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図解によるコトの価値の共同発見 研究副題目 英文主題目・副題目 Co-discovery of Affair’s value using the Mapping 岡本誠 1) 蓮池公威 2) 髙木友史 2) 中野颯 3) Makoto OKAMOTO 1) Kimitake HASUIKE 2) Tomohito TAKAGI 2) Hayato HANANO 3) 1)公立はこだて未来大学 2)富士ゼロックス株式会社 3)公立はこだて未来大学大学院 Abstract : A hint with the future design is in the people's daily living. But it's difficult to know the people's living world. An affair is described subjectively, and it's necessary that a designer and a design partner cooperate and make recognition deepen. Mapping cooperates, and there is a possibility that it's possible to find the value. A way of several Mapping was tried and the effect was considered. Key Word : Partcipatory Design, KOTOHIROIZU, Co-discovery 1.背景と問題意識 具体的で根拠を持って未来の暮らしやサービスを提案するこ とは容易ではない.未来の暮らしを変えるイノベーションは,将 来にわたって人の暮らしを支援するコンセプトを持つことが大 切である.技術の進展は,益々激しくなり,人が技術の進展を追 いかける状況は益々加速している.シーズ主導の未来ビジョンの 提案を目にする事は多いが,人(自分)の居ない世界のような気 がする. 未来の活動のデザインのヒントは,生活者の日常の暮らしの中 にある.暮らしの中で生活者が感じている価値観・課題・夢・認 識など経験世界の現実を理解する事が未来を考える一歩である. 生活者の経験世界を理解する事は,生活者の深層世界を理解する だけでなく生活者と周囲の人や環境との相互関係を理解するこ とである.しかし,多義性のある出来事を理解し記述する事は難 しい.出来事は,「ある道具のボタンが押された」と客観的に記 述できるモノに対する理解の仕方と,その行為に参与した人々の 価値観・課題・夢・認識という主観(コトの世界)が混在してい るからである.コトは,客観的に記述できるものだけではなくて, コトに関係する当事者や観察者の主観によって記述されるもの である.生活者は,デザインについて自分の生活を振返る動機も 視点も意識しない.一方観察者には,仮説や思い込みもあり,一 方的なインタビューや観察では生活者の経験世界を理解したと は言えない.コトを記述する為には,生活者と観察者が共同で行 うことが必要であり,デザインの洞察につながる気づきは,コト を記述する課程で「共同で発見する」ことによって見いだす事が できると考える(図1).共同でコトの中で意味付けられる気づ きを発見するには,両者の認識を共有する図化が有効と考える. 図1 共創の概念図 2.研究目的 この研究の目的は,参加型デザインの考え方を基盤にした共創 と図化の手法が,デザインの対象となる活動(コト)の理解や更 に気づきの発見,あるいは新たなコトの創造のためにどのような 効果があるかを授業実践の分析から明らかにする事である. 3.実施方法と特徴 企業の研究部門と連携し,実験的なデザインの授業を行った. テーマは,函館で働く人とデザインを学ぶ学生が共同して10年 後のワークスタイルをデザインすること(タイトル:future workstyle2025)とした.4カ所のフィールドで働く人(デザイ ンパートナ,函館市内で興味深い仕事をしている人)と学生(日 本人と台湾でデザインを学ぶ学生)の共同作業で行い,そこから 得られた洞察から未来の仕事を提案した.デザインパートナは, デザインに参加してくれる当事者のことである [1] 1 日目:函館の4カ所の仕事場を訪問し,インタビューと観察調査 2日目:1日目の振返りの後,仕事場を再訪問し参加型の調査を実施 3 日目:調査のまとめとストーリーテリング 4 日目:Insight 抽出と Future シナリオの作成,箱庭法による可視 化,最終発表 デザインパートナと学生が一緒になってパートナの仕事を理 解し気づきを発見するために,以下のデザインを援助する仕掛け を用意した. 1) 図化・事拾図 [2] 事拾図(ことひろいず)は,出来事をデザインパートナと一緒に 拾い集める方法であり,コトの全体を観察・洞察・表現・共有す る方法として考案したものである [2] .人物を描写するスケッチや 関係者の相互作用を記述する図,時間軸を記述する図,デザイン する学生同士が状況を理解する図などが生成された. 2) シーンの表現:箱庭法・PPT 紙芝居 「箱庭法」は,スチレンボードの上に登場人物,ステージ(部屋 や建物),道具類を置き,未来の活動(コト)を描く方法として 考案した(図2).スチレンボードの板は加工しやすく,また板 の上に雑誌の切り抜き等を貼る事によって,人物やモノを含めた 活動のシーンを容易に描くことが出来る.箱庭で活動シーンを作

