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28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原 - 33 - セッション1 16:40~17:50 第 1会場(深江ふるさと伝承館文化ホール) 座 長:馬場嵜 郁夫(長崎県立こども医療福祉センター) 01. 対数曲線モデルによる脳卒中片麻痺患者の機能的予測法から考える予後予測因子の検討 社会医療法人財団白十字会 燿光リハビリテーション病院 吉岡 元 02. 当院における心原性脳塞栓症患者の特徴と心不全のリスク管理に対する取り組み -エコー所見と血液データに着目して- 済生会長崎病院 リハビリテーション部 松村 佑介 03. 脳梗塞片麻痺患者に対する急性期理学療法の一考察 -歩行自立に向けた発症後 3 週間の取り組み- 長崎みなとメディカルセンター市民病院 荒木 奈都子 04. 急性期脳卒中重度片麻痺患者に対する早期歩行練習を可能とする装具療法の開発と その有効性の検討 長崎労災病院 中央リハビリテーション部 平山 大輔 05. 成人脳性麻痺者に対する体重免荷時の運動療法の効果について 社会福祉法人聖家族会 みさかえの園総合発達医療福祉センターむつみの家 就 直也 06. 対馬における療育~課題の中から取り組んできたこと~ 長崎県対馬病院 リハビリテーション科 鎌田 志保 07.Jacobsen 症候群を呈した幼児に対する独歩獲得に向けての取り組み 長崎県島原病院 リハビリテーション科 宮崎 健史 2 月 18 日(土) 〔発達、脳卒中〕

第28 回長崎県理学療法学術大会 in - npta.or.jp · キーワード:心原性脳塞栓症 心不全 bnp ... 2015年9月から2016年9月までの期間に当院に入院した脳梗塞患者145名を、カルテを用いて後方視的に調査した。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

- 33 -

セッション1 16:40~17:50 第 1会場(深江ふるさと伝承館文化ホール)

座 長:馬場嵜 郁夫(長崎県立こども医療福祉センター)

01. 対数曲線モデルによる脳卒中片麻痺患者の機能的予測法から考える予後予測因子の検討

社会医療法人財団白十字会 燿光リハビリテーション病院

吉岡 元

02. 当院における心原性脳塞栓症患者の特徴と心不全のリスク管理に対する取り組み

-エコー所見と血液データに着目して- 済生会長崎病院 リハビリテーション部

松村 佑介

03. 脳梗塞片麻痺患者に対する急性期理学療法の一考察

-歩行自立に向けた発症後 3週間の取り組み- 長崎みなとメディカルセンター市民病院

荒木 奈都子

04. 急性期脳卒中重度片麻痺患者に対する早期歩行練習を可能とする装具療法の開発と

その有効性の検討 長崎労災病院 中央リハビリテーション部

平山 大輔

05. 成人脳性麻痺者に対する体重免荷時の運動療法の効果について

社会福祉法人聖家族会 みさかえの園総合発達医療福祉センターむつみの家

就 直也

06. 対馬における療育~課題の中から取り組んできたこと~

長崎県対馬病院 リハビリテーション科

鎌田 志保

07.Jacobsen症候群を呈した幼児に対する独歩獲得に向けての取り組み

長崎県島原病院 リハビリテーション科

宮崎 健史

2 月 18日(土) 〔発達、脳卒中〕

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 02 当院における心原性脳塞栓症患者の特徴と心不全のリスク管理に対する取り組み

-心エコー所見と血液データに着目して-

○松村佑介 1)、大賀智史 1)、千々岩雷太 1)、田中亮輔 1)、阿南裕樹 1)

1)済生会長崎病院リハビリテーション部

キーワード:心原性脳塞栓症 心不全 BNP

【はじめに】

脳梗塞は主にラクナ梗塞、アテローム血栓性梗塞、心原性脳塞栓症の 3つの病型に大別され、中でも心原性脳塞栓症が予後不良であるこ

とが知られている。また、3つの病型の中では心原性脳塞栓症において心不全のマーカーである BNPが高値であることが報告されており、

心臓リハビリテーション(以下、心リハ)と同様にリハビリ介入することが推奨されている。しかし、その原因である心機能や心機能に

関連する血液データを踏まえた報告はされておらず、そのリスク管理に関しても十分に検討がなされていないのが現状である。そこで、

本研究の目的は当院に入院した脳梗塞患者を心原性脳塞栓症患者と非心原性脳塞栓症患者に分け、心エコー所見と血液データからその特

性を検討することとした。

【方法】

2015年 9月から 2016年 9月までの期間に当院に入院した脳梗塞患者 145名を、カルテを用いて後方視的に調査した。調査項目は年齢、

入院期間、入院時の心エコー所見(EF、E/e’、LAD、推定 PA圧、TRPG、IVC%)と血液データ(BNP、T-bil、Alb、Na、K、BUN、CRE、CRP、

WBC、Hb)を用いた。

【倫理的配慮】

本研究は、ヘルシンキ宣言の精神に基づき、研究対象者のデータの取り扱いについてはプライバシーの保護に配慮した。

【結果】

心原性脳塞栓症患者は全体の 36.6%を占め、年齢 84.3±8.3 歳、入院日数 25.8±16.9 日と非心原性脳塞栓症患者よりも有意に高値で

あった。また、心機能に関しては、EF 60.9±12.2%、LAD 40.3±6.2mm、推定 PA 圧 39.4±13.7mmHg、TRPG 29.8±11.4mmHg と非心原性

脳塞栓症患者と比較して有意差を認めた。さらに、血液データに関しては、BNP 433.4±509.6pg/mL、Alb 3.5±0.6g/dL、Hb 12.7±2.2 g/dL

と非心原性脳塞栓症患者と比較して有意差を認めた。

心原性脳塞栓症患者では左心不全が 49.1%(26名)、非心原性脳塞栓症患者では 20.7%(19名)と心原性脳塞栓症患者において左心不全

の割合が多かった。また、心原性脳塞栓症患者における左心不全の内、HFrEFが 13.2%(7名)、HFpEFが 73.1%(19名)と HFpEFの割合

が多くを占めていた。

【考察】

今回の結果から、心原性脳塞栓症患者の半数は左心不全を有すること、心不全のマーカーである BNP値が非心原性脳塞栓症患者の約 3.5

倍と高値であることが明らかとなり、心原性脳塞栓症患者は心機能の観点から高いリスクを有することが明らかとなった。この現状を踏

まえ、当院では心リハに従事する PTを交えて週に 1回の頻度で心原性脳塞栓症患者のカンファレンスを行っている。そして、心エコー所

見や血液データを踏まえたリスク管理や離床時の目標設定を共有するように取り組んでいる。

演題 01 対数曲線モデルによる脳卒中片麻痺患者の機能的予測法から考える予後予測因子の検討

○吉岡元 1)

1)社会医療法人財団白十字会燿光リハビリテーション病院

キーワード:回復期リハビリテーション病院 脳卒中 予後予測

【はじめに】

小山らは車椅子移動にて回復期リハビリテーション病院に入院した初発脳卒中片麻痺患者(くも膜下出血を除くテント上病変)で発症前

ADL が自立していたものを対象として対数曲線モデルによる脳卒中片麻痺患者の機能的予測法を考案しており、多施設においてその有用

性が確認されている。しかし実際に回復期病院に入院する患者は既往歴や重症度、病変部位も様々である。そこで今回小山らが対象とし

た条件のうち入院時の移動形態や病変部位を絞らない条件で、筆者がこれまで担当した症例に予測法をあてはめることでその有用性と限

界を検証した。

【対象】

2014 年 4 月から 2016 年 9 月までに当院に入院し筆者が担当した、発症前 ADL 自立の初発脳卒中片麻痺患者で、月 1 回のカンファレンス

を 3 回以上行った患者 7 名。内訳は脳梗塞 4 例、脳出血 3 例。年齢は 69±12.6 歳。発症から当院入院までの期間は 32.6±7.3 日。初回

FIM は 58.3±21.1 であった。

【方法】

小山らの予測法を用い 1回目(入院時)、2回目の FIM合計得点から退院時の予測得点を算出し、退院時 FIMの実測値と比較した。なお今

回は予測値と実測値の差が 5点未満の場合を予測法と合致するとした。

【倫理的配慮】

今回データ収集を行い解析するにあたり、ヘルシンキ宣言に基づき、データを匿名化しデータの取り扱いについてはプライバシーの保護

に配慮した。

【結果】

退院時 FIM と予測値との差が 5 点未満であった患者は 3 名、5 点以上であった患者は 4 名であった。また今回の対象のうち病変部位・入

院時移動形態が小山らが提示した条件に当てはまる患者は 4例存在したが、内 2名のみ FIMの差が 5点未満であり、病変部位による差は

認めなかった。なお今回用いた予測法は入院時 FIMが 70点以上の症例によく適合した。

【考察】

筆者がこれまで担当した症例を予測式に当てはめてその予測値と実際の退院時 FIM との比較を行ったが、点数が合致した患者は 7 名中 3

名であった。点数差が大きかった症例を見ると、中等症例においても予測 FIMが 110点から 130点と FIMの上限 126点を上回るもしくは

それに近い値を示していた。これは回復期入院 1ヶ月の間の FIM向上が高いことが原因と考えた。なお入院時 FIM が 20点と重症例ではあ

ったが、退院時には FIM37点まで向上し、実測値が予測値を 9点近く上回る患者がいた。この症例は入院時経鼻栄養でその後 3食経口摂

取が可能となった症例であり、経鼻栄養患者に予測式を適応する際は注意が必要であることが考えられる。今回は少数例の検討にはとど

まったが、小山らの予測式は病変部位に関わらず、入院時 FIMが 70点以上と比較的軽症例に対してよく合致する傾向がみられた。今後は

対象者を増やすことで予後予測への影響因子を考え、実際の臨床に役立てたい。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 03 脳梗塞片麻痺患者に対する急性期理学療法の一考察 ―歩行自立に向けた発症後 3週間の取り組み―

○荒木奈都子 1)、山内菜緒 1)、呉林潤 1)、廣重愼一 1)

1)長崎みなとメディカルセンター市民病院

キーワード:急性期理学療法 片麻痺患者 歩行自立 【はじめに】

脳梗塞急性期において早期から積極的なリハビリテーションを実施することが推奨されており、立位・歩行練習の有効性に関する報告は多

い。今回脳梗塞発症後片麻痺を呈した 50歳代女性を担当し、歩行自立に向けて急性期病院ではリスク管理のもと身体機能面に対するアプ

ローチを主に行った。転院 1ヶ月後の歩行状態を確認し、急性期の取り組みを再考する機会を得たので報告する。

【倫理的配慮,説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に趣旨を説明して同意を得た。

【症例紹介】

50 歳代女性。夫・息子と同居。主に本人が家事動作を担い、ホテルパート従業員として勤務。高血圧の既往あり。自宅で左半身の脱力を

自覚し救急要請された。頭部 MRIにて右大脳基底核~放線冠に急性期脳梗塞(BADタイプ)を認め当院入院。

【初期評価(第 1病日)】

意識障害(GCS:E3V5M6)、左片麻痺(Brs:II -II- II)、NIHSS:9点、 BI:0点。

【経過とアプローチ】

[第 1-7病日]禁忌事項等なく t-PA施行も梗塞巣の拡大を認め、主治医より 1週間の安静指示。二次的合併症予防と麻痺側上下肢の促通練

習を実施。[第 8-12病日]離床開始。Brs:II -II- IV。立位では骨盤後傾、膝折れを認めたため短下肢装具を着用して麻痺側、体幹の支持

性向上を目的とした荷重練習を実施。[第 13-17 病日]Brs:II- II- V。裸足での荷重・重心移動練習を実施し、平行棒内歩行練習を開始。

移乗・排泄動作自立。[第 18 病日] T 字杖歩行(3 動作前型)一部介助レベル。麻痺側立脚期の膝折れは消失するも骨盤後退は残存。[第 21

病日]回復期病院転院。

【最終評価(第 20病日)、転院後(第 52病日)の経過】

意識清明、軽度注意障害、左片麻痺(Brs:II- II- V)、NIHSS:6点。BI:65点。減点項目:更衣、入浴、移動、階段昇降。転院後(第 51病日)

病棟内 T字杖歩行(2動作前型)自立。立脚期の骨盤後退は消失。BI:90点。減点項目:階段昇降。

【考察】

脳卒中の予後に関係する因子として、年齢、発症後 2週以内の麻痺の状態などが報告されている。本症例は 50歳代と比較的若く第 8病日

に下肢 Brs:IVへ改善しており、予後良好で長期的に歩行自立を達成できると考えた。離床開始時の膝折れや代償動作は、安静期間に伴う

廃用と麻痺側下肢や体幹の支持性低下が主要因と考えた。異常パターンや代償動作を伴わない歩行を獲得するために、急性期の理学慮法

として共同運動パターンを抑制しつつ支持性や重心移動の改善を図った。また ADL では早期セルフケアの自立を図った。転院後の状態を

確認すると、代償動作を伴わない歩容での杖歩行自立となっており、本症例の急性期理学療法のアプローチが有効であったと考えた。ま

た、機能面に着目するあまり家事動作や職場復帰を考慮した取り組みが欠けていたことは反省点であり急性期から自宅での生活を想定し

た視点を持つことが今後の課題である。今回、転院後の経過を追うことで急性期での予後予測やアプローチの整合性を確認できたため、

このような取り組みを継続したい。

演題 04 急性期脳卒中重度片麻痺患者に対する早期歩行練習を可能とする装具療法の開発とその有効性の検討

○平山大輔 1)、平山翔悟 1)、梶川大輔 1)、島崎功一 1)、久保宏記 1)、本竹由香里 2)、川原一郎 3)

1)長崎労災病院中央リハビリテーション部 2)長崎労災病院看護部 3)長崎労災病院脳神経外科

キーワード:脳卒中 歩行 装具療法

【はじめに】

脳卒中治療ガイドライン 2015において、装具を用いた早期歩行練習は行うことが強く勧められている。しかし、我々の調査では長崎県

内の急性期病院入院中の脳卒中患者は重度化するにつれ、歩行練習の実施率は低下し開始時期も遅延しており、障害が重度であるが故に

早期から積極的なリハが必要なはずが、現実的にできない現状が臨床上では散見される。そこで我々は長崎労災病院アジャスト式膝装具

(以下、NKO)と歩行介助方法である骨盤吊り上げ式後方介助歩行(以下、UPW)を考案し、原則全症例に対し歩行練習を実施している。

今回、NKO装着下での UPW(以下、NKO群)と長下肢装具(以下、KAFO)装着下での平行棒内歩行(以下、KAFO群)を比較しその有効性を

検討したので報告する。

【NKOと UPWの概要】

NKOは長さ調整が簡単に可能で足関節は背屈フリーであり、各パーツを反転させることで左右兼用となる。UPWは麻痺側骨盤をハーネス

で吊り上げ、介助者が肩に担いで後方から介助し、麻痺側の靴には床との摩擦を軽減する目的でサポーターを装着し実施する。

【倫理的配慮】

本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施し、事前に対象者または代諾者に文書による説明を行い書面にて同意を得た。

【介助者の負担量の比較】

脳卒中片麻痺患者 7名に対し、理学療法士 1名が介助下で NKO装着下での UPWと KAFO装着下での平行棒内歩行を各々3分間実施し、理

学療法士の歩行介助の心仕事量として Double Product変化率(以下、DP変化率)、歩行介助効率の指標として Physiological Cost Index

(以下、PCI)を比較した。結果は DP変化率に有意差は認めず、PCIは NKO装着下での UPWが有意に低値であった。

【NKO群と KAFO群の比較研究】

初発脳卒中重度片麻痺患者を NKO群と KAFO群に無作為に割り付け、1週間歩行練習が実施可能であった 6名を対象とし、介入前、介入

1週間後の機能・ADL評価を行い、総歩行距離を両群とも計測した。結果は Berg Balance Scale、Functional Independence Measure(以

下、FIM)運動項目合計は両群とも有意に改善した。Trunk Control Testと FIM認知項目合計、FIM合計においては NKO群のみに有意な改

善が見られ、歩行距離は NKO群が有意に長かった。

【考察】

これらの研究から我々が考案した歩行練習法は平行棒内歩行と同等の仕事量で歩行距離を増大させ、介助しやすく負担量も軽いうえに、

平行棒内歩行と比べ体幹や認知機能、ADLが向上することが明らかとなった。UPWは重心移動の介助が容易で体幹のアライメントが整えや

すく NKO の適合性の高さも加わり、2 動作前型歩行が再現できることにより歩行距離が増大している。歩行という抗重力位での活動が十

分量実施できたことが体幹機能を向上させ、認知面の改善には運動量の増加による脳由来神経栄養因子(BDNF)の増大が寄与していると

考えられる。TCT の各項目や認知機能は病棟での活動を行う上で基礎的な要素であり、その改善はしている ADL の向上につながる。よっ

て NKOを用いた UPWは従来の歩行練習より実施しやすく有効であることが示唆された。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 05 成人脳性麻痺者に対する体重免荷時の運動療法の効果について

○就直也 1)、宮本久志 1)、杉本憲治 1)、大山智恵美 1)、前田陽子 1)、大坪亜好佳 1)、佐藤勇希 1)

1)社会福祉法人聖家族会みさかえの園総合発達医療福祉センターむつみの家

キーワード:成人脳性麻痺者 体重免荷 筋活動 【はじめに】

脳性麻痺に関する先行研究では、成人期における運動機能低下が多数報告されている。今回、成人脳性麻痺者に対し体重免荷が可能な

環境で運動療法を実施し効果を認めた為報告する。

【対象と方法】

20代男性。診断名は脳性麻痺(痙直型四肢麻痺、粗大運動能力分類システム level IV)、重度精神運動発達遅滞。

留め具付ベルトとバンジーコード、それを固定する外枠((株)アシスト製ユニバーサルフレーム(以下、UF))を使用。トイレ移乗時の立

ち上がり介助量の軽減を目的に、体重を 1/3免荷した立位で、前後左右への体重移動、下肢屈伸を自動介助運動で 10分間実施。期間は 2

週間、1 回/日の計 7 回。初回と最終の実施後の下肢の関節可動域(以下、ROM)、Modified Ashworth Scale(以下、MAS)、介助による端座

位からの立ち上がり・立位からの着座動作を一定の距離からビデオカメラで右側矢状面の動きを撮影し、動作分析と画像解析ソフト ImageJ

を用いて離臀時・立位完了時・着臀時の矢状面上の関節角度の計測・比較を行った。

【倫理的配慮・説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき、対象者及び対象者の保護者へ説明を行い、同意を得た。

【結果】

ROM は股関節伸展、膝関節屈曲、他動的膝関節伸展位足関節背屈(以下、DKE)が拡大し、MASは股関節伸展・外転が 2→1+、膝関節屈曲が 2→1+、

足関節背屈が 3→2へ変化した。

画像解析では、離臀時の膝関節屈曲、立位完了時の股・膝関節伸展拡大を認めた。

動作分析では、立ち上がり時の前方への重心移動が容易になった。立位完了時の股・膝関節伸展が拡大し、重心が支持基底面内へ近づい

た。

【考察】

松尾(2010)は、脳性麻痺の抗重力姿勢における筋活動の特徴として、単関節筋の麻痺により抗重力機能が低下し、抗重力姿勢を保持する

為に多関節筋の過活動が起きるとしている。奥田ら(2015)は、UFを用いた自動介助運動での律動的な下肢屈伸に伴い中・大臀筋、長内転

筋の筋活動が認められ、ハムストリングスの筋活動が減弱することを報告している。

本症例の初回評価時の立ち上がり動作は、多関節筋である大腿直筋、ハムストリングス、腓腹筋の過活動により前方への重心移動と体幹

の伸び上がりが阻害されていたが、最終評価では前方への重心移動が容易になった。これは、多関節筋群の過活動が減弱し、膝関節屈曲、

DKE の ROM 改善と膝関節屈曲、足関節背屈の MAS の変化につながり、スムーズな関節運動を可能にした為と考える。立位姿勢の変化につ

いても、多関節筋群の筋活動が減弱し、単関節筋である中・大臀筋の筋活動が活性化された為と考える。

UFを用いた運動療法は、運動機能低下が起こりやすい成人脳性麻痺者の運動機能向上につながることが示唆された。

【まとめ】

今回の実施期間中に、実際のトイレ場面における移乗介助量の軽減には至っていない。今後も継続して実施し日常生活へ反映させてい

きたい。

演題 06 対馬における療育 ~課題の中から取り組んできたこと~

○鎌田志保 1)、松本敦志 2)、黒岩晴香 1)、須川咲保 1)、梅野恵子 1)、築城清子 1)、山田宏美 1)

東村千寿(MD)3)、山田幸平(MD)3)、小川誠(MD)3)

1)長崎県対馬病院リハビリテーション科 2)長崎県対馬病院臨床心理士

3)長崎県対馬病院 小児科

キーワード:集団ソーシャルスキルトレーニング(以下 SSTと略す) 健診事業 社会資源 【はじめに】

平成 27年 5月に長崎県対馬いづはら病院と長崎県中対馬病院が合併し、有床医療機関は長崎県対馬病院と長崎県上対馬病院の二病院と

なった。当院は、中核病院としての役割を担い、地域医療(院外業務)にも積極的に取り組んでいる。離島という地域特性や限られた社

会資源の中で、時代の流れとともに移り変わる課題を検討し、取り組んできた療育について今後の展望も含め報告する。

【療育活動内容】

(1)院内業務

個別療法(理学療法・作業療法・言語療法) SST・子育て教室 臨床心理士による評価および診療

(2)院外業務

乳児健診(理学療法士)、1歳 6カ月健診(言語聴覚士)、5歳児健診(言語聴覚士・臨床心理士)

上対馬病院での個別療法(理学療法・作業療法・言語療法)・SST・子育て教室 園・学校訪問

【課題からの取り組み】

個別療育の中での汎化の困難さ→SST(未就学児・就学児)の実施

マンパワー不足→臨床心理士の常勤化・ボランティアスタッフの育成

保護者支援→やさしい子育て教室の開催(ペアレントトレーニング・心理教育など)

療育環境の地域格差→上対馬病院での SST・個別療法・やさしい子育て教室の開催

限られた社会資源→健診業務の充実(理学療法士・言語聴覚士の派遣)・5歳児健診の新規参入

【現状の課題と展望】

院内業務における現状の課題として、SST において小学生までを対象に実施しているが、中学生の実施も必要であると考える。またプロ

グラムに関しても生活スキルなども取り入れ、より児の自律に向けての支援が必要になるであろう。また、保護者支援において現在は母

親を対象とした子育て教室であるが、父親対象の子育て教室の導入も検討している。

院外業務である健診業務において、開催地域により、健診の流れ、スタイル、保健師の問診による運動個別指導や言語個別指導の対象判

断に差が生じているため、今後ガイドラインを作成することで地域や保健師間での差が軽減できるのではないかと考える。

5歳児健診が導入され療育対象児の増加や、就学前の他機関との情報共有や連携などにおける整備など今後も取り組まなければいけない

課題がある。島に住んでいる子どもたちが島でも質の高い支援を早期に受けられるよう、セラピストのスキルアップは必要不可欠である。

そのため、当院セラピストが島外の療育施設にて、長期的な研修を実施し、島外からは技術指導とリフレッシュなどを兼ねて、当院に来

院していただく相互研修の導入などを検討し、島だからできないではなく、島でもできる療育から島だからできる療育へ、そして島の特

性を活かした療育を根づかせることができるよう今後も課題のひとつひとつに取り組んでいきたい。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 07 Jacobsen 症候群を呈した幼児に対する独歩獲得に向けての取り組み

○宮崎健史 1)、坂本紘 1)、上野和子 1)、脇屋光宏 1)、浦川純二 1)

1)長崎県島原病院リハビリテーション科

キーワード:Jacobsen 症候群 精神運動発達遅滞 独歩

【はじめに】Jacobsen症候群(以下 JBS)とは、1973年に Jacobsenが報告した 11番染色体長腕欠失による疾患で、10万出生に 1人の頻度

で見られる稀な先天性症候群である。特徴的な症状は、精神運動発達遅滞、三角頭蓋、特異顔貌、先天性心疾患、血小板減少などがあげ

られるが、運動発達に関しての先行研究や報告はほとんどみられない。今回、JBS を呈した幼児を担当する機会を得て、独歩を目的とし

たリハビリテーション(以下リハ)を実施したので独歩獲得までの一例をここに報告する。

【倫理的配慮・説明と同意】本発表はヘルシンキ宣言に基づき家族に説明し同意を得ている。

【症例紹介及び経過】在胎 40 週±0 日、体重 2680g。Apgar 指数 8 点/9 点にて出生。合併症は三角頭蓋、血小板減少、心室中隔欠損症が

あり、心室中隔欠損症は自然閉鎖待ちである。発達歴は定頸 6M、寝返り 8M、四つ這い 1Y10M、喃語 12M、離乳食 8M、常食 3Y4M で可能と

なった。1Y5Mより当院にて理学療法と言語聴覚療法を 1回/週で開始となった。開始時では、触覚及び圧刺激に対して逃避反射が見られ、

つかまり立ちは困難。座位での保護伸展反応(-)。2Y3M より歩行器歩行が可能。2Y10M より片手手引き歩行が可能。3Y6M より家庭で 5、6

歩独歩が可能となった。遠城寺式・乳幼児分析的発達検査では運動面 1Y6M 社会面 8M 言語面 4M の発達を示した。身体面では身長 85.8 ㎝

(-3SD以下)、体重 11.7㎏(-1.6SD)と低身長である。

【アプローチ】2Y7M時の評価は、ROM-t:足関節背屈は右 15°左 20°、底屈は両側 40°。GMT:上下肢・体幹 3。筋緊張評価スケール(以下

MAS)で右下腿三頭筋は 1程度。触覚及び圧刺激に対して逃避反射はなし。座位での保護伸展反応(+)。立位時姿勢ではつま先接地、後方重

心傾向があり、後方支持が必要。歩行機能の向上のためには、体幹下肢筋力の強化(特に底屈筋)とバランス反応の獲得が必要と考えた。

そのため、負荷を加えた歩行器歩行や重心移動練習等を行っていった。2Y10Mには、関節可動域は著変なく、MAS で 0と軽減が見られ、足

底を接地しての立位保持や片手手引き歩行も可能となってきた。3Y1M には筋力も向上(GMT:上下肢・体幹 4)し、家庭でもロープ等を介し

た手引き歩行を取り入れてもらった。

【考察】落合らは、静止立位保持の安定性には、股関節戦略よりも足関節戦略(背屈可動域と底屈筋力)の方が重要である報告している。

本児も右下肢痙縮と底背屈筋力に弱さがあるため、つま先接地での立位保持となり、バランス反応の弱さが見られていた。そのため、筋

力と併せて足関節バランス反応を促すプログラムが必要と考えたが、精神運動発達遅滞もあり能動的な動作が乏しく、足底板の使用やロ

ープ等を使用する支持歩行などの工夫を行った。その結果、効果的な筋力強化やバランス強化が可能となり、体幹下肢の筋力増強、バラ

ンス反応の向上につながったと考える。また、家庭でも必要最低限の介助での歩行を指導したことで生活すべてがリハとなり、独歩が可

能になったと考える。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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セッション 2 16:40~17:50 第 2 会場(深江公民館 2 階ホール)

座 長:水上 諭(西諌早病院)

08. 当院脊椎疾患術後患者の傾向

長崎百合野病院 リハビリテーション科

門口 修二

09. 産後腰痛症例への介入~骨盤底筋エクササイズは必要か?~

長崎百合野病院 リハビリテーション科

村田 広志

10. 産後理学療法の実践~尿失禁に対する理学療法~

長崎百合野病院 リハビリテーション科

下田 真太郎

11. 第一腰椎圧迫骨折を呈した症例、回復期リハ病棟アウトカム評価の実用

社会医療法人健友会 上戸町病院

亀井 太樹

12. 入院中の多面的評価からみた脊椎圧迫骨折を再発する患者の特徴~少数例の短期的調査~

社会医療法人長崎記念病院 リハビリテーション部

平井 伸也

13. 急性期病棟から地域包括ケア病棟へ転棟した骨折患者の転棟前 FIM は自宅退院の可否を予測できるか?

