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センターニュース
108Vol.29 No.2,2010
分析機器解説シリーズ(108)
オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社 森田 博文
カソードルミネッセンス分光装置
分析機器解説シリーズ(108)
◆カソードルミネッセンス分光装置 ……………………………………………… P1オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社 森田 博文
◆お知らせ …………………………………………………………………………………………… P8
トピックス
◆最新の液中ナノ粒子解析装置 粒子径分布・ゼータ電位・分子量測定を1台に集約 ………… P5
株式会社 堀場製作所 分析アプリケーションセンター 伊串 達夫
は じ め に
カソードルミネッセンスの原理
カソードルミネッセンス装置の構造
収 集 条 件
GaNの応用例
CdZnTeの応用例
薬剤へのCLの応用例
ルビーへの応用例
太陽電池への応用
ジルコンの応用例
プラズモンの応用
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カソードルミネッセンス(CL;Cathodoluminescence)
の歴史は比較的古く、古くから電子線を真空中で試料にあ
てると光が放出されることが知られており、�9世紀の中
ごろにはカソードルミネッセンスとして研究が始まった。
テレビのブラウン管もその応用のひとつであったが、最近
は薄型テレビの普及でブラウン管も影が薄くなってきてい
る。替わってLEDやレーザー素子の開発などでCLが使わ
れるようになってきており、CLの技術そのものは電子顕
微鏡付属のひとつの分析装置として、半導体物性、光素
子、鉱物などの評価装置として広く普及している。
今回中央分析センターに電顕付属用のカソードルミネッ
センス分光装置としてGatan社製「MonoCL4」が導入さ
れたので、この紹介も兼ねて解説する。
は じ め に
カソードルミネッセンスの原理
カソードルミネッセンス装置の構造
収 集 条 件
GaNの応用例
CdZnTeの応用例
薬剤へのCLの応用例
ルビーへの応用例
太陽電池への応用
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電子顕微鏡の中または真空中で加速されて試料に照射さ
れる電子は、試料内部で散乱されて、エネルギーを連続X
線、特性X線、二次電子、反射電子、オージェ電子などの
形で失っていく。特性X線は原子の内殻電子が入射した電
子によって弾き飛ばされてその外側の電子が入ることで出
てくるエネルギーに相当するが、CLでは外殻の電子の励
起によって発生する電子・正孔対が関与する。(図�)
この電子・正孔対は比較的エネルギーが高いので、さ
らに多数の電子・正孔対を作る。その後に電子・正孔対
は再結合をして、結果的に再結合のエネルギーをフォトン
(Photon)として放出することになる。このエネルギーは
数eV程度であり、紫外域から赤外域の光に相当し、CLの
光として観測される。検出器や分光器のこの光を検出・分
析するわけであるが、検出器や分光器の感度範囲の限界か
ら、CL光の測定範囲は、大体200nm~�700nmの波長域
になる。
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カソードルミネッセンスの原理
カソードルミネッセンス装置の構造
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CL装置は、大きく分けて、光を集光するミラーおよび
その光を送るライトガイド、CL光を分光する分光器、光
をフォトンカウントとして計測する光電子増倍管(PMT;
Photomultiplier Tube)とに別れる。集光ミラーは、通常
試料の上を覆うような位置に置かれ、CL光を反射させて
ライトガイドの筒の中を平行光として進ませるために、パ
ラボラの形状に加工されている。照射する電子線はミラー
に開けられた�mm径ほどの穴を通って試料にあたるよう
になっている。ライトガイドを通った光は分光器に入り、
分光器の中にあるグレーティングで波長ごとの光に分散さ
れる。グレーティングと光の角度、グレーティングの種類
によって光の分散のされ方が変わるので、グレーティング
を連続的に動かしていけば、特定の波長のCL光だけを計
測することができる。このような構造の分光器をCzerny-
Turner分光器と呼んでいる。
またライトガイドを通った光を分光器を通さずにPMT
に入れてしまえば、PMTに入ってくる光のうちPMTで
計測できるフォトンをカウントできる。走査型電子顕微
鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)では、この
PMTで計測されたフォトンのCL像を収集することができ
