2: 1 第13回 租税(7)資産課税(1 2015年7月3日(金)€¦ · 財政学Ⅰ 第13. 回 租税(7)資産課税(1) 2015. 年. 7月3日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

資産課税とは何か(1) 資産課税はストックの経済力に対して課税。

フロー・ベースでは捉えきれない経済力に対して課税するという、補完税としての意義を有する。

資産課税は大きく資産移転課税と資産保有課税からなる。 資産移転課税は資産を移転した時点で課税し、資産保有課税は資産を保有している時点で課税。

資産移転課税は有償移転課税と無償移転課税からなる。 有償移転課税:資産が有償で移転された場合に課税。印紙税(国税)、登録免許税(国税)、不動産取得税(道府県税)など。 流通取引は国家の保護を受けているため、それへの対価として税を負担する必要がある(利益説)。もしくは、流通取引の背後には何らかの担税力があると考えられるので、それに基づいて税を負担する必要がある(能力説)。

無償移転課税:資産が無償で移転された場合に課税。死後の資産移転に対して課税する相続税と、生前の資産移転に対して課税する贈与税からなる。

資産保有課税は個別財産税と一般財産税からなる。 個別財産税:土地、家屋など、特定の財産所有に着目して課税する物税。固定資産税(市町村税)、都市計画税(市町村税)など。

一般財産税:納税者の純資産額(資産総額から負債総額を控除した額)に対して課税する人税であり、富裕税と資本課徴からなる。

2

Page 3: 1 第13回 租税(7)資産課税(1 2015年7月3日(金)€¦ · 財政学Ⅰ 第13. 回 租税(7)資産課税(1) 2015. 年. 7月3日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

資産課税とは何か(2) 3

資産課税の体系

資本課徴

資産課税

資産移転課税

資産保有課税

有償移転課税

無償移転課税

個別財産税

一般財産税

贈与税

相続税

富裕税

出所:望月・篠原・栗林・半谷編著『財政学[第四版]』186ページに一部修正。

Page 4: 1 第13回 租税(7)資産課税(1 2015年7月3日(金)€¦ · 財政学Ⅰ 第13. 回 租税(7)資産課税(1) 2015. 年. 7月3日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

資産移転課税:相続税(1) 無償移転課税である相続税と贈与税は、フロー・ベースでは捉えきれない経済力を捉えるとともに、富の過度の集中を抑えるという意義を有する。 無償移転課税がなければ、世代を経過するとともに経済的な格差が拡大しつつ受け継がれてしまう。

他方で、無償移転課税は後世代に多くの資産を残そうというインセンティブを削いでしまうという批判も。

相続税は遺産税と遺産取得税からなる。 遺産税:被相続人(故人)の遺産を租税客体として、遺言執行人を納税者とする。

課税当局は遺産総額だけに着目すればよく、税務行政が簡素であるという利点がある。

遺産取得税:相続人が取得した遺産を租税客体として、相続人を納税者とする。 個人所得税の補完。相続人の個別の事情を考慮して課税できるという利点と、遺産が広く分割されるほど租税負担が小さくなるため、富の過度の集中を抑制できるという利点がある。

日本の相続税は、遺産取得税の方式を基礎としながら、遺産税の方式を加味したもの(併用方式)。 相続税の総額の算定は、実際の遺産分割にかかわりなく、遺産総額、法定相続人の数とその法定相続分という客観的基準に基づく。

創設当初の1905年には家督相続と整合的な遺産税方式であったが、第二次世界大戦後に遺産取得税方式に移行。しかし、日本の遺産相続の実態になじまないとして、1958年の税制改正で併用方式に移行。

特に農家では農業経営を維持するために長男への単独相続が必要であったため、単独相続が不利にならない併用方式が導入された。

4

Page 5: 1 第13回 租税(7)資産課税(1 2015年7月3日(金)€¦ · 財政学Ⅰ 第13. 回 租税(7)資産課税(1) 2015. 年. 7月3日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

資産移転課税:相続税(2)