長崎労災病院 中央リハビリテーション部

島崎 功一

14. 当院における骨粗鬆症外来患者の運動継続に関する一考察

重工記念長崎病院

宮川 洋一

2 月 18日(土) 〔運動器〕

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 09 産後腰痛症例への介入~骨盤底筋エクササイズは必要か?~

○村田広志 1)、下田真太郎 1)、安達耕一 2)、瀬良敬祐 2)

1)長崎百合野病院リハビリテーション科 2)長崎百合野病院整形外科

キーワード:産前産後 経腟分娩 骨盤底筋 【はじめに】

産前産後症例への理学療法介入時に注目されるのが骨盤底筋エクササイズである。妊娠、出産の経過の中で腹直筋離開や帝王切開での術

創、経腟分娩での裂傷などにより腹部キャニスター(横隔膜、多裂筋、骨盤底筋、腹横筋)の機能低下は容易に想像することができる。今

回は歩行時や育児動作時に、腰痛と坐骨神経痛を呈した産後症例への介入を通して、骨盤底筋の機能改善に至るまでの評価、アプローチ

に着目し報告する。

【倫理的配慮・説明と同意】本報告は対象者に報告の主旨・目的を説明し同意を得ている。

【症例紹介】

症例:30歳、3妊 3産(7才、4才、2か月)、現病歴:産後、歩行時や育児動作時に、腰痛と坐骨神経痛が出現し活動制限をきたしていた。

2ヶ月経過したが症状が改善みられず日常生活に支障があるため、産婦人科より当院紹介の運びとなった。

疼痛動作:歩行、立位での子の更衣

【評価】静的アライメント:骨盤右水平回旋位(左寛骨前方回旋、右寛骨後方回旋)、第7肋骨右シフト(右肋骨前方回旋、左肋骨後方回旋)、

右肩甲骨上方回旋、外転位。骨盤底筋:主観的収縮感(右<左)、客観的収縮感(右<左)。

One Leg Standing Test(以下 OLST):L4高位腹横筋固定にて安定。Active Straight Leg raising (以下 ASLR):L4高位腹横筋固定にて軽

快。座位での胸郭回旋(右<左):右肩甲骨の位置修正にて右胸郭回旋改善。

【統合と解釈】

OLSTおよび ASLRTの結果では腹横筋固定にて改善がみられたが、胸郭の機能評価にて右肩甲骨のアライメントを修正することにより、胸

郭回旋機能に改善がみられた。肩甲骨の修正時に骨盤および肋骨のアライメントも自動修正され、OLSTおよび ASLRT を行うと 2種のテス

ト共に改善した。また、骨盤底筋の主観的、客観的収縮感も左右差が消失した。

【治療】

肩甲骨のアライメント不良を招いた小胸筋、鎖骨下筋、前鋸筋のリリースを行い、肩甲骨と胸郭の分離運動を指導し、状態維持のため座

位、立位姿勢と動作指導を行った。

【結果】初回アプローチにて介入時の腰痛、坐骨神経痛は消失した。

【まとめ】

今回、経腟分娩後腰痛に加え坐骨神経痛を呈した症例を経験した。腹横筋固定にて ASLR、OLSTの改善が見られた時点で、骨盤底筋エクサ

サイズを含めた腹式呼吸を利用し腹部キャニスターの改善を図ることも 1 つの手段ではあった。しかし、腹部キャニスターは意識下にて

機能する組織ではないため、無意識下において機能できる環境に導くことが重要であると考える。今回はアライメント不良の原因を評価

しアプローチすることにより、骨盤外の問題を取り除き骨盤底筋の機能を改善することができた。骨盤内の問題である骨盤底筋の裂傷に

よる機能低下や運動学習が必要な場合には骨盤底筋エクササイズが必要となる。そのため、産前産後症例は骨盤内、骨盤外どちらに問題

があるのか、問診をはじめとする全身評価を行いアプローチすることが重要であると考える。

演題 08 当院脊椎疾患術後患者の傾向

○門口修二 1)、安達耕一 2)、瀬良敬祐 2)

1)長崎百合野病院リハビリテーション科 2)長崎百合野病院整形外科

キーワード:脊椎疾患術後成績 下肢痺れ 歩行機能障害 【はじめに】

当院には脊椎専門の整形外科医が 2名おり、平成 27年度は他院からの紹介患者を含め腰部脊柱管狭窄症(以下:L.C.S.)、腰椎椎間板ヘル

ニア(以下:L.D.H.)の外来受診患者は 1726名、うち手術に移行する患者は 189名である。

今回、当院の脊椎疾患術後患者の特徴や傾向、術後症状の変化を把握する目的で調査を行った。術後の成績が心理面に影響しているとい

う先行研究で多く報告されている中、成績が不良であった下肢痺れを主症状としていた患者において心理面以外の因子が隠されているこ

とが示唆された結果となったので考察も踏まえ報告する。

【対象】

平成 28年 3月 1日~8月 31日に当院で L.C.S.、L.D.H.の手術を行い自宅退院した患者のうち、手術前、2日目、1週目、退院時評価が可

能であった 104例とした。

【方法】

年齢、性別、疾患名、術髄節、手術目的、VAS(腰痛・下肢痛・下肢痺れ)、JOABPEQ(疼痛関連障害、腰椎機能障害、歩行機能障害、社会

生活障害、心理的障害)をピックアップし、解析を行った。

【倫理的配慮と説明と同意】

本症例報告は当院の倫理規定に基づき、症例へ説明と同意を得ている

【結果】

平均年齢 67.0歳(±12.3)、男性:60人、手術を実施した髄節は L4/5、L3/4、L3/4/5の順で多かった。患者自身が選んだ手術目的は

下肢痛:82人、下肢痺れ:69人、筋力低下:11人、歩行能力低下:46人【複数回答可】であった。

VAS の結果は全項目で有意に改善していた(P<0.05)。JOABPEQ のそれぞれの改善率は、疼痛関連障害 0.68、腰椎機能障害 0.55、歩行機能

障害 0.65、社会生活障害 0.27、心理的障害 0.33であった。

手術目的に下肢痺れを選択した群と下肢痺れを選択しなかった群を比較すると、JOABPEQ の歩行機能障害において、手術目的に下肢痺れ

を選択した群の改善率は低かった。しかし、両群の痺れの VAS は術前:47.38±31.96vs56.10±31.88(p=0.23)、退院時:15.38±21.26

vs19.81±26.08(p=0.419)であり有意差はなく、先行研究で多く報告されている心理面においても差はなかった。

【まとめ】

今回の調査で、下肢痺れが歩行能力の回復を阻害するものの、心理面の要素は少なく、VAS の結果に表れないことが分かった。また、今

回のピックアップした内容では下肢痛・痺れの詳細な分類や、歩行への影響を分析できなかった。今後は下肢痺れにおいて、術前から具

体的部位や質等を分類し、歩行にどのように影響を与えているかを客観化する手法の構築が必要と考える。今後は他施設でも行えるよう

評価カテゴリーを作成し、他者でも臨床で生かせるような取り組みを実施していきたい。

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演題 11 第一腰椎圧迫骨折を呈した症例、回復期リハ病棟アウトカム評価の実用

○亀井太樹 1)

1)社会医療法人健友会上戸町病院

キーワード:アウトカム評価 予後予測 支援に必要な視点 【はじめに】

平成 28年度の診療報酬改定で回復期リハ病棟にアウトカム評価が導入され、早期の支援計画による ADLの改善がこれまで以上に求められ

るようになった。当院では初期評価を基にアウトカム評価を予測し、チームで早期に入院期間と到達レベルの目標を設定し支援を行って

いる。今回担当した患者を通し今後必要と思われる支援の視点や課題を考察したので報告する。

【症例紹介】

現病歴自室前で転倒し、背部痛、体動困難で A病院へ救急搬入、入院。コルセット装着し歩行開始、1ヶ月で当院へ転院となる。

症例:70 代後半 女性 原爆養護ホーム入所中 病名:第一腰椎圧迫骨折 既往:左被殻出血 病前生活:ADL 自立 掃除自立、

介護保険未申請 希望:病前生活への復帰 その他:入所中の施設の待機期間は 3ヶ月

【倫理的配慮・説明と同意】演題の倫理的配慮については、世界医師会によるヘルシンキ宣言に従い、対象者への説明と同意を得た。

【評価】

疼痛:腰部に動作時痛 NRS3/10

筋力:体幹 3 右:股関節伸展 3、外転 3+ 膝関節伸展 3+ 、足関節底屈 2+ 左:2~3+レベル

関節可動域:股関節伸展右 10°/左 10° 膝関節伸展:-5/-5 足関節背屈:5/20(膝関節伸展位-5/5)

Br.stage:右上肢Ⅳ、右手指Ⅲ、右下肢Ⅳ 病的反射:バビンスキー反射右+/左-、

感覚検査:右表在感覚軽度鈍磨 深部:10/10

家事動作:掃除、洗濯等、動作は可能だが歩行が不安定

【入院時訪問指導】当院入院 1 週目に施設訪問を実施した。受け入れ条件は歩行と家事の自立、歩行補助具は使用可能だが、車椅子は使

用不可、必要歩行距離は最大 50m

【問題点】廃用性筋力低下による歩行不安定 既往の脳出血後遺症による転倒リスク

【目標設定】入院期間 2ヶ月で、ベッド周囲自立、見守り歩行での退院

【FIM運動項目】入院前:75/91点 入院時:47/91点 退院時の予測:69/91点 退院時:69/91点

予想実績指数=27.5 退院時実績指数=31.4

【経過】入院 3 週目、病棟 4 点杖軽介助歩行可能となり、試験外出を実施した。現状の歩行安定性では受け入れ不可能と返答を受け、1

ヶ月後に再評価を行うこととなった。6週目、屋内 T杖歩行、家事動作見守りレベルとなった。8週目、再度試験外出を実施し、受け入れ

可能との判断を得て退院となる。

【考察】本症例への支援では、施設訪問で復帰に求められる条件を早期に把握できたこと、初期評価と以前レベルの変化点から ADL 改善

の予測が容易で明確な目標設定ができたことにより、期間内での目標達成が可能になったと考える。アウトカム評価・実績指数の導入に

て、これまで以上に予後予測に基づく早期からのマネージメントが必要となる。そのなかで FIM 利得は予測がつきやすいが入院期間は身

心状況以外に退院先の決定、諸調整の遅れなど社会的要因の影響が大きい。そのためエビデンスの蓄積はもちろん、関係各所とのスケジ

ュール共有と、対象者に合わせ、入院中からより生活の質に目を向けることが重要であることがわかった。

演題 10 産後理学療法の実践~尿失禁に対する理学療法~

○下田真太郎 1)、村田広志 1)、安達耕一 2)、瀬良敬祐 2)

1)長崎百合野病院リハビリテーション科 2)長崎百合野病院整形外科

キーワード:産後理学療法 尿失禁 ウィメンズヘルスケア 【はじめに】

近年のウィメンズヘルス理学療法の盛り上がりは目を見張るものがあるが、実際に臨床で妊産褥婦への理学療法を実施しているセラピ

ストは少ない現実がある。当院では地域の分娩施設・助産院・役場などと連携を組み整形外科的なトラブルを抱える妊産褥婦への外来理

学療法の介入を行っており、過去 2年産褥婦のトラブルを当学会にて報告してきた。今回、分娩施設から妊娠中から生じた尿失禁が産後

1年継続している症例の紹介を受けた。初回介入からアプローチ方法選択までの経過を報告する。

【症例情報】

40歳代、主訴:尿失禁、平成 27年 4月妊娠中に尿失禁発症、同年 8月自然分娩にて出産(初産)。その後も尿失禁持続したが泌尿器科

には一度も受診せず、平成 28年 8月ウィメンズヘルス理学療法(尿失禁改善)目的で当院紹介受診。

【倫理的配慮と説明と同意】本症例報告は当院の倫理規定に基づき、症例へ説明と同意を得ている

【理学療法評価】

失禁の量・頻度:50ccナプキンを 2~3枚/日使用、

失禁パターン:くしゃみ・小走り・子供(9kg)を抱っこ時に失禁あり、運転中に自覚のない失禁あり

切迫性尿失禁はしばしばあり、蓄尿時には歩行中に失禁あり、蓄尿時のみ切迫感あり、夜間・安静時尿失禁なし、

排尿回数:7回/日、飲水量:約 1L/日(コーヒーと炭酸水でほとんどを占める)

スポーツ歴:妊娠前にスポーツジム 3回/週、既往歴:平成 28年 2月交通事故(後方より追突される)

関節可動域:股関節、右内旋 0°、右外旋 40°、左内旋 5°、左外旋 45° 骨盤底筋収縮:コマンドにより収縮可能

触診:腹直筋離解あり、両側内閉鎖筋の筋緊張低下、外旋時の筋収縮なし、両側外腹斜筋の筋緊張亢進、

呼気時に外腹斜筋優位、吸気時の下位胸郭の可動性制限、下部腹筋の筋緊張低下、

腹横筋下部線維の筋緊張低下、両肩甲骨外転位、大胸筋 tightness、胸郭回旋時の肋骨の回旋制限。

評価表:クイーンズランド女性骨盤底質問票(排尿 14/42、排便 7/42、臓器脱 0/15、性機能 4/19)

【理学療法アプローチの選択】

股関節内旋 ROMex、大胸筋ストレッチ、外腹斜筋抑制、腹横筋下部線維筋力強化、深会陰横筋筋力・筋持久力強化、エコーによるバイオ

フィードバック、姿勢・動作指導、飲水内容など患者教育

【結果】

1 回の理学療法にて自覚のない尿失禁と歩行時の尿失禁は消失、抱っこの時に失禁が残存したが、ナプキンが 50cc から 15cc で対応可能

となる。

【考察・まとめ】

産後の尿失禁は身体面の機能障害に加えメンタル面・生活習慣の因子が複雑に絡んでいる。今回の症例は妊娠・出産により骨盤底筋と

腹横筋下部線維の機能障害が生じていたと推測される。尿失禁が泌尿器科の適応であるか、理学療法の適応であるかは問診のなかで多く

の情報を収集できる。さらに触診やエコーなどを使用し、機能障害由来の尿失禁であるかを鑑別していく必要があると考える。

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演題 13 急性期病棟から地域包括ケア病棟へ転棟した骨折患者の転棟前 FIMは自宅退院の可否を予測できるか?

○島崎功一 1)、吉村日沙 1)

1)長崎労災病院中央リハビリテーション部

キーワード:地域包括ケア病棟 FIM 骨折 【はじめに】

自院の急性期病床から地域包括ケア病棟へ転棟した骨折患者で、転棟前の Functional Independence Measure(以下、FIM) が在宅復帰の

可否を予測し得るか検討した。

【対象と方法】

対象は 2014 年 9 月から 2016 年 3 月に足部を除く下肢骨折、脊椎骨折にて当院の急性期病棟に入院後、地域包括ケア病棟へ転棟、退院

した患者 79名(男性 26名、女性 53名、平均年齢 72.6±13.2歳)とした。入院前が元々施設入所であった症例、地域包括ケア病棟を 14日

以内に退院した症例は除いた。疾患の内訳は骨折患者 79名(脊椎骨折 45名、下肢骨折 34名)であった。測定項目の内、基本情報は、年

齢、性別、骨折分類(脊椎・骨盤骨折群、下肢骨折群に分類)、入院から地域包括ケア病棟入棟までの期間(以下、急性期期間)、地域包括

ケア病棟入院期間、対象者の自宅での同居者数(以下、同居者数)、入院前の介護保険における要介護度(以下、要介護度)とした。また、

FIM は地域包括ケア病棟転棟前の運動項目 FIM(以下、転棟前 mFIM)、認知項目 FIM(以下、転棟前 cFIM)とした。転棟前 FIM は地域包括ケ

ア病棟へ転棟した日の急性期病棟での FIMとした。統計解析は、当院退院後の転帰別に、自宅退院が可能であった 67名(以下、自宅群)、

自宅退院が困難で療養型病院や施設へ入所した 12 名(以下、転院群)の 2 群に分け、2 群間において、基本情報、FIM に対し、それぞれ

Mann-Whitneyの U検定、χ2検定を用いた。次に、自宅群と転院群を従属変数(自宅:0、転院:1)、単変量解析において有意差(p<0.05)

が認められた項目を独立変数として、多重ロジスティック解析を行った。転棟前 mFIMは Receiver Operating Chracteristic(ROC)曲線を

用いた分析を行い、感度、特異度、カットオフ値を算出した。

【倫理的配慮、説明と合意】

本研究はヘルシンキ宣言に則り、使用した患者データは、入院時に合意を得た上で、カルテから抜粋し、個人情報の取り扱いについては

十分に留意し、検討を行った。

【結果】

単変量解析においては、2群間で有意差が見られたものは、年齢、急性期期間、要介護度、骨折分類、転棟前 mFIM、転棟前 cFIMであっ

た。多重ロジスティック回帰分析の結果では、年齢(オッズ比:1.291) 、急性期期間(オッズ比:1.097) 、転棟前 mFIM(オッズ比:0.851)

が抽出された。Hosmer と Lemeshow の検定結果は、p=0.997 で、判別的中率は 94.9%であた。自宅退院可否を判別する転棟時 mFIM のカ

ットオフ値は 58.5点で、曲線下面積は 0.930、感度は 82.1%、特異度は 91.7%であった。

【考察】

ロジスティック回帰分析の結果から自宅退院の有無の因子として年齢、急性期期間、転棟前 mFIMが挙げられ、その判別的中率は約 95%

となった。疾患分類が下肢骨折と脊椎骨折の 2 つのみの分類ではあるが、骨折の分類には影響しない、精度の高い予測式が成立した。ま

た、入棟前 mFIMの自宅退院のカットオフ値の曲線下領域面積も 0.93となり、入棟時 mFIM単独でも自宅退院を予測するには有効な指標と

なりうることが示された。

演題 12 入院中の多面的評価からみた脊椎圧迫骨折を再発する患者の特徴~少数例の短期的調査~

○平井伸也 1)、後藤響 1)、原槙希世子 1)、桑原英彰 1)、吉村彩菜 1)、片岡英樹 1)、森田馨 2)、山下潤一郎 1)

1)社会医療法人長崎記念病院リハビリテーション部 2) 社会医療法人長崎記念病院整形外科

キーワード:再骨折 脊椎圧迫骨折 疼痛 【はじめに】

脊椎圧迫骨折(VCF)は再発を繰り返すことが少なくなく,これが短期間に発生すると,入院生活が繰り返し,ADL能力の低下を招くケー

スも認められる.したがって,短期に VCF を再発しやすい患者の特徴を捉えることは再発や ADL 能力の低下を予防する観点から重要と考

えられる.そこで,今回,退院後 1 ケ月以内に VCF を再発した患者について運動機能,腰背部痛(LBP),精神心理面,ADL の継時的変化

について後方視的に検討した.

【対象と方法】

2015 年 9 月〜2016 年 9 月の間に VCF にて入院し保存療法を施行後,自宅退院をした 17 例を対象とした.このうち,退院 1ケ月後も自宅

生活を維持できていた(自宅生活維持群)のは 15 例であり,2 例は VCF の再発により再入院した.入院中の評価は,LBP として動作時の

verbal rating scale(VRS;0:無し~4:耐えられない),うつとして geriatric depression scale(GDS),痛みの認知的側面として pain

catastrophizing scale の下位項目(反芻,無力感,拡大視),運動機能として TUG,6分間歩行(6MD),ADLとして FIM運動項目(mFIM)

を 4週目と退院時に評価した.そして,再発をした 2例の各評価結果と自宅生活維持群の平均値を比較・検討した.

【結果】

自宅生活維持群(78.3±8.0 歳)の新鮮骨折数は 1.1±0.3 個,既存骨折は 0.4±0.6 個であった.受傷後 4 週目において,VRS:1.5±1.2

点,GDS:5.4±3.9 点,反芻:11.8±5.8 点,無力感:6.2±4.4 点,拡大視:4.4±3.4 点,TUG:16.8±9.7 秒,6MD:280±136m,mFIM:79.5±

9.5 点であった.退院は平均 8.3±3.3週であり,その際の各評価結果は VRS:1.3±1.1,GDS:5.2±3.2点,反芻:9.5±5.2点,無力感:7.3

±4.2点,拡大視:4.8±3.3点,TUG:15±9.3秒,6MD:314±137m,mFIM:83.4±7.5点であった。次に,1例目の再発の患者は 70歳代の女

性で,L4新鮮骨折と,他に 4椎体に既存骨折を認めた.受傷後 4週目において VRS:4点,GDS:14点,反芻:18点,無力感:12点,拡大視:5

点,TUG:15.2秒,6MD:26m,mFIM:82点であった.受傷 11週目の退院時評価は VRS:3点,GDS:15点,反芻:17点,無力感:12点,拡大視:2

点,TUG:12.4秒,6MD:200m,mFIM:84点であり,屋内 T-cane歩行,身辺 ADLは自立した.次に,2例目の再発の患者は 70歳代の女性で,

L1新鮮骨折と,他に 3椎体の既存骨折を認めた.受傷後 4週目において VRS:2点, GDS:12点,反芻:12点,無力感:7点,拡大視:1点,

TUG:19.2 秒,6MD:100m,mFIM:60 点であった.入院経過中,6 週目に LBP が増強し,L2 新鮮骨折を認めた.受傷 16 週目の退院時評価は

VRS:0 点,GDS:13 点,反芻:13 点,無力感:10 点,拡大視:3 点,TUG:36.0 秒,6MD:80m,mFIM:79 点であり,屋内 T-cane 歩行自立,入浴

以外のセルフケアは全て自立した.

【考察】

新鮮 VCF 受傷後に自宅退院となるも短期間のうちに再発を認めた 2 例の特徴として,自宅生活を維持している人に比べて既存骨折が多い

こと,退院時に受傷前の ADL は獲得しているものの,痛み・抑うつ・不安感が強く残っていること,運動機能が低下していることが挙げ

られた.今後も,継続的に調査を行い,VCFの再発の特徴について検討していきたい.

【倫理的配慮】

ヘルシンキ宣言に沿って個人情報保護に配慮し,症例ご家族に対し同意を得た.

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演題 14 当院における骨粗鬆症外来患者の運動継続に関する一考察

○宮川洋一 1)、池田章子 1)

1)重工記念長崎病院

キーワード:骨粗鬆症 転倒予防 運動の継続

【はじめに】

近年骨粗鬆症による骨折患者の増加により、当院では平成 25年度より骨粗鬆症外来を行っている。骨粗鬆症外来の一連のプ

ログラムは薬物治療が中心で、おおよそ 2 年間の経過観察を行っている。骨粗鬆症治療の三本柱は薬物治療、運動療法、栄養

管理であるが、運動療法においては継続率の低下が課題である。実際、2 年間のプログラムを終了した外来患者の中で、終了

まで継続的に運動療法に参加した外来患者は 84名中わずか 3名であった。今回、当院における骨粗鬆症外来患者の運動継続

について調査したので報告する。

【対象と方法】

平成 25 年 6 月から平成 26 年 10 月までに骨粗鬆症外来を開始し、2 年間のプログラムを終了し、一回以上運動療法に参加し

た外来患者 70名(平均 77.7歳、男性 10名、女性 60名)を対象とした。群分けは初診時または 1ヶ月後のみ運動指導を行った

群(A 群 31 名、指導回数平均 1 回)、定期的に運動指導を行った群(B 群 39 名、指導回数平均 4.4 回)とした。評価項目は VAS・

握力・片脚立位持続時間・10m歩行・TUG[Timed Up and Go]とした。統計処理には T検定を用いた。また、両群について転倒リス

クのカットオフ値と比較検討を行った。

【倫理的配慮・説明と同意】

当研究は世界医師会によるヘルシンキ宣言の勧告に従っており、対象者説明を行い、同意を得た。

【結果】

両群間で評価項目の明らかな有意差はなかった。転倒リスクのカットオフ値の比較検討において、カットオフ値を下回った

患者数は片脚立位持続時間では A 群 25 名(80%)、B 群 20 名(51%)、10m 歩行では A 群 13 名(41%)、B 群 18 名(46%)、TUG では A

群 10名(32%)、B群 16名(41%)であった。A群は歩行能力は保たれているが片脚立位持続時間は短い症例が多かった。

【考察】

今回の結果より、通院回数が少ない骨粗鬆症患者は歩行機能が保たれているため ADL に支障感が少ないのではないかと考

えられた。片脚立位持続時間が短いと転倒リスクが高まることの説明をし、理解を得てもらうことが運動継続に必要である

と考えられる。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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セッション 3 16:40~17:50 第 3会場(深江公民館 2階中会議室)

座 長:川上 章子(佐世保中央病院)

15. 大動脈弁置換術後の離床に向けて、リハビリテーション中の呼吸循環器症状の変化に配慮した症例

燿光リハビリテーション病院

深井 優子

16. 早期離床を目標に介入したにも関わらず、二次的合併症を防ぐことに難渋した冠動脈バイパス術後

の一症例 社会医療法人財団白十字会 燿光リハビリテーション病院

友田 有香

17. 治療経過中に心不全が増悪した細菌性肺炎患者に対する理学療法の経験

体重測定によって心不全増悪を早期発見できた症例 済生会長崎病院 リハビリテーション部

林田 涼

18. 経皮的心肺補助装置導入下での体位管理が有効であった肺血栓塞栓症の一例

長崎大学病院 リハビリテーション部

福島 卓矢

19. 当院における心不全患者の自宅退院の可否に影響を及ぼす要因の検討~高齢化地域の現状~

長崎県島原病院 リハビリテーション科

松原 健太

20. 乳がん末期患者への関わりから再認識したチームアプローチの必要性

長崎県島原病院 リハビリテーション科

田川 南

21. 再発性急性胆嚢炎による低栄養を呈した後開腹胆嚢摘出術を施行した患者に対する理学療法の経験

日本赤十字社長崎原爆病院 リハビリテーション科

松﨑 敏朗

2 月 18日(土) 〔循環器、内部障害〕

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 16 早期離床を目標に介入したにも関わらず、二次的合併症を防ぐことに難渋した冠動脈バイパス術後の一症例

○友田有香 1)、小川弘孝 1)、田代伸吾 1)

1)社会医療法人財団白十字会燿光リハビリテーション病院

キーワード:二次的合併症 運動負荷量 胸水貯留

【はじめに】術後早期離床は廃用症候群や呼吸器合併症を予防するために重要である。今回、冠動脈バイパス術(以下 CABG)

術後の症例を初めて担当し、佐世保中央病院で作成した階段パス 2 週間コースを利用して早期離床を図った。しかし、術

後に胸水貯留や下腿浮腫、無気肺などが出現し、2次的合併症を防ぐことに難渋した結果、3週間後に自宅退院となった。

経過に考察を踏まえ報告する。

【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に沿って、個人情報保護に配慮し症例に同意を得た。

【症例紹介】70歳代男性、BMI:20.3、診断名:無症候性心筋症、現病歴:動悸・不整脈の症状あり、精査目的にて当院へ

入院。冠動脈造影検査にて左冠動脈主幹部から回旋枝分岐部に狭窄率 90-99%病変が見つかり、CABG適応となった。

【入院後経過】術前:評価・術前指導、術後 1日目:胸水貯留、端座位・起立訓練開始、2日目:左胸腔ドレーン抜去、歩

行訓練開始、3日目:体重 2㎏増加下腿浮腫の出現、術後 6日目:自主訓練開始、術後 8日目:体重 4㎏増加、下腿浮腫増

量、息切れの出現、10日目:胸水再貯留、左胸腔穿刺施行、無気肺、13日目:体重・下腿浮腫軽減、21日目:自宅退院

【検体値】CRP:(術後 2日目)10.0mg/dl(11 日目)6.6mg/dl(21 日目)0.7mg/dl

【理学療法アプローチ】筋力増強訓練、起立訓練、歩行訓練、階段昇降訓練、自転車エルゴメーター

【考察】本多らは、「心臓リハビリテーションは、早期離床を速やかに進め、臥床に伴う各種合併症を最小限に防ぎ、早期

に ADLを再獲得し、早期退院および早期社会復帰につなげることが目標の 1つである。」と述べている。そのため、早期離

床を行ったが、胸水貯留、無気肺が生じてしまった。術前心機能や身体機能より、術後の経過が良好に進み早期退院可能

と考え介入した。術後胸水貯留が認められ、胸水が貯留した上でのリハビリとなったため、心不全や無気肺などのリスク

に注意しながら訓練量の調整を行い、リハビリ以外での積極的な体位交換や離床を促した。しかし、十分な改善は認めら

れなかった。離床パスに沿って離床を進めたが、術後 8 日目より体重が増加し、下腿浮腫の影響によって患者からは「足

が重くて歩きたくない」などの発言が聞かれるようになり、訓練時息切れが出現するようになった。息切れの原因は胸水

貯留と考え、担当 Dr.や先輩 PT に相談しながら負荷量の調整や方法の検討を行い、息切れのない範囲で訓練を進めた。早

期ドレーン抜去や訓練時の負荷量などにより心負荷がかかり胸水貯留したと考える。また、胸水が長期間貯留したことで

肺を圧迫し器質的に変化し無気肺になったと考えられる。今回 2 次的合併症を起こさないために離床を進めたにもかかわ

らず、2次的合併症を惹起してしまう結果となった。幸い、様々な処置にて自宅退院となったが、今後は運動負荷量の調整

や自主訓練指導、運動中止の判断が適切に行えるよう自己研鑽していきたい。

演題 15 大動脈弁置換術後の離床に向けて、リハビリテーション中の呼吸循環器症状の変化に配慮した症例

○深井優子 1)

1)燿光リハビリテーション病院

キーワード:バイタル変動 病態理解 訓練負荷量

【はじめに】今回大動脈弁閉鎖不全症と左前下行枝 seg7有意狭窄を呈し大動脈弁置換術と冠動脈バイパス術を同時に施行

した症例を担当した。開心術後において日々変化する患者の病態を理解し、バイタルを確認しながら訓練場面での負荷量

を調整し、リハビリテーションプログラムを進めていった。症例の離床から退院までの一連の流れを学ぶいい機会を得る

事が出来たためここに報告する。

【症例紹介】80代女性、診断名:大動脈弁閉鎖不全症、左前下行枝 seg7有意狭窄。

術前心機能:LVDd 67㎜、LVDs 53㎜、LVEF35% AR moderate to severe びまん性壁運動低下。呼吸状態:FEV1.0 74.3% %

VC 75.9% 肺機能は軽度拘束性障害あり。

術前/術後評価:SPPB 9/9 点、握力右 17.2/15.2kg・左 17.0/14.4kg 、MMSE25点、6分間歩行 255/256m

病前 ADL:息子夫婦と 3人暮らし。ADL自立。

【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に沿って、個人情報保護に配慮し症例に同意を得た。

【術後経過】術後 1 日目てんかん発作みられ安静指示。術後 2 日目より当院で作成した開心術後のリハビリテーションプ

ログラムに沿って理学療法を開始。3 日目術後せん妄が強く出現。術後 6日目~9日目体重増加と冷汗、呼吸苦、洞性頻脈

出現し胸水の貯留と低酸素血症が認められた。端座位までのリハビリテーションへ変更。10 日目より 5m程度から徐々に

歩行距離延長し 21日目に階段昇降可能となり自宅退院。

【考察】今回初めて開心術後のリハビリテーションを担当した。自宅退院へ向けた離床を進める予定であったが、術後 6

日目より心不全徴候がみられたため、負荷量を調整した。症例は術後よりせん妄症状が強く、病態理解が出来ず活動に抑

制が効かない事が多々起こった。更に、毎日のリハビリテーションも行われており 1 日の活動量が多く、過負荷となって

いたと考えた。そこで病棟と 1 日の活動について検討し、排泄動作や抑制が効かない時は病棟で離床を行い、リハビリテ

ーションでは負荷を落としベッドサイドを中心とした内容へと変更した。また、症例は自覚症状と他覚症状が一致してお

らず訓練時はバイタルの数値を一緒に確認し、意識付けを行った。介入当初は自宅退院を目指したリハビリテーションを

行っていたが、状態変化後はベッドサイドでの下肢自動運動、起立訓練を行い、血圧や心拍数、呼吸状態の変動に配慮し

た内容へと変更した。術後血圧の変動や心不全管理、せん妄等着眼点が多く、1つのアセスメントに時間を要し、病態理解

に難渋したが日々変化する病態に合わせた理学療法行うことで心不全増悪を防ぐことが出来た。今回の経験で術後の状態

変動を早期より理解し訓練に反映させる重要性に改めて気づく事が出来た。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 18 経皮的心肺補助装置導入下での体位管理が有効であった肺血栓塞栓症の一例

○福島卓矢 1)、森本陽介 1)、矢野雄大 1)、柴田和也 2)、岡野美和 3)、東島潮 4)、松本周平 4)、関野元裕 4)

1)長崎大学病院リハビリテーション部 2)長崎大学病院 ME機器センター 3)長崎大学病院看護部

4)長崎大学病院集中治療部

キーワード:PCPS 体位管理 多職種連携

【はじめに】

経皮的心肺補助装置(Percutaneous Cardiopulmonary Support;PCPS)は遠心ポンプと膜型人工肺を用いた閉鎖回路からなる生命維持装

置であり,重症心不全や呼吸不全,ならびに心肺停止といった重症例がその適応となる.近年,重症患者に対する早期リハビリテーショ

ン(リハ)の有用性について多くの報告がなされているが,PCPS補助下における体動を伴う積極的なリハの安全性・有効性は確立されて

いないのが現状である.

今回,PCPS補助下での体位管理が有効であり,PCPSならびに人工呼吸器離脱に寄与したと考えられる症例を経験したため,考察を交えて

報告する.

【倫理的配慮,説明と同意】

本報告はヘルシンキ宣言に基づいており,対象者に十分な説明を行い,同意を得た.

【症例】

症例は 70 代,女性,BMI:29.1kg/㎡.胸痛と呼吸困難を主訴に当院に緊急搬送され,肺血栓塞栓症と診断された.同日,開胸下に肺動脈

内血栓摘出術が施行されたが,循環動態が不安定であり PCPS補助下および人工呼吸管理下に ICU入室となった.