て、分光器を通って特定の波長だけのCL像になったもの
は「モノクロマティック像(monochromatic image)」、分
光器を通らないで収集されたCL像は「パンクロマティッ
ク像(panchromatic image)」と呼ばれている。モノクロ
マティック像の波長域は、分光器のグレーティングの仕様
と分光器に付随しているスリットの幅で決まるので、モノ
クロマティックCL像収集時には確認しておかなければな
らない。PMTは目的の波長域に応じていくつも種類がある
が、波長域では「紫外域~可視光域」と「赤外域」の大ま
かに別れる。また赤外域では、PMTではなく、ダイオード
素子の検出器をつかうこともある。
なお、CLでは、光が比較的長く持続する試料が多く、
一般的にはCL像の収集はSEM像収集に比べてかなり長い
時間の収集が必要になる場合が多い。またカウント数が少
ない場合にCL像をきれいにとるためにも長いスキャン時
間が必要になることがある。CLでは�画像あたりの収集時
間を�0分もかけて収集することもあることに注意が必要
である。
CL像とは別に、グレーティングの位置を連続的に変化さ
せていってPMTでフォトンをカウントしていけばCLのス
ペクトル収集を行うことができる。波長範囲とステップ/
時間を指定すれば自動で収集してくれるが、ここでも「モ
ノクロマティック像」と同じように巣スリット幅とグレー
ティングの仕様で決まる波長分解能があるので、必要な分
解能を満たして収集しているかどうかの確認が必要である。
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CLの大きなアプリケーションのひとつとして、GaN/
InGaNなどの半導体が上げられるが、これらのCL光は比
較的発光が強くかつCL像の空間分解能が比較的高いため
に、SEMの加速電圧を�~5kVぐらいで収集することが多
い。CL像の空間分解能は、電子・正孔対が再結合するま
での拡散長と照射電子の試料内での散乱の両方で決まって
くるが、加速電圧を比較的低くすることで、試料内での照
図1 電子線による励起の模式図照射電子線で励起された内殻電子と外殻電子の例。内殻電子への電子の遷移は特性 X 線を放出し、外殻電子での電子・正孔対の再結合のうち発光するものが CLとして検出される。
図2 分光器の構造の模式図図の右側から分光器に入った光は M 字型の経路を反射していき、途中のグレーティングで波長ごとに分散されて特定の波長の光が検出器に入っていく。
図3 集光ミラーの構造の模式図試料から出た光はパラボラミラーで平行光になる。
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分析機器解説シリーズ(108)
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射電子の散乱領域を押さえてCL像の空間分解能をあげる
ことができる。鉱物や他の半導体材料でも発光が十分であ
れば�~5kVの加速電圧で空間分解能を上げるのが普通で
ある。必要な電流は試料によって様々であり、発光しやす
い素子や蛍光体などは�00pA程度でも十分光るが、発光
しづらい試料や試料表面が光を吸収する薄膜に覆われてい
るような場合は�00nAぐらい必要な場合もある。発光強
度、空間分解能、チャージアップ、電子ビームによる試料
ダメージのバランスを考えて収集条件を決定していく。具
体的に加速電圧が�~5kVの場合のGaNのCL像を図�に
示す。低加速で高分解能のCL像が得られている。
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実際にGaNの試料のCL像を(図4)に示す。白く見え
るところが発光している領域であり、黒い点はGaNの結晶
欠陥に基づく発光の弱い箇所である。小さな黒い点の直径
を測ると80nm程度である。GaNでは�00nm以下の空間
分解能のCL像が得られるので、この黒点の数を数えれば、
欠陥の面密度を求めることができる。
またGaNの断面のCL像を見ると、GaNの成長の様子が
はっきりとわかる。(図5)
さらに分光器を使って特定の波長のCL像(モノクロマ
ティックCL像)をみると、波長から発光の由来が推測さ
れ、図6の例では、Ban Gap(�57nm)、Dislocation欠陥
由来(�76nm)、Stacking Fault由来(�86nm)のそれぞ
れの分布が異なり、GaN成長に関する重要な情報をCL像
から得ることができる。
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CdZnTeもCLでよく知られた材料であり、図7に示すよ
うにCL像にはSEM像やEDXの元素マップでは見えにくい
特徴的な像が得られる。CL像の分解能は�μm程度であ
図3 加速電圧による CL 像の違い(試料 GaN)
図5 GaN の断面方向のパンクロマティック CL 像断面方向で CL 像を見ると成長の様子がはっきりとわかる。
図6 GaN の断面方向のモノクロマティック CL 像