図解によるコトの価値の共同発見 - Fuji Xerox · 図解によるコトの価値の共同発見 研究副題目 英文主題目・副題目 Co-discovery of Affairʼs value

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図解によるコトの価値の共同発見 研究副題目

英文主題目・副題目 Co-discovery of Affair’s value using the Mapping

岡本誠 1) 蓮池公威 2) 髙木友史 2) 中野颯 3) Makoto OKAMOTO1) Kimitake HASUIKE2) Tomohito TAKAGI2) Hayato HANANO3) 1)公立はこだて未来大学 2)富士ゼロックス株式会社 3)公立はこだて未来大学大学院Abstract : A hint with the future design is in the people's daily living. But it's difficult to know the people's living world. An affair is described subjectively, and it's necessary that a designer and a design partner cooperate and make recognition

deepen. Mapping cooperates, and there is a possibility that it's possible to find the value. A way of several Mapping was tried and the effect was considered.

Key Word : Partcipatory Design, KOTOHIROIZU, Co-discovery

1.背景と問題意識

具体的で根拠を持って未来の暮らしやサービスを提案するこ

とは容易ではない.未来の暮らしを変えるイノベーションは,将

来にわたって人の暮らしを支援するコンセプトを持つことが大

切である.技術の進展は,益々激しくなり,人が技術の進展を追

いかける状況は益々加速している.シーズ主導の未来ビジョンの

提案を目にする事は多いが,人(自分)の居ない世界のような気

がする.

未来の活動のデザインのヒントは,生活者の日常の暮らしの中

にある.暮らしの中で生活者が感じている価値観・課題・夢・認

識など経験世界の現実を理解する事が未来を考える一歩である.

生活者の経験世界を理解する事は,生活者の深層世界を理解する

だけでなく生活者と周囲の人や環境との相互関係を理解するこ

とである.しかし,多義性のある出来事を理解し記述する事は難

しい.出来事は,「ある道具のボタンが押された」と客観的に記

述できるモノに対する理解の仕方と,その行為に参与した人々の

価値観・課題・夢・認識という主観(コトの世界)が混在してい

るからである.コトは,客観的に記述できるものだけではなくて,

コトに関係する当事者や観察者の主観によって記述されるもの

である.生活者は,デザインについて自分の生活を振返る動機も

視点も意識しない.一方観察者には,仮説や思い込みもあり,一

方的なインタビューや観察では生活者の経験世界を理解したと

は言えない.コトを記述する為には,生活者と観察者が共同で行

うことが必要であり,デザインの洞察につながる気づきは,コト

を記述する課程で「共同で発見する」ことによって見いだす事が

できると考える(図 1).共同でコトの中で意味付けられる気づ

きを発見するには,両者の認識を共有する図化が有効と考える.

図 1 共創の概念図

2.研究目的

この研究の目的は,参加型デザインの考え方を基盤にした共創

と図化の手法が,デザインの対象となる活動(コト)の理解や更

に気づきの発見,あるいは新たなコトの創造のためにどのような

効果があるかを授業実践の分析から明らかにする事である.

3.実施方法と特徴

企業の研究部門と連携し,実験的なデザインの授業を行った.

テーマは,函館で働く人とデザインを学ぶ学生が共同して10年

後のワークスタイルをデザインすること(タイトル:future

workstyle2025)とした.4カ所のフィールドで働く人(デザイ

ンパートナ,函館市内で興味深い仕事をしている人)と学生(日

本人と台湾でデザインを学ぶ学生)の共同作業で行い,そこから

得られた洞察から未来の仕事を提案した.デザインパートナは,

デザインに参加してくれる当事者のことである[1].

1 日目:函館の4カ所の仕事場を訪問し,インタビューと観察調査

2日目:1日目の振返りの後,仕事場を再訪問し参加型の調査を実施

3日目:調査のまとめとストーリーテリング

4 日目:Insight 抽出と Future シナリオの作成,箱庭法による可視

化,最終発表

デザインパートナと学生が一緒になってパートナの仕事を理

解し気づきを発見するために,以下のデザインを援助する仕掛け

を用意した.

1)図化・事拾図[2]

事拾図(ことひろいず)は,出来事をデザインパートナと一緒に

拾い集める方法であり,コトの全体を観察・洞察・表現・共有す

る方法として考案したものである[2].人物を描写するスケッチや

関係者の相互作用を記述する図,時間軸を記述する図,デザイン

する学生同士が状況を理解する図などが生成された.