【経過】

第 1 病日は循環動態が不安定であり,カテコラミンに加え輸液負荷を必要とする状態であったが,第 3 病日には,循環動態は改善を示し

た.しかし,自己肺の酸素化改善に至らず,左下葉の広範囲の無気肺によるシャント血流が原因と考えられた.ICU 専従医を中心に,臨

床工学技士,看護師,理学療法士が多職種で連携を図り,酸素化の改善を目的に,第 4 病日より右完全側臥位による体位管理を実施し,

第 5病日の胸部単純写真では左下肺野の著明な含気改善が得られ,酸素化の改善を認めた.PCPS補助下における体位管理実施時のリスク

は,大腿動静脈の送脱血カテーテルの屈曲・抜去,脱血不良等が挙げられるが,本症例においては有害事象なく経過した.その後,第 6

病日に PCPS離脱,第 8病日に人工呼吸器離脱に至り,第 26病日に ICU退室となった.

【考察】

PCPS管理中の合併症のリスクは多く,特にリハ実施時には脱血不良に伴う灌流障害やバイタルサインの変動を来す可能性があるため,体

動を伴う積極的なリハは一般的に推奨されていない.しかしながら,今回循環動態の安定化を確認した上で,多職種が連携を図りながら

リスク管理を適切に行ったことで,合併症を呈することなく酸素化の改善が得られたと推察される.

【結語】

PCPSのような高侵襲治療中であっても,リハ介入の可否を適切に判断し,専門性を持った多職種が連携を図ることで,安全かつ効果的に

介入できる可能性が示唆された.

演題 17 治療経過中に心不全が増悪した細菌性肺炎患者に対する理学療法の経験:体重測定によって心不全増悪を早期

発見できた症例

○林田涼 1)、大賀智史 1)、阿南裕樹 1)、俵祐一 2)、神津玲 2)

1)済生会長崎病院リハビリテーション部 2)長崎大学大学院医歯薬学総合研究科

キーワード:心不全増悪 下腿浮腫 体重測定

【はじめに】

本邦では高齢化社会の到来に伴い、肺炎患者が急増している。高齢者は主病名以外にも様々な基礎疾患を有しており、入院経過中にそれ

らが増悪することも少なくない。今回、細菌性肺炎の治療経過中、理学療法実施において慢性心不全の急性増悪を早期に発見し得た症例

を経験したので報告する。

【倫理的配慮、説明と同意】

ヘルシンキ宣言を遵守し、対象者に発表の趣旨を十分に説明し同意を得た。

【症例】

70歳代男性。入院前は家族と 4人暮らし、生活範囲は主に自宅内で基本的 ADLは自立していた。基礎疾患として慢性腎不全、2型糖尿病、

虚血性心疾患、慢性心不全を有していた。X -1日に食欲不振と咳嗽を認め、夜間に喀痰困難を自覚、X日に近医受診後に当院紹介となり、

細菌性肺炎の診断にて入院となった。入院時の血液検査では CRP 8.93mg/dL、WBC 15,300/μL、Hb 10.0g/dLと炎症所見は高値を示し、貧

血も認めていた。心エコーでは左心機能低下とうっ血の所見を示していたが、2年前と比較して著変はなかった。

【経過】

3 病日より理学療法介入開始となった。心エコー所見から低心機能であることを確認していたため、休憩を挟みながら低負荷での運動を

実施した。2.0L/分の酸素投与中であり、離床に伴う低酸素血症や血圧低下は認めなかった。入院 4病日より歩行練習を開始し、7病日ま

では著変なく経過した。しかし、8 病日の理学療法実施時に前日と比較して両下腿に著明な浮腫を認め、心不全増悪を疑い体重を測定し

たところ、2日前と比較して3.1kgの増加を認めていた。主治医に報告したところ、心不全増悪の診断で利尿剤が追加投与となり、Hb 8.3g/dL

と貧血の進行も認め、鉄剤の投与も開始となった。その後も主治医の指示のもと、脈拍を 120拍/分以下、自覚的運動強度は「楽〜ややき

つい」とする運動強度で理学療法を継続した。その後は心不全の増悪もなく、14病日に伝い歩き自立で自宅退院となった。

【考察】

今回、細菌性肺炎の治療経過中に下腿浮腫を認め、心不全が増悪した症例の理学療法を経験した。下肢浮腫を確認し、体重測定にてその

増加に気付いたことが心不全増悪の早期発見に繋がった。本症例の心不全増悪に関わる要因として感染症、腎不全、貧血、過剰輸液、過

剰な運動負荷量が挙げられたが、感染症と腎不全に関しては血液検査の結果から否定でき、水分バランスも厳密に管理されており、運動

に関しても頻脈や血圧上昇を認めることもなく最大で「ややきつい」と感じる程度の自覚的運動強度で実施できていた。したがって、本

症例における心不全増悪の主因としては貧血が考えられた。

高齢の肺炎患者は今後も増加することが予測されるが、本症例のように心疾患を併存する患者においては、理学療法士が心不全増悪の可

能性を念頭におき、評価しながら進める必要がある。加えて、入院前の活動性を考慮して介入することが早期の自宅退院につながること

を経験した。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 20 乳がん末期患者への関わりから再認識したチームアプローチの必要性

○田川南 1)、出田康紘 1)、松尾大輔 1)、坂本紘 1)、深堀敏之 1)、浦川純二 1)、田中敏晋 2)

1)長崎県島原病院リハビリテーション科 2)長崎県島原病院麻酔科

キーワード:がんリハビリテーション 緩和ケア 家庭復帰

【はじめに】

当院は地域がん診療連携拠点病院に指定され、緩和ケアチームを発足し、がん緩和ケアを必要とする患者の退院支援・調整を行ってきた。

今回、乳がん末期患者にリハビリテーション(以下リハ)、緩和ケアチームが関わり家庭復帰を目指したが家族の受け入れが難しかった症

例を経験したので報告する。

【症例】

40 歳代女性。数ヶ月前より腰部・殿部痛あり、増強し当院受診後、乳がん末期(Nuclea grade3)、肺・肝・骨(腰椎・骨盤)転移診断。症

例、夫に告知あり治療目的に入院。入院前は ADL 自立していたが、疼痛のため長時間の座位は困難であった。家族は夫と次女の 3 人暮ら

しで、症例入院後に長女が帰省している。

【倫理的配慮・説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき症例の家族に説明し同意を得た。

【経過】

入院日を X日とし、X日より緩和ケア介入、放射線・化学療法開始した。しかし X+10日に全身状態増悪あり治療中止となる。X+27日よ

り全身状態の回復を認め PT 介入開始。腰部・臀部痛や下肢筋力低下のため基本動作や歩行に軽介助を要していた。症例・家族の Demand

は家庭復帰であり、支援体制を検討したが、徐々に病状悪化し離床困難となりベッド上でのリハが続いた。X+63 日に病状が小康状態と

なり、医師より家庭復帰に向け外泊の提案あり。症例も外泊へ意欲向上みられ、リハでは移動方法の確保のためリクライニング式車いす

移乗を開始した。外泊前は家族に対し、医師は病状や緊急時の対応の説明、看護師は在宅環境調整やケア方法、リハは車いすの移乗方法

等を指導した。X+71日に外泊された後、うれし涙や笑顔がみられ、症例は改めて自宅退院を目標とされた。しかし、家族は介護負担(日

中は長女のみが介護)が大きく在宅療養は困難と考えるようになった。そのため、退院支援や在宅サービス等の説明を実施したが家庭復帰

は希望されなかった。X+79 日より緩和ケア医師と連携し疼痛コントロールを図りながら、家族の介護負担軽減に向けトイレ移乗等を中

心に訓練実施。X+116日に再度外泊されたが、徐々にがんや骨病変の進行のため体動困難となり X+149日永眠された。

【考察】

症例は、家族と過ごしたい、母の役割を果たしたいと家庭復帰へ強い意志があり、リハや緩和ケアチームで症例・家族に病状説明や介護

ケア方法、動作訓練行い試験外泊を実施した。しかし、家族は病状進行や ADL 低下する姿を見て心情的変化や、外泊時の経験で介護が困

難と判断され症例と相違がみられた。家族への介護負担を具体的に身体的・精神的な面で聴取し、家族の介護力と在宅サービスの利用を

明確にする必要があり「家に連れて帰れる」環境作りが必要であったと思われる。

今回、がん末期患者の介護負担軽減、社会資源の情報提供、療養先の移行時期など難しさを学び、多職種連携の大切さを再認識し患者と

家族の気持ちに沿えるよう支援していく必要があると感じた。

演題 19 当院における心不全患者の自宅退院の可否に影響を及ぼす要因の検討~高齢化地域の現状~

○松原健太 1)、峰松俊寛 1)、前田和崇 1)、浦川純二 1)、内田雄三 2)

1)長崎県島原病院リハビリテーション科 2)長崎県島原病院循環器内科

キーワード:心臓リハビリテーション 心不全 退院

【目的】

当院は島原半島の中核病院で 2015年に心臓リハビリテーション料(I)を開設した。島原半島地域は全国に比べて高齢化率(30%)が高い

地域である。高齢化率が進むことで様々な疾患を有していることが予測された。また、家族構成や介護保険度などの社会的背景も自宅退

院には関与すると予測した。当院で心臓リハビリテーション(心リハ)を介入した心不全患者において自宅退院群と転院群の患者背景や

ADL 進行状況を比較し要因を検討する。

【方法】

2015 年 4 月~2016 年 4 月に入院し、心不全の診断後、心リハ実施した 65 例を対象とした。自宅退院群と転院群の 2 群に分け、年齢、性

別、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、心房細動、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、ヘモグロビン(Hb)、アルブミン(Alb)、クレアチニ

ン(Cre)、推算糸球体濾過率(eGFR)、左室駆出率(EF)、入院開始日からの在院日数、入院開始日からのリハビリ開始・端坐位開始・起

立開始・歩行開始までの期間、入院開始日からの酸素投与・点滴投与期間、家族構成、介護保険度、入院時・退院時 BarthelIndex(以下

BI)を比較検討し行った。

【倫理的配慮・説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき、調査研究を行った。また、当院の倫理委員会で承認を得た。

【結果】

自宅退院群と転院群を比較し、在院日数は自宅退院群が 15.9日で転院群が 23日、入院開始日からの点滴投与期間は自宅退院群が 6.2日、

転院群が 12.6 日、入院開始日から酸素投与期間は自宅退院群が 4.4 日、転院群が 14.7 日、入院開始日から歩行開始日までの期間は自宅

退院群が 1.97 日、転院群が 11 日と両群間で有意に短縮を認めた。入院時 BI は自宅退院群 44 点、転院群は 7.5 点、Alb が自宅退院群は

3.59mg/dl、転院群は 3.14 mg/dl と両群間で有意に高値を認めた。更に多重回帰分析を行うと歩行開始までの期間がすべての因子に関連

していた。

【考察】

今回の研究結果では、心機能の重症度が自宅退院の可否に与える影響は少ないと考えられた。また、歩行開始時期は大きな要因であり、

関連して栄養状態や安静期間などが影響を与えることが示唆された。今後、栄養状態、歩行状態、酸素投与期間、点滴投与期間を多職種

で構成した心リハチームで情報共有し全身状態の早期改善や ADL などを通して歩行機能の維持向上を早期に図っていくことが重要である

ことが考えられた。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 21 再発性急性胆嚢炎による低栄養を呈した後,開腹胆嚢摘出術を施行した患者に対する理学療法の経験

○松﨑敏朗 1)、宮本直樹 1)、石丸将久 1)、神津玲 2)、吉田佳弘 1)

1)日本赤十字社長崎原爆病院リハビリテーション科 2)長崎大学大学院医歯薬学総合研究科

キーワード:低栄養 炎症 運動負荷量

【はじめに】

急性炎症や手術侵襲により入院患者が低栄養を認めることは多く,栄養および全身状態に応じた理学療法を行うことが重要である.今回,

再発性急性胆嚢炎により低栄養を呈した後に開腹胆嚢摘出術を施行した患者に対して理学療法を行う機会を得た.状態に応じた運動負荷量

の調整を行い,運動機能の改善が得られたので報告する.

【倫理的配慮】

本報告ではヘルシンキ宣言を遵守し,発表にあたっては対象者に十分説明し,同意を得た.

【症例】

80歳代女性,入院前 ADLは自立.自宅で心窩部痛を自覚し救急搬送され,急性胆石性胆嚢炎の診断にて当院入院となった.入院時,BMI 21.6

と標準体型であり, アルブミン(Alb)2.6g/dl,C反応性蛋白(CRP)8.12mg/dl,簡易栄養状態評価は 9点と「低栄養のおそれあり」であ

った.

【理学療法経過】

入院後,胸腹水を認め,ドレナージ管理となった.その後臥床傾向となり,入院 23病日に理学療法が開始となった.食事摂取量は 1,000kcal

と総エネルギー消費量 1,200kcal よりやや低く,理学療法は起居動作練習や歩行練習など 2~3METs 程度の運動を行った.33 病日時点で,

膝伸展筋力は 21.3kgf/kg,TUGは 23.5 秒と低下を認めた.翌日に胆嚢炎再発,42病日に敗血症性ショックをきたし,Alb2.2g/dlと栄養状

態の悪化と両側下腿から体幹に著明な浮腫を認めた.その後,全身状態が改善した 52病日に開腹胆嚢摘出術が施行された.

術後は離床を阻害する合併症などはなく,術後 7日目(入院 60病日)に Alb2.7mg/dl,CRP1.05mg/dlと改善した.また,術後 10日目(入

院 63病日目)以降より徐々に食事摂取量が増加したため,運動負荷量を漸増した.歩行練習は自覚症状で修正 Borg スケール 4を目安とし,

最大筋力の 40~50%で下肢筋群の強化を図った.結果として,BMI19.3と減少したが,膝伸展筋力は 28.8kgf/kg,TUGは 16.0秒と改善を認

め,術後 28日に回復期病院へ転院となった.

【考察】

本症例の低栄養状態およびその悪化は,食事摂取量低下に加えて急性胆嚢炎や敗血症による全身性炎症,さらには胆嚢摘出術の施行による

侵襲に起因する可能性が大きい.術前は,エネルギー摂取量不足時の安静臥床による蛋白質異化亢進,低栄養時の過負荷による過用症候群

の懸念から,廃用症候群予防を目的とした低負荷での起居動作,歩行練習を行った.術後は,全身状態の安定や食事摂取量の増加に伴い,

栄養状態が改善傾向となること,異化から同化に変わる指標である CRP 3.0mg/dl を下回ったのちに運動負荷量を漸増した.その結果,運

動機能の改善を得ることができた.

急性炎症や手術侵襲,食事摂取量不足により低栄養をきたし,異化が進行していく中で体重減少の予防は困難である.しかし,炎症や栄養

の状態をモニタリングしつつ,臨床経過に基づく運動負荷量の調整に努めることで,低栄養状態にある患者の運動機能低下予防や改善は可

能であると考えた.

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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セッション 4 9:30~10:30 第 1会場(深江ふるさと伝承館文化ホール)

座 長:北田 智則(ライフデザイン株式会社ショートステイ王樹)

22. 介護予防事業への継続的介入効果に関する考察

鈴木病院

山下 均

23. 当法人職員を対象とした腰痛の実態調査~腰痛予防への取り組み~

医療法人医理会 柿添病院

瀬戸 成美

24. 産婦人科との取り組み ~周産期のマイナートラブル改善にむけて~

佐世保記念病院

山上 未菜子

25. 当院通所リハビリテーションにおけるサルコぺニア罹患の有無とその特徴

医療法人威光会 松岡病院

岡 健太郎

26. 認知症と家族負担について ~関わりと工夫~

老健おばま

宮嵜 大輔

2 月 19日(日) 〔生活環境支援系〕

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 23 当法人職員を対象とした腰痛の実態調査~腰痛予防への取り組み~

○瀬戸成美 1)、中元寺将太郎 1)、神田純 1)、宮崎豊 1)、横田美紀 1)、増山博之 1)

1)医療法人医理会柿添病院

キーワード:職場 実態調査 腰痛予防

【はじめに】

社会福祉施設や医療保健業において腰痛の発生が多いと報告されている.

厚生労働省では職場における腰痛予防対策をおこなっており,当法人においても労働衛生委員会で腰痛予防対策をおこなうこととなった.

その一環として,当法人職員を対象とした腰痛の実態調査をおこなった.当法人における腰痛予防に対する取り組みと調査の結果に考察を

加えここに報告する.

【対象と方法】

当法人理学療法士が作成したアンケート用紙を全職員に配布.後日回収をおこなった.

アンケート内容は性別,年齢,職種,今現在腰痛があるか,最初に腰痛が出現した状況,痛み始めた時の様子,介護動作の中で腰に負担がかか

ると感じる動作についてなどの腰痛に関する質問 14項目.その後,腰痛予防に対する勉強会を 5回に分けて実施した.

【倫理的配慮・説明と同意】

世界医師会によるヘルシンキ宣言の勧告に従い,対象者への説明と同意を得た.

【結果】

全職員 180名中 173名の回答あり,アンケート回収率は 96%であった.男性 33名,女性 126名,無記入 14名.職員の腰痛有病率は 76名で

全体の約 43%を占めていた.性別ごとでは男性約 5%,女性約 37%と腰痛有病率のほとんどが女性という結果であった.最初に腰痛が出現

した時の状況では仕事中が 63 名で約 82%,仕事外では 15 名で約 19%であった.また,痛み始めた時の様子では長時間の中腰姿勢の時が約

43%と一番多かった.介護動作で腰部に負担がかかると感じる動作は長時間の立位が 28%となった.

【考察】

厚生労働省の調査では 4 日以上の休業を要する腰痛は職業性疾病の 6 割を占め,このうち社会福祉施設では約 19%も占めていると報告

されている.またここ最近で腰痛発生件数は 2.7 倍に増加している.当法人職員においても例外ではなく,腰痛の有病率は約半数を占めて

おり,仕事中で腰痛が出現した割合が仕事外に比べ 63%も大きく上回っている.小久保らは 20~24歳での発症は 58.9%と最も高く,経験年

数の少ない若年者に腰痛が多く発症していたと報告している.当法人の 20 代の腰痛有病率は 14%と比較的少ないが,経験年数でみた場合

では 10 年未満の腰痛有病率は 47%という結果となった.その理由として,知識や介護技術の未熟さなどが挙げられる.このことにより,で

きるだけ早期に経験年数の少ない従事者に対し介護技術の指導をおこなうことで腰痛予防につながると考える.

今回の取り組みを通して職員の腰痛や腰痛予防に対する意識の低さを感じた.そのため今後も継続した腰痛予防対策をおこなっていきた

いと考える.また理学療法士として職種の業務特性を理解した上で個人の身体的特徴などを判断し運動療法や介助方法などの指導をおこ

ない,日頃から腰痛に対し意識を高く持ってもらえるよう啓発していくこと必要であると考える.

演題 22 介護予防事業への継続的介入効果に関する考察

○山下均¹⁾、藤原朗子²⁾(保健師)

1)鈴木病院 2)川棚町健康推進課介護保険係

キーワード:介護予防 訪問指導 理学療法士の役割

【はじめに】

当院は平成 25年より川棚町の二次予防事業へ継続的な介入を行っている。具体的には月 1回の頻度で個別相談、健康づ

くりや転倒予防などの講話、運動指導及び年 3 回の体力測定結果のフィードバックを行っている。さらに介護予防事業参

加者の転倒予防、運動指導などを目的として、平成 27年からは月 1回の頻度で在宅訪問指導にも同行している。これまで

の経緯を踏まえて、介護予防事業における理学療法士の役割について考察する。

【対象と方法】

対象は介護予防事業参加者とし、体力測定結果(握力、開眼片脚立ち、TUG、5m 最大歩行)、参加者へのアンケート、訪問

指導記録より対応した内容を整理し、介護予防事業における理学療法士の役割について検討する。

【倫理的配慮・説明と同意】

本報告は介護予防事業参加者及びスタッフに説明し同意を得ている。利益相反に関する開示事項はない。

【結果】

体力測定結果は握力が初回と比較して中間・最終ともに有意な改善がみられた。5m 最大歩行では初回より中間で有意な

改善が認められた。参加者のアンケートでは参加してよかったものとして『理学療法士の講話が良かった。』といった意見

が最も多かった。訪問指導での対応内容では住宅改修に関するもの 4 件、福祉用具の紹介 4 件、浴槽のまたぎ動作など動

作指導 2件、他サービスの利用促し 1件、他科受診の紹介 1件であった。

【考察およびまとめ】

介護予防事業における理学療法士の役割として、重要視されてきたものとして集団に対する運動機能向上に関する講話

や運動指導などの取り組みがあげられるが、それだけでは十分な取り組みとは言えない。今回、個別相談や訪問指導を通

じて、個別の身体機能評価や個別プログラムの作成、住環境の評価、福祉用具の選定など幅広い知識や技術が求められて

いると思われる。今後、地域包括ケアシステム構築に向け、地域における理学療法士の役割も多様化、複雑化してくるも

のと思われる。

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演題 24 産婦人科との取り組み ~周産期のマイナートラブル改善にむけて~

○山上未菜子 1)、西川眞里 1)、坂本明子 2)

1)佐世保記念病院 2)荒木産婦人科

キーワード:周産期 マイナートラブル 理学療法 【はじめに】

我々は、産婦人科にて周産期の女性におこるマイナートラブル改善と研究活動を行っている。理学療法士と産婦人科との連携がさらに

広まることを期待し、ここに報告する。

【活動報告】

・院内勉強会

対象:佐世保記念病院 リハビリテーション科スタッフ

目的:周産期のスタッフへリスク管理、その他スタッフへは援助の為の情報提供。

内容:周産期の就業リスク

・院外勉強会

対象:佐世保市内産婦人科 医師、助産師、看護師

内容:周産期骨盤帯の生理学と運動学

・産婦人科マザーズクラス

場所:佐世保市内産婦人科

目的:母体のマイナートラブル予防

頻度:2016年 4月から開始し、隔週月 2回、60分程度。

対象:産前クラスは 28週以降の妊婦、産後クラスは産後 8週以降の経産婦、1クラス 10名程度。

内容 1 座学:周産期に多いマイナートラブル・妊娠による姿勢変化

2 骨盤底筋コンディショニング:セルフトレーニング(資料は SNSで発信)

・研究活動

目的:マイナートラブル発生状況を探る。

対象:マザーズクラスに参加した周産期女性

方法:質問紙に複数のマイナートラブルを提示し、該当するものに記載してもらう。

【倫理的配慮・説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき研究目的と方法を説明し同意を得た。個人情報は個人の特定が出来ないよう配慮した。

【アンケート結果】

参加者のうち回答の得られた 129名中(産前 113名、産後 16名)、骨盤帯痛を訴えた女性は 66名(51.2%)で、排尿機能障害を訴えたのは

31名(24.0%)となり、その他のマイナートラブルの中でも多い訴えとなった。

【展望と課題】

現在の日本では保険適応外である事と経膣触診の問題が大きなハードルとなり、産科・婦人科での理学療法士の活躍は少数であるが、

現場では、その評価技術と改善戦略に期待されている。また、マイナートラブルに悩みつつ自身のコンディショニングに時間をとりにく

い周産期から閉経期の女性からも期待されている事を実感する。アンケート結果で多かったトラブルに対しては、臨床で出会う腰痛、排

尿機能障害の症例と同様に、適切な評価と効果のあるトレーニングが必要である。今後は、姿勢変化の少ない妊娠初期から骨盤底筋コン

ディショニングを開始することで、産褥期を迎える準備と周産期に起こるトラブルの予防を行っていきたいと考えている。私は経産婦で

あり、今後も一生産後を生きる。経産婦として理学療法士として、女性が健やかな周産期を過ごす為に科学的根拠のある方法で自己管理

を行えるようなサポート体制を産婦人科医、助産婦、看護師と連携し、モデルを示していきたい。今後はこの活動が継続するように学童

期への啓発や、泌尿器科医、整形外科医との連携も課題である。そしてその連携は、周産期マイナートラブルの予防と改善に貢献できる

と考える

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演題 26 認知症と家族負担について ~関わりと工夫~

○宮嵜大輔 1)

1)老健おばま

キーワード:中等度認知症 家族ストレス 【はじめに】

今回、認知症及び BPSDが進行し ADL能力低下・家族負担が増した症例に対して、通所リハビリや在宅での関わりを検討したことで、介助

量軽減へ繋がったためここに報告する。

【倫理的配慮、説明と同意】本症例はヘルシンキ宣言に基づき、家族への説明と同意を得ている。

【症例紹介】

対象者:80歳代、男性 既往歴:脳腫瘍、肺気腫(ステージ II)、腰椎圧迫骨折補強術

FIM:58点 HDS-R:13点中等度認知症 NPI-Q:10点中等度 J-ZBI:56点

性格:亭主関白、外あたりは良い

本症例は介入初期は認知症軽度であり、リハビリへの拒否はみられなかった。しかし、転倒を繰り返し認知症及び BPSDが進行することで

ADL 介助増大し、自発性の低下や興奮や夜間不穏が出現していた。また、在宅生活で家族の負担やストレスも増加していた。その為、リ

ハビリや ADL動作誘導で拒否や混乱が強く見られ、介入がスムーズにいかない事が多かった。

【介入方法と仮説】

脳活性の原則としては、快刺激・褒める・コミュニケーション・役割を与える事が大切であると言われている。その為、声掛けや関わり

に対しては簡単な単語での会話を行い、受容的な受け答えを行う事で、混乱を防ぎ安心出来る関係性を気づけると考えた。また、個別で

のリハビリでは拒否傾向がみられた為、複数人で実施し、他者と交流を図ることで、本人の自尊心や存在意義を見出し、脳活性化が図れ

ると考えた。以上の内容を家族や通所スタッフと統一し介入することで、動作誘導や在宅生活での介助量が軽減し、家族のストレスの緩

和へ繋がると考えた。

【結果】

以下 3カ月後の結果である。

FIM:61点 HDS-R:10点中等度認知症 NPI-Q:7点中等度 J-ZBI:53点

通所利用にあたっての興奮が軽減され、リハビリも拒否なく取り組む様子が増えた。ADL 動作においては、誘導時の混乱が減少し、動作

へ協力する様子が見られた。しかし、在宅生活にあたっては、家族への依存や夜間不穏等見られ、家族のストレスは変わらず見られた。

【考察】

武原らは、活動性を高めるためには、グループタイナミズムを活用した取り組みが必要と述べている。また、手続き記憶は認知症発症後

も保持されやすく、誤りなし学習が有効とされている。本症例は、複数人でリハビリ介入し動作統一や環境を整えたことにより、安心感

や自尊心が保たれ、介入への拒否が軽減し、手続き記憶として動作改善へ繋がったと思われる。しかし、動作能力と在宅介護にあたって

のストレスに大きな関連性は見られなかった。本症例は、元の性格より亭主関白で外あたりが良いとの情報があった。その為、通所と在

宅では本人の環境認識が異なり、在宅での興奮や夜間不穏が出現しやすく、家族への依存に繋がったと思われる。BPSD症状と個々の性格

やこだわり等の境界も難しい為、動作や介入の統一化の中にも対応への変化を交えながら、その場の環境に合わせた方法を検討する事が

大切だと考える。

演題 25 当院通所リハビリテーションにおけるサルコぺニア罹患の有無とその特徴

○岡健太郎 1)、榊大将 1)、門司健助 1)、江上このみ 1)、山元総勝 2)

1)医療法人威光会松岡病院 2)熊本保健科学大学理学療法科

キーワード:サルコぺニア MNA 【はじめに】

加齢性筋肉減弱現象(サルコぺニア)とは加齢に伴う進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群をいう。

原因として、加齢以外に疾患、活動性低下、低栄養などが挙げられ、要介護の原因として最近注目されている。そこで、本研究の目的は、

当院通所リハビリテーション利用者のサルコぺニア罹患状況を調べ、さらに、サルコぺニアと栄養状態およびその特徴について検討した。

【対象と方法】

平成 28年 3月 31日時点で当院通所リハビリテーションを利用されている利用者 119名(男性 27名、女性 92名、平均年齢 83.4±6.3歳)。

研究について十分に説明を行い本人または家族に承諾が得られた者のみ対象者とした。

サルコぺニアの簡易判定法(以下 NILS-LSA)にてサルコぺニア群と非サルコぺニア群に分類した。栄養評価は簡易栄養状態評価表(MNA)

を用い栄養不良群(低栄養群:<17点、リスク群:17~23.5点)と栄養状態良好群(24~30点)の 2群に分類した。サルコペニア群と非

サルコペニア群の 2 群における MNA の差を対応のない T 検定とχ二乗検定を用い検証した。有意水準は 5%未満とした。また、サルコペ

ニアの有無による転倒や介護度や疾患との関連性を調べた。

【結果】

サルコぺニア群(n=49)の MNA 値は 22.66±2.68 点であり、非サルコペニア群(n=70)は 24.30±2.39 点であり、有意に低かったが、サ

ルコペニアの有無と栄養との関係では、有意差は見られなかった。転倒の頻度は、非サルコペニア群(39 名:67.2%)が多かった。サル

コペニア群は、内科疾患が多く、非サルコペニア群は整形または中枢疾患がやや多かった。介護度の関係では介護度が高くなるにつれ、

サルコペニア群が多くなる傾向だった。

【考察】

当院通所リハでサルコペニアと判定されたのは 49名であった。サルコペニア群は非サルコペニア群と比べ MNA値が優位に低い結果と要因

として、筋肉量または筋力の維持・増強には栄養状態が良好であることが望ましく低栄養と筋力低下に関連があることは報告されている。

また筋機能は栄養不足になると早期に反応するため栄養状態の指標となると報告されている。よってサルコペニア群の MNA 値が有意に低

かったと考える。サルコぺニアの有無と栄養の関係で有意差が見られなかったのは、栄養状態が良好でもサルコぺニアを発症する可能性

があると言える。これはサルコぺニアの原因として低栄養以外にも臓器不全や炎症性疾患から起因するサルコぺニアがあるためだと考え

る。また当院のサルコぺニア群に内科疾患が多い傾向であったことも臓器不全や内分泌疾患に付随したサルコぺニアであった可能性が推

測される。転倒の頻度が非サルコペニア群の方が多かったことについてはサルコペニア群よりも活動性が高かったことによる影響と考え

られる。活動性の指標となる介護度からみても介護度が高くなるにつれサルコペニア群が増加する傾向にある。活動性が高いと外出機会

や歩行する回数や距離が増加するため転倒が多かったと考える。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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セッション 5 9:30~10:30 第 2会場(深江公民館 2階ホール)

座 長:田代 伸吾(燿光リハビリテーション病院)

27. 回転性眩暈を呈した小脳出血患者へのアプローチ~離床時間確保に難渋した一症例~

社会医療法人財団白十字会 佐世保中央病院 リハビリテーション部理学療法課

富永 貴明

28. 頭部外傷後の運動失調患者の歩行能力改善に対して行った理学療法

~体重免荷トレッドミルトレーニングを積極的に行った一症例~

一般社団法人是真会 長崎リハビリテーション病院 臨床部

内田 心太

29. 脊髄小脳変性症を呈した患者に対する HAL の実施により歩行能力が向上した一症例

社会医療法人春回会 長崎北病院

松永 祐樹

30. パーキンソン病患者に対して促通反復療法を行い歩容の改善を認めた症例

〜振動・電気刺激、階段昇降・歩行練習の併用〜 社会医療法人春回会 長崎北病院

下谷 潤一郎

31. 口底蜂窩織炎により失調症状を呈し理学療法に難渋した症例

長崎県対馬病院 リハビリテーション科

橋本 大二朗

32. 多発性脳膿瘍患者に対する KT(口から食べる)バランスチャートを用いた食事評価の検討

済生会長崎病院 リハビリテーション部

千々岩 雷太

2 月 19日(日) 〔脳卒中〕

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演題 28 頭部外傷後の運動失調患者の歩行能力改善に対して行った理学療法

~体重免荷トレッドミルトレーニングを積極的に行った一症例~

○内田心太 1)、松田卓真 1)、小川健治 1)

1)一般社団法人是真会長崎リハビリテーション病院臨床部

キーワード:運動失調 体重免荷トレッドミルトレーニング 歩行能力 【はじめに】

頭部外傷後,運動失調による歩行障害を呈した症例に体重免荷トレッドミルトレーニング(以下,BWSTT)を用いた理学療法を実施した結果,

歩行能力の向上を認めた.経過を振り返り,BWSTTを用いた理学療法について考察する.