図4 GaN のパンクロマティック CL 像スケールバーは 2μm。100nm 以下の黒点(欠陥)が明瞭に見える。
図7 CdZnTe の CL 像100 倍、500 倍、2000 倍のパンクロ像。CL 像でしか得られない特徴的なコントラストが見える。
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るが他の分析方法では得られないコントラストが得られる
ために、多くの材料の分析に使われている。
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有機物質もCLでは緑色の光を中心に発光することが知
られている。多くの場合は照射する電子線によるダメー
ジが大きく長時間のCL観察は難しいが、比較的短時間で
あったり加速電圧、電流を抑えてCL観察を行えばある程
度有用な情報を得られるケースもある。図8に示すのは
キャリアーに薬剤をまぶした状態をCLで観察した例であ
る。この薬剤の光り方とキャリアーの光り方が異なるため
に、薬剤の分布状態を短時間で見ることができた例である。
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ルビーもCLで強い発光が観察できる試料であり、特に
Cr�+の分布によって69�nmあたりに2つのピークが出る
ことが知られている。この2つの波長が近いため、CLの
スペクトルを収集すると2つのピークのすそが重なり合っ
てしまう。このような場合はそれそれのピークをガウス関
数として近似してピーク分離行えばピーク位置、強度、半
値幅のデータを定量的に得ることができる。(図9)
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近年、環境問題への関心の高まりから太陽電池もその中
のひとつとして注目を浴びている。特にCIGS系の太陽電
池はCLで数多く分析されていて、CIGSをCL像で確認し
て成長過程や太陽電池としての変換効率との関係を探るた
めに使われている。
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鉱物のひとつであるジルコンのCL像では、縞模様が見
られることが多く、この縞模様の構造を調べることで、鉱
物の年代や履歴に関する情報を得られる。この分野では、
CL像はその後の質量分析装置やEDX、WDXなどの元素分
析を行うための位置決め画像として使われることが多く、
まずCL像を収集して、次に行うより高倍・光精度の分析
には不可欠な分析装置として使われている。
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従来、金属はCLをしない材料とされてきたが、実際に
はプラズモンの発光が若干ある。このプラズモンを使って
新しい応用を模索している。プラズモンは、照射された電
子線によって金属内に発生する自由電子の波のようなもの
であるが、電子顕微鏡でナノ粒子をたたくことでプラズモ
図9 ルビーのピーク分離例約1.2nmしか離れていないピークをガウス関数で近似してピーク分離行っている。
図10 CIGS の SEM 二次電子像と CL 像CIGS の変換効率が13.0%と19.9%の CL 像が異なることがわかる。変換効率の高いほうは CIGS 結晶粒界での発光が弱くなっていないことがわかる。
図11 ジルコンのパンクロマティック CL 像CL 像の縞の数や形で次の分析のための位置決めの情報が得られる。
図8 有機物(薬剤)の CL 像の例キャリアーと薬剤とで CL の発光が異なるため、分布状況が CL 像で簡単に判別できた例。
(4) (5)
ンの共鳴の様子を光として得ることができる。
図�2はSi上のAuナノ粒子であり、長さが�μm弱ある。
このAuナノ粒子を電子線でたたくと、たたく場所によって
得られる光の波長と強度が異なり、波長ごとに強度のマッ
ピングをとってみると波長と位置の関係がはっきりとわか
る。これはまだ始まったばかりの応用例であり、これから
の新しいCLに分野として注目されているものである。
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12CLは電子線で光る材料であればどんなものでも分析対
象になり、半導体や発光素子の開発はもちろん、セラミッ
クス、鉱物、有機物質までも含む非常に応用範囲の広い分
析装置である。しかも従来は除いていた金属材料に関して
もナノテクノロジーの発達とともにプラズモンという新し
い応用分野が開かれようとしている。歴史的には古いCL
だが、これからの新しい材料や技術の革新のために光を
使った分析装置としてますます必要とされていくものと確
信している。
参考文献(�) C. E. Norman, Proc. BIAMS 2000, Solid State
Phenomena Vols 78-79, �9-25, (2000), Scitec Pub Ltd, eds. Tomokage and Sekiguchi.