2)シーンの表現:箱庭法・PPT紙芝居

「箱庭法」は,スチレンボードの上に登場人物,ステージ(部屋

や建物),道具類を置き,未来の活動(コト)を描く方法として

考案した(図 2).スチレンボードの板は加工しやすく,また板

の上に雑誌の切り抜き等を貼る事によって,人物やモノを含めた

活動のシーンを容易に描くことが出来る.箱庭で活動シーンを作

BULLETIN OF JSSD 2016 日本デザイン学会 デザイン学研究46

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図2 箱庭法 シーン撮影の方法 り,シーンを撮影した写真を組み合わせて紙芝居風にしたものが

「PPT紙芝居」である.

4.結果

1)言葉のインタビューと迷い

下記の対話記録は,建築家の家で建築家と学生がインタビュー

した記録である.調査のノービスである学生は,フレームワーク

も作れず,デザインパートナの力も活かすことが出来ない.共同

理解や共同発見は起きにくく,話は迷走した.

学生:「建築ってどうやるんですか?」

建築家:「え,どこから説明しよう...」

フレームワークが無くてどんどん横道に逸れて行く

逸れたまま,元に戻れない

学生が理解したことを確認しない

学生:「(仕事で)大切にしていることは?」

ポリシーの話に移る

「へえ」や「ふーん」で話が終る

学生:「奥さんとの関係は?」

えっ!

2)書き足す図による共同発見

翌日建築家と一緒に作業したグループは,聞き取りを行いなが

ら建築に関わる人の相互関係を示した図を作成した.話題に登場

する人とその関係相互関係を聞き取りながら順次図示していっ

た(図 3).スケッチブックをデザインパートナと学生の間に置

き,学生の理解を描き,それに対してデザインパートナがコメン

トを追加するというやり取りが続いた.最初は,限られた書き込

みであったが,記述した事柄の関係を聞くうちに建築に関する想

いや発見をする事ができた.例えば函館の取り壊された建築から,

伝統的な様式のパーツを探す事やそのネットワーク,土着的な

(バナキュラー)こだわりを持っている事,遠く埼玉の高齢の施

主と Skype を使って打ち合わせをするなどを理解する事ができ

た.学生は,断片的な事実だけでなく,仕事に取り組む姿勢やこ

だわりなど,通常のインタビューでは見つけにくいあるいは言語

化しにくい状況や気持ち(暗黙知)を理解する事ができたようだ

(図 3).

図4は,パートナをインタビューと同時に描いたスケッチで

ある.文字と一緒に細部の描写ができている.台湾の学生も絵と

漢字を使って表現し,仲間との情報共有を行った.

図 3建築に関わる人の相互関係を示した図

図 4パートナを描いたスケッチ,左は台湾の学生が作成

5.考察

図化によって注意の表出が変化することは,理解が深化してい

ること理解出来る.注意が状況に応じて変化成長している(状況

的認知)と言っても良い.図化は,ノービスがやるから意義深い.

プロは,あらかじめ理解の枠組みのようなものがあるがノービス

やデザインパートナは,フレームを意識することは難しい.

今回は,デザインパートナを選ぶのに苦労した.ティム・ブラ

ウン[3]は,特別(アンフォーカス)な人を選ぶが,函館にはカ

リフォルニアのような特別な人が居る訳ではない.知り合いの中

で,面白いコトをしている人を選んで活動をしたが,十分に理解

は深まった.また,デザインパートナの人たちが,参加型のデザ

インに興味を持ってくれた事は大きな収穫である.

図解や可視化は,共同発見を得るための重要な役割を果たして

いるようである.またデザイナとデザインパートナの相互理解や

参加の敷居を下げてくれると思う.大学が,地域の課題に対して

実践や試みをする人を結束するハブとなることを目指したい.

参考文献

[1] ジュリアカセム他,インクルーシブデザイン:社会の課題を解決する参加型デザイン,学芸出版社,2014.

[2]岡本誠,安井重哉,東出元輝,コトを生け捕る為の手法-

事拾図,日本デザイン学会第62回研究発表大会,2015.

[3]ティム・ブラウン,デザイン思考が世界を変えるイノベーシ

ョンを導く新しい考え方,ハヤカワ新書,2010.

[4]無藤隆・南博文・麻生武・やまだようこ・サトウタツヤ,質

的心理学―創造的に活用するコツ,新曜社,2004.

日本デザイン学会 デザイン学研究 BULLETIN OF JSSD 2016 47