【倫理的配慮,説明と同意】

本症例発表はヘルシンキ宣言の勧告に従う.その上で症例へ説明を行い,同意を得た.

【症例】

10代男性.診断名:頭部外傷.

現病歴:自転車走行中に乗用車と衝突.脳挫傷,外傷性くも膜下出血,急性硬膜外血腫,びまん性軸索損傷,肺挫傷.46病日,当院へリハ目的で

転院.

【経過】

入院時,JCS:Ⅱ-20,MMSE16/30 点,四肢・体幹の運動失調や筋緊張低下,姿勢定位や四肢の空間保持が困難.基本的動作は全介助.FIM 運動項

目:13点,認知項目:6点.高次脳機能障害は精査困難.日常生活上,発動性障害や注意の持続性低下,短期記憶障害がみられた.

3 ヶ月目,意識清明,SARA:21/40 点.10m 歩行:不可.MMSE:17/30 点.FIM 運動項目:36 点,認知項目:22 点.歩行器歩行は最大介助,歩容は体幹

前傾位で左右に動揺し,両股関節は内転位,歩幅が狭く,IC は全足底接地,TSt は股関節屈曲位であった.歩行練習は約 25mを 3 セット行っ

たが,徐々に歩容が突進様となり,疲労感の訴えが聞かれ,歩行量を増やせなかった.そこで,歩容改善と歩行量増加を目的とし,BWSTT を理

学療法に取り入れた.設定はトレッドミル上の歩行状態を観察し,歩幅を広げ,股関節伸展を促した歩容を持続できる免荷 20%,速度

2.0km/h,時間 5分で 1日 3セットとし,毎日実施した.歩行中の疲労感や歩容を確認しながら,実施時間を 1ヶ月で 10分まで延長した.

4ヶ月目,10m歩行が見守りで可能となり,歩行速度:2.4㎞/hとなった.更に歩幅を広げ,股関節伸展を促すために,速度設定を通常の歩行速

度より速い 2.8km/hへ変更した.

6ヶ月目,周囲の状況に応じた速度調整や方向転換などが課題となり,歩行自立ができなかった.そこで,セット数のみ 2セットに減らし,意

図的な姿勢制御改善を目的に立位バランス練習や実際の ADL場面での歩行練習を増やし,退院時まで継続した.

8ヶ月目(退院時)評価,SARA:13.5/40点,歩行速度:3.0㎞/h,MMSE:26/30点, FIM運動項目:70点,認知項目:27点.自室内歩行は自立.

【考察】

運動失調による歩行障害に対し,BWSTT を実施した結果,歩行に必要な姿勢制御や歩行速度,連続歩行距離の改善がみられた.課題の難易度

を下げ,かつ歩行量増加したことが歩行能力の改善に繋がったと考える.一方で,歩行自立には周囲の状況に応じた姿勢制御が必要であり,

一定の環境下で行う BWSTTに加え,意図的な姿勢制御の改善を目的としたバランス練習を組み合わせる事が必要と考える.

演題 27 回転性眩暈を呈した小脳出血患者へのアプローチ~離床時間確保に難渋した一症例~

○富永貴明 1)

1)社会医療法人財団白十字会佐世保中央病院リハビリテーション部理学療法課

キーワード:回転性眩暈 動作指導 訓練拒否 【はじめに】

今回、小脳出血により起居動作時の回転性眩暈を主症状とし、その影響によりリハビリに対する訓練拒否が頻回にある症例を担当した。

姿勢変換時に生じる眩暈と訓練拒否により、積極的な離床が出来なかったが、訓練内容の検討、家族の協力を得た結果、離床時間の延長

および身体機能の向上に繋げる事ができた為、その経過をここに報告する。

【倫理的配慮・説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき、本症例には発表に関しての趣旨を説明した上で、同意を得た。

【基本情報、理学療法初期・最終評価および経過】

基本情報:80歳代男性 本人の発言:「要介護状態の妻をいつも世話していました。妻と面会がしたいです。」

本人からの情報収集:「自宅では妻の介護をしていた。妻は自分が入院する 2週間前から当病院に入院している。」

理学療法初期評価

BBS:10/56 失調評価:酩酊歩行を認める 開眼時立位での動揺出現 ロンベルグ徴候 陰性

基本動作:起居動作は把持物があれば軽介助、起立は腋窩支持中等度介助

理学療法最終評価

BBS:36/56 失調評価:開眼時立位での動揺は出現するが、転倒までは至らない

基本動作:起居動作は把持物があれば自立、起立は見守り

入院当日よりリハ開始。ギャッジアップ 70°にて回転性眩暈が出現。発症 3日目、回転性眩暈に対する動作指導、端座位、車椅子乗車訓

練開始。発症 4 日目、平行棒内歩行訓練開始。この頃より、回転性眩暈が生じながらもリハビリは実施していた。離床時間は午前、午後

の PT、OT、STの時間のみであった(2時間~3時間)。眩暈が改善しない事に対して精神的な落ち込みがあり、この時期からリハビリに対

する拒否、病棟での離床拒否が見られてきた。それに対して、発症 7 日目より病棟と協力し妻との面会を習慣化した。発症 8 日目より訓

練拒否は見られなくなり、発症 9日目、両腋窩介助での歩行訓練開始。発症 9日目より、午前は PT(40分~1時間)、妻との面会(1時間)、

昼食時(1時間)、午後は OT(40分~1時間)、ST(20分~40分)、妻との面会(1時間)、夕食時(1時間)に離床が図れた。発症 10日目、

階段昇降訓練開始。発症 28日目、回復期リハビリテーション病棟を有する病院へ転院。

【考察】

本症例は姿勢変換時に生じる眩暈による離床および訓練拒否があった。訓練、離床拒否の原因として、回転性眩暈の出現、精神的な不安

定が挙げられる。それに対して以下の 3つの内容を対策として行なった。

①動作指導:急激な頭位変換による回転性眩暈の誘発を防ぐ為行った。

②病棟との情報共有:リハビリに対するモチベーションを上げる為本人へ不安や悩みを聴取し共有を図った。

③妻との時間形成:離床時間の確保と精神的安定を図った。

症例の主訴である回転性眩暈を起こさないよう動作指導を行い、精神的安定ができる空間を確保する事で、訓練拒否をする頻度が低下し

離床時間の延長、身体機能の向上に結び付いたと考える。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 30 パーキンソン病患者に対して促通反復療法を行い歩容の改善を認めた症例

〜振動・電気刺激、階段昇降・歩行練習の併用〜

○下谷潤一郎 1)

1)社会医療法人春回会長崎北病院

キーワード:パーキンソン病 促通反復療法 階段昇降 【はじめに】

今回,股関節内転筋の筋緊張亢進により歩行時のふらつきを呈し軽介助が必要であったパーキンソン病患者に対し、電気刺激を用いた促通

反復療法と階段昇降練習を併用して行ったところ,歩行バランスの改善を認め移動が見守りで可能となったため報告する.

【症例紹介】

70 歳代男性,H28.5 に歩行時のふらつきに対する精査目的で入院となり,パーキンソン病 (Hoehn&Yahr Ⅲ)と診断される.抗パーキンソン

病薬はマドパー・アマンタジン塩酸塩を服薬しており日内変動無く経過.

【理学療法評価】第 27病日目〜第 28病日目

ROM は両股関節外転・伸展,体幹回旋・伸展に制限あり.筋力は両股関節外転・伸展筋 2,体幹筋群 2.痙固縮は MAS(右/左)で股関節内転筋

1+/2.10m 歩行は 11.45 秒 25 歩.TUG は右 33.97 秒 55 歩,左 36.19 秒 56 歩,歩幅(平均)は 0.31m.FBS は独歩で 50/56 点. UPDRS(PartⅢ)

は 35 点.認知機能は MMSE27/30 点.映像分析ソフト(dart fish)による左 MSt 時の重心線は右に 4.5°偏倚.歩行は軽介助を要しており,股

関節伸展が乏しく内転位での接地となり易いため支持基底面が狭く,左 MSt時に右側への骨盤下制を認める.

【倫理的配慮、説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し、症例には本報告の趣旨を説明し同意を得た.

【方法】

以下の手順で週 6回を 2週間とし,服薬 30分後に介入した.

1.促通反復療法(股関節外転・屈伸 50回・複合伸展 30回,骨盤回旋・挙上 50回).

2.手すりを使用した階段昇降練習(段数:5段,高さ:15cm)を 6往復行い,降段は後ろ向きで実施.

3.促通反復療法による中殿筋タッピングを行いながら連続 50m歩行練習.

・振動刺激(50Hzで下肢 2分,上肢・体幹 1分)は 1,2を行う前に実施.

・TENS(50Hz・250μs,電極を腰部脊柱起立筋・中殿筋に貼付)は全ての練習の際に併用.

【結果】

ROM は左股関節外転・伸展と体幹回旋で 5°改善.MAS(右/左)は股関節内転筋 1/1+.10m 歩行は 10.18 秒 24 歩,TUG は右 23.50 秒 42 歩,左

19.72秒 38歩,歩幅(平均)0.36mと改善を認め, 左 MSt時の重心線の傾きは 3.0°改善した.歩行は見守りとなり,内転位接地が軽減し骨盤

の水平保持が可能となった.

【考察】

今回, 股関節内転筋の筋緊張亢進による歩行障害に対し,促通反復療法を行った.

TENSを用いて中殿筋の持続的な筋収縮を促した上で促通反復療法を行ったことは,股関節外転筋の興奮水準

を高め,筋出力を発揮しやすい状態をつくり,相対的に股関節内転筋の緊張抑制に繋がった.加えて階段昇降における下肢の交互運動を行

なったことで,大・中殿筋の筋力強化が図られ,下肢の支持性向上と骨盤下制が改善し,安定した歩行の獲得に繋がった.

演題 29 脊髄小脳変性症を呈した患者に対する HALの実施により歩行能力が向上した一症例

○松永祐樹 1)

1)社会医療法人春回会長崎北病院

キーワード:HAL 歩行 脊髄小脳変性症 【はじめに】

今回、体幹と下肢の支持性低下により歩行が不安定な脊髄小脳変性症(以下、SCD)の症例に対し、Hybrid Assistive Limb(以下、HAL)

と免荷式リフト POPO(以下、POPO)を併用した歩行練習を行った結果、歩行能力が向上したため報告する。

【倫理的配慮、説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し、対象者に口頭で説明し同意を得た。

【症例紹介】

70 歳代男性、2014 年に当院で SCD の診断を受け、H28.5 月頃から歩行時のふらつき増強や右下肢の引きずりが出現し HAL 目的にて当院

入院。

【理学療法初期評価】期間:入院 5日目〜7日目

GMT は体幹屈曲 3、股関節外転 2、股・膝関節屈曲/伸展 4/4、感覚障害は表在・深部ともに異常なし。膝伸展筋力は右 37.2kgf、左 37.4kgf、

2分間歩行は 100m、SARAは 9.5点、片脚立位は右 4.48秒、左 6.25秒、10m歩行は 10.43秒 22歩、TUGは右回り 12.47秒、左回り 11.64

秒、FBSは 50/56点、MMSEは 29/30点、FIMは 109/126点、活動度は T-cane使用し日中のみ病棟内自立である。

歩容は立脚期における下肢と体幹の支持性が弱く左右への重心移動幅が大きくなる為、代償として T-caneを下肢に対し遠くに接地するこ

とで支持基底面を拡げており、遊脚期では内外側方向への振り出しが目立ち歩幅・歩隔にばらつきがみられる。

【方法】

歩行の改善を目的に HAL を装着し 1 クールを 10 回実施した。また、POPO を併用することで歩行中の下肢を振り出しやすい環境とした。

工夫点として体幹と骨盤の安定化を図るため体幹に腹帯を使用した。

【理学療法最終評価】期間:入院 25日目〜27日目 *改善点のみ記載。

GMT は股関節外転 3、股関節屈曲/伸展 5/5、膝伸展筋力は右 37.7kgf、左 37.6kgf、2分間歩行は 115m、SARAは 7点、片脚立位は右 8.89

秒、左 12.94秒、10m歩行は 7.41秒 17歩、TUGは右回り 11.34秒、左回り 10.68秒、FBSは 53/56点、FIMは 123/126点、活動度は T-cane

使用し終日病棟内自立となる。

歩容は立脚期における重心移動幅が減少し、T-cane接地による支持基底面が縮小した。また、遊脚期では一定した歩隔と歩幅による振り

出しが可能となった。

【考察】

HAL は構造上骨盤と下肢が連結しており、歩行中は前額面に対する側方動揺を軽減できるものと思われる。その上で、股・膝関節のアシ

ストを伸展優位にする事で立脚中期における下肢の支持性は向上した。さらに遊脚期においても、POPO による骨盤前方挙上の促しと HAL

のアシストによって振り出しが容易となった。これらの環境下で繰り返し訓練を行うことで運動学習が促進され、安定した歩行の獲得に

繋がったと考える。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 32 多発性脳膿瘍患者に対する KT(口から食べる)バランスチャートを用いた食事評価の検討

○千々岩雷太 1)、石田揚二 1)、溝口聡 1)、島崎千郷 1)、林田涼 1)、大賀智史 1)

1)済生会長崎病院リハビリテーション部

キーワード:KTバランスチャート 食事 包括的評価

【はじめに】

食事場面を包括的に評価することは推奨されており、新しい評価ツールとして KTバランスチャートが用いられてきている。本チャートは

食事に関する 13項目から構成され、各項目 5段階で評価する包括的ツールである。今回、本チャートを用いて急性期脳血管障害患者に対

し経時的に食事評価を行ったので報告する。

【倫理的配慮、説明と同意】

ヘルシンキ宣言を遵守し、対象者に発表の趣旨を十分に説明し同意を得た。

【症例】

50歳代男性。X年 2月より精神科病院入院中。X年 8月下旬より肺炎にて経口摂取困難、点滴での全身管理となった。X年 9月 Y日に全身

痙攣を認め、翌日に共同偏視、左片麻痺が出現し、当院救急搬送。頭部 MRIにて多発脳膿瘍を認めた。

【経過】

入院 3 病日目より PT・OT・ST 介入開始。脳血管障害患者に対する評価に加え、経時的に KT バランスチャートを用いて食事場面を 3 職種

にて評価した。初回評価時、CRP1.17mg/dL と高値。咀嚼動作は不十分であり自力摂取困難。呼吸状態は吸引施行が 10 回未満あり。日中

は傾眠傾向で姿勢・耐久性も低かった。食物形態はゼリー食。栄養状態は Alb2.9g/dL、BMI15.0kg/m2と低栄養状態を認めた。排痰訓練・

活動量の増加・耐久性向上、食事場面の観察等を共通認識においた。2 回目の評価時、熱発等なく経過しており安定。自力摂取可能なレ

ベルに改善。呼吸状態は吸引 1 日 5 回未満まで減少。日中の覚醒が改善し介助下にて歩行可能となり活動量は増量。食物形態は軟菜食を

摂取可能なレベルに改善。栄養状態は Alb3.1 g/dL 、BMI16.7 kg/m2 まで改善。排痰訓練の継続・活動量の増加・耐久性維持向上、食事

場面の観察等を共通認識においた。3回目の評価時、栄養状態は Alb3.3 g/dL BMI16.3 kg/m2 と改善傾向にあったが、発熱が再燃し CRP 1.05

mg/dLまで上昇。食べる意欲はあるが咀嚼動作を認めず取り込み詰め込み状態となった。呼吸状態は吸引施工が 10 回未満あり。動作レベ

ルの低下は認めず、訓練内容は変わらず実施可能であるが全体的な活気がなく発語が減った状態であった。その後、主治医に食事状態の

悪化を報告したところ、頭部 CT撮影となり右前頭葉の浮腫と右中前頭回皮質下の膿瘍の増大を認めていた。

【考察】

KTバランスチャートを用いた包括的評価を経時的に行い、患者に対する共通認識を持つことを試みた。脳膿瘍という特殊な疾患に加え、

低栄養状態にあることから膿瘍に対する治療と栄養状態を改善させることが入院加療の中で重要であった。本チャートを用いた評価によ

り各評価項目に対する問題点が抽出され患者理解が深まり、専門分野でのリハビリプログラムの立案等に有用であった。また経時的評価

により項目の変動を確認することで本症例においては病態増悪に気づく事ができた。食事は多職種の関わりが持てる場面である。今後、

多職種での相互理解・共通認識を深めていくことは重要なことであることから包括的評価ツールの一つとして本チャートを利用していき

たいと考える。

演題 31 口底蜂窩織炎により失調症状を呈し理学療法に難渋した症例

○橋本大二朗 1)、梅野恵子 1)、川内奨吾 1)、米田宏之 1)、山田宏美 1)

1)長崎県対馬病院リハビリテーション科

キーワード:運動失調 副作用 自宅退院

【はじめに】

口底蜂窩織炎により運動失調を呈した症例に対して理学療法を実施するも在宅復帰に難渋したため、その経過を報告する。

【症例提示】

76歳男性。平成 28年 4月 20日に口底蜂窩織炎を発症し、呼吸状態悪化のため気官挿管。初期評価は、Glasgow Coma Scale(以下、GCS)

E4,V5,M6。意識レベルは清明で発語は聞き取りにくいが会話は可能であった。入院時 CT画像で病変は認められなかったがロンベルグ、

歩行観察などの検査において脊髄性失調症可能性があると考えた。

【方法】

日常生活活動(以下、ADL)の指標として Functional Independence Measure(以下、FIM)を使用し、リハビリテーション開始時と退

院時の ADL を比較した。また、バランス能力評価として Functional Balance Scale(以下、FBS)を使用し実用移動手段の基準とした。

FIM、FBSともにそれぞれ一ヶ月毎の評価とした。

【経過】

5 月 13 日より、介助量軽減を目標に端座位保持練習から開始した。6 月 8 日より平行棒内歩行練習を開始した。しかし、本症例は高次脳

機能障害も疑われたが、プライドが高く、自由奔放、スタッフの接し方に個人差がある性格なため詳細な高次脳機能の評価が困難であっ

た。6月 14日の夜間に興奮状態となりリスパダールを服用後に振戦が出現し ADLの低下あり。スクエアステップを用いて平行棒内歩行練

習をするも理学療法中のフィードバックへの思考や行動の修正が難しく実用的な歩行は困難で再度目標を変更した。7月 16日に自宅での

安全性を考え床でのいざり動作、あぐら動作の練習を実施した。家屋調査後、週 3 回デイサービス、月 1 回の訪問リハビリテーションの

介護サービス調整後、自宅退院となる。

【結果】

リハビリテーション開始時 FIM49/126 点、6月 13日 81/126 点、リスパダール服用後 6月 15日 60/126 点、退院前 66/126 点。軽度の ADL

の改善はみられたが大きな改善はみられなかった。FBS ではリハビリ開始時 0/54 点、退院前 8/54 点と軽度の改善はみられたが実用的な

数値ではなかった。

【考察】

6月 13日まで ADLの改善を認めたものの、リスパダールの服用後に ADLの低下が生じた.その後の ADLの改善は軽度に留まり、在宅復帰

にあたってはご家族の心理的不安や症例の身体機能の経過観察を含めた訪問リハビリテーションで対応する方針で退院となった。さらに、

他職種の連携として、退院に向けての調整や介護サービスの利用、介護度の把握、服薬の管理、環境整備など情報交換を行うことによる

ご家族の不安、身体的、精神的の軽減を目的とした関わりが今後重要であると考えた。

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セッション 6 9:30~10:30 第 3会場(深江公民館 2階中会議室)

座 長:本田 俊介(諫早記念病院)

33. 地元高校女子バレーボール選手に対するメディカルチェックの報告

医療法人 医理会 柿添病院

池田 恵理

34. 高校硬式野球部に対する障害予防活動の取り組み

長崎県理学療法士協会 健康増進部

樋口 隆志

35. リハたいむゼリー摂取の有無により運動療法の効果に差を生じた人工膝関節全置換術後(TKA)の

2 例~BIA 法を用いての比較~

社会医療法人財団白十字会 燿光リハビリテーション病院 リハビリテーション部

馬場 弘貴

36. 両踵骨骨折を呈し、透析治療も併用している症例~治癒過程の遅延と耐久性低下について~

社会医療法人青洲会 青洲会病院

前田 雅和

37. 異なる足関節背屈角度及び荷重条件下での単純 X 線を用いた足部骨配列の評価

~脛骨に対する距骨の矢状面運動の検討~

医療法人和仁会 和仁会病院 リハビリテーション部

江島 美希

38. 膝関節内骨折術後の荷重訓練に難渋した一症例~荷重時痛の軽減に向けたアプローチ~

医療法人和仁会 和仁会病院 総合リハビリテーション部

永江 槙一

2 月 19日(日) 〔スポーツ、運動器〕

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演題 33 地元高校女子バレーボール選手に対するメディカルチェックの報告

○池田恵理 1)、中元寺将太郎 1)、神田純 1)、瀬戸成美 1)、古川博斗 1)、宮崎豊 1)、増山博之 1)

1)医療法人医理会柿添病院

キーワード:地元 高校女子バレーボール選手 ポジション

【はじめに】

今回,地元高校女子バレーボール部のメディカルサポートを行う機会を得た.サポートを開始する前にメディカルチェックを行ったが、可動域や筋

力の結果とその後のアプローチ方法について報告する。

【対象】

地元高校生バレーボール部 12名。ポジションはスパイカー 8名、セッター 2名、リベロ 2名。

【方法】

事前ニアンケート形式でポジション・既往歴の聴取を行い,その後メディカルチェックとして Finger-Floor distance(以下 FFD)・heel-hip

distance(以下 HHD)・股関節屈曲 ROM・整形外科的テスト・MMT・スクワッティングテスト・両足連続ジャンプを実施。

【論理的配慮、説明と同意】

世界医師会によるヘルシンキ宣言の勧告に従っており、対象者への説明と同意を得た。

【結果】

アンケート調査による既往歴は足関節捻挫が 12 名中 9 名、Jumper’s knee が 12 人中 2 名。足関節捻挫の既往が多く、実際のメ

ディカルチェックでも足関節前方引き出しテスト・足関節内反ストレステストは陽性が 12名中 11名みられた。股関節屈曲 ROMは全体の平均

としては 124.5。ポジション別ではスパイカー 127.5、セッター 123.7、リベロ 113.7 とリベロの選手の屈曲角度に制限がみられた。MMT

の全体の平均が大腿四頭筋 4.0、ハムストリングス 3.7、大殿筋 4.1。全体的に筋力が低いが、特にジャンプの回数が少ない、セッター

やリベロは MMTが 4以下の選手が多くみられた。スクワッティングテストでは、全体的に動揺が多く不安定さが目立った。両足連続ジャ

ンプでは両側ともに Knee inする選手が 12名中 9名見られた。

【考察】

今回,調査を行ったバレーボール部は、ポジション別に数値に差があった。筋力は全体的に低く、特にジャンプを行う頻度の少ない

セッターやリベロはスパイカーより低い結果となった。レシーブの際に深屈曲の必要なリベロは股関節屈曲可動域がセッターやスパイカーに比べ制

限がみられていた。リベロやセッターは股関節周囲のストレッチの指導や下肢筋力強化のプログラムを作成した。スパイカーはスクワットやステップ

練習を中心に動的アライメントの改善を目的にプログラムを作成した。全体的な指導内容としては足関節捻挫の既往が 12 名中 9 名

みられており、足関節の内反ストレステストが陽性 12名中 11名にみられたため、腓骨筋や足趾屈筋群の筋力強化を指導した。今

後もサポート活動を続けるにあたって、トレーニング効果の有用性をチェックするため定期的なメディカルチェックが必要であり、またトレーニング

方法も随時変更し、パフォーマンスの向上と障害予防を図りたいと考える。

演題 34 高校硬式野球部に対する障害予防活動の取り組み

○樋口隆志 1)、大坪直貴 1)、越智貴大 1)、佐治泰範 1)、近藤智也 1)、田中康明 1)、中尾雄一 1)

林 満廣 1)、竹ノ内洋 1)

1)長崎県理学療法士協会健康増進部

【はじめに】

近年,高校野球選手に対する大会サポート以外の様々な障害予防に関する取り組みが実施されている.そこで昨年,シー

ズンオフに障害予防の取り組みを実施したので報告する.

【方法】

長崎県内の近隣高校硬式野球部に呼びかけを行い,同意が得られた 1校 32名を対象とした.目的は,障害予防への意識づ

けとストレッチ方法の指導とした.2日に分けて行い,1日目に身体測定,2日目にフィードバックおよび障害予防の講義・

実技指導を実施し,最後に選手の障害および本企画に関するアンケートを実施した.なお,本測定は京都橘大学倫理審査

委員会の承認を受けている.また対象者が未成年であるため,本人及び保護者から同意を得て実施した.

【結果】

対象選手のうち,全例で過去 1度以上野球に起因する疼痛を有しており,部位は肘が 34%と最も多く,次いで肩関節 18%,

腰部 12%であった.測定時においても 50%の選手が疼痛を有しており肘関節が 35%と最も多く,次いで肩関節と腰部がそれ

ぞれ 30%であった.また疼痛強度は VASで平均 47.2±23.5mmであった.疼痛が出現したときの治療として,整形外科が 59%

と最多で,次いで整形外科が 28%であった.その理由として画像所見による詳細な診断や病状の説明,セルフエクササイズ

を指導してもらえる,などが挙げられた.最後に本企画の満足度について,84%が大変良かった,16%が良かったとなり,

その理由として「自分の状態がわかったから」が 34%と最も多く,次いで「改善方法がわかったから」が 28%であった.

【考察】

本アンケート結果で,半数の選手がプレー時に何らかの疼痛を有していた.またその強度は VASで 47.2mm であり,中等度

の疼痛であった.このことから,選手は競技に影響を与えるほどの疼痛を有したままプレーをしていると考えられる.ま

た疼痛出現時には整形外科を第 1 選択として挙げられており,その理由は詳細な診断や説明,セルフエクササイズの指導

などであった.そのため,理学療法士は治療のみならず患者や選手のマネジメントも重要な役割であることを認識する必

要があると考えられる.本企画に対するアンケート結果は比較的良好であったが,自分の状態を客観的に把握したうえで

改善方法を伝えたことがその要因と考えられる.今回は対象が 1校 32名のみのため,今後可能な限り対象を増やして監督

や部長らとの連携を深める必要があると考えられる.