(2) K. Fleischer, M. Toth, M. R. Phillips, J. Zou, G. Li. and S. J. Chua,Appl. Phys. Lett. �999, 74 (8) ���4
(�) Marchall, J.(�988) Cathodoluminescence of geological materials, Unwin Hyman (Boston), �-�46
(4) S imon Ga l l owa y, H i gh Spa t i a l R e so lu t i on Cathodoluminescence, 2002, Gatan Inc.
(5) E J R Vesseur, R de Waele, M Kuttge, and A Polman. Nano Lett., 2007, 7 (9), 284�-2846
図12 プラズモンの応用例Si 上の Au ナノ粒子。592nm、640nm、730nm の各波長と強度が、Au ナノ粒子を電子ビームでたたく位置によって変わっていることがわかる。
トピックス
株式会社 堀場製作所 分析アプリケーションセンター 伊串 達夫
最新の液中ナノ粒子解析装置粒子径分布・ゼータ電位・分子量測定を1台に集約
1.はじ め に
原子・分子レベルで物質を制御することにより新たな機能
を発現させるナノテクノロジーの研究開発は、食品、化粧品、
ライフサイエンス分野にまで身近に浸透しつつある。こうした
ナノメートルレベルでの制御や評価には、粒子の大きさやその
分散安定性の評価が不可欠である。
本稿では、最新の装置(㈱堀場製作
所 ナノ粒子解析装置 nano partica
SZ-�00)を例にナノ粒子のキャラク
タリゼーションを正確かつ簡単に評価
する方法と測定事例を概説する。
2.� � � �� � � �
■2-1 粒子径測定粒子径測定は、光子相関法を原理としている。光子相関法に
よる測定原理を図�に示す。ブラウン運動している粒子にレー
ザ光を照射し、粒子からの散乱光を光電子倍増管で検出する。
分析機器解説シリーズ(108)/トピックス
図1 光子相関法による粒子径分布原理図
トピックス
(6) (7)
大きな粒子ほど遅く、小さな粒子ほど速くブラウン運動をして
いるので、粒子からの散乱光は、この動きの速さに応じた自己
相関関数が得られる。この自己相関関数から粒子の拡散係数分
布を求め、拡散係数からストークス・アインシュタインの式よ
り粒子径分布を算出する[�,2]。
■2-2 ゼータ電位測定(電気泳動法)溶液中に分散している粒子は、極性媒質と接するとその表面
は帯電する。生成した界面電荷と反対符号場方向へ電荷量と比
例した速度で移動する。図2のように移動している粒子に光を
照射すると移動速度に応じて、周波数が変化した散乱光が観察
される。この散乱光の周波数変化量を測定することで、粒子電
気移度速度を求め、電荷からゼータ電位を算出する[�]。
■2-3 分子量試料濃度を変化させたときの90度方向の散乱光強度変化か
らDebyeプロットにより試料の重量平均分子量と第二ビリアル
係数を求める。�×�0�~2×�07の分子量を測定することがで
きる[�,2]。
3.����������
最新の装置例としてnano particaの装置外観を図�に、光学
系レイアウトを図4に示す。nano particaは、卓上で�台�役
で粒子径や分子量とゼータ電位を簡単にかつ高感度・高精度
分析することができるように工夫されている。
■3-1 粒子径測定 測定範囲:0.�nm~8μmシングルナノからミクロンオーダまで測定するために、最速
40ns高速サンプリングとフィボナッチ数列サンプリング自己
相関器の開発により、高精度でワイドなダイナミックレンジ測
定ができるようになっている。また図4に示すように高感度の
PMT検出器を用いて低信号(低濃度、シングルナノ粒子)試
料は光ノイズの低い90度で、高濃度試料は試料表面の散乱光
が測定できる�7�度で検出する独自の光学系により、ppbオー
ダから数十%までの幅広い濃度を�2μLからの試料容量で測
定を可能にしている。
■3-2 ゼータ電位測定 測定範囲:-200~200mV電気浸透流の影響が少なく、セル取り扱いが容易で測定後試
料回収が行いやすい新ディスポーザブル電気泳動セルにより、
わずか�00μLの試料量で再現性の良い測定を実現している。
■3-3 シンプルで簡単な操作複雑な測定パラメータ入力を簡単にするために、①測定の種