相続税額の計算プロセス ①遺産総額から非課税財産を控除した後、被相続人の債務・葬式費用を差し引き、これに相続開始前3年以内の贈与財産を加算して各相続人の課税価格を算出し、それらを合計。

この合計額が基礎控除額以下であれば、相続税の申告・納税義務はなし。

非課税財産:死亡保険金・退職金(限度額 = 500万円 × 法定相続人数) 、国や地方自治体等に対する相続財産の贈与など。

②課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて、課税遺産額を算出。

基礎控除:3,000万円+(600万円×法定相続人数)

③課税遺産額が民法に定められた通りに相続されたと仮定して、各相続人に按分。

④按分された各課税遺産額に税率を適用して仮の相続税額を算出し、それらを合計して相続税額の総額とする。

⑤相続税の総額を、課税価格の合計額に対する各相続人の課税価格の割合により按分し、そこに個別の事情に応じて税額控除等を適用することで、各相続人の納税額を算出。

税額控除

配偶者控除:取得した財産の法定相続分または1億6,000万円のいずれか大きい金額に対応する税額まで控除。

未成年者控除:20歳に達するまでの年数×6万円

5

Page 6: 1 第13回 租税(7)資産課税(1 2015年7月3日(金)€¦ · 財政学Ⅰ 第13. 回 租税(7)資産課税(1) 2015. 年. 7月3日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

相続税額の計算例(住澤整編著『図説日本の税制 平成26年度版』165ページ):被相続人の遺産2億円を、妻が1億円、長男が6,000万円、長女(18歳)が4,000万円ずつ相続し、債務・葬式費用500万円は長男が負担した場合。なおこの他に、被相続人が保険料を支払っていた保険契約にかかわる死亡保険3,000万円と、死亡退職金2,500万円を妻が取得している。 ①課税価格の合計額の計算

妻:1億円 +(3,000万円 -500万円×3)+(2,500万円 -500万円×3 )=1億2,500万円

長男:6,000万円 -500万円 =5,500万円

長女:4,000万円

合計:1億2,500万円 +5,500万円 +4,000万円 =2億2,000万円

②課税遺産総額の計算

2億2,000万円 -(3,000万円 +600万円 ×3)=1億7,200万円

③相続税総額の計算

妻:(1億7,200万円 ×1/2)× 30% -700万円 =1,880万円(速算表による)

長男・長女:(1億7,200万円 ×1/2 ×1/2)× 20% -200万円 =660万円(速算表による)

合計:1,880万円 +660万円 ×2 =3,200万円

6 資産移転課税:相続税(3)

Page 7: 1 第13回 租税(7)資産課税(1 2015年7月3日(金)€¦ · 財政学Ⅰ 第13. 回 租税(7)資産課税(1) 2015. 年. 7月3日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

相続税額の計算例(承前) ④各法定相続人の算出税額の計算(課税価格の割合で按分)

妻:3,200万円 ×(1億2,500万円/2億2,000万円)= 1,818万円

長男:3,200万円 ×(5,500万円/2億2,000万円)= 800万円

長女:3,200万円 ×(4,000万円/2億2,000万円)= 582万円

⑤各法定相続人の納付税額の計算

妻:0(算出税額が1億6,000万円以下であるため、全額が配偶者控除を適用される)

長男:800万円

長女:436万円 -10万円 ×(20歳 -18歳)=416万円

7 資産移転課税:相続税(4)

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額1,000万円以下 10% -3,000万円以下 15% 50万円5,000万円以下 20% 200万円1億円以下 30% 700万円2億円以下 40% 1,700万円3億円以下 45% 2,700万円6億円以下 50% 4,200万円6億円超 55% 7,200万円

相続税の速算表

(2015年1月1日~)

Page 8: 1 第13回 租税(7)資産課税(1 2015年7月3日(金)€¦ · 財政学Ⅰ 第13. 回 租税(7)資産課税(1) 2015. 年. 7月3日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

2013年度決算における相続税の収入額は1.6兆円で、国税収入額に占める割合は3.4%。

基礎控除の拡充、税率の引下げ、ブラケット数の減少などにより、これまで課税割合、負担割合ともに低下。 課税割合:相続税を課税された被相続人の、死亡者数に対する割合。