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 36 両踵骨骨折を呈し、透析治療も併用している症例~治癒過程の遅延と耐久性低下について~

○前田雅和 1)

1)社会医療法人青洲会青洲会病院

キーワード:両踵骨骨折 透析 耐久性 【はじめに】

今回、両踵骨骨折を呈し、週 3回の透析治療を併用している症例を担当した。術後 60日経過し筋力・耐久性の向上が乏しい本症例に対

し、下記の理学療法プログラムを実施したので治療経過を含め考察を報告する。

【倫理的配慮・説明と同意】症例には本発表の趣旨を説明し、同意を得た。

【症例紹介】

氏名:A氏 70歳代後半女性 身長 148㎝ 体重:51.8kg(Dry wt:50kg)現病歴:8月〇日車を運転中、壁にぶつかり両踵骨骨折、8月

〇日+11日後に観血的骨接合術施工。その後 PTB装具にて 8週免荷の指示。

既往歴:慢性腎不全(平成 14年)

【初期評価(術後 60~63日)】

血圧 158/74、脈拍 68。徒手筋力検査:両股関節屈曲 3・伸展 3・外転 3、内転 2、両膝関節伸展 4、屈曲 3、両足関節背屈 4、底屈 2+、触

診:両下腿三頭筋の筋緊張低下。視診:足部軽度腫脹、浮腫あり。感覚検査:両足底 8/10 と軽度鈍麻あり。下腿周径:右最大 28.5cm、

最小 23cm、左最大 29.5cm、最小 24cm、歩行:Walker歩行にて、最大 50m可能。呼吸数 22、脈拍 84、血圧 177/92 と上昇。

検査データ:Cr7.27、BUN29.5、K3.6、Ca9.4 UA6.0、e-GFR4.7、iP3.2、TP6.8、Alb3.6

【アプローチ】

マット上では、殿筋群、足関節周囲に対する筋力訓練を行った。免荷時期では歩行・起立訓練にて抗重力筋への促通、体性感覚への感覚入

力を行った。全荷重時期では、耐久性向上と筋力向上目的として 10㎝の段差を用いたステップ運動、階段昇降、杖歩行訓練を実施した。

立位バランス訓練として、立位での応用動作を実施した。また、透析直前と直後は運動の負荷量や実施時間を調節して実施した。

【最終評価、考察(術後 74~77日)】

今回、術後 60日経過しているにも関わらず筋力・耐久性の向上が乏しい症例を担当した。その原因として 8週の免荷期間と血圧コントロ

ール不良と考え上記アプローチを行った。要因としては、透析の影響による末梢の循環障害、カルシウムの吸収不足、ビタミン D の産生

障害による仮骨形成の遅延により荷重による筋力強化が行えなかったと考える。血圧に関しては、本症例は透析直後の血圧が 180/84と高

値の為負荷量があげる事ができなかったと考える。

そこで、PTB装着下での立位・歩行訓練を実施した。また病棟においても 3~4Metsの低負荷の運動頻度を多く持つ為、Walker歩行に統一

し、一日の活動量と負荷量を増やし筋力と耐久性の向上を図った。

その結果、下肢筋力は 2 から 3+へと向上し、歩行形態も杖歩行軽介助にて 50m 可能となった。しかし、血圧コントロールに関しては、

透析直後の高値は変わらず負荷量をあげる事ができず、耐久性においては、血圧 176/82、呼吸数 18回、脈拍数 90と向上を認める事がで

きなかった。今後の課題として透析治療時間の有効活用、透析室の看護師との関わりの必要性を感じた。

【おわりに】

今回、透析治療を行っている症例を担当し、課題に気付く事が出来た。今後は、透析治療を行っている患者に対しても、透析時間を有効

活用できる方法を考え、身体機能・ADLの向上を図っていきたいと思う。

演題 35 リハたいむゼリー摂取の有無により運動療法の効果に差を生じた人工膝関節全置換術後(TKA)の 2 例

~BIA法を用いての比較~

○馬場弘貴 1)、小川弘孝 1)、吉田裕志 1)

1)社会医療法人財団白十字会燿光リハビリテーション病院リハビリテーション部

キーワード:リハたいむゼリー 運動療法 BIA法 【はじめに】

近年、運動療法後に BCAA含有飲料を摂取することで運動機能の改善が見込めると言われている。今回、訓練後に BCAA含有飲料である

「リハたいむゼリー」を摂取した症例と摂取しない症例で BIA法を用いて骨格筋量、体成成分、身体機能を比較した。以下に考察を踏ま

えて報告する。

【倫理的配慮および説明と同意】本症例・家族に対し、今回の発表の主旨を口頭で説明し同意を得た。

【症例紹介および経過】

症例 A、B共に同様の治療プログラム(6~7単位/1日)を実施した。症例 Bは、リハたいむゼリーの摂取を希望された為、レジスタン

ストレーニング後、30分以内にリハたいむゼリーを摂取した。

I症例 A:リハたいむゼリー未摂取、入院日数 25日(職場復帰)

年齢:60歳代 性別:男性 身長:170cm 診断名:右膝変形性膝関節症 術式:右 TKA

評価(初期評価/最終評価)

FIM:101/121 体重:79.9kg/78.0kg 骨格筋量:33.0kg/28.8kg 体脂肪:20.3kg/25.9kg

下肢 MMT:4/4~5 握力:右 41.0kg/40.6kg 左 40.6kg/40.3kg 10m歩行:19.6秒/17.0秒 6分間歩行:250m/326m

II症例 B:リハたいむゼリー摂取、入院日数 32日(職場復帰)

年齢:60歳代 性別:女性 身長:155cm 診断名:右膝変形性膝関節症 術式:右 TKA

評価(初期評価/最終評価)

FIM:101/124 体重:53.4kg/53.9kg 骨格筋量:17.8kg/18.7kg 体脂肪:19.6kg/18.5kg

下肢 MMT:3/4~5 握力:右 13.9kg/17.0kg 左 12.3kg/17.6kg 10m歩行:12.0秒/9.0秒 6分間歩行:313m/370m

【考察】

今回、リハたいむゼリー摂取の有無により、骨格筋量、体成成分、身体機能の向上に差が生じた。吉村は「回復期リハビリテーションに

おける栄養サポートは骨格筋量を増大させる」と述べている。また、藤原は「回復期リハビリテーションにおける栄養補充とレジスタン

ストレーニングの併用による介入が骨格筋量と ADLを改善させる」と述べている。症例 Bにおいても、毎日レジスタンストレーニング後

にリハたいむゼリーを摂取することで骨格筋量が増加し、身体機能の向上が見られたと考える。

【おわりに】

今回、回復期リハビリテーションにおける患者を対象にレジスタンストレーニング後における、リハたいむゼリーの摂取の有無による

影響を、BIA 法を用いて比較した。今回の結果により、リハビリテーションに加え栄養サポートを行うことは骨格筋量を増加させ、身体

機能の向上にも繋がる可能性が示唆された。今後も症例を重ね、リハビリテーションにおける栄養サポートの効果の検証を継続したい。

Page 27: 第28 回長崎県理学療法学術大会 in - npta.or.jp · キーワード:心原性脳塞栓症 心不全 bnp ... 2015年9月から2016年9月までの期間に当院に入院した脳梗塞患者145名を、カルテを用いて後方視的に調査した。

第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 37 異なる足関節背屈角度及び荷重条件下での単純 X 線を用いた足部骨配列の評価

~脛骨に対する距骨の矢状面運動の検討~ ○江島美希 1)、大石勝規 1)、花木瞳 1)、杉本紘介 1)、山口雅則 2)、岩永斉 3)、小関弘展 4)

1)医療法人和仁会和仁会病院リハビリテーション部 2)医療法人和仁会和仁会病院放射線部

3)医療法人和仁会和仁会病院整形外科 4)長崎大学医歯薬学総合研究科運動障害リハビリテーション学分野

キーワード:足関節背屈 距骨 単純 X線 【はじめに】

足関節背屈運動は、主として距腿関節の運動の関与により構成される。他の多くの関節と同様に凹凸の法則に基づき、脛骨腓骨関節面を

凹面、距骨滑車を凸面として滑り転がり運動が生じる。本関節内運動は疾患の有無に関わらず軟部組織や骨配列、荷重の有無などに影響

を受ける。本研究では単純 X 線を用いて、膝・足関節角度や荷重条件下での距腿関節の矢状面運動に焦点を当てて検討することを目的と

した。

【対象と方法】

対象は足関節に既往のない 20 代健常女性 2 名とした。非荷重で底背屈 0°(非荷重 0°)、膝関節伸展(KE)および屈曲 90°(KF)での

最大自動背屈位、荷重条件として底背屈 0°の片脚立位保持、最大踏み込みの 5 肢位での単純 X 線内側像を撮影した。撮影した画像より

脛骨長軸に対する距骨後突起と距骨頭上縁の成す角を距骨角度とした。距骨のランドマーク 2 点を結ぶ線の中点から脛骨長軸への垂線へ

の距離を脛骨前後径との距離で除し、脛骨に対する距骨の前後方向配列割合とした。各肢位での前後方向配列割合から非荷重 0°を基準

とした差を算出し、前方向を正として滑り割合とした。また、それぞれの足関節背屈角度(ROM)は日本リハビリテーション医学会の関節

可動域測定に基づき東大式角度計を用いて計測した。角度計測は 1°単位で行った。

【倫理的配慮・説明と同意】対象者には研究の主旨及び不利益、個人情報の保護など十分な説明を行い同意を得て実施した。

【結果】

非荷重 0°において対象 1の ROMは 0°、距骨角度 15°、距骨の前後配列割合 29.4%であり、対象 2は順に 0°、9°、30.0%であった。

KE背屈と KF背屈では、対象 1の ROM14°→24°、距骨角度 30°→44°対象 2は順に 7°→13°、20°→36°であった。滑り割合は、対象

1は+0.6%→-8.4%、対象2は-3.4%→-3.4%であった。荷重条件の片脚立位と踏み込みでは、対象1のROMは0°→38°、距骨角度7°→46°

であり、対象 2は順に 0°→33°、7°→46°であった。滑り割合は、対象 1 は-1.4%→-2.4%、対象 2は-9.2%→-8.6%であった。

【考察】

非荷重条件での滑り割合において、対象 2は KE背屈時に後方への変位が確認された。背屈運動の際、下腿に対し距骨は前方へ転がりなが

ら後方への滑り運動が生じると言われている。対象 2 では ROM も低値であり、原因の一つとして考えられる二関節筋伸張性低下が踵骨の

運動制限を介して距骨の前方への転がり運動を阻害し、後方への滑り運動を助長させたと考えた。

また、荷重条件下で対象 1 は距骨角度が減少し、対象 2 では滑り割合が後方への変位がみられた。足部の静的・動的安定機構の機能や重

心の位置による調整などによる個体差が影響することが考えられた。

【結語】

異なる足関節角度や荷重条件において足部骨配列に個体差を有する可能性を示した。ROM制限や荷重条件での足部の剛性の検討も踏まえ、

症例数を増やし評価する必要性を感じた。

演題 38 膝関節内骨折術後の荷重訓練に難渋した一症例~荷重時痛の軽減に向けたアプローチ~

○永江槙一 1)、西啓太 1)、松嶋将太 1)

1)医療法人和仁会和仁会病院総合リハビリテーション部

キーワード:膝関節内骨折 疼痛 荷重訓練 【はじめに】

一般的に膝関節内骨折は骨折の重症度や軟部組織の損傷の程度により,術後に関節可動域制限や疼痛などの機能障害が残存するケースが

多い.今回,交通外傷により膝関節内骨折と下腿筋区画症候群を合併し,荷重時痛軽減のための介入に工夫を要した患者の回復期における

理学療法を経験したので報告する.

【説明と同意】

本症例には口頭にて今回の取り組み内容について十分に説明を行い,同意を得た.

【症例紹介】

50 歳代の女性.診断名:右膝関節内骨折(Schatzker 分類:stageⅥ),大腿骨外顆剥離骨折,下腿筋区画症候群.現病歴:交通事故によ

り受傷.事故当日,下腿筋区画症候群に対し,筋膜切開術施行.受傷 3 週後より膝関節内骨折に対し骨折観血的手術施行.術後 4 週目に

当院回復期病棟に転院.術後 7週から部分荷重開始し,10週目より全荷重許可.

【理学療法評価】(術後 9週)

[疼痛評価]運動時痛:膝屈曲,静止立位,歩行(左立脚期)に脛骨近位内側に疼痛(NRS:7/10)

圧痛点:脛骨近位内側および外側部

[破局的思考尺度]35/52点

[関節可動域]膝関節:屈曲 115°,伸展−5°,足関節背屈 5°,底屈 45°

[MMT]大腿四頭筋 2,下腿三頭筋 2+,内転筋・ハムストリングス・長腓骨筋・後脛骨筋 3

【介入方法と経過】

免荷期間中は関節可動域や筋力の改善に着目し治療介入を行っていた.部分荷重開始時には筋力や関節可動域の改善はみられていたが荷

重時痛の訴えは強くなった.そこで疼痛の生じない程度から段階的な荷重訓練や弾性包帯装着下での歩行訓練,また低負荷での自主訓練

を提案し,患側下肢への刺激入力機会の増加と運動の習慣化を促した.さらに,毎日の治療の中で疼痛が生じない範囲でできることを患

者とフィードバックを実施した.その結果,歩行時痛は軽減し(NRS:3/10)術後 13週目には T字杖自立となった.

【考察・まとめ】

本症例は重度の膝関節内骨折に加え,下腿筋区画症候群に対する外科的処置により軟部組織の損傷も重度にみられた.長野らは脛骨顆部

骨折の治療成績に関して,骨折の重症度と軟部組織の損傷は関節可動域制限や疼痛といった機能障害が残存する要因となると報告してお

り,本症例においても荷重時痛が残存し,歩行の阻害因子となっていた.荷重時痛の原因としては,荷重時の下肢アライメントの不良,

軟部組織の伸張性・滑走性低下に伴う筋の収縮時痛,術側下肢の長期間の免荷に伴う疼痛閾値の低下などの要因に加えて,術側下肢への

不安感が強くみられたことから疼痛の軽減には情動・認知的側面への介入も必要であると考えた.そこで,軽い負荷での荷重訓練を繰り

返し,段階的に疼痛なく荷重を行えることを確認していくことで,触覚・圧感覚・筋感覚などの感覚情報の統合や心理的不安の改善とい

った痛みの認知的側面の改善も図ることができたのではないかと考える.

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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セッション 7 13:00~13:50 第 1 会場(深江ふるさと伝承館文化ホール)

座 長:小田 慎也(上五島病院附属診療所有川医療センター)

39.気管支肺炎発症後、偽痛風を呈し離床に難渋した症例について

医療法人伴帥会 愛野記念病院

柴原 健吾

40. 入院後に高度の低酸素血症をきたした特発性器質下肺炎の 1 例

済生会 長崎病院リハビリテーション部

阿南 裕樹

41.患者教育を主体とした呼吸リハビリテーションにより自己管理能力が向上した重症 COPD 患者の

一症例

長崎みなとメディカルセンター市民病院

伊東 花奈子

42. 19 年間にわたり呼吸リハビリテーションを継続し、肺機能や運動耐容能、ADL 等を観察し得た

最重症 COPD 患者の経験

長崎呼吸器リハビリクリニック リハビリテーション科

伊東 宏

43. ICU 専任理学療法士の配置により、早期リハ介入を行った重症 ARDS の一例

独立行政法人労働者健康安全機構 長崎労災病院 中央リハビリテーション部

山戸 隆二

2 月 19日(日) 〔 呼吸器 〕

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 40 入院後に高度の低酸素血症をきたした特発性器質下肺炎の 1例

○阿南裕樹 1)、俵祐一 2)、神津玲 2)

1)済生会長崎病院リハビリテーション部 2)長崎大学大学院医歯薬総合研究科

キーワード:特発性器質化肺炎 低酸素血症 運動療法

【はじめに】

特発性器質下肺炎(以下 COP)は、特発性間質性肺炎(以下 IIPs)の病型分類の一つであり、ステロイドへの反応が良く比

較的予後良好とされている。昨今、IIPs患者に対する理学療法の効果を示す報告が増加しているが、その多くは特発性肺線

維症患者が対象であり、COP 患者に関する報告は少ない。今回、入院後に高度の低酸素血症をきたした COP 患者に対し早期

より理学療法介入を行う経験を得た。低酸素血症のリスクに配慮しながら運動負荷量を調整し、円滑な退院に繋げることが

できたので報告する。

【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に従い、対象者には十分な説明を行い同意を得た。

【症例】

70歳代男性。入院前は独居で日常生活は自立。入院 2日前より歩行時のふらつきと下肢脱力を認め、当院を受診し、肺炎の

診断にて入院となった。2病日、理学療法を開始も 3病日に急激な酸素化能低下をきたし HCU入室、4病日に経気管支鏡下生

検の病理診断により COP と診断され、ステロイド治療が開始となった。その後、徐々に酸素化能は改善し、6 病日より理学

療法再開となった。

【治療および理学療法経過】

理学療法再開時はマスクにて酸素 7L/min 吸入下で安静時の SpO2 は 93%、起き上がり動作で 88%まで低下し、呼吸困難は修

正 Borg Scale 4(多少強い)であった。体温 37℃、CRP 17.84mg/dl と高値を示していた。 本症例は自宅退院を強く望んで

おり、主治医と相談の上、循環動態が安定していることを前提に SpO2 88%以上を目標に酸素投与量を調整しながら運動療法

を実施する方針となった。運動療法とともに動作に合わせた呼吸法指導も行った。本症例は低酸素血症に対する自覚症状が

乏しかったため、SpO2 の値を本人と共に確認しながら運動を実施した。12 病日に HCU 退室、23 病日にはステロイド治療終

了、27病日安静時の酸素療法が中止となり、38病日に介護保険サービスの利用調整目的で自宅に近い病院へ転院となった。

運動能力においては休憩を取りながら 300m歩行可能となり、酸素 3L/min 吸入下で 100m、室内気下では 10m程度の歩行では

SpO2 88%未満とならずに実施できた。理学療法実施期間中に COPの悪化、心不全兆候の出現などはみられなかった。

【考察】

高度の低酸素血症をきたした COP患者に対し、主治医と治療方針を確認することで早期から運動療法を実施することができ

た。COP患者に対して理学療法を行う際には、IIPs患者と比較して酸素化能低酸素血症の改善の可能性が高い事を認識し、

ステロイド治療への反応を低酸素血症の推移から評価し、治療経過に合わせて早期より運動療法を行うことが重要である。

加えて、労作時の低酸素血症に対する呼吸法指導や生活指導を行う事が早期の身体機能の改善および早期社会復帰に繋がる

と考える。

演題 39 気管支肺炎発症後、偽痛風を呈し離床に難渋した症例について

○柴原健吾 1)

1)医療法人伴帥会愛野記念病院

キーワード:気管支肺炎 偽痛風 離床 【はじめに】

肺炎の患者では、臥床期間の延長により様々な二次的合併症を呈することがある為全身状態に合わせて積極的に早期離床を行う必要があ

る。しかし高齢者では様々な問題から、離床が円滑に行えないことを経験する。そこで今回、気管支肺炎発症後に偽痛風を呈し、疼痛によ

り離床に難渋した症例を経験したため、報告する。

【症例紹介】

80 歳代男性、高熱にて体動困難となり、気管支肺炎により当院へ救急入院となる。身長:169cm、体重:55kg、BMI:19.2、肺炎重症度分

類(A-DROP)は中等症、入院前の ADLは BI:55点で全般的に介助が必要であり、移動は歩行器歩行であった。MMSE は 12/30点だった。入院

時の CRPは 4.06 であった。

【経過】

病日 3 日目よりリハビリ介入となる。介入時聴診で右肺野全体の断続性ラ音聴取された。Bedside movility scale(以下 BMS):10 点、疼痛

は face scaleで左肘 5、両肩 4、筋力は握力右/左:8.1/5.6kg、GMT:上肢 2、下肢・体幹 3~4、大腿周径(膝上 10cm)右/左:34.0/33.5

㎝、ADL は BI5 点であった。CRP:5.57 であった。介入当初は両肩、左肘関節の痛みが強く、動作時の息止めが見られリハビリにも消極的

であった。その為疼痛緩和を目的にリラクゼーションや臥床時のポジショニングによる安楽な姿勢の確保を行った。さらに体動困難による

無気肺などの二次的合併症予防を目的として、体位排痰法やギャッジアップ座位まで実施した。また Drとの連携も図り、内服による疼痛

コントロールを図った。病日 8日目に聴診で断続性ラ音は気管支分岐部のみとなった。BMS:18点と向上し、疼痛は face scale左肘、両肩

1と除痛が図れた。握力は右/左:12.5/11.2kg と筋力向上がみられ、大腿周径は右/左:33.5/34.5㎝と維持できた。CRP:4.98であった。

車椅子移乗時に疼痛なく可能となった。

【考察】

高齢者は肺炎を呈すると炎症による侵襲で筋蛋白の異化作用が進み廃用症候群を起こす報告が多く散見される。その為炎症の鎮静に伴い、

廃用予防を目的に離床による身体機能の向上に努めることが必要となる。しかし本症例は炎症による両肩、左肘関節に強度の疼痛を呈して

おりこれが体動困難によるベッド上臥床を招いていると考えた。その為 Dr と連携を図ることで炎症反応の軽減を図りその間の身体機能の

低下が危惧されたため、可能な限りベッド上でのポジショニングや排痰手技などを用いて、二次的合併症の予防に努めた。それにより炎症

反応の軽減が行えた時期に身体機能の維持、二次的合併症の予防ができ離床が可能になったと考えた。今回の症例のように、疼痛により積

極的に離床が困難な事例に対しても可能な限りベッド上での排痰手技やギャッジアップ座位などを行う事で、二次的合併症の予防につなが

り、結果円滑な離床を目指すことが可能になると考える。

【倫理的配慮、説明と同意】

本症例はヘルシンキ宣言に基づき説明と同意が得られている。

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演題 41 患者教育を主体とした呼吸リハビリテーションにより自己管理能力が向上した重症 COPD 患者の一症例

○伊東花奈子 1)、夏井一生 1)、赤窄彩花 1)

1)長崎みなとメディカルセンター市民病院

キーワード:重症 COPD 呼吸リハビリテーション 患者教育 【はじめに】

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease : COPD)の多くは喫煙によって発症する。全身の炎症性疾患であり、COPD

最重症期では死亡する可能性もある。COPD特有の息切れにより、身体活動量が低下するといった悪循環が形成されることも多く、これら

の悪循環を断ち切るには禁煙や薬物療法に加えて運動療法を実施することが効果的である。しかし、それらを継続するためには、高い自

己管理能力が求められる。今回、重症 COPD の急性増悪後に患者教育を主体とした呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)を実施したとこ

ろ、自己管理能力が向上し行動変容を認めた症例を経験したため報告する。

【症例紹介】

60歳代の男性、BMI16.1kg/m²。診断名は慢性呼吸不全急性増悪(感染増悪)。現病歴は平成 X年 Y月に 40℃の熱発、呼吸困難あり近医を

受診後、当院紹介、入院治療開始となった。主訴は「息が苦しい」、Demand は「孫に自分の仕事を教えたい」。職業は土木業。COPD を指

摘されていたが本人の意思により治療介入なし。喫煙指数(BI)は 1410。2~3 年で労作時の呼吸困難が増悪、過去 1 年で 5kg の体重減

少あり。GOLDの重症度分類は D。

【倫理的配慮・説明と同意】本発表にあたり、世界医師会によるヘルシンキ宣言の勧告に従って、本人への説明と同意を得た。

【入院後の経過】

入院時より抗菌薬治療と酸素療法を開始、2 日目より呼吸リハが開始。徐々に安静時の呼吸困難、気管支肺炎の改善を認め、5 日目に酸

素療法中止。7 日目より自宅退院に向けて患者教育に重きを置き、禁煙指導と運動療法、栄養管理を中心とした呼吸リハを実施した。体

重は 10日間で 47.0kgから 50.1kgと増加し、6分間歩行距離(室内気)は 450mから 540mへ、長崎大学式 ADL評価は 75点から 92点、COPD

アセスメントテストは 29点から 9点、St. George’s Respiratory Questionnaire は総スコア 65.1から 49.5へと改善を認めた。運動や

栄養に対する自己管理能力の向上に伴い活動量も向上し、19日目に自宅退院となった。ご本人の希望により、週 1回の外来呼吸リハも開

始となった。

【患者教育に伴う行動変容】

介入当初より「孫が成人するまでは生きたい」、「孫に仕事を教えたい」とあり、喫煙を継続することで「お孫さんに仕事を教えられるほ

ど健康でいられないかもしれません。」と本人へ説明した。加えて、COPDという病気の説明や、肺年齢は 95歳以上という肺機能検査の結

果は本症例に衝撃を与えた。それにより、そうならない為には「何をすべきか?」と自主的な姿勢がみられた。そして、禁煙と運動療法、

栄養管理を実践すると呼吸困難が軽減するという成功体験を短期間で実感でき、自らが主体的に行動を起こすようになった。

【考察】

COPD に対する呼吸リハは多数報告されており、その効果も立証されている。本症例においても、運動耐容能や ADL、QOL 等において十分

な呼吸リハの効果が得られた。本症例は、自身の病態理解と Demand を達成したいという意志が、自己管理能力をより向上させたと思わ

れた。その結果、禁煙や体重管理、運動量の増加などの「行動」が自主的に変容していったことが、呼吸リハの効果を増幅させたとも思

われた。呼吸リハは自らがどれだけ主体となって実践していくかにより、その効果を増幅させることができると再認識された。行動変容

が難しい症例に対してもどのように対応していくかが今後の課題であると思われた。

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演題 42 19年間にわたり呼吸リハビリテーションを継続し、肺機能や運動耐容能、ADL 等を観察し得た最重症 COPD

患者の経験

○伊東宏 1)、角野直 1)、森内惠郁 1)、山下はるか 1) 、北川知佳 1)、出川聡 2)、力富直人 2)、神津玲 3)

1)長崎呼吸器リハビリクリニックリハビリテーション科 2)同内科

3)長崎大学大学院医歯薬学総合研究科

キーワード:COPD 急性増悪 長期経過 【はじめに】

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は経過の中で急性増悪を起こし、健康状態や予後を悪化させることが多い。今回、19年間の長期において呼吸リ

ハビリテーション(以下、呼吸リハ)を継続し、急性増悪を繰り返しながらも現在まで活動性を維持できている最重症 COPD 患者の理学療

法を経験した。本症例の長期経過を紹介し、考察を加えて報告する。

【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に十分に説明した上で、発表の同意を得た。

【症例紹介(初診時)】

症例:60歳代 男性 診断名:COPD 気管支喘息

現病歴:登坂時や入浴時の呼吸困難(修正 MRC Scale:Grade2)、早朝の喘鳴を自覚し、X 年に当院初診、COPD と診断された。肺機能検査で

は FVC(%FVC)1.23L (36.9%)、FEV1(% FEV1)0.53L(18.1%)、FEV1/FVC 43.1%と混合性換気障害を、6 分間歩行試験(以下、6MWT)では

室内気で歩行距離 420m、最低 SpO2 88%と低酸素血症を認めた。同年、呼吸困難の軽減、ADLの拡大を目的に呼吸リハ開始となった。以下、

本症例の長期経過を 1.初診時から巨大肺嚢胞切除術前まで、2.術後から安定期、3.繰り返す急性増悪の 3期に大別して示す。

【経過】

1. 初診時から巨大肺嚢胞切除術前まで

経過:X年より薬物治療および運動療法を中心とした呼吸リハを開始し、肺機能や運動耐容能の改善を

認めた。しかし徐々に低酸素血症および呼吸困難が進行したため、X+6年に在宅酸素療法が導入とな

ったが、X+8年に巨大肺嚢胞が増大悪化したため切除術を施行した。

〈X+7年 理学療法評価〉

BMI: 23.8 肺機能検査:FVC(%FVC)1.11L (34.4%)、 FEV1 (% FEV1)0.51L(19.2%)、FEV1/FVC 45.9%

修正 MRC Scale:Grade 4 6MWT(室内気):歩行距離 345m 最低 SpO2 83%

2.術後から安定期

経過:肺機能、運動耐容能ならびに呼吸困難は著明に改善し、以降 7年間入院することなく外来呼吸

リハを継続した。散歩などを自主的に行い、約 12,000歩/日の身体活動量を維持できていた。

〈X+9年 理学療法評価〉

BMI: 24.6 肺機能検査:FVC (%FVC)2.49L (77.6%) 、FEV1(% FEV1) 0.70L(31.0%)、FEV1/FVC 28.1%

修正 MRC Scale:Grade 2 6MWT(室内気):歩行距離 420m 最低 SpO2 80%

Nagasaki University Respiratory ADL Questionnaire(以下、NRADL):79/100点

3. 繰り返す急性増悪

経過:X+15年頃より急性増悪による入院頻度が増加し、気管支喘息や心不全、糖尿病など併存疾患の問題が顕在化した。徐々に肺機能低下

や体重減少、呼吸困難の進行を認めるも、酸素吸入量を増量しながら現在も約 10,000歩/日の身体活動量を維持している。

〈X+19年(現在) 理学療法評価〉

BMI: 20.5 肺機能検査:FVC(%FVC) 1.39L (45.6%)、 FEV1(% FEV1)0.48L(20.4%)、FEV1/FVC 34.5%

修正 MRC Scale:Grade 3 6MWT(酸素 2L/min吸入): 歩行距離 460m 最低 SpO2 87%

NRADL:55/100 点

【考察】

本症例は薬物療法や酸素療法に加え、運動療法を継続し、外科的手術を施行したことで呼吸困難の改善を認めたものの、加齢変化や併存

疾患の進行、急性増悪を繰り返し、徐々に ADL低下や低酸素血症、呼吸困難の進行を認めた。しかし、呼吸リハを継続することで呼吸器症

状の観察や運動量の管理などが可能となり、19年経過した現在でも活動量が維持できていると考えた。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 43 ICU専任理学療法士の配置により、早期リハ介入を行った重症 ARDSの一例

○山戸隆二 1)、和田政範 1)、松田俊之 1)

1)独立行政法人労働者健康安全機構長崎労災病院中央リハビリテーション部

キーワード:ICU専任 ARDS 腹臥位療法

【はじめに】

近年、ICU領域での理学療法に対する安全性・せん妄予防や入院期間の短縮などの効果を示す報告があり、ICUから積極的な

理学療法を実施する施設が増えつつある。当院においても医師、看護師と連携しリスク管理下でより早期にリハビリテーシ

ョン(以下リハ)を開始するため、ICU専任の理学療法士を配置している。その中で重症 ARDS患者に対しリハ介入を行ったの

で ICU専任制の概要を含め報告する。

【ICU専任制の概要】

当院リハ部は一般病棟において疾患別チーム担当制と病棟内リハを実践しており、専門性向上と病棟との連携を重視した

体制をとっている。その経緯から ICU 病棟側からの依頼があり、平成 27年 3月より ICU担当理学療法士を配置した。ICUの

リハ対象者数から専従制は困難で 2名の理学療法士を午前・午後 1時間ずつ配置する専任制とした。担当者は朝の申し送り

やカンファレンスに参加している。現在は 3名に増員され、挿管チューブや多数の点滴ルートのある患者でも複数のメンバ

ーでリスク管理下でのリハ実施が容易となった。

【倫理的配慮・説明と同意】

本発表はヘルシンキ宣言に基づき実施し、代託者へ趣旨と内容、個人情報の取扱いに関し説明し同意を得ている。

【症例紹介】

82歳女性、尿路感染疑いにより当院内科へ入院。入院後 3日目より呼吸状態悪化し 12日目に ICU へ転棟、ARDS診断、経

口挿管・人工呼吸器管理となる。

【リハ介入内容・経過】

ICU入室日に ICU専従医指示によりリハが開始され、人工呼吸器は CPAP、FiO2:1.0、PEEP15cmH2O、PS12cmH2O にて SpO2:83%、

P/F:60.9 の低酸素状態で、家族は積極的な治療を希望されていた。

介入当日は約 1時間の前傾側臥位を実施し、SpO2は 95~97%まで改善を認めたが、顔面と前胸部に皮膚の発赤を認めた。そ

の後の仰臥位でも SpO2は 89~92%を維持し、酸素化改善の効果と循環動態の安全性、皮膚リスクを確認した。翌日からは WOC

に介入を依頼し、体圧に対する工夫を行いながら腹臥位療法を開始した。時間延長に看護師の協力が得られ、午前・午後の

3時間ずつ、1日 6時間の腹臥位管理を行った。ケアや処置なども腹臥位で行われ、P/Fは 104.6まで改善していた。しかし、

介入 10日目で間質性肺炎急性増悪を呈し、12日目に死亡退院となった。

【考察】

重症 ARDSに対する長時間の腹臥位療法は推奨されており、本症例に対しても腹臥位管理時間が重要であると考えた。専任

制と皮膚リスクの為、最大 2時間が限界であったが、看護師の協力と WOC介入は 1日 6時間の腹臥位管理を可能とした。

ARDS は死亡率の高い疾患で、本症例はその中でも P/F≦100 の重症例であった。さらに高齢、経過中の間質性肺炎の合併

は更に生命予後を悪化させる要因となったと考える。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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セッション 8 13:00~13:50 第 2会場(深江公民館 2階ホール)

座 長:片山 友和(最勝寺内科医院)

44.肩関節周囲炎の急性期における取組み ~症状の変化とアプローチの工夫~

医療法人順成堂 古川宮田整形外科内科クリニック リハビリテーション科

松本 伸一

45. 外傷性頚部症候群を呈した慢性頚部痛者における頚部運動の誤認角度

平川整形外科医院

竹田 圭佑

46.ばね指に対する腱鞘切開術後の治療成績

いまむら整形外科医院

横田 詩歩

47. 上腕骨近位端骨折術後経過が良好だった症例の一考察

医療法人順成堂 古川宮田整形外科内科クリニック

中尾 雄一

48. 関節可動域の改善を認めた肩関節拘縮症例の経験

社会医療法人財団白十字会 佐世保中央病院 リハビリテーション部

中島 拓哉

2 月 19日(日) 〔 運動器 〕

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 45 外傷性頚部症候群を呈した慢性頚部痛者における頚部運動の誤認角度

○竹田圭佑 1)、千鳥司浩 2)、長谷川隆史 3)