類(粒子径・ゼータ電位・分子量)を選び、ナビゲーションに
したがって溶媒や試料情報を入力する。②試料が入ったセルを
セット後、測定開始のボタンを押す。だけの操作で完了する。
こうした明瞭かつシンプルな操作で、測定経験がなくても簡単
に最適条件での測定を実現している。での測定を実現している。の測定を実現している。
■3-4 測定精度・性能保証粒子径測定、ゼータ電位ともに絶対測定法のため、原理上
装置の校正は不要である。装置のバリデーションは、HORIBA
で認定した標準試料を用いて、精度および再現性を確認しを確認し確認しし
ている。特に粒子径精度と再現性については、ISO���2�:
�996、JIS Z 8826:2005に準拠し、精度はキュムラント平
均径±2%以内、再現性測定は、±2%�満を実�している。�満を実�している。を実�している。
4.������������������
■4-1 散乱光基準粒子径分布粒子径測定範囲が広いため、多重ピークが測定されたときの
測定結果の解釈には、注意が必要である。動的光散乱は散乱
光を基準とした粒子径分布を測定する。すなわち、表示される
粒子径分布は、体積や個数ではなく、各粒子径の散乱光強度
頻度分布を表している。ナノの領域になると、Rayleigh散乱領
域になり、散乱光強度は粒子径の6乗、体積の2乗に比例する[4]。したがって、2種類の粒子を等体積で混合した場合、たと
えば粒子径が�0倍異なる粒子が混在していると、それぞれの
粒子径散乱光の信号強度比が�:�00となり、大きい粒子の粒
子径分布を実質測定することになる。混合試料測定例として2ことになる。混合試料測定例として2になる。混合試料測定例として2
種類の単一粒子径ポリスチレンラテックス粒子(PSL)(20nm
図3 ナノ粒子解析装置 nano partica SZ-100 シリーズ外観
図2 電気泳動法によるゼータ電位測定原理図
図4 nano partica SZ-100 光学系レイアウト図
(6)
トピックス
(7)
と�00nm)を質量比�:�で混合した試料の測定結果を図5に
示す。このように散乱光基準の粒子径分布を測定するので、粒
子径の大きな粒子ほどより敏感に測定される。
■4-2 シングルナノ粒子径測定例光学系の改良でシングルナノ粒子が簡単に測定できるように
なっている。シングルナノ粒子測定例として、図6にグルコー
スを図7にビタミンB-�の粒子径測定結果を示す。ぞれぞれ
0.6nmと0.4nmの粒子径が観察されている。
■4-3 ゼータ電位標準試料標準電気泳動度試料NIST SRM�980 α-FeOOHのゼータ電
位の精度測定例を図8に示す。NIST SRM�980の電気泳動度測定例を図8に示す。NIST SRM�980の電気泳動度例を図8に示す。NIST SRM�980の電気泳動度
規格は2.5�±0.�2μm・cm/V・sである。測定の結果、電
気泳動度は2.5�(μm・cm/V・s)、ゼータ電位に換算すると
�2.9(mV)と規格を満たしている。ゼータ電位の測定は、試
料と試料室との温度差による対流やセル壁に試料が吸着する
などで、試料をセルに入れてから安定するまでに時間がかかる
ことがあるので注意が必要である[5]。
■4-4 粒子径と等電点測定例コロイダルシリカの粒子径測定と等電点測定例を図9、�0に
結果を示す。等電点はpHコントローラにて自動的にpHを変化
させて測定を行うことができる。
■4-5 標準分子量測定例分子量測定のバリデーションには標準ポリマー(TSK標準ポ
リスチレン:東ソー)を使用する。図��に分子量 96,400と
�,000のポリスチレンポリマーのベンゼン溶液をDebyeプロッ
トした結果を示す。
図6 グルコース粒子径測定結果測定試料:グルコース 純度 99.9% 分子量180.2、試料濃度:300mg/mL測定条件: 温調設定:25℃、分散媒:水、分散媒屈折率:1.333、 粘度:1.81、分布表示基準:体積基準
図7 ビタミン B1 の粒子径測定結果測定試料:Vitamin B1 分子量 337.27、試料濃度:300mg/mL測定条件: 温調設定:25℃、分散媒:水、分散媒屈折率:1.333、 粘度:1.68、分布表示基準:体積基準
図8 NIST SRM1980 ゼータ電位測定結果測定試料: α-FeOOH NIST SRM1980 Mobility=2.53±0.12μm・cm/V・s、
