22
1 1. はじめに............................................................. 1 2. スイス科学技術開発制度の概要.......................... 2 2.1 スイス科学技術開発制度のフレームワーク ... 2 2.2 体系的に実施されているスイスの科学技術プ ログラム................................................................. 4 3. スイスの科学技術関連予算の規模と資金の流れ .6 3.1 2000 年のスイス科学技術関連予算の総計 ..... 6 3.2 2000 年科学技術開発資金の流れ ................... 6 3.3 分野別費用/資金の利用者別費用 .................... 7 3.4 1981 年から 2000 年の科学技術関連費用の推移 ............................................................................... 8 4. スイスの科学技術政策の現状と課題................... 9 4.1 世界最高水準の研究開発能力......................... 9 4.2 スイスの科学技術政策の課題....................... 13 5. 20042007 年のスイスの新しい科学技術政策 16 5.1 4 つの優先課題............................................. 16 5.2 スイスの新科学技術政策の体制:イノベーショ ンの連鎖強化 ....................................................... 16 5.3 各組織ごとの 20042007 年期の新政策 ..... 17 6. 活発化するスイスの国際プロジェクトへの参加 ............................................................................... 20 6.1 EUのフレームワークプログラム ................. 20 6.2 その他のEUおよび国際的科学技術プログラム へのスイスの参加 ................................................ 22 7. 結論.................................................................. 22 1. はじめに SWITZERLAND スイスの科学技術政策 〈ジュネーブ事務所〉 2005/10, No.475 スイスはその研究開発能力に関し、国際的にも高い 評価を得ている国である。 例えば、アインシュタインを始めとして、30 人以上の ノーベル賞受賞者を輩出したチューリッヒ工科大学な どが有名である。その研究開発能力の高さは、2004 年 の科学雑誌ネイチャーでも紹介され、世界にも広く知 られたところである。IMD やダボス会議事務局の WEF でも高い技術開発能力を評価されているところである。 一方で、高い研究開発能力にもかかわらず、その能 力を生かした産業活動が行われているかについては、 はなはだ疑問であることも事実である。これは、スイ スに限らず、上記のネイチャー誌で上位にランキング されたスウェーデンやフィンランド、デンマークとも 共通する課題である。すなわち、スイスの研究開発能 力は高いが、それがうまく企業活動に技術移転されて いない、または、海外にそのまま流出してしまってい るのではないかという指摘である。例えば、2000 年に スイス国内で行われた科学技術への民間投資額の 83.65% がスタッフ数 100 人以上の大企業によるもの であり、中小企業への移転が不十分ではないかのとの 指摘もある。さらに、海外への頭脳流出や、科学技術 の国外での実施の増加傾向という問題も抱えている。 実際、1992 年以降、スイスの民間企業の国外での R&D は国内での R&D を上回っており、国外での R&D が好ま れる傾向が続いている。 このように、国際的な評価が高い一方で、技術移転 という観点からは沈滞気味であると評価されているス イスの科学技術政策に対する問題意識を受け、スイス 議会およびスイス政府は、2004~2007 年期の教育およ び科学技術関連の業務と予算を強化することを決定し た。この新科学技術政策の主要課題は、スイスの教育 システムの組織体制と効率、頭脳流出、科学技術活動 の脱ローカライゼーションおよび技術移転の最適化で ある。 本レポートでは、スイスの体系的な技術開発制度を 概観するとともに、弱いとされる技術移転政策の分析 を行い、新たなスイスの技術開発新政策について述べ ることとする。

スイスの科学技術政策 SWITZERLAND - JETRO · 2015-02-13 · 職業教育技術局(FOPET:Federal Office for Professional Education and Technology)は行革の一 貫として

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1

2

3

4

5

6

7

SWITZERLAND

スイスの科学技術政策

〈ジュネーブ事務所〉

2005/10, No.475

1

. はじめに.............................................................1

. スイス科学技術開発制度の概要..........................2 2.1 スイス科学技術開発制度のフレームワーク ... 2 2.2 体系的に実施されているスイスの科学技術プ