1) 平川整形外科医院 2)中部学院大学看護リハビリテーション学部 3)和仁会病院

キーワード:慢性疼痛 外傷性頚部症候群 体性感覚 【はじめに、目的】

外傷性頚部症候群は主として交通外傷により発生し、比較的予後の良い病態と考えられている。しかし、木津らは受傷より 1ヶ月以上経過

しても愁訴が残存する患者では疼痛の改善が少ないことを報告している。近年、固有感覚機能の低下や視覚-体性感覚の統合の不一致(以

下,不一致)が腰痛症、変形性膝関節症及び複合性局所疼痛症候群など慢性疼痛が生じる一因となることが示唆されている。しかし、頚椎

に起因する疾患における不一致に関する報告は少ない。そこで、本研究の目的は外傷性頚部症候群により頚部痛を有する患者を対象に頚部

運動を用いた不一致について調査し、疼痛強度との関連性を明らかにすることである。

【方法】

対象は交通事故により発症し外傷性頚部症候群と診断され、発症から1ヵ月以上が経過した外来患者 22名(男性 8名、女性 14名、平均年

齢 38.0±10.0歳)。対照群は健常成人 18名(男性 9名、女性 9名、平均年齢 32.4±9.1歳)とした。評価項目は疼痛評価として Numerical

Rating Scale(NRS)、不一致における評価は上田ら(2007)の方法に準じ頚部側屈再現課題により誤認角度を算出した。頚部側屈再現課題

の統計処理は Mann-Whitney’s U testを用い、頚部側屈再現課題と NRSについてスピアマン順位相関係数を用いた。統計ソフトは Statcel

Ver3 を使用し有意水準は 5%とした。

【倫理的配慮、同意と説明】

世界医師会によるヘルシンキ宣言の勧告に従い、試験説明書に基づき、本研究の目的と方法を文書と口頭で十分に説明し、自由意思に基づ

く研究参加として同意を得た。

【結果】

頚部側屈誤認角度は頚部痛群で平均 4.1±1.4°、対照群で 3.2±1.1°であり、対照群に比べ頚部痛群において頚部側屈誤認角度は有意に

増大した(p<0.05)。NRSと頚部側屈誤認角度の関連性については相関を認めなかった(p<0.05、r=0.21)。

【考察】

頚部側屈誤認角度において、頚部痛群では対照群に比べ有意に誤認角度が増大していることから視覚と体性感覚の間に不一致が生じている

ことが示唆された。しかし不一致の程度と疼痛強度との間に関連性はなかった。一方、Harvieらは、頚部運動の固有感覚と視覚情報を照合

させた際の不一致を検出する能力を評価する Proprioception Incongruence Detection Test(PIDT)を用いた報告で頚部痛を有する群にお

いて不一致の検出能力が有意に低下し、さらに疼痛強度と PIDT の関連性を報告している。この報告と本研究では測定方法が異なっている

ため直接比較することは難しいが、PIDT は誤った視覚情報を基に不一致を検出しており、本研究よりも視覚情報を優位に用いている可能性

が考えられ、この違いが疼痛強度との関連性について異なる結果を生じさせているのではないかと考えた。

今後は疼痛強度以外の疼痛に関する評価を行い、外傷性頚部症候群において不一致が疼痛とどのような関連性があるのかを明らかにしてい

く必要性があると考える。

演題 44 肩関節周囲炎の急性期における取組み~症状の変化とアプローチの工夫~

○松本伸一 1)、下迫淳平 1)、中尾雄一 1)、樋口隆志 3)、古川敬三 2)

1)医療法人順成堂古川宮田整形外科内科クリニックリハビリテーション科

2)医療法人順成堂古川宮田整形外科内科クリニック整形外科 3)こころ医療福祉専門学校

キーワード:肩関節周囲炎 疼痛・疼痛管理 病期に応じたアプローチ 【はじめに】

肩関節周囲炎は 40 歳~60 歳代で好発するとされている。疼痛や可動域制限を主体しながらも、睡眠を妨げる夜間痛は、受診される主訴と

して挙げられることが多い。肩峰下内圧の高まり、肩峰下滑液包における炎症の発生によるものなど、諸家による検証がされているが確信

を得るに至っていない。現在のところ、急性期で夜間痛の強い時期には可動域拡大や筋力改善などの積極的なリハビリは推奨されていない

が、疼痛管理において早期から PT が関わることで症状に良好な経過をもたらすことも経験される。今回は、当院における急性期の介入に

関して紹介する。

【倫理的背景】今回の発表の対象となった症例には発表へのご了承を頂いた。

【症例紹介と評価】

症例①Shoulder36:74 点(疼痛:8 点)、JOA スコア:44/100、自動可動域 屈曲:110/180、伸展:55/70、外転:90/180、1st 外旋:

30/70、1st内旋:S1/T7、安静時 VAS:34㎜、動作時 VAS:100㎜、夜間痛 VAS:65㎜。

症例②Shoulder36:64点(疼痛:8点)、JOAスコア:27/100、自動可動域:本症例に関しては、初回評価時は痛みが強いため計測できな

かった。安静時 VAS:52㎜、動作時 VAS:93㎜、夜間痛 VAS:73㎜。

【理学療法と症状経過】

外来初診と同時に運動療法開始となる。痛みが強く、疼痛管理から介入する。上肢下垂位や、夜間の肩伸展における痛みを強く訴えられ、

「腕をどう置いたら痛くないかわからない」との訴えがあるため、ポジショニング指導や脊柱・肩甲帯の柔軟性改善を主に介入した。疼痛

管理ができてから、疼痛自制内での自動可動域訓練(特に内・外旋から)も指導した。服薬としてはトラムセット内服を適宜行っていた。

【1か月後の結果】

症例①Shoulder36:54 点(疼痛:7 点、可動域項目で 8 点の減点)、JOA スコア:47/100、自動可動域 屈曲:80/180、伸展:30/60、外

転:50/180、1st外旋:20/70、1st内旋:S1/T1、安静時 VAS:21㎜、動作時 VAS:50㎜、夜間痛 VAS:52㎜となっていた。

症例②Shoulder36:68 点(疼痛:9 点)、JOA スコア:43.5/100、自動可動域:屈曲:165/60、伸展:60/25、外転:180/40、1st 外旋:

70/15、1st内旋:T6/L5、安静時 VAS:15㎜、動作時 VAS:35㎜、夜間痛 VAS:9㎜となっていた。

2 例ともに共通していたことは、Shoulder36、自動可動域に関しては不変もしくは低下していた。JOA スコアや疼痛に関しては改善傾向

で、トラムセットの内服はともに終了していた。

【考察】

肩関節周囲炎は増悪期・凍結期・解凍期などの周期で分けられ、その時期は 1~24か月とされている。強い夜間痛を数か月から半年ほども

抱えている例もみられ、QOL 改善の観点からも早急な課題である。今回報告した 2 例ともに疼痛に関しては一定の効果があることが示唆さ

れたが、可動域制限が出現していた。局所の炎症を伴うため、ある程度の安静や処置が必要になるものの、可能な限り抑える必要があり、

今後の課題である。また、トラムセットの内服も行っており、交絡因子となるため、純粋に PT 介入だけの効果検証をしているとはいえな

いことは今発表の限界である。

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演題 47 上腕骨近位端骨折術後経過が良好だった症例の一考察

○中尾雄一 1)、下迫淳平 1)、松本伸一 1)、樋口隆志 2)、古川敬三 1)

1)医療法人順成堂古川宮田整形外科内科クリニック 2)こころ医療福祉専門学校

キーワード:上腕骨近位端骨折 外旋可動域 リハ頻度 【はじめに】

上腕骨近位端骨折は Neer分類によって骨折型が分類され特に 4-part骨折の予後は不良と言われている。一般的に術後その可動域は自動屈

曲 100°前後である。今回当院にて 4-part 骨折で重症例だったにも関わらずロッキングプレート固定により術後経過良好だった症例を経験

したので報告する。

【症例紹介】

症例は 50 歳代の男性。通勤中バイクで転倒し右肩を強打。他院から紹介リハ目的で当院受診。ロッキングプレートで固定。上腕骨頚部後

方を中心に粉砕しており大結節、小結節の転位を認めたため肩甲下筋、棘上筋、棘下筋付着部にファイバーワイヤーを通し、牽引しつつ整

復を施行している。

【評価】

初期評価時(術後 2 週)の肩関節可動域(以下 ROM)は他動で屈曲:75°P/170°、外転:50°P/170°、1st 外旋:-30°P/45°、内旋:

臀部/Th7であった。安静時痛、夜間痛があり、右上肢にしびれがみられた。

【理学療法】

術後より passive ROM 開始、3 週後より三角巾 off、4 週後より active ROM 開始と担当医師から指示。運動療法開始日から右肩周囲のダイ

レクトストレッチ、リラクゼーション、徒手抵抗による腱板筋の等尺性収縮運動などを行った。その後 active ROM 開始に伴いチューブト

レーニングなど運動負荷を上げていった。運動療法は週 6回行った。

【経過と最終評価】

術後 4週で他動外旋 0°獲得。術後半年で ROM active(passive)屈曲:120°(135°)/170°、外転:100°(105°)/170°、外旋:0°

(20°)/45°、内旋:Th12/Th7を獲得した。術後 1年 7ヵ月(最終評価時)ROM active(passive)屈曲:150°(160°)/170°、外転:

160°(160°)/170°、外旋:25°(35°)/45°、内旋:Th8 /Th7、Sholder36 疼痛:21、可動域:49、筋力:17、健康感、23、日常生

活:25、JOAスコア:85点であった。

【考察】

本症例は、術後 4週までは愛護的な他動可動域訓練を中心に積極的な運動療法を避けておりその間軟部組織の癒着や短縮、滑走障害がおこ

り結果的に上腕骨頭の求心性を乱し、正常な運動から逸脱しまったと考えられる。特に外旋可動域が制限されていたことから肩甲上腕関節

上方、前方の組織による影響が考えられた。これに対し上腕骨解剖頸軸回旋運動や ROM運動を中心に運動療法を実施した。外旋可動域の改

善と共に他の可動域の改善につながったと考える。

また、運動療法の頻度、治療に対するモチベーションが高かったことから、週 6 回毎日 40 分の徒手療法を中心とした運動療法実施、セル

フトレーニングもリハビリ時に ROM運動、腱板運動を、自宅でも頻回に行って頂いた。それにより腱板機能が改善し症状改善につながった。

肩関節拘縮に対して、運動療法を約 3ヵ月実施しても症状の改善がみられない場合積極的な手術的治療が推奨されている。今回の経験から

症例によっては治療期間が長期になっても諦めず継続的なリハビリを行うことが重要と考える。

演題 46 ばね指に対する腱鞘切開術後の治療成績

○横田詩歩 1)、堀泰輔 1)、北﨑学 1)、田中桃子 1)、今村宏太郎 1)

1)いまむら整形外科医院

キーワード:ばね指 腱鞘切開術 治療成績

【はじめに】

ばね指は,50~60 歳代の女性に多く,日常の臨床で診ることの多い疾患である.その良好な術後成績については多くの報

告があるが,関節可動域(以下,ROM)制限が残存するものも経験する.今回,当院のばね指に対する腱鞘切開術後の治療成

績を調査したので報告する.

【対象】

2010年 1月より 2015年 1月の間に,観血的治療を行った 138例 168指より術前に罹患指の ROM制限のあったものを選び,

さらにそれらの中で術後 3か月以内に ROMが改善し治癒となったもの(11例)と,術後 3か月以上経過が追えたもの(4例)

の計 15例 15指を対象とした.男性 5例 5指,女性 10例 10指,年齢は 43~82歳(平均 67.4歳)であった.罹患側は右 11

指左 4 指,罹患指は中指 11 指,環指 3 指,小指 1 指であった.罹病期間は 1~26 か月(平均 8.3 か月),経過観察期間は 1

~42 か月(平均 6 か月)であった.全例に A1 プーリー部の圧痛と ROM 制限がみられ%TAM は 54〜96%(平均 73%),PIP 関節

の伸展は−80~0°(平均-18.5°)であった.握力は 7〜29kg(平均 16.3kg),健患比 65%であった.術前にリハビリテーシ

ョンを行ったものは 6指,超音波療法などの物理治療を行ったものは 5指,特に治療を行わなかったもの 4指であった.

【手術】

局所麻酔下に A1プーリーを切開し,弾発現象が消失したことを確認した.もし,弾発現象が残存すれば PAプーリーや A2

プーリーの切開を追加した.全例で,術中においては患指の自動 ROM制限は改善した.

【術後リハビリテーション】

術後の炎症症状が強く ROM制限のみられた 13指にリハビリテーションを行った.術後早期より,アイシング,患手挙上,

手屈筋伸筋腱のグライディングエクササイズを中心に疼痛の自制内で行った.抜糸後より単関節の自他動屈伸運動を追加し

た.また,PIP関節伸展制限が強かった 1例に対し Joint jack を作製した.

【結果】

全例で弾発現象は消失し,%TAM は 84〜105%(平均 98%),PIP 関節の伸展は−8〜+8°(平均-0.7°)と改善した.ADL

障害の残存したものはなかった.

【考察】

術前に ROM制限がみられた症例では,術中に完全伸展屈曲が可能であっても術後に再度 ROM制限を示すことが多い.今回

も 15例中 13例に術後も ROM制限を認め,リハビリテーションが必要であった.この原因として,術後の疼痛や腫脹のため

再度 ROM制限が生じることが考えられ,術直後より罹患手に対して患指の挙上,疼痛対策,自動運動の奨励などの管理が重

要であると考える.

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 48 関節可動域の改善を認めた肩関節拘縮症例の経験

○中島拓哉 1)

1)社会医療法人財団白十字会佐世保中央病院リハビリテーション部

キーワード:肩関節拘縮 関節可動域制限因子 関節可動域評価 【はじめに】

外傷性肩関節拘縮の患者を外来で担当し、6 ヶ月間(22 回)の理学療法を実施した。受傷 4 ヶ月後より介入し当初は安静時・夜間痛を認め、

その後 1 ヶ月間の薬物療法と理学療法にて軽快した。今回は安静時痛消失後の経過を中心に関節可動域(ROM)制限に対する評価と運動療法

について報告する。

【症例紹介】

30代男性 左利き 職業:制服の卸業 診断名:左外傷性肩関節拘縮 現病歴:車の運転席から後部座席の荷物を左手で取った際に痛み

が出現。受傷 4ヶ月後、当院整形外科受診。同日、外来理学療法開始。合併症:肩関節周囲炎の増悪因子なし。

主訴:肩の安静時痛・夜間痛・運動時痛

【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき患者へ趣旨説明を行い同意を得た。

【画像所見(MRI)】

肩甲下筋腱のみ腫脹+。烏口上腕靭帯(CHL)に損傷+。 腱板疎部(RI)・前後下関節上腕靭帯(A・PIGHL)に線維化+。

【理学療法評価(介入 38日目→介入 174日目)】

・アライメント:左肩甲骨外転・下方回旋→改善

・圧痛:腱板-、RI・CHL+

・肩関節 ROM-T(°)※測定肢位:背臥位 ※()内は肩甲骨固定時の角度

屈曲:90(50)→150(100) 外転 80(40)→140(100)

外旋:1st:0→45 2nd:10→55 3rd:50→90 結髪:困難→C5

内旋:1st:70→70 2nd:40→65 3rd:10→20 結帯:困難→Th12

※End feel:関節包性→筋性。

※肩甲骨上方回旋で固定し肩甲上腕関節(GHJ)内転:上腕骨外旋位で制限++。

・挙上拮抗筋筋緊張:圧痛なく軽度→挙上時 terminal pointで筋短縮+

・DASH score(症状):75→13

【考察】

MRI で CHL・RI・IGHLなど上下の前方支持組織に線維化を認めており、運動との関連性が存在するか評価を行った。RIの線維化は関節内圧調

整を破綻させ、関節包容量の低下を来たす。また、CHLは内転・1st外旋で緊張、屈曲や外転位では弛緩し、AIGHLは外転外旋で緊張し、PIGHL

は屈曲外旋で緊張するという解剖学的機能を持つ。赤羽根らは GHJ の肢位を変えた際の GHJ 回旋運動で拘縮部位の鑑別を、また、渡邉・細

居らは前方支持組織拘縮の評価として肩甲骨上方回旋位で GHJ内転制限を報告している。

本症例は夜間痛の経験があり、外転・下方回旋の肩甲骨アライメントを示し上前方支持組織の伸張を避ける代償姿勢であった。GHJは全周囲

的に関節包性の ROM制限があるものの挙上拮抗筋の短縮は軽度であった。また、結帯動作困難や上腕骨外旋を伴う GHJ内転と 1st・2nd外旋

制限が強く、3rd外旋制限は少ない結果となり画像所見による損傷部位との関連がみられた。

運動療法は介入 38 日目には安静時痛が消失し腱板の攣縮が軽減していたため、責任組織の伸張と肩峰下の癒着剥離操作を行う事で関節包

内運動が改善され円滑な肩挙上が可能になると考えた。しかし、前方支持組織には自由神経終末が多く疼痛閾値が低いとされているため、

まずは疼痛が出現しにくい肩後方組織の柔軟性向上を図り関節内圧の緩和から開始した。その後、物理療法や反復性収縮を進め徐々に直接

的に責任部位をストレッチしていったことで ROM改善と全面的な復職に繋がったと考える。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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セッション 9 13:00~13:50 第 3会場(深江公民館 2階中会議室)

座 長:廣重 慎一(長崎みなとメディカルセンター 市民病院)

49. 脳卒中片麻痺患者が補助具なしで歩行自立に至るまでの経過と理学療法

一般社団法人是真会 長崎リハビリテーション病院 臨床部

末吉 将二

50. 脳血管疾患患者の地域包括ケア病棟の利用と支援 ~在宅復帰できなかった症例を通して~

長崎県島原病院 リハビリテーション部

平山 美貴

51. 重度感覚障害に対し足底へのアプローチを実施し立位バランス、歩行能力に改善が見られた一症例

医療法人社団東洋会 池田病院 リハビリテーション部

疋田 祐一

52. 電気刺激治療により歩行中の振り出しが改善した症例

社会医療法人三佼会 宮崎病院

野田 昇吾

53. Gait Solution長下肢装具を使用し、歩容改善に至った一症例

医療法人社団東洋会 池田病院 リハビリテーション部

津田 麻由

.

2 月 19 日(日) 〔 脳卒中 〕

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 49 脳卒中片麻痺患者が補助具なしで歩行自立に至るまでの経過と理学療法

○末吉将二 1)、立山勇樹 1)、小柳雅史 1)

1)一般社団法人是真会長崎リハビリテーション病院臨床部

キーワード:脳卒中片麻痺 歩行自立 理学療法 【はじめに】

当回復期リハ病棟に入院中,移動能力が入院時は車椅子介助であったが退院時には,杖や装具といった歩行補助具(以下,補助具)なしでの

歩行自立にまで至った脳卒中片麻痺患者を担当した.今回は,入院中に PT が訓練室で行った歩行練習や病棟での歩行手段と自立度の経過を

振り返り,歩行自立に向けた理学療法プログラムについて再考する.

【倫理的配慮,説明と同意】

本症例発表はヘルシンキ宣言の勧告に従い,症例へ説明し同意を得た.

【症例紹介】

50代男性.診断名:右被殻出血.障害名:左片麻痺,感覚障害.現病歴:自宅で発症し救急搬送.発症 12日目に当院入院.病前 ADL自立.入院時は

意識清明,起居・移乗見守り.BRS:II-II-III.左上下肢の表在・深部感覚は重度鈍麻・低下.歩行は下垂足・反張膝を認め最大介助.FIM87 点(運

動 55/認知 32).

【目標及び治療方針】

入院時は運動麻痺や重度の感覚障害を呈していたが, 病態,年齢,二木による基礎的 ADL(寝返り・尿便意の訴え・食事)を踏まえ,退院時目標

は「屋内歩行は補助具を使用せず自立」と設定.治療方針は入院初期から補助具を使用しながらでも可能な限り身体的介助を要しない状態で

の歩行の機会・経験を多くつくり(訓練室のみならず病棟生活でも),目標達成に向け段階的に介助量や補助具の調整を行っていくこととし

た.

【経過】

入院初期は,訓練室で短下肢装具(以下,AFO)と四脚杖を使用し,三動作揃え型にて中等度介助,歩行量は 10m×3 セットから開始.病棟では

車椅子使用.3週目で四脚杖を T杖,三動作揃え型から二動作前型に変更,歩行量は 30m×5セットへ.4週目の下肢 BRS:IV,感覚は中等度鈍麻・

低下と改善. 5週目から歩行頻度を増やす目的で病棟でも T杖・AFOでの歩行練習を開始し,6週目から実際の食事前後に歩行を導入.7週目

から訓練室では杖なしでの練習を開始し,病棟では日中の移動全て Ns・CWの見守り歩行へ移行.8週目に下肢 BRS:V,感覚は軽度鈍麻・低下と

改善し,病棟歩行が T 杖・AFO を使用し自立. 12 週目から訓練室にて T 杖・装具なしでの練習を開始.病棟では 14週目に AFO のみ,16 週目に

は補助具なしでの歩行自立へと段階的に進めていった.退院時(20 週目)は下肢 BRS:VI,感覚は軽度鈍麻・低下,屋外歩行も補助具なしで自

立.FIM125点.

【考察】

歩行自立という目標に向け,入院初期から歩行を用いた練習を行っていったことは,退院までの歩行の機会・経験の増加に繋がり,歩行に

必要な身体機能向上や動作学習に有効であったと考える.また,入院初期など身体機能や歩行能力が低く回復段階にあるような場合におい

ても,積極的に杖や装具を用いながら,なるべく能動的な歩行(自立度)を高めていくことが,実生活場面での早期からの歩行導入や歩行機

会・経験の増加にも繋がると考えた.

演題 50 脳血管疾患患者の地域包括ケア病棟の利用と支援 ~在宅復帰できなかった症例を通して~

○平山美貴 1)、前田和崇 1)、坂本紘 1)、山中文夫 1)、脇屋光宏 1)、浦川純二 1)

1)長崎県島原病院リハビリテーション部

キーワード:地域包括ケア病棟 脳血管疾患患者 在宅退院 【はじめに】

当院では地域包括ケア病棟(以下、包括病棟)開始から本年 10 月で 2 年を迎えた。なかでも脳血管疾患は生活予後に大きく影響すると考え

られるが、今回、在宅復帰に向けてリハビリテーション(以下リハ)はどのような視点に着目し、今後の支援に介入すべきか包括病棟に入棟

した脳血管疾患患者を対象とし振り返り調査を行った。

【対象・方法】平成 26年 10月から平成 28年 10月まで包括病棟に入棟した脳血管疾患患者 128名を在宅復帰群(以下、在宅群)と転院群に

分け、疾患、性別、年齢、包括病棟在棟日数(以下、在棟日数)、包括病棟入棟時 Barthel Index(以下、入棟時 BI)、認知症既往の有無を比

較検討した。さらに転院群のうち、在宅復帰を目標とする患者について詳細な経過を電子カルテより後方視的に調査し、在宅復帰できなか

った要因について分析した。統計手法は対応のない t検定とカイ 2乗検定を用いた。

【倫理的配慮・説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には発表について説明と同意を得ている。

【結果】

在宅群は 116 名(男性 64 名、女性 52 名、平均年齢 73.7 歳、平均在棟日数 15.4 日)、転院群は 12 名(男性 6 名、女性 6 名、平均年齢 82.5

歳、平均在棟日数 15.4 日)であった。疾患について在宅群では脳梗塞が、転院群では外傷性硬膜下血腫が最も多かった。平均入棟時 BI は

在宅群 79.8点、転院群 49.6点で在宅群が有意に高かった(p=0.014)。認知症既往があった患者の割合は在宅群で 20%、転院群では 58%で

あり転院群の方が有意に高かった(p=0.0038)。転院群のうち在宅復帰目標としていた患者は 2名(患者 A、患者 B)であった。

患者 A:症状急変のため専門医療機関へ転院。分析対象外とした。

患者 B:左外傷性慢性硬膜下血腫、66歳女性、在棟日数は 53日。入棟時明らかな麻痺は無いが原因不明のめまい等残存。認知症既往無し。

入院前 BI100、入棟時 BI65、転院時 BI90 で経過。キーパーソンである姉と自営業を営み 2 人暮らし。入棟後は歩行車歩行自立したが、突

然のめまい症状あり独歩自立まで至らなかった。和式トイレや布団等の生活改善を勧めるも本人が難渋を示した。キーパーソンとなる姉に

も持病があり、負担はかけられないと本人の訴えあり継続的な支援は今後も必要と考えた。

【考察】

在宅群は入棟時 BIが高く認知症既往も少ないことから、入棟時 BIと認知症既往の有無が在宅復帰の可否に関わる要因であることが示唆さ

れた。一方、転院群は入棟時から転院予定による在院日数調整利用が多いと考えられた。在宅復帰を予定していた患者 Bに関しては、認知

症既往は無いが入棟時 BIは在宅群と比較し低かった。また、現在の身体機能状態と在宅復帰イメージの乖離があったと思われる。

【まとめ】

包括病棟入棟前から BI や認知症既往、身体機能にあわせた生活環境調整、社会的背景を含めた在宅復帰イメージ早期共有を考慮し、積極

的な連携を図り退院支援計画を立案していくことが円滑な在宅復帰につながると思われた。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 52 電気刺激治療により歩行中の振り出しが改善した症例

○野田昇吾 1)、宮内利喜 1)、西村健 1)、兵頭辰也 1)、峰貴彦 1)、星原壮志 1)

1)社会医療法人三佼会宮崎病院

キーワード:片麻痺患者 能的電気刺激 歩行能力 【はじめに】

今回脳梗塞により左片麻痺を呈した患者を担当し Functional Electrical Stimulation(以下 FES)を併用した訓練により、歩行が改善した

為下記に詳細を報告する。

【症例紹介】

右アテローム血栓性脳梗塞発症後、106日経過した 80代女性。Brunnstrom Recovery Stage(以下 BRS)左下肢Ⅳレベル。歩行時に左下肢伸

展筋の筋緊張が亢進し、左下肢の振り出しが努力的で代償動作が見られている。

【倫理的配慮・説明と同意】

世界医師会によるヘルシンキ宣言に基づき、症例・症例家族には事前に十分なインフォームドコンセントを行い、書面にて署名を受けた。

【方法】

FES を 1 日 20 分の頻度で 10 日間使用。機器は伊藤超短波社製歩行電気刺激:NM-F1 を使用し、パラメータは周波数 50Hz、パルス幅 200

μsecで、電流強度は痛みを感じないが十分に筋収縮が生じる強度とした。介入方法は平地歩行で左下肢の Pre-swing(以下 PSw)~Loading

Response(以下 LR)に左前脛骨筋・足趾伸筋群に電気刺激を実施し、T-cane を使用した 2 動作前型を 15 分間途中休憩を入れ行った。また

端座位で左足関節背屈の随意運動直後に同様の筋に電気刺激を行い、筋収縮を促す訓練を 5 分間実施した。歩行評価には矢状面で撮影し

た歩行観察、歩行率、10m歩行スピードテスト、2分間歩行を計測。運動麻痺の評価は下肢の Fugl-Meyer Assessment(以下 FMA)。バラン

ス機能として Berg Balance Scale(以下 BBS)を実施。FES 導入前に測定し、FES 導入して 10 日後に同様の評価を実施した。さらに即時効

果判定として FES導入 10日目の訓練前後で 2分間歩行・10m歩行スピードテストを計測した。

【結果】

歩行観察:左 PSwから左下肢の筋緊張が向上、振り出しに左骨盤帯挙上の代償動作が見られていたが、10日後は筋緊張・代償動作が軽減。

Initial Contact(以下 IC)は足底同時接地であったが、10 日後は踵接地となった。2 分間歩行:28m から 35m。10m 歩行スピードテスト:

37.7秒から 35秒。歩行率:0.56(歩/s)から 0.92(歩/s)。FMA(下肢):19点から 23点。BBS:35点から 40点。FES併用訓練前後の評価で

は 10m歩行スピードテスト:35秒から 33.1秒。2分間歩行:35.2mから 38.8m。

【考察】

Kirsten ら PSwから前脛骨筋の筋活動が始まり ICまでのクリアランスを保つ為、前脛骨筋と同時に足指伸筋群の筋活動が最大となると述

べている。さらに IC~LRにかけロッカーファンクションを機能させる為、前脛骨筋の遠心性収縮が必要とも述べている。そこで PSw~LR

にかけて左下肢の前脛骨筋、足指伸筋群に FES を施すことにした。結果左遊脚期にクリアランスが保たれ代償動作が軽減し、歩容の改善

に繋がったと考える。さらに前脛骨筋の活動が向上しロッカーファンクションが働き、前方への推進力が向上した事も改善の一助になっ

ていると考える。本症例は歩行時筋緊張が亢進し、左足関節の背屈が不十分であった。FES により左足関節の背屈動作が出来るようにな

り、歩行動作中も FES を使用したことにより正しい動作を学習できたと考える。訓練前後での効果もある為 FES 併用しての訓練は有効だ

と考える。今後も症例数を増やし検証していく。

演題 51 重度感覚障害に対し足底へのアプローチを実施し、立位バランス、歩行能力に改善が見られた一症例

○疋田祐一 1)、永田千香子 1)、横田悠介 1)、大石賢 1)、内田由美子 1)

1)医療法人社団東洋会池田病院リハビリテーション部

キーワード:識別課題 足底感覚 立位バランス 【はじめに】

今回、右被殻出血により左片麻痺を呈した症例を担当した。本症例の運動麻痺は軽度であり、運動機能は改善傾向にあったが、感覚機能

は発症 63病日においても改善が見られず、足底の触圧覚に重度感覚障害が残存していた。本症例においては、足底からの感覚情報の減少

により静的・動的立位バランスの不安定性が生じ歩行能力が低下しているのではないかと考えた。そこで足底感覚、立位バランス、歩行能

力の改善を目的に重度感覚障害に対し足底へのアプローチを行ったところ改善が得られたので報告する。

【倫理的配慮、説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき、本人に発表についての説明と同意を得ている。

【症例紹介】

60歳代女性。診断名は右被殻出血(保存療法)。21病日にリハビリ目的で当院入院。63病日では、運動麻痺は改善認め、Br.stage全て VI、

GMT 患側上下肢 4。感覚は入院時より変化なく足底部触覚 0/10、圧覚 3/10と重度鈍麻が見られた。深部感覚異常無し。歩行は T字杖 2動

作前型歩行院内自立であるが、独歩では体幹の側方動揺や患側 Mst~Tstでの体幹前傾と骨盤後傾が見られ不安定であった。

【方法】

介入期間は 63病日~90病日間の介入可能であった 16日。足底部へのアプローチとしては識別課題を実施。課題として形状の違う 5つの

球を使用。方法は開眼端座位にて健側足底部で各球の触察を 10回ずつ行い、「硬度、形状、素材の違い」を識別させた後、患側足底部に対

しても同様の識別を行った。その後、閉眼端座位にて患側足底部に対して各球の識別をランダムに計 10回行い、その正答数を計測。評価

方法は正答数に加え、即時的な効果の評価として介入前後での表在感覚検査、荷重率、重心動揺、片脚立位を計測、経時的変化として1

週毎に膝伸展筋力・MMT体幹、TUGT、10m歩行、歩行観察を行い、治療効果を検討した。

【結果】

介入前後での即時的効果としては片脚立位時間、重心動揺では毎回改善が得られた。経時的な変化としては 63 病日で正当数:5/10、触

覚:0/10、圧覚:3/10、片脚立位時間:右 20.62s/左 19.19s、荷重率:右 38.1%/左 61.9%、総軌跡長:開眼時 44.61cm/閉眼時 99.32cm、膝伸展

筋力:右 25.1kg/左 11.8kg、MMT体幹 3、TUGT:9.43s、10m歩行:6.92s/17歩。90病日で正当数:8/10、触覚:5/10、圧覚:5/10、片脚立位時

間:右 73.34s/左 61.03s、荷重率:右 45.8%/左 54.2%、総軌跡長:開眼時 42.58cm/閉眼時 64.72cm、膝伸展筋力:右 25.3kg/左 12.1kg、MMT

体幹 4、 TUGT:6.50s、10m 歩行:6.27s/16 歩と各評価項目共に経時的な改善がみられた。下肢筋力には大きな変化がなかったが、MMT 体幹

3から 4への向上がみられた。歩容においても体幹動揺、体幹前傾と骨盤後傾が減少し、独歩自立に至った。

【考察】

複数の課題を足底部から識別させたことで、感覚経路が賦活され、触圧覚の改善に繋がったのではないかと考える。介入期間中の体幹筋

力の向上に加え、触圧覚の改善により体性感覚のフィードバックが賦活され、姿勢制御の再構築が図れたことで静的・動的立位バランス、

歩行能力の改善に繋がったと考える。

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演題 53 Gait Solution 長下肢装具を使用し、歩容改善に至った一症例

○津田麻由 1)、永友雄大 1)、大石賢 1)、横田悠介 1)、内田由美子 1)

1) 医療法人社団東洋会池田病院リハビリテーション部

キーワード:Gait Solution 長下肢装具 歩行練習 治療効果 【はじめに】

今回,アテローム血栓性脳梗塞にて右片麻痺を呈した症例を担当した.本症例は,麻痺側足関節随意性低下により,麻痺側立脚期での

体幹の前傾,麻痺側股関節伸展不十分であった.そこで,今回麻痺側足関節のコントロールを目的に Gait Solution (以下 GS)長下肢装

具を処方し歩容の改善に至った.また,GS 長下肢装具の効果を検討する為,GS 処方前に使用していた金属支柱付膝装具・プラスッチッ

ク短下肢装具(以下訓練用装具)の組み合わせを用いて両者を比較し,効果検証を行ったので報告する.