pH2.5、試料濃度0.050mg/mL測定条件:温調設定:25℃、分散媒:水、分散媒屈折率:1.333
図5 20nm と 100nm の PSL 体積比 1:1 の散乱光基準の測定結果
測定試料: Thermo Scientific 製ポリスチレンラテックス:21nmと 97nm 質量比1:1 混合試料
測定条件: 測定温度:25℃、分散媒:超純水、分布表示基準:散乱光基準、 濃度:0.1mg/mL
図 9-1 コロイダルシリカ粒子径分布測定結果 図9-2 コロイダルシリカ SEM 像測定試料:Ludox SilicaR TM-50 水溶液、試料濃度:20mg/ml測定条件:設定温度:25℃、分散媒:水、分散媒屈折率:1.333、分布表示基準:散乱光基準測定結果:平均粒子直径、40.4(nm)
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九州大学中央分析センターニュース
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第108号 平成22年4月30日発行
トピックス
(8)
5.� ��に� ��に
従来測定が困難であったシングルナノ粒子の粒子径やゼー
タ電位測定がナノ粒子解析装置nanopartica SZ-�00で、セル
に試料を入れて装置にセットするだけの簡単な操作で測定が可
能になっている。従来ナノ粒子の粒子径のみならず、凝集や分
散の安定性の研究開発や実用化の促進に寄与することを期待
する。
参考文献[�] Renlinag Xu : Paritcle Characterization : Light Scattering
Methods(2000), Kluwer Academic Publishers
[2] 坂下 寛文:「粒系解析(動的光散乱)法の基礎」分析センターニュース、Vol. 28、No. 4(�06号)(2009年).
[�] 北原文雄、古澤邦夫、尾崎正孝、大島広行:ゼータ電位 微粒子界面の物理化学(�995)、サイエンスティスト社
[4]高橋幹二:エアロゾル学の基礎(200�)、森北出版
[5] ゼータ電位利用集 基礎/測定/解釈・濃厚/非水系・分散安定等(2008)、情報機構
図10 コロイダルシリカ 等電点測定結果測定試料:Ludox Silica TM-50 with 0.01mol/L KCl、試料濃度:0.1mg/mL測定結果結果:等電点 pH4.0 図11 TSK 標準分子量ポリスチレンのベンゼン溶液の Debye
プロット結果測定結果: 分子量 96,400 試料:分子量 95,000、第二ビリアル係数 5.7×10-4、 分子量1000 の試料:分子量 860、第二ビリアル係数 4.0×10-4
1)新設装置 以下の装置が平成2�年度に導入されました。
・超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡 (日立ハイテクノロジー ズ製 SU8000)・低真空分析走査電子顕微鏡 (日立ハイテクノロジー ズ製 SU6600、EDX/WDX/EBSD/CL 付属)・イオンミリング装置(日立ハイテクノロジー ズ製 E-�500)・フラットミリング装置(日立ハイテクノロジー ズ製 IM-�000)・カーボンコーティング装置(サンユー電子製 SC-70�C)・顕微レーザーラマン分光装置 (堀場製作所製 LabRAM ARAMIS)・大型サンプル対応プローブ顕微鏡 (日本ビーコ製 Dimension Icon)・環境制御機能搭載プローブ顕微鏡 (アジレント製 Agilent5500)
2) 既存装置のバージョンアップ等は以下の通りです。使いやすくなっています。
・島津製作所製SEM(SS550)のPC → Windows XPに変更・ICPMS(Agilent7500c) → オートサンプラーを追加・日本分光製FT/IR-700 のPC → Windows XPに変更・日本分光製FT/IR-620 → データベースの追加(繊維・無機化合物・ヒュンメル高
分子・メルク/サドラー試薬)データベース追加の特典として期間限定(6月中旬まで)でサドラーデータベース22万件を利用できます。・日本電子製SEM(JSM670�F) → 反射電子検出器を追加・エリオニクス製SEM(ERA8900) → エネルギー分散型X線分析装置を追加・リガク製XRD(MultiFlex) → 粉末X線解析ソフトウェアを導入
お�知�ら�せ