ログラム................................................................. 4 . スイスの科学技術関連予算の規模と資金の流れ .6 3.1 2000 年のスイス科学技術関連予算の総計 ..... 6 3.2 2000 年科学技術開発資金の流れ ................... 6 3.3 分野別費用/資金の利用者別費用 .................... 7 3.4 1981年から2000年の科学技術関連費用の推移

............................................................................... 8 . スイスの科学技術政策の現状と課題...................9 4.1 世界最高水準の研究開発能力......................... 9 4.2 スイスの科学技術政策の課題....................... 13

. 2004~2007 年のスイスの新しい科学技術政策 16 5.1 4 つの優先課題............................................. 16 5.2 スイスの新科学技術政策の体制:イノベーショ

ンの連鎖強化 ....................................................... 16 5.3 各組織ごとの 2004~2007 年期の新政策 ..... 17

. 活発化するスイスの国際プロジェクトへの参加

...............................................................................20 6.1 EUのフレームワークプログラム ................. 20 6.2 その他のEUおよび国際的科学技術プログラム

へのスイスの参加 ................................................ 22 . 結論..................................................................22

1. はじめに

スイスはその研究開発能力に関し、国際的にも高い

評価を得ている国である。

例えば、アインシュタインを始めとして、30 人以上の

ノーベル賞受賞者を輩出したチューリッヒ工科大学な

どが有名である。その研究開発能力の高さは、2004 年

の科学雑誌ネイチャーでも紹介され、世界にも広く知

られたところである。IMD やダボス会議事務局の WEF

でも高い技術開発能力を評価されているところである。

一方で、高い研究開発能力にもかかわらず、その能

力を生かした産業活動が行われているかについては、

はなはだ疑問であることも事実である。これは、スイ

スに限らず、上記のネイチャー誌で上位にランキング

されたスウェーデンやフィンランド、デンマークとも

共通する課題である。すなわち、スイスの研究開発能

力は高いが、それがうまく企業活動に技術移転されて

いない、または、海外にそのまま流出してしまってい

るのではないかという指摘である。例えば、2000 年に

スイス国内で行われた科学技術への民間投資額の

83.65% がスタッフ数 100 人以上の大企業によるもの

であり、中小企業への移転が不十分ではないかのとの

指摘もある。さらに、海外への頭脳流出や、科学技術

の国外での実施の増加傾向という問題も抱えている。

実際、1992 年以降、スイスの民間企業の国外での R&D

は国内での R&D を上回っており、国外での R&D が好ま

れる傾向が続いている。

このように、国際的な評価が高い一方で、技術移転

という観点からは沈滞気味であると評価されているス

イスの科学技術政策に対する問題意識を受け、スイス

議会およびスイス政府は、2004~2007 年期の教育およ

び科学技術関連の業務と予算を強化することを決定し

た。この新科学技術政策の主要課題は、スイスの教育

システムの組織体制と効率、頭脳流出、科学技術活動

の脱ローカライゼーションおよび技術移転の最適化で

ある。

本レポートでは、スイスの体系的な技術開発制度を

概観するとともに、弱いとされる技術移転政策の分析

を行い、新たなスイスの技術開発新政策について述べ

ることとする。

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2. スイス科学技術開発制度の概要

まずは、スイスの科学技術政策を策定・実施している

システムと資金の流れ、プロジェクトの概要を説明す

る。

2.1 スイス科学技術開発制度のフレームワーク

2.1.1 全体システム概要

スイス連邦政府の科学技術政策は、主に、経済省

(Federal Department of Economic Affairs)と内務省

(Federal Department of Home Affairs)の 2 省によっ

て策定・実施されている。内務省は科学技術による国益

増進の観点から、経済省は科学技術の経済的な側面と

教育の増進の観点からそれぞれ科学技術政策に取り組

んでいる。経済界による科学技術開発の促進も経済省

の範疇である。

この 2 つの省の目的は異なるものの、お互い協力し

て、効率的なシステムを運用している。

スイスの科学技術政策のシステムは図 1 のとおりであ

る。

スイス科学技術会議(SSTC:Swiss Science &

Technology Council)は科学技術政策に関する連邦政

府への諮問機関である。政府の各科学技術政策関連部

門を簡素化し、効率を上げるための行政改革の一環と

して、1999 年に改組された。スイスの科学技術政策に

関し、アセスメントを実施するとともに、データの分

析、政府への提言等を実施している。

職 業 教育技 術 局 (FOPET : Federal Office for

Professional Education and Technology)は行革の一

貫として 1998 年に設立された。応用科学大学(HES:

University of Applied Science)のトレーニングプロ

グラムを監督している。また、科学技術の産業への移

転も担当しており、技術革新委員会(CTI:Commission

for Technology and Innovation)を通じて活動してい

る。CTI については、後ほど触れる。

スイス国立科学財団(SNSF : Swiss National Science

Foundation)は連邦政府の科学技術関連予算を担って

いる組織である。これも重要なので後述する。

スイス科学庁(SSA:Swiss Science Agency)は 1990

年に設立され、科学技術、研究及び高等教育政策の整

合化、調整を実施している。科学技術担当大臣を長と

し、内務省の政策を実施する。

SSA の下に、連邦工科大学理事会(BFIT:Board of the

Federal Institutes of Technology) 教育 科 学 局

(FOES:Federal Office of Education and Science)

の組織がある。FEOS は教育関連の法規の実施を担当す

るとともに、科学技術に関する高等教育に関し、各州

の大学の支援をしている。BFIT は二つの連邦工科大学

(チューリッヒ連邦工科大学(ETHZ)及びローザンヌ連

邦工科大学(EPFL))の最高意思決定機関であり、これ

らの大学の基本的理念を決定し、予算等の配分を決定

する。

<図 1> スイスの科学技術政策の構成

連邦政府

経 済 省 (Federal Department ofEconomic Affairs)

2

連(BIT

内 務 省 (Federal Department ofHome Affairs)

邦 工 科 大 学 理 事 会oard of the Federa

nstitutes oechnology)

ス イ ス 科 学 庁(Swiss ScienceAgency)

スイス国立科学財団(SNSF :Swiss National ScienceFoundation)

スイス科学技術会議(SwissScience & TechnologyCouncil)

lf

教育科学局(FederalOffice of Educationand Science)

職業教育技術局 (Federal Officefor Professional Education andTechnology)

技術革新委員会 (Commission forTechnology and Innovation)

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2.1.2 スイスの科学技術政策及び技術移転に関する

メインプレーヤー

2.1.2.1 研究開発の中心的な機関:スイス国立科学

財団(SNSF)