【倫理的配慮・説明と同意】

今回の発表に関しての説明と同意は得ている.

【症例紹介】

発症から 90病日経過した 50歳代女性・アテローム血栓性脳梗塞・右片麻痺.発症より 20日経過後,リハビリ目的にて当院入院.Br.stage:

上肢Ⅱ,手指Ⅱ,下肢Ⅲ~Ⅳ.感覚:表在感覚:軽度鈍麻,深部感覚;問題なし.深部腱反射:上肢・下肢共に亢進.足クローヌス:陰

性.

基本・移乗動作:自立.歩行能力は T字杖と訓練用装具にて一部介助である.FIM:103点.

【方法】

90 病日から 7 日間を A 期間とし訓練用装具(金属支柱付膝装具<膝継手固定>とプラスチック短下肢装具)を使用し,98 病日から 7 日

間を B期間とし GS長下肢装具(膝継手固定,背屈角度フリー,底屈角度 0°,油圧強度 3)を使用し歩行練習を行う.快適歩行速度にて

約 150M 程度(修正ボルグスケール:4)の連続歩行を実施した.評価は,各期において介入前後で,10M 時間,重複歩距離を測定し,平

均値の比較を行った.

また,ビデオによる歩行観察を各期に初期・最終で行い動作の比較を行った.

【結果】

A期(介入前/介入後):10M歩行時間(12.46±0.74秒/12.14±0.68秒),歩数(19±0.58歩/19±0.58歩),重複歩距離(102.14±4.85cm/102.5

±4.27cm).

B期(介入前/介入後): 10M歩行時間(11.37±0.57秒/10.81±0.56秒),歩数(19.29±0.79歩/18.43±0.79歩),重複歩距離(109.5±

4.09cm/112.1±2.63cm).

訓練用装具よりも GS 長下肢装具に,10M 歩行時間,歩数,重複歩距離の改善がみられた.ビデオによる歩行観察では,GS 長下肢装具に

おいて,体幹の伸展・麻痺側股関節伸展角度が増加した.

【考察】

GS長下肢装具を用いたことにより,スムーズな前方への重心移動に繋がり,体幹の伸展,麻痺側股関節伸展の改善が得られたと考える.

また,訓練用装具と GS長下肢装具の比較においても GS長下肢装具の方が歩行スピードの向上,歩幅の拡大が得られた為,本症例に対し

て GS長下肢装具が有用であったのではないかと考える.

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セッション10 15:10~16:00 第 1会場(深江ふるさと伝承館文化ホール)

座 長:渡辺 博(ろうけん西諌早)

54. 当院における廃用症候群リハビリテーション料を算定した患者の臨床的特徴について

長崎みなとメディカルセンター市民病院 リハビリテーション部

赤窄 彩花

55. 右人工股関節全置換術施行により右股関節可動域制限が発生した症例の治療を経験して

公立新小浜病院

鬼塚 真悟

56. 大腿骨近位部骨折術後の理学療法にベルト電極式骨格筋電気刺激法を導入した一症例

社会医療法人 長崎記念病院 リハビリテーション部

荒木 伸哉

57. 若年性被殻出血患者に対する急性期からの復職を目指したアプローチ

~早期移動獲得と院内・院外における質の高い連携に着目して~

独立行政法人労働者健康安全機構 長崎労災病院 中央リハビリテーション部

平山 翔悟

58. 脳卒中左片麻痺患者への歩行治療アプローチ〜反張膝に対する振動刺激と促通反復療法の併用〜

社会医療法人春回会 長崎北病院

竹下 優美

2 月 19 日(日) 〔 運動器、脳卒中 〕

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演題 54 当院における廃用症候群リハビリテーション料を算定した患者の臨床的特徴について

○赤窄彩花 1)、夏井一生 1)

1) 長崎みなとメディカルセンター市民病院リハビリテーション部

キーワード:廃用症候群 日常生活動作 臨床的特徴 【はじめに】

平成 28 年度診療報酬改定において、廃用症候群の特性に応じたリハビリテーションを実施するため、脳血管疾患等リハビリテーショ

ン料から独立し「廃用症候群リハビリテーション料」が新設された。当院においても様々な急性疾患に伴い安静、臥床状態となり廃用症

候群を認める患者は多く、昨年度と比較しても廃用症候群に対する理学療法の処方は増加傾向にある。廃用症候群に対するリハビリテー

ションを実施する患者は、他の疾患別リハビリテーション料で算定する患者と比較すると依頼のある診療科は様々であり、日常生活動作

(ADL)能力の回復程度や理学療法内容など、臨床的特徴は未だ十分に調査されていない。しかし、対象患者に安全かつ効果的、効率的

なリハビリテーションを実施するためにはこれらの特性を十分に把握する必要があると考える。そこで今回、当院における廃用症候群リ

ハビリテーション料を算定している患者の臨床的特徴についての調査を行った。

【対象と方法】

平成 28年 4月~9月の 6カ月間に廃用症候群の病名で理学療法処方があった患者 99例を対象とした。

年齢、男女比、廃用症候群の原因となる急性疾患、入院前の生活場所、在院日数、入院から理学療法開始までの期間、理学療法介入期間、

入院時の Barthel Index (B.I), 理学療法開始時の B.I, 理学療法終了時の B.I, 転帰先について診療録より後方視的に調査した。

【倫理的配慮・説明と同意】

ヘルシンキ宣言の勧告に従い、対象者への説明を行い、同意を得た。

【結果】

年齢は 80.6±9.9歳、男性 43例、女性 56例であった。廃用症候群の原因となる急性疾患は消化器内科 41例、消化器外科 33例、腎臓

内科 9例、泌尿器科 9例、呼吸器内科 5例、皮膚科 1例、糖尿病代謝内科 1例であった。入院前の生活場所は自宅 63例、施設 15例、病

院 21例であった。転帰は自宅退院 47例、施設退院 7例、転院 43例、死亡 2例であった。在院日数は 24.0±16.2 日、入院から理学療法

開始までの期間は 5.3±5.0 日、理学療法介入期間は 17.8±15.6 日であった。各時期の B.I.については、入院時 73.3±33.3 点、理学療

法開始時 39.8±27.9点、理学療法終了時 63.7±32.7点であった。

【考察】

本研究結果より、廃用症候群リハビリテーション料を算定する患者は高齢で内部障害者が多い傾向にあり、在院日数も長期化すること

が明らかとなった。また各時期の B.Iの推移より、安静臥床で低下した ADLは理学療法介入により改善は認めるが、入院前と同程度の ADL

を獲得することは容易ではないことも示された。内部障害患者に対するリハビリテーションは、より的確な全身状態の把握が求められる

が、我々理学療法士は、十分なリスク管理を行った上で、機能訓練のみならず ADL練習にも取り組んでいく必要があると考えられた。

演題 55 右人工股関節全置換術施行により右股関節可動域制限が発生した症例の治療を経験して

○鬼塚真悟 1)

1)公立新小浜病院

キーワード:人工股関節全置換術 筋スパズム 関節位置覚 【はじめに】

今回,転倒後の疼痛増悪により右人工股関節全置換術(以下 THA)呈した症例を担当する機会を得た.

THA 施行による手術侵襲の疼痛から筋性の関節可動域制限が発生するとされている.筋への影響として施術侵襲及び術前の変形性股関節

症の疼痛から持続的な筋スパズムがある.1)中川らは THA施行早期の段階では股関節内旋において位置覚の異常を認めたと報告している.

本症例も関節位置覚の低下があり,関節位置覚へのアプローチを実施することで筋スパズムが軽減し関節可動域の改善が図れるのではと

考え,アプローチを行った.その経過と簡単な考察を踏まえて報告する.

【倫理的配慮・説明と同意】この報告はヘルシンキ宣言を遵守し,患者本人及びご家族へ説明を行い,同意を得ている.

【症例紹介】

70代女性,既往に右変形性股関節症があり受傷前にも破行がみられていたとのこと.右 THAを施行後 1か月未満にて当院回復期へ入棟さ

れる.

【理学療法評価】

初期評価での右股関節可動域として,屈曲 75°伸展 0°外旋 30°外転 25°において制限がみられた.位置覚では軽度鈍麻している状態に

あった.筋触診にて大腿四頭筋・大腿筋膜張筋・内転筋において筋緊張があり,圧痛も認めており筋スパズムによるものではないかと疑

われた.

【理学療法経過】

初期評価の段階にて右股関節可動域制限がみられていた.筋スパズムに対しては持続的な筋伸張によるストレッチング及び,アイシング

など疼痛緩和に対しアプローチを実施した.筋スパズムの著明な改善が得られなかったため,他動による関節運動を行い,本人が自覚す

る関節角度の整合性を向上させるアプローチを実施した.

【結果】

関節位置覚の機能向上と共に,右股関節の屈曲 85°外転 40°外旋 40°において可動域の改善がみられた.しかし伸展(膝伸展位),屈

曲(膝屈曲位)では大きな変化は得られなかった.筋組織においては,THA 施行部位の筋スパズムによる圧痛軽減しており,触診における

筋緊張も軽減している.

【考察】

関節位置覚へのアプローチにより,動作筋・拮抗筋の理解が得られたと考える.ボディイメージが向上し関節運動による疼痛刺激が軽減

したことで,筋スパズムが軽減したと考える.アプローチ後は大腿四頭筋・内転筋において伸張痛が軽減しており,筋スパズムの軽減が

みられる.しかし,大腿四頭筋では伸張痛残存していた.伸展制限の可動域改善に至らなかった要因として, 2)股関節伸展は腸骨大腿靭

帯により制限されている.つまり結合組織により制限されており,THA では関節構成体に対しても手術侵襲がある.そのため,癒着の影

響が考えられる.それにより位置覚が向上した場合においても,筋組織以外の軟部組織では柔軟性が得られなかったと考える.THA 施行

後による筋性の関節可動域制限では位置覚の向上により,関節可動域の拡大がみられた.また,筋を除く軟部組織に対してのアプローチ

を並行して施行することで,更なる関節可動域拡大が期待できるのではないかと考える.

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 56 大腿骨近位部骨折術後の理学療法にベルト電極式骨格筋電気刺激法を導入した一症例

○荒木伸哉 1)、久毛勇樹 1)、片岡英樹 1)、山下潤一郎 1)

1)社会医療法人長崎記念病院リハビリテーション部

キーワード:大腿骨近位部骨折 ベルト電極式骨格筋電気刺激法 身体機能

【はじめに】

近年、下肢全体の骨格筋を刺激できるベルト電極式骨格筋電気刺激法(B-SES)が開発され、筋力トレーニングの新たな方法

論として注目されている。今回、下肢筋力・日常生活動作(ADL)能力の低下を呈した高齢の大腿骨近位部骨折(HF)術後患

者に対し、通常の理学療法(PT)に B-SESを導入し、身体機能の改善において良好な成績が得られたため報告する。

【症例紹介】症例は 2016年 3月に転倒により右 HFを受傷した 80歳代後半の女性である。4月 X日に A病院にて人工骨頭挿

入術を施行後、X+6 日に当院転院となり、翌日より PT 開始となった。受傷前は基本動作自立レベル、歩行はシルバーカー

を使用していた。主な合併症として、慢性心不全があり内服コントロール中であった。

【経過】PT介入開始時、活気なくベッド上の活動も乏しい状態であった。初期評価では、MMSE23点、等尺性膝伸展筋力体重

比は患側 3.5%、健側 11.8%であり、動作時痛は verbal rating scale(VRS) 3(かなり痛い)であった。また、歩行能力は

平行棒内歩行見守りレベル、起き上がりや立ち上がりといった基本動作も介助レベルであり、ADL は FIM 運動項目(mFIM)

19 点で、食事・整容以外の全項目で介助を要していた。以上のような HF 術後の身体機能の低下に加え、高齢であることや

術前の歩行レベルが低下していたこと、心不全の合併があることなどから通常の PTのみでは筋力や身体能力の改善に難渋す

ると考え、X+10日より運動療法に追加して自発運動が乏しい状態でも実施可能な B-SESを開始した。B-SESはベルト電極を

両側の大腿近位部、遠位部、下腿遠位部に装着し、20Hzで筋収縮が確認できる強度(30~50mA)で 20分、週 5回実施した。

X+21日、シルバーカーにて歩行訓練を開始し、この際の timed up and go test (TUGT)は 78″00、10m歩行時間は 54″

20であった。その後、基本動作の介助量減少と歩行能力の向上に伴い、段差昇降やリーチ動作といった動的バランス訓練も

追加し、B-SESの出力も徐々に漸増(50~80mA)させた。X+34日には病棟内歩行がシルバーカー自立レベルとなり、X+68

日自宅退院となった。最終評価では、等尺性膝伸展筋力は患側 11.3%、健側 13.9%、動作時痛は VRS0(痛みなし)、TUGT は

29″88、10m歩行時間は 18″12であった。その他の基本動作も自立し、mFIMは 63点となった。

【考察】HF術後の歩行能力や ADLの再獲得は 60~70%とされており、年齢や術前の歩行能力の低下が影響するとされている。

今回、受傷前の歩行能力が低く、心不全の合併がある高齢 HF術後患者に対し、運動療法と B-SESを併用することで、患側下

肢筋力が増強し、健側下肢筋力は維持され、受傷前の歩行能力、ADL 能力の再獲得が可能となった。したがって、本症例の

ような術前からの歩行能力の低下や合併症を持つ高齢の HF術後患者において、運動療法と B-SESの併用は PTの手段として

有用となる可能性が示唆された。

【倫理的配慮・説明と同意】症例発表を行うにあたりヘルシンキ宣言及び人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に従

事し,対象者とご家族の同意を得て実施した。

演題 57 若年性被殻出血患者に対する急性期からの復職を目指したアプローチ

~早期移動獲得と院内・院外における質の高い連携に着目して~

○平山翔悟 1)、加藤友里夏 1)、梶川大輔 1)、平山大輔 1)、島﨑功一 1)、本竹由香里 2)、宮木寛子 3)、川原一郎 4)

独立行政法人労働者健康安全機構長崎労災病院 1)中央リハビリテーション部 2)看護部

3)地域医療連携室 4)脳神経外科

キーワード:若年性脳卒中 復職 連携 【はじめに】

近年勤労者世代における脳卒中発症数は増加傾向にあり、若年性脳卒中患者に対しては、家庭復帰に留まらず復職を見据えた急性期からの

アプローチが必要となる。今回、若年性被殻出血患者に対し、予後予測を基に復職を最終目標に掲げ、当院のみならず回復期病院と連携を

図り、復職が可能となったので報告する。

【倫理的配慮・説明と同意】

本報告はヘルシンキ宣言の勧告に従っており、症例と家族へ説明し同意を得ている。

【症例紹介】

症例は 30代女性、診断名は左被殻出血、入院時 NIHSS-16点 、JCSⅡ-10、BRSは上肢Ⅱ-手指Ⅰ-下肢Ⅱであり、身長 157cm、体重 98kg、BMI38、

職業は事務職であった。

【介入内容】

介入当初は基本動作、セルフケア等全介助で FIM は 35 点であった。当院は病棟内でリハを実施しており、看護師と軒下カンファレンスを

行いながら、協働でアクティーモ NR による立位練習を実施し、トイレでの排泄に繋げた。その後はチーム全体で目標を統一化し、毎日共

通のアプローチを行うために合同カンファレンスを開催し、1 日のスケジュールを立案し最終目標である復職を達成するために当院での目

標を病棟内での活動量と ADLの向上とした。当初は更衣や整容、食事、歩行に対し、セラピストが介入し、看護師との協働や指導によりリ

ハ主体から看護師主体、症例主体へと介助量や能力向上に伴い速やかに移行していった。具体的には歩行に関して理学療法は歩行確立のた

めに膝装具装着下での後方全介助から開始し、短下肢装具へ移行した段階で看護師へ歩行介助を指導し、トイレへの移動に歩行を導入し院

内歩行自立へと至った。

回復期病院への転院前には当院スタッフが転院先に赴き他職種間でのカンファレンスを実施し、最終目標が復職であるという意識を共有し

た。その後も転院先との情報交換を行い、退院前の家屋訪問や職場訪問に同行し生活動作の確認、業務作業の確認をした。

【考察】

本症例は重症脳卒中で高度肥満であるにも関わらず予後予測の基、急性期から復職を目指した院内・外でのアプローチを行うことで復職が

可能となった。院内連携に関しては、実際の生活の場である病棟でリハを実施していることと、それに伴うリハと看護の強い連携による共

通認識の下 ADLへの効果的な介入が出来たことがその後の復職へ繋がっていると考える。

加えて院内のみの連携に留まらず回復期病院に対しても紙面でのやり取りに加え、合同カンファレンスの実施や退院前の家屋訪問、職場訪

問へ同行することで間接的ではあるが、継続的な復職支援を実施した結果、発症 5ヶ月での復職へ至った。また退院後の介入として定期的

に当院外来でのフォローを予定しており、職場復帰後に生じた機能的・能力的問題に対しても、支援を行っていく予定である。このように

急性期から復職をあきらめずに病棟看護師や回復期、職場と協働することで脳卒中患者への復職の可能性が拡大すると考える。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 58 脳卒中左片麻痺患者への歩行治療アプローチ〜反張膝に対する振動刺激と促通反復療法の併用〜

○竹下優美 1)、石橋智花 1)子、山﨑秀輝 1)、菊地結貴 1)

1) 社会医療法人春回会長崎北病院

キーワード:振動刺激 促通反復療法 反張膝

【はじめに】

脳出血により左片麻痺を呈した 80歳代男性を担当した。症例は、重度感覚障害に加え、認知面低下や注意障害の影響で、

動作のフィードバックが困難であり歩容改善に難渋した。筋出力向上、痙縮抑制を目的とした振動刺激による感覚入力は、

反応が良好であった。振動刺激と促通反復療法を併用することで、歩行時の麻痺側反張膝の軽減を認めたため、考察を加え

て報告する。

【倫理的配慮、説明と同意】

ヘルシンキ宣言の勧告に従い症例とご家族に対して同意を得た。

【症例紹介】 80歳代男性

診断名:右視床出血 障害名:左片麻痺 アルツハイマー型認知症 高次脳機能障害:注意障害

【初期評価】32~40病日

全体像:訓練に対しては協力的だが、認知面低下からフィードバックが困難。

Br.stage:VI-VI-V GMT:両下肢 3 膝伸展筋力(R/L):17.3/10.0kgf FACT:13/20点 MAS:下腿三頭筋 2

表在感覚:脱失 深部感覚:股関節軽度鈍麻、膝・足関節・足趾重度鈍麻

MMSE:16/30点 TMT:タイプ A 300 秒 B 実施困難

10m歩行(SLB+W-cane軽介助):97.5 秒 52歩 BBS:32/56 点 FIM:77/126 点(移動:車椅子にて全介助)

歩行観察:姿勢は体幹前屈位・骨盤後傾位で視線は足元。麻痺側 MSt〜TStにかけて下腿前傾が不十分で更に、骨盤左後方回

旋と反張膝が出現。時折後方へのふらつきを呈し軽介助要す。 ※金属支柱付き短下肢装具 前傾角度:5〜10度誘導

【方法】

(1)筋出力の低い股関節周囲筋群に対し振動刺激(高周波)と促通反復療法

(2)痙性の高い下腿三頭筋に対して伸張位で持続的な振動刺激(低周波)の入力、その後前脛骨筋の促通反復療法

計 40 日間実施した。振動刺激は、THRIVE ハンディマッサージャーを使用。前後評価を筋力検査・感覚検査・筋緊張検査・

バランス検査・歩行評価・ADL評価にて比較した。

【結果】85~92病日 ※変化点のみ記載

GMT:両下肢 3〜4 表在感覚:中等度鈍麻 深部感覚:股・膝関節軽度鈍麻、足関節中等度鈍麻、足趾重度鈍麻

膝伸展筋力(R/L):23.9/15.5kgf FACT:18/20 点 MAS:下腿三頭筋 1 BBS:45/56 点

FIM:90/126 点(移動:ロフストランド杖歩行見守り) 10m歩行(SLB+ロフストランド杖 見守り):39.1 秒 36歩

歩行観察:姿勢は体幹前屈位・骨盤後傾位が軽減し足元への視線は残存。麻痺側 MSt〜TStにかけて下腿前傾が見られ、

骨盤左後方回旋と反張膝は軽減し見守り歩行。

【考 察】

局所的な振動刺激療法の効果として、高周波は筋収縮の促通、低周波は筋緊張の緩和が起こるとされている。今回、症例

に対して目的に応じた振動刺激の入力と促通反復療法の併用により、感覚障害が軽減、更に運動路の興奮性を高め筋出力向

上・痙縮抑制に繋がった。また、ロフストランド杖へ変更し体幹前屈が軽減されこの状態での反復した歩行練習は、股関節・

体幹の抗重力伸筋群の賦活に繋がり、麻痺側反張膝の軽減を引き起こしたと考える。

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セッション11 15:10~16:00 第 2会場(深江公民館 2階ホール)

座 長:石丸 将久(日本赤十字社長崎原爆病院)

59. 大腿骨近位部骨折術後患者の受傷前後における ADL状況の項目別調査

社会医療法人長崎記念病院 リハビリテーション部

高尾 奏二朗

60. 第 2腰椎圧迫骨折受傷後に誤嚥性肺炎を発症した症例~負荷量調整に着目して~

和仁会病院 リハビリテーション科

渡部 果歩

61. 肺炎による急性増悪後,早期からの運動療法介入を行った軽症 COPDの 1例

医療法人保善会 田上病院 リハビリテーション科

遠山 柊介

62. 右視床出血により左片麻痺・重度感覚障害を呈した症例

社会医療法人青洲会 青洲会病院 リハビリテーション課

薦田 悟

63. 脳血管障害における座位姿勢に着目しアプローチした一症例

医療法人社団東洋会 池田病院 リハビリテーション部

永田 浩平

2 月 19 日(日) 〔 運動器、呼吸器、脳卒中 〕

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演題 59 大腿骨近位部骨折術後患者の受傷前後における ADL 状況の項目別調査

○高尾奏二朗 1)、吉村彩菜 1)、田尾陽斗 1)、後藤響 1)、片岡英樹 1)、森田馨 2)、山下潤一郎 1)

1)社会医療法人長崎記念病院リハビリテーション部 2)社会医療法人長崎記念病院整形外科

キーワード:大腿骨近位部骨折 ADL 項目別調査 【はじめに】

高齢者に頻発する大腿骨近位部骨折(HF)術後のリハビリテーション(リハ)では ADL能力の再獲得を主目標としてアプローチを進めて

いく.先行研究では,HF術後の高齢者では受傷後の ADL能力の低下が認められ,これに影響する因子の一つとして受傷前の ADL能力の低

下が挙げられている.しかし,HF術後患者の受傷前の ADLや退院時の再獲得状況を項目別に調査した報告は少なく,基礎資料にかけてい

るのが現状である.そこで本研究では,HF術後患者の受傷前後の ADLの状況について項目別にて検討した.

【方法】

対象は 2014年 1月から 2016年 6月までに HFを受傷し観血的治療を施行された 65例(平均年齢:84.2±6.0歳,男性 3例,女性 62例)

で,受傷前に自宅にて生活しており,歩行が可能であった者とした.平均入院期間は 89.2±29.0日で,リハ開始時の平均 mini-mental state

examination (MMSE)は 22.4±6.0点であった.ADL評価には barthel index (BI)を用い,受傷前と退院時に評価した.受傷前 ADLに

ついては担当療法士が介入初期に患者もしくは家族から聞き取りを行い,退院時 ADLについては療法士が直接評価した.調査内容として

は,まず,受傷前における BI の各項目の点数を指標に,ADL の自立度の内訳を項目別に調査した.次に,BI の各項目において受傷前自

立レベルであった患者が退院時に見守りや介助レベルに移行した割合を算出した.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は,ヘルシンキ宣言及び人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に従って実施した.本研究は,研究の趣旨を説明し,同意が

得られた患者を対象に行った.

【結果】

受傷前の BI の各項目における対象者の自立度の内訳は,食事(自立:98.5%,部分介助:1.5%),移乗(自立:96.9%,監視:3.1%),整

容(自立:95.4%,介助:4.6%),トイレ動作(自立:98.5%,部分介助:1.5%),入浴(自立:76.9%,介助:23.1%),平面歩行(自立:

84.6%,介助歩行:15.4%),階段昇降(自立:61.5%,監視:15.4%,不可能:23.1%),更衣(自立:90.8%,部分介助:9.2%),排便コン

トロール(自立:86.2%,部分介助:13.8%),排尿コントロール(自立:84.6%,部分介助:15.4)であった.次に,各項目において受傷

前自立レベルであった患者が退院時に見守りや介助レベルに移行した割合は,食事 6.6%,移乗 22.2%,整容 20.3%,トイレ動作 16.4%,

入浴 89.1%,平面歩行 19.6%,階段昇降 72.7%,更衣 15.0%,排便コントロール 13.2%,排尿コントロール 20.0%であった.

【考察】

今回の結果から,HF術後患者では,受傷前から入浴や階段が介助状態にある患者が多いことが確認された.また,術後の再獲得状況につ

いては,セルフケアでは入浴,移動においては階段昇降が特に困難となっていた. このことから HF術後患者に関しては,これらの再獲

得が困難となりやすいことを把握したうえで,機能・能力面に対するアプローチと並行して環境調整や家族指導,社会サービスの内容の

検討等を行っていく必要があると考えられる.

演題 60 第 2 腰椎圧迫骨折受傷後に誤嚥性肺炎を発症した症例~負荷量調整に着目して~

○渡部果歩 1)、野口薫 1)

1)和仁会病院リハビリテーション科

キーワード:負荷量 覚醒 廃用症候群 【はじめに】

今回,第 2腰椎圧迫骨折受傷後,誤嚥性肺炎を発症した症例を担当する機会を得た.覚醒不良によりリハ介入に困難を来した症例に対

し負荷量の調整を行い,覚醒レベルの変化が見られたため報告する.また,負荷量の調整による介入内容の前後を【Ⅰ期経過】【Ⅱ期経

過】と記す.

【症例紹介】

第 2 腰椎圧迫骨折,80 歳代後半女性で入院期間は 90 日.一般養護ホームにてベッドから転落しているところを発見.翌日疼痛出現し

A医院にて圧迫骨折の診断受け,当院へ入院となる.受傷前は一般養護ホームにて身辺動作自立,移動は歩行器自立レベルであった.

【論理的配慮,説明と同意】患者本人とその家族へ本発表について説明し同意を得た.

【初期評価(入院 6日目)】

覚醒状態 JCSⅡ-30レベル.酸素マスク O₂5ℓ 使用下にて SpO₂93%前後,呼吸数 25~30回で経過.基本動作全介助レベルで離床時間 0分.

【Ⅰ期経過】

・入院 2日目~5日目:誤嚥性肺炎発症.Dr指示にてリハ中止.

・入院 6日目~25日目:ベッドサイド起立訓練まで実施.

・入院 26日目:離床開始.覚醒時 JCSⅠ-2,覚醒不良時 JCSⅡ-30.離床時間 30分.

・入院後 30 日目:呼吸訓練,経口栄養を開始.1 時間程度の離床に加え座位,立位でのトレーニング開始.覚醒周期は 2 日覚醒後(JCSⅠ

-2)1日不穏(JCSⅠ-3で幻視,被害妄想見られる),1日覚醒不良(JCSⅢ-100).

【介入内容の変更】

覚醒不良前日の夜間は睡眠不良となっていた.本症例は日中の運動量が過負荷であると推測された為,負荷量を下げるため介入内容の

変更を行った.

変更点は覚醒 2 日目を離床せずベッドサイドでの基本動作,呼吸訓練実施する等,覚醒周期に合わせ訓練内容を設定.また離床時間を 1

時間/日に制限し平行棒内歩行を 1往復から半往復にする等,訓練時負荷量の減少.

【Ⅱ期経過】

・入院後 67 日目~:3 日覚醒,1日不穏,1日覚醒不良.しかし,覚醒日・不穏日は 2 時間/日離床できるようになり,離床時間の増加に

伴いリハ介入時間の延長,歩行距離の増加,積極的な基本動作の介入が可能となった.

・入院後 79日目:覚醒不良日が無くなり 3日覚醒 2日不穏(最初の1日目は会話可能レベル)という周期になった.