負担割合:相続税の納税額の、課税価格の合計額に対する割合。

日本の相続税制度をめぐる問題点 課税遺産総額が民法に定められた通りに相続されたと仮定して各相続人の相続税額を計算するため、課税遺産総額が同じ二つの相続を比較すると、法定相続人の数や構成によって、相続人が同額を相続しても税負担が異なることがある(水平的公平の侵害)。

純粋な遺産取得税方式では、各相続人の負担額は、相続分から基礎控除を差し引き、それに累進税率を適用して算出されるため各人の担税力が反映されるが、日本の現行制度では、課税遺産総額から全体の基礎控除を差し引いた額に累進税率を適用するため、応能的な負担となっていない。

8 資産移転課税:相続税(5)

Page 9: 1 第13回 租税(7)資産課税(1 2015年7月3日(金)€¦ · 財政学Ⅰ 第13. 回 租税(7)資産課税(1) 2015. 年. 7月3日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

9

注1:基礎控除の( )内は、法定相続人が3人(例:配偶者+子2人)の場合の額である。 注2:課税割合は、課税件数/死亡者数であり、負担割合は、納付税額/合計課税価格である。 注3:合計課税価格とは、小規模宅地の特例による減額等を行った後、基礎控除を差し引く前の課税対象財産の価格である。 出所:財務省ホームページ

最近における相続税の主な改正

資産移転課税:相続税(6)

Page 10: 1 第13回 租税(7)資産課税(1 2015年7月3日(金)€¦ · 財政学Ⅰ 第13. 回 租税(7)資産課税(1) 2015. 年. 7月3日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

10 資産移転課税:相続税(7)

① ②(千人) (千人) (億円) (億円) (%) (%)

1987 751 59 82,509 14,343 7.9 17.41995 922 51 152,998 21,730 5.5 14.21996 896 48 140,774 19,376 5.4 13.81997 913 49 138,635 19,339 5.3 13.91998 936 50 132,468 16,826 5.3 12.71999 982 51 132,699 16,876 5.2 12.72000 962 48 123,409 15,213 5.0 12.32001 970 46 117,035 14,771 4.7 12.62002 982 44 106,397 12,863 4.5 12.12003 1,015 44 103,582 11,263 4.4 10.92004 1,029 43 98,618 10,651 4.2 10.82005 1,084 45 101,953 11,567 4.2 11.32006 1,084 45 104,056 12,234 4.2 11.82007 1,108 47 106,557 12,666 4.2 11.92008 1,142 48 107,482 12,517 4.2 11.62009 1,142 46 101,230 11,632 4.1 11.52010 1,197 50 104,630 11,753 4.2 11.22011 1,253 52 107,468 12,516 4.1 11.62012 1,256 53 107,718 12,446 4.2 11.6

出所:住澤整編著『図説日本の税制 平成26年度版』157ページに一部修正。

相続税の課税状況の推移

年分死亡者数

被相続人(課税分)

課税価格③

相続税額④

②/① ④/③

Page 11: 1 第13回 租税(7)資産課税(1 2015年7月3日(金)€¦ · 財政学Ⅰ 第13. 回 租税(7)資産課税(1) 2015. 年. 7月3日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

11 資産移転課税:相続税(8)

2013年度改正前 2013年度改正後(注1)課税方式 遺産課税方式 遺産課税方式最低税率 18% 7% 5%最高税率 50% 55% 40% 30% 45%

税率の刻み数 6 8 12 1

参考

2.ドイツでは、2009年1月より基礎控除の拡大、兄弟姉妹等に係る税率等の引上げ等が実施された。一方、2010年1月には兄弟姉妹等に係る税率の引下げが実施されている。

3.アメリカでは、2010年に遺産税は一旦廃止されたが、2011年に、基礎控除500万ドル(4億円)、最高税率35%で復活した。当該措置は2012年までの時限措置であったところ、2013年以降については、2012年米国納税者救済法により、基礎控除500万ドル(4億