【最終評価(入院 89日目)】

覚醒レベル覚醒時 JCSⅠ-1,不穏時 JCSⅠ-3.覚醒周期は入院後 79 日目より変化なし.酸素マスク中止となり SpO₂95%,呼吸数 18~

20回.基本動作は寝返り自立,その他監視から軽介助レベル,移動は車いす自走連続 50m可能.食事は全粥トロミ付きにて 3食自力摂取.

離床時間 3時間/日.

【考察】

増田らは「活動時間の多さが睡眠の質を脅かす可能性がある」と報告している.本症例においても日中の運動量が過負荷であったため負

荷量調整を行い覚醒周期に変化が見られたと考えられる.今回の介入内容の変更により覚醒日数が増加し積極的なリハ介入ができるよう

になった.このことから負荷量調整を行ったことが覚醒レベルの向上の一因になったと考える.

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演題 61 肺炎による急性増悪後,早期からの運動療法介入を行った軽症 COPDの 1例

○遠山柊介 1)、森下辰也 1) 2)、陶山和晃 1) 2)、角野恭子 1)、俵祐一 2)、神津玲 2)

1)医療法人保善会田上病院リハビリテーション科 2)長崎大学大学院医歯薬学総合研究科

キーワード:肺炎 COPD 早期運動療法 【はじめに】

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪時における早期からの運動療法は,退院時の運動耐容能,健康に関連する生活の質を改善することが

示されている.しかし,急性増悪の治療期間中に運動療法の実施に至らないことや,低強度での運動負荷に留まることを臨床上経験する.

今回,肺炎による急性増悪後,早期から運動耐容能を評価し,高強度での運動療法を行うことができた軽症 COPD患者を経験したため報告

する.

【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に従うとともに,本報告について本人に口頭にて説明し,同意を得た.

【症例】

症例:60歳代後半,男性 診断名:肺炎,COPD (GOLD stage I)

現病歴:咳嗽,喀痰が出現するも受診せず自宅で静養していた.約 3週後 37.7℃の発熱と膿性痰を認め当院受診,肺炎の診断で入院とな

ると同時に COPDの診断を受けた.

主訴:坂道を上る時に息切れがする. 喫煙歴:現喫煙 Brinkman指数 2380 呼吸困難:mMRC スケール Grade 1

入院時現症:脈拍数 78bpm,血圧 146/82mmHg,SpO2 96%(室内気),呼吸音の減弱や副雑音なし.BMI 20.1kg/m2

検査所見:CRP 9.08mg/dl,WBC 14400/µl 肺機能検査:肺活量 4.1L(127%),1秒量 2.7L(120%),1秒率 68%

ADL:NRADL 97点

【経過】

入院第 1 病日より抗菌薬投与が開始,3 病日より臥床時間の増加に伴うさらなる身体機能低下の予防,および低下した身体機能の向上を

目的として理学療法の処方が出された.開始時の呼吸および全身状態は安定していた.6分間歩行試験による歩行距離(6MWD)は 429mと低

下を認めた.本症例の問題点を坂道歩行時の呼吸困難の増強とそれに伴う運動耐容能の低下と考え,運動療法と呼吸法指導等のコンディ

ショニングを実施した.運動療法に対する受け入れは良好であり,トレッドミル歩行は 6MWD における平均歩行速度の 60%負荷(2.6km/h)

から開始し,その後は修正 Borg Scale 5,脈拍数が予測最大心拍数の 80%となるよう SpO2(90%以上)をモニタしながら負荷強度を増加さ

せた.また,コンディショニングとして口すぼめ呼吸をはじめとする,歩行時の呼吸法指導を行い,坂道歩行時に実施可能となった.終

了時の 6MWDは 476mと増大,坂道歩行時の呼吸困難も軽減し,21病日に退院となり,退院後は外来リハビリでフォローしている.

【考察】

本症例では初回の理学療法実施時に運動耐容能の評価を行うことができた.これは,解熱し呼吸器症状が安定しており,運動療法の進

行を阻害する身体機能の低下を認めなかったことや,運動療法に対する意欲が良好であったためである.その結果,早期からより客観的

な強度で運動療法を行うことができ,廃用症候群の予防や短期間での運動耐容能の増大,呼吸困難の軽減が得られ,早期退院につながっ

た.COPDの急性増悪直後の運動療法は,低強度から開始することが一般的であるが,本症例のように呼吸器症状が安定している患者に対

しては,可及的速やかに運動耐容能の評価に基づいた積極的な運動療法を行う重要性を認識することができた.

演題 62 右視床出血により左片麻痺・重度感覚障害を呈した症例

○薦田悟 1)

1)社会医療法人青洲会青洲会病院リハビリテーション課

キーワード:視床出血 感覚障害 起居動作 【はじめに】

今回、右視床出血により左片麻痺、重度の感覚障害を呈した症例を経験した。この症例について評価、問題点、プログラムの立案を行っ

たので以下に報告する。

【倫理的配慮・説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき本発表の趣旨を説明し本人家族に同意を得た。

【症例紹介】

60歳代後半の男性。既往に脳梗塞があり、今回視床出血を発病し保存療法の後、14病日に当院へ転院。病前は元妻との二人暮らしで、車

の運転や簡単な調理は自身で行えていた。入院当初の方向性は在宅であったが、ご家族との話し合いの結果、退院後は施設方向と変更と

なっている。ご自分から会話をされることは少ないが、リハビリに対して拒否などなく取り組まれる。

【理学療法評価(初期)】37病日~44病日

意識レベル:清明。HDS-R:27点/30点。BRS:上肢 IV・手指 V・下肢 IV。ROM-T:足関節背屈(膝屈曲位) 15°/10°・足関節背屈(膝伸

展位)10°/5°。大腿周径:膝蓋骨直上 34cm/34cm、5cm上 35cm/33cm、10cm上 38cm/35.5cm、15cm上 41cm/39cm。握力:40kg/20kg。下肢

筋力:4/4。触覚・位置覚・運動覚:脱失。温痛覚:中等度鈍麻。鼻指鼻試験・踵膝試験:陽性。膝蓋腱反射:亢進。足クローヌス:陽性。

起居動作(プラットホーム上):自立。移乗動作(プラットホーム・車椅子間):遠位監視。歩行(平行棒内):近位監視。BI:60/100。FIM:

77/126。

【理学療法評価(最終)】104病日~113病日 変化点のみ記載

ROM‐T:足関節背屈(膝屈曲位) 10°/5°・足関節背屈(膝伸展位)5°/0°。握力:45kg/20kg。移乗動作(プラットホーム・車椅子間):

自立。 BI:85/100。 FIM:116/126。

【治療プログラム】

ROMex、ストレッチング、筋力訓練、荷重訓練、視覚・聴覚代償での感覚フィードバック

【経過】

入院当初、車椅子移乗動作時、殿部離床の際に麻痺側下肢が前方に位置しており努力性の起立動作であった。そこで自己の身体認知を把

握してもらう目的で、下肢の位置の修正や重心移動をセラピスト側が徒手的誘導や姿勢鏡を用いた視覚的フィードバックにより、接地面

となる足部への注意を向け足部や重心移動の感覚認知を促した。その結果、下肢が適切な位置での非努力性の立位動作が可能となった。

【考察】

努力性の起立動作になることによって、麻痺側上下肢の筋緊張が亢進し、また重度感覚障害もあり、麻痺側上下肢の運動イメージを構築

することが困難になっている。そのため、立位動作が不安定な状態であったと考える。学習効果を得るために残存する視覚や聴覚からの

フィードバックを促しながら、徒手的にも身体認知を促し、その結果、移乗動作が自立できた。

【さいごに】

今回視床出血により重度の感覚障害を呈した症例を経験させていただき、脳血管障害の評価の選択・実施、運動失調や筋緊張の亢進に伴

い訓練の進め方の難しさを学んだ。今回の事例を通して自分に足りていなかった部分を確認し、今後の業務に結び付けていきたいと考え

る。

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演題 63 脳血管障害における座位姿勢に着目しアプローチした一症例

○永田浩平 1)、八田勝也 1)、島田貢誉 1)、石橋賢吾 1)、大石 賢 1)、 内田由美子 1)

1)医療法人社団東洋会池田病院リハビリテーション部

キーワード:座位姿勢 視覚的フィードバック 聴覚フィードバック 【はじめに】

脳卒中片麻痺患者の障害に動作や姿勢保持におけるバランスの低下が挙げられる。そして、良好なアライメントはバランスを保つ必要条件であり、臨

床場面では、アライメントを評価しバランスと関連付けて考える必要性がある。そこで今回、両麻痺で重度の感覚障害、筋緊張異常があり座位保持

困難な症例に対し、座位で体幹のアライメントを修正するために、姿勢鏡を用いた視覚的フィードバックと口頭指示での聴覚フィードバックを用い座位保

持を行った結果変化が認められたので、若干の知見を加え報告する。

【倫理的配慮、説明と同意】

本症例発表を行うにあたり、対象者への説明と同意を得た。

【症例紹介】

60歳代、男性。診断名:脳梗塞(左後頭葉、前頭葉)、右片麻痺 既往歴:右視床出血(左片麻痺を呈し基本動作全介助)、誤嚥性肺炎 現

病歴:自宅にて右手の動きが悪くなり A病院を受診し脳梗塞と診断。リハビリ継続目的で 43病日に当院転院。入院時 Brs(上肢/手指/下肢):

右Ⅳ/Ⅳ/Ⅲ、左Ⅴ/Ⅳ/Ⅲ。表在感覚:両側軽度鈍麻(右>左)、深部感覚(運動覚):右重度鈍麻、左中等度から重度鈍麻。HDS-R:19 点。

半側空間無視:なし。指示理解良好。BI:0点。

【経過】

実施期間:46~77 病日の 31 日間。身体機能面としては通常理学療法に加え、姿勢鏡を用いた座位保持練習を実施した。症例は表在・深

部感覚中等度鈍麻していたが、視覚入力からの身体認知は良好であったため視覚的フィードバックを用いての座位保持を行った。また、口頭指

示を与えることで、集中力向上みられたため聴覚フィードバックも同時に行った。開始肢位は骨盤を中間位とし、足底を床面へ接地した状態で

開始。右凸側彎、左側腰背部筋群短縮位であった為、右側腰背部筋群の収縮を促し、正中位へ立ち直り運動を実施した。また、状態にあ

わせ座位だけではなく立ち上がり・立位保持練習を実施。足底を接地、正中位を保たせながら、股関節周囲筋群の筋収縮を促しながら実

施した。

【理学療法評価】

効果判定には端座位保持時間、座位時自己で正中位に修正可能な可動範囲(前後左右)を介入前後で比較した。介入前:端座位保持時間 3

秒、限界角度(前/後/右/左):0°/0°/0°/0°、座位姿勢:体幹前屈が増大し右前方へ姿勢が崩れ、端座位保持が困難であり全介助。

介入後:端座位保持時間 230秒、限界角度:45°/10°/15°/10°、座位姿勢:姿勢鏡を用いて口頭指示を行うことで正中位保持可能、外

乱刺激に対しても修正可能。端座位保持見守りレベル。

【考察】

姿勢鏡による視覚的フィードバックと口頭指示による聴覚フィードバックによる座位保持練習により端座位保持時間の改善が得られた。また、同時

に環境面での車椅子調整等の介入も効果的であったと考える。

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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セッション12 15:10~16:00 第 3会場(深江公民館 2階中会議室)

座 長:佐藤 圭(貞松病院)

64. THA後に残存した姿勢異常に対するアプローチ

社会医療法人財団白十字会 佐世保中央病院 リハビリテーション部理学療法課

岡 亮平

65. 左 THA術後患者の杖歩行獲得に向けた関わり

社会福祉法人十善会 十善会病院

本多 純

66. 長期間の変形性股関節症により痛みに対する破局的思考を認めた症例

独立行政法人国立病院機構 長崎病院

原口 玲未

67. TKA術後の症例を担当して~歩容改善に着目して~

長崎みなとメディカルセンター市民病院

本郷 廉

68. ノルディックウォーキングにより姿勢の改善がみられた一症例

医療法人社団東洋会 池田病院 リハビリテーション部

安藤 隼

2 月 19 日(日) 〔 運動器 〕

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 64 THA後に残存した姿勢異常に対するアプローチ

○岡亮平 1)

1)社会医療法人財団白十字会佐世保中央病院リハビリテーション部理学療法課

キーワード:下肢交差性症候群 Trendelenbrg 歩行 Coxitis Knee 【はじめに】

変形性股関節症に対して人工関節置換術(Total Hip Arthroplasty:以下、THA)を施行した患者を担当した。手術により関節機能は改善

したものの、非術側の膝関節痛と二次的な姿勢異常は残存していた。Muscle imbalance の是正を図り、歩容の改善を認めたため、考察を

加え以下に報告する。

【倫理的配慮・説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、本症例には発表に関しての趣旨を説明した上で、同意を得ている。

【症例紹介】

50 歳代女性。診断名:右変形性股関節症。現病歴:1 年前より右股関節痛を自覚。20XX 年 4 月旬に疼痛増悪し、5/3 受診、手術適応に

つき 5/19に THA施行。既往歴:関節リウマチ。入院前:ADL・APDL自立(杖歩行)、車の運転を行っていた。

【術前評価】

レントゲン所見:関節裂隙の消失、広範な骨化像。疼痛検査:右股関節に荷重時痛(+)、NRS:8/10。左膝関節(内側)、腫脹・熱感(+)、

NRS:4/10。下肢長(右-左 cm):SMD:-1.0。整形外科的テスト(右):Ober test(+)、Thomas test(+)。ROMテスト(°):右股関節屈曲 70、

伸展-15、内転 10、外転 10、左膝関節屈曲 110。MMT:右股関節屈曲 4、伸展 3、内転 4、外転 3、左膝伸展 4。歩行観察:一本杖使用、長

距離歩行は疼痛にて困難。骨盤前傾、右立脚期 Trendelenbrg現象(+)。

【術後評価・術後 1日目】

疼痛検査:創部:腫脹・熱感(+)、安静時痛(−)、運動時(NRS:1/10)。下肢長(右-左 cm):SMD:1.0。ROMテスト(°):右股関節屈曲 90。

アライメント:腰椎前弯強い、左股関節外旋、左膝内反変形。

【問題点】

#.内転筋群・腰背筋・腸腰筋の過緊張・短縮 #.大殿筋・中殿筋・腹筋群の筋力低下 #.左膝痛(coxitis knee)

【プログラム】

スリングエクササイズ、ストレッチポール、腸腰筋のストレッチ、筋力トレーニング(逆 SLR、内腹斜筋 ex)

【最終評価・術後21日目】

疼痛検査:右股関節、荷重時(−)、NRS:0/10、左膝関節(内側)、腫脹・熱感(−)、NRS:2/10。整形外科的テスト(右):Ober test(−)、Thomas

test(−)。ROMテスト(°):右股関節屈曲 100、伸展 10、内転 30、外転 20。MMT:伸展 4、外転 4、左膝伸展 5。歩行観察:独歩、屋外歩行

可能。骨盤前傾、腰椎前弯改善、Trendelenbrg 現象(-)。

【考察】

変形性股関節症に伴い、骨盤の被覆率を高めた骨盤前傾位が下肢交差性症候群を招き、また脚長差に伴う反対側への内反ストレスが

coxitis knee を生じさせていた。THA により関節機能は改善したものの、腸腰筋、内転筋群、腰背筋の過緊張・短縮と大殿筋、中殿筋、

腹筋群の弱化は残存していた。そのため、短縮筋のストレッチング、弱化筋の強化を図った。加えて、骨盤の安定化に寄与しているとさ

れる内腹斜筋のトレーニングが Trendelenbrg 歩行陰性化の一助になったと考える。

演題 65 左 THA術後患者の杖歩行獲得に向けた関わり

○本多純 1)

1)社会福祉法人十善会十善会病院

キーワード:THA 疼痛 アプローチの再考 【はじめに】

左人工股関節全置換術(以下 THA)を施行した 70 歳代後半の女性を術後 41 病日目より担当した.歩行能力低下の主な問題点を疼痛と

考え介入したが,歩行の展開に難渋したためアプローチを再考した.本症例の経過や介入の内容について報告する.

【倫理的配慮・説明と同意】患者へ説明を実施し同意を得た.

【症例紹介】

入院前は独居で ADLは自立しており,屋外では杖歩行が可能であったが疼痛のため徐々に難しくなっていた.診断名は左変形性股関節

症の末期(8年前)で,今回は左 THAを施行した.既往歴は右 THA(2年前)と両側変形性膝関節症があった.

【理学療法評価(41病日目)】

疼痛は安静時・歩行時(左立脚前期から後期)ともに左大腿外側部に出現していた.また,腸腰筋・大腿筋膜張筋に圧痛を認め,両側股

関節・膝関節に筋力低下があった.関節可動域は左股関節・膝関節・足関節に制限があり,荷重量は 25kg(体重 52kg)で,歩行は歩行

車にて自立していた.

【問題点・理学療法介入】

本症例の歩行の阻害因子として,疼痛・筋力低下・関節可動域制限を挙げ,疼痛が筋力低下や関節可動域制限の要因ともなるため疼痛

の軽減が急務と考えた.安静時・歩行時共に出現している疼痛は腸腰筋・大腿筋膜張筋の筋スパズムによるものと推察した.筋スパズム

による疼痛は筋が阻血状態に陥り生じているため,血流の改善を目的に筋の収縮・弛緩運動等を行った.

【経過・アプローチの再考】

2 週間介入した結果,疼痛は軽減したが筋力低下や歩行能力の改善を図る事は出来なかった.歩行能力の改善には疼痛の軽減を図るだ

けでは不十分であることが分かった.疼痛が筋力低下や関節可動域制限に強く影響し歩行を阻害していると考えていたが,THA に至るま

での経過や活動量も考慮して再考する必要があった.本症例は数年前より下肢の関節の変形を罹患しており,代償による歩行から患部外

にも筋力低下があったと考えられた.そのため患部のみでなく患部外の筋力の向上も必要であると考えられた.THA 術後は荷重下での筋

出力が不十分となりやすいため閉鎖性運動連鎖でのトレーニングが効果的と言われている.また,荷重・歩行の安定性には単関節筋の働

きが重要であるとの報告がある.そこで,四つ這いや膝立ちでの荷重練習と患部外の筋力トレーニングを追加した.最終的に杖歩行を獲

得し自宅退院となった.

【考察】

歩行能力低下の主な問題が疼痛であると考えアプローチを開始したが,歩行の展開に時間を要した.本症例の介入において,患部であ

る左股関節の筋力低下は手術後の疼痛により出現していたと認識しており,筋力低下そのものに対しての介入が不足していたことが原因

であったと反省した.また患部のみでなく患部外への介入も必要であった.今後は既往歴や病前の活動量,THA に至るまでの経過等を配

慮して考察したいと考える.

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 67 TKA術後の症例を担当して~歩容改善に着目して~

○本郷廉 1)

1) 長崎みなとメディカルセンター市民病院

キーワード:TKA 歩行 運動学習 【はじめに】

今回、左人工膝関節置換術(以下 TKA)後の症例を担当した。坂東らは「TKA後は運動イメージの低下が示唆される」と報告をしている。本

症例は術前から膝痛と著明な膝屈曲可動域(以下 ROM)制限があり、分回し様歩行を呈していた。TKA本来の目的である除痛、ROM拡大に加

え、運動再学習を中心にアプローチした結果、歩容改善が得られたのでここに報告する。

【症例紹介】

70 代女性 身長 155cm 体重 70kg BMI29.2。現病歴:手術の 4 ヵ月前から左膝痛が増悪。入院前の活動範囲は自宅内のみとなっていた。

Demand:「歩き方をよくして買い物に行きたい」

【倫理的配慮、説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に趣旨を説明して同意を得た。

【理学療法評価】

<術前>膝 ROM(右/左)屈曲 active70°/40°passive70°/55°伸展 active・passive-10°/-10°。脚長差なし。膝筋力(右/左)伸展

11kgf/27kgf 屈曲 3kgf/8kgf。大腿周径 0cm(右/左)42.5cm/42.5cm。歩行:左立脚期は短縮。左 double knee action は消失し、分回し様

歩行。歩行時膝痛:NRS 3/10。10m歩行:16.97秒。X-P所見:膝 OAグレード IV、FTA174°。術中角度屈曲 90°伸展-10°。

<退院時>膝 ROM屈曲 active・passive80°/85°伸展 active・passive-10°/-10°。脚長差なし。膝筋力伸展 20kgf /14kgf 屈曲 12kgf/7kgf。

大腿周径 0cm42.5cn/43cm。歩行:左立脚期は延長。左 TSt~MSwにかけて膝屈曲 ROMは拡大し double knee action出現。歩行時膝痛:NRS

1/10。10m歩行:10.34秒。

【経過とアプローチ】

術後 1日目から理学療法を開始し、炎症症状緩和のためにクーリングを徹底した。術後 2日目から左膝 ROM訓練を自動介助運動で開始し、

徐々に自動運動での ROM 訓練に移行。同時に軟部組織の瘢痕癒着予防に努めた。術後 14 日目には左膝屈曲 ROM は 65°まで改善したが、

歩行中の左 double knee action は改善が得られなかった。そこで CKC における下肢関節運動の再学習や MSt~TSt、TSt~MSw の部分的な

反復動作、歩行中の声掛けや、鏡を用いた視覚的フィードバックを行いながら運動再学習を主体としたアプローチへ移行した。術後 26日

目に歩容改善を認め、約 1.5kmの屋外歩行が可能となり、術後 33日目に自宅退院となる。

【考察】

本症例は術前から分回し様歩行を呈していた。術前評価の結果から左膝屈曲 ROM制限、膝 OAによる荷重時痛、左下肢筋力低下が分回し様

歩行を呈していた原因であると考えた。術後の目標屈曲角度は ISwにおける膝屈曲に必要である 60°から術中屈曲角度である 90°に設定

した。術後 2 週で膝屈曲 ROM60°を獲得したが歩容の改善は認めず分回し様歩行は継続していた。機能障害の改善後も分回し様歩行を呈

していた原因として、術前からの誤った運動パターンが形成されており、改善した機能に伴った歩行動作が出来ず、運動学習が不十分で

あると考えた。機能障害の改善後は重点的に運動再学習を行い、歩行動作の定着を図った。結果、本人の Demandである歩容改善を達成す

ることができたと考える。今回の症例を通じて、個々の症例に合わせた運動再学習が重要であると確認することができた。

演題 66 長期間の変形性股関節症により痛みに対する破局的思考を認めた症例

○原口玲未 1)、宮崎成美 1)、宇都啓太 1)、林勝仁 1)、福満俊和 2)、羽島厚裕 1)

1)独立行政法人国立病院機構長崎病院 2)独立行政法人国立病院機構長崎医療センター

キーワード:破局的思考 Pain Catastrophizing Scale(PCS) 慢性疼痛 【はじめに】

慢性疼痛の遷延化の規定因子には,痛みの経験をネガティブにとらえる破局的思考があり,不安や抑うつ傾向など精神心理面が関係して

いる.評価には PCS,HADS が用いられ,治療は認知行動療法が推奨されている.特に,慢性腰痛に対するエビデンスは高く示されている

が,変形性股関節症に対するエビデンスは不十分である.

今回,変形性股関節症に対し THA を施行した患者を担当した.痛みの訴えは少ないが脱臼の不安感が強かったため,運動療法に加え破局

的思考に焦点を絞り,慢性疼痛に対する認知行動療法を参考に理学療法を行った結果をここに報告する.

【倫理的配慮,説明と同意】

ヘルシンキ宣言の勧告に従い,対象者に説明し書面にて同意を得た.

【症例】

60歳代女性.BMI:20.1 kg/m2.非認知症.診断名:右変形性股関節症.術式:THA(前方アプローチ).現病歴:6年前より右股関節痛あ

り.X年,4月疼痛増悪,外出困難で 6月手術施行.術後 20日当院へ転院.デマンド:痛くなかった時のように歩きたい.

【初期評価】

基本的動作:自立,脱臼への過剰な不安あり.BI:85/100点.移動:前院にて杖歩行許可あるが恐怖感を理由に車椅子自走.安静・動作

時 NRS:1/10.PCS:24/52 点.HADS:20/42 点.股関節屈曲,外転 MMT:2.背臥位での股関節運動時に骨盤挙上や体幹側屈などの代償著

明.術側への荷重:18kg(体重比 31%).FBS:43/56点.

【介入経過】

右下肢の著明な筋力低下に対して代償を抑制し筋再学習に努め,徐々に改善を認めた.しかし,破局的思考や抑うつ傾向などの認知の歪

みが問題点であった.また,認知の歪みが脱臼や疼痛増強に対する不安感,不活動状態といった行動の歪みと直結していると考えた.そ

こで正のフィードバッグを繰り返しながら脱臼予防指導や自己分析を促すようにビデオ撮影で歩容の確認を行った.その結果,患者自身

が動作に痛みが伴わないことを理解し,脱臼肢位の認識が向上した.右下肢への全荷重可能となり院内の移動は杖歩行が自立した.

【退院時評価】

BI:100点.PCS:14点.HADS:9点.右下肢筋力 MMT:4.FBS:56点.術後 55日試験外出,術後 61日自宅退院.

【考察】

本症例は痛みに対するネガティブな発言が多く,PCSや HADSの結果からも破局的思考や抑うつ傾向を認め,恐怖―回避モデルを呈してい

た.痛みは少ないが不安感が強いという認知の歪みにより,立位時の重心偏移など行動の歪みをきたしていたため両者に対し修正を行っ

た.理学療法で正のフィードバッグを繰り返し不適切行動を訂正,破局的思考の軽減に繋がった.入院から退院までの活動量を数値で示

すような客観的指標を用い,自宅退院後も継続可能な運動処方を行うことで身体機能の維持,向上ができたのではないかと考える.

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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演題 68 ノルディックウォーキングにより姿勢の改善がみられた一症例

○安藤隼 1),永友雄大 1),松田拓海 1),大石賢 1),内田由美子 1)

1) 医療法人社団東洋会池田病院リハビリテーション部

キーワード:姿勢改善 体幹右側方偏位 ノルディックウォーキング 【はじめに】

今回,両人工膝関節全置換術後(以下両 TKA)の症例を担当した.立位時に体幹右側方偏位を呈しており原因として右脊柱起立筋の過緊張

が影響していると考えた.右脊柱起立筋に対するストレッチなどの介入を行いながら姿勢改善効果があるとされるノルディックウォーキ

ング(以下 NW)を実施した所,立位時に体幹右側方偏位の改善がみられたので,若干の考察を踏まえ報告する.

【倫理的配慮,説明と同意】

発表に対し本人へ説明と同意を得た.

【症例紹介】

対象は術後 21病日経過した両 TKAの 60代女性.介入前評価として ROM-Tで膝関節左右屈曲 95°(P), 左右伸展-5°,体幹屈曲 35°,体幹伸

展 10°,体幹左右回旋 30°,体幹右側屈 30°,左側屈 35°,左右転子果長:71cm,MMT:両下肢 4,体幹 3,脊柱起立筋筋緊張(右>左)であり立位

姿勢は体幹右側方偏位している.

【方法】

株式会社キザキ製の歩ミングポール(以下ポール)を使用.ポールの高さは身長×0.68cm.介入時の NW 時間は 5 分間から開始,疲労に応じ歩

行距離を拡大し最大 20 分間快適歩行速度にて実施.介入期間は 21 病日~36 病日.評価は体幹 ROM-T,左右脊柱起立筋筋緊張の触診(以下筋

緊張),下肢荷重率,10m歩行時間,姿勢観察を 5 日置きに測定.姿勢観察は症例の両側肩峰,上前腸骨棘を結んだ線と正常な重心アライメン

トに対する両側の肩峰,上前腸骨棘を結んだ線を比較する.

【結果】

26 病日:ROM-T:体幹屈曲 35°,伸展 10°,左右回旋 30°,側屈右 30°,左 35° 筋緊張(右>左) 荷重率:Rt60.9%,Lt39.1% 10m 歩行時

間:13.24秒,23歩 姿勢観察:右肩峰がやや下制しており,両側上前腸骨棘を結んだ線に差異はなかった.

31 病日:ROM-T:体幹屈曲 40°,伸展 20°,左右回旋 35°,側屈右 30°,左 35° 筋緊張(右>左) 荷重率:Rt56.4%,Lt43.6% 10m 歩行時

間:9.59秒,18歩 姿勢観察:26病日と比較し右肩峰が基準線に近づいており,両側上前腸骨棘を結んだ線に差異はなかった.

36 病日:ROM-T:体幹屈曲 40°,伸展 20°,左右回旋 35°,左右側屈 35° 筋緊張(右=左) 荷重率:右 51.0%,左 49.0% 10m 歩行時間:7.25

秒,16歩 姿勢観察:31病日と比較し右肩峰は基準線とほぼ均等になり,両側上前腸骨棘を結んだ線に差異はなかった.

【考察】

2 本のポールを使用することで両下肢荷重がほぼ均等になり体幹伸展が助長され,左右脊柱起立筋の均等な収縮が得られた.よって右脊柱

起立筋への負担が軽減され,体幹右側方偏位改善に繋がり,立位姿勢でも効果が持続したと考える.また歩行速度,歩数の短縮も姿勢の変化

に伴う要因が付加されたと考える.

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第 28 回長崎県理学療法学術大会 in 島原

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<準備委員会>

<準備委員> 五十音順

学会準備委員会 塩塚 順 会長 浦川 純二 理事

準備委員長 脇屋 光宏 (長崎県島原病院)

学術部 部 長:中川 浩一 (松岡病院) 副部長:小嶋 晃生 (松岡病院)

資料部 部 長:大久保真里 (泉川病院) 副部長:平田 美和 (柴田長庚堂病院)

渉外部 部 長:田中 拓郎 (貴田神経内科病院) 副部長:木原 忠寿 (貴田神経内科病院)

庶務部 部 長:前田 和崇 (長崎県島原病院) 副部長:松尾 大輔 (長崎県島原病院)

来賓担当 担 当:中野 俊史 (柴田長庚堂病院)

演題抄録アドバイザー 担 当:浦川 純二 (長崎県島原病院)

駐車場担当 担 当:中野 仁史 (池田病院)

国際渉外委員会 担 当:禹 炫在

(ウ ヒョンジェ) (長崎記念病院)

大会長 田中 健 (泉川病院)

受付担当 担 当:塩田 織衣 (池田病院)

運営部 部 長:野口 浩孝 (池田病院) 副部長:林田 浩司 (泉川病院)

<学術大会事務局>

長崎県島原病院 リハビリテーション科

〒855-0861 島原市下川尻町7895番地

TEL 0957-63-1145 FAX 0957-63-4864

荒木壮太 内田由美子 金子正 菅有希 田邊花倫 林田華香 松本大生 山口華加

荒木龍也 江川純平 北川聖 高倉聡 寺田和彦 平川光一 宮崎健史 山﨑公子

有村圭司 大石和也 久保田純平 高松征己 鳥居健太 平山美貴 森崎楓 山﨑太一朗

伊崎将悟 大木健至 児玉恵莉奈 髙屋光喜 中村知子 本田憲一 門司健助 吉田健人

石橋賢吾 大島栞 小嶺侑矢 田川南 西森恵麻 牧野司

内田薫 小川義博 柴田亮成 田中佳奈 橋本紘史 松原健太