円)は維持しつつ最高税率を40%へ引き上げることとされた。

4.フランスでは、2012年第2次修正予算法における税制改正により、2012年8月17日以降の相続について、直系血族に係る基礎控除額が159,325ユーロ(2,151万円)から100,000ユーロ(1,350万円)に引下げられた。

備考:邦貨換算レートは、1ドル=100円、1ポンド=161円、1ユーロ=135円(基準外国為替相場及び裁定外国為替相場:2013年11月中における実勢相場の平均値)。なお、端数は四捨五入している。

出所:住澤整編著『図説日本の税制 平成26年度版』303ページ

配偶者(免税)子:10万ユーロ(1,350万円)

注1:2013年度改正後の制度は、2015年1月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用する。

注2:ドイツの税率は配偶者及び子、孫等、フランスの税率は直系血族の税率によった。

注3:ドイツでは、配偶者に対する相続において、剰余調整分(婚姻中における夫婦それぞれの財産増加額の差額の2分の1)が非課税になるほか、基礎控除50万ユーロ(6,750万円)及び特別扶養控除25.6万ユーロ(3,456万円)が認められる。

注4:ドイツでは、子に対する相続において、基礎控除40万ユーロ(5,400万円)のほか、27歳以下の子には10,300ユーロ(139万円)~52,000ユーロ(702万円)の特別扶養控除が認められる。

1.遺産課税方式は、人が死亡した場合にその遺産を対象として課税する制度であり、遺産取得税方式は、人が相続によって取得した財産を対象として課税する制度である。

基礎控除等5,000万円

+1,000万円×法定相続人数(別途、配偶者の税額を控除)

3,000万円+600万円×法定相続人数(別途、配偶者の税額を控除)

配偶者(免税)基礎控除:

534万ドル(5.34億円)

配偶者(免税)基礎控除:

32.5万ポンド(5,233万円)

配偶者(注3):剰余調整分+75.6万ユーロ(1億206万円)

子(注4):40万ユーロ

遺産取得課税方式10%

40%続柄の親疎により、税率は3種類(最高税率50%)(注2)

続柄の親疎により、税率は4種類(最高税率60%)(注2)

7 7

主要国における相続税の概要(2014年1月現在)

区分日本

アメリカ イギリス ドイツ フランス

法定相続分課税方式(併用方式) 遺産取得課税方式

Page 12: 1 第13回 租税(7)資産課税(1 2015年7月3日(金)€¦ · 財政学Ⅰ 第13. 回 租税(7)資産課税(1) 2015. 年. 7月3日(金) 担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)

12

(注1)配偶者が遺産の半分、子が残りの遺産を均等に取得した場合である。(注2)フランスでは、夫婦の財産は原則として共有財産となり、配偶者の持分は相続の対象ではないが、比較便宜のため、課税価格に含めている。(注3)フランスでは、2012年第2次修正予算法における税制改正により、2012年8月17日以降の相続について、直系血族に係る基礎控除額が159,325ユーロ(2,151万円)から100,000ユーロ(1,350万円)に引き下げられた。(注4)ドイツでは、死亡配偶者の婚姻後における財産の増加分が生存配偶者のそれを上回る場合、生存配偶者はその差額の2分の1相当額が非課税になる(ここでは、配偶者相続分の2分の1としている)。(注5)アメリカでは、2010年に遺産税は一旦廃止されたが、2011年に、基礎控除500万ドル(5億円)、最高税率35%で復活した。当該措置は2012年までの時限措置であったところ、2013年以降については、2012年米国納税者救済法により、基礎控除500万ドル(5億円)は維持しつつ最高税率を40%へ引き上げることとされた。(備考)邦貨換算レート:1ドル=100円、1ポンド=161円、1ユーロ=135円(基準外国為替相場及び裁定外国為替相場:平成25年(2013年)11月中における実勢相場の平均値)。なお、端数は四捨五入している。(出所)財務省ホームページ

主要国の相続税の負担率 (2014年1月現在)

資産移転課税:相続税(9)