SNSF はスイスの研究政策および研究活動において

主要かつ中心的な役割を果たしており、連邦政府の科

学技術関連予算の運用・割り当てを実施している。こ

のため、SNSF が効率的に機能することはスイスの科学

技術政策の効率的な実施のために重要であり、その現

状を評価するために、経済省と内務省は 2001 年にスイ

ス科学技術会議に対して SNSF を評価するよう委託し

た。中心的な課題は、これまで成功してきた現行の手

法および手順が 21 世紀の課題にも適応することがで

きるか否かを決定することだった。この専門家グルー

プは報告書を発表し、その内容は 2004~2007 年期の政

策に既に取り入れられている。

専門家グループの主な所見と勧告は次のとおりであ

る。

- SNSF は信頼性と能力の高さで高い評価を受けて

おり、その評価は充分に正当である。

- その資金増加の計画はタイムリーであり、強く賛

同できる

- SNSF は、政府、学界、科学コミュニティー及びそ

の他のプレーヤーとの間でそのユニークな能力を

より効果的に活用するように大きく努力するべき

である

- SNSF は、スイスの大学制度において人文科学と社

会科学が他の学科から分断されている現状を克服

するように大きく努力するべきである

- SNSF は、科学に対する一般公衆の好意的な意識を

高めるように更に努力をするべきである。

- NCCR のプログラムはタイムリーで、全体的な目的

面では良く設計されている。しかし、次のラウン

ドの前に、過去の提案募集の経験を徹底的に評価

し、目標を再設定するべきである。

- SNSF は、臨床研究および国民の健康に関する研究

を支持する特定のメカニズムを開発するべきであ

る。また、その他の弱い分野を見極めるため、注

意を強化するべきである。

- SNSF の主要意思決定機関であるスイス国立研究

委員会は、SNSF の中でも最も優秀な人材が揃って

いる。同委員会の戦略的意思決定機能を強化する

ために、助成金提案の処理やピア・レビューに係わ

る日常事務は研究委員会メンバーと適切な連絡関

係を持つ事務局に委譲し、委員会メンバーを日常

的雑務から解放するべきである。

- より柔軟性のある編成を作るために、研究委員会

の部門間および上層部とのコミュニケーションと

相互活動を強化しなければならない

- パネルやその他競争的な評価方法の利用を増やす

ことが奨励される

- 研究委員会の意思決定過程は簡素化し、不明瞭で

ないルートの場合には加速することができる。

- 研究委員会の決定の透明性を改善し、部門間の基

準のばらつきを修正するべきである。

- 勧告された追加機能を担い研究委員会のメンバー

を日常的事務から解放するために SNSF の事務局

のスタッフを増員しなければならない。

2.1.2.2 技術移転の中心的な機関:技術革新委員会

(CTI)

技術革新委員会(CTI)は、60 年近くにわたり活動を

続けており、スイスのイノベーション促進を担当する

機関である。CTI は、専門教育の改革、応用科学系大

学の設立および知識処理と産学官の技術移転の改善を

目指している職業教育技術局(FOPET:Federal Office

for Professional Education and Technology)の一部

である。

「科学から市場へ」という設立目的に沿って、CTI

は、研究成果を商業製品へと転換するプロセスの加速

を目指している。CTI は、研究を先導し、研究結果の

応用において首位の座を築き維持するためのイノベー

ションを促進しているが、これはスイスではなかなか

困難であり、スイスの高い潜在能力が埋もれたままに

なっているとの認識が強い。

端的に言えば、CTI は、産学連携で行われる応用科

学技術プロジェクトへ出資することにより研究所と市

場の距離を縮める活動をしている。CTI のネットワー

クへのアクセスを助長するために、ライフサイエンス、

実現技術(enabling sciences)、ナノテクノロジー、

マイクロマシン技術およびエンジニアリング技術の 5

分野が支援分野に指定されている。

促進活動はボトム・アップの原則が採られている。

プロジェクトの内容の決定は参加パートナーによって

行われる。プロジェクト採択のポイントはイノベーシ

ョンであり、経済的・科学的・技術的重要性、市場で

の可能性、持続可能な開発の促進への貢献度、明確な

作業日程と資金調達案が基準となる。政府の助成金は、

プロジェクトに参加する公的科学技術機関又は大学等

の高等教育機関に対して与えられ、パートナー企業が

残りの費用(少なくともプロジェクト費用の 50%)を

負担する。

CTI の活動は、非常に成功していると評価されてい

る。1986 年以降、6,400 件の応募のうち 4,000 件が支

援を受け、約 25 億スイスフランと試算される科学技術

開発効果を生み出した。また、参加企業 5,000 社の 80%

は中小企業であり、中小企業による科学技術が低調と

されるスイスにおいて、特筆すべき成果となっている。

CTIは 2007年まで毎年1,000プロジェクトの応募を予

定しているが、これは非常に意欲的な計画となってい

る。

CTI は現在、①スタートアップ、②高齢化対応イノ

ベーション、③応用科学大学(HES:University of

Applied Science)、の 3 つの学際的支援イニシアティ

ブを実施している。このイニシアティブは戦略的に重

要な市場で行われる科学技術プロジェクトを増やすた

めのものである。

このうち、CTI スタートアップは 1995 年に職業教育

技術局によって、産学間での起業家精神を促進するこ

とを目的に開始された。CTI スタートアップは、最初

から最後まで積極的な支援と専門家の助言を与えるこ

とによって、革新的なアイデアを持つ個人や起業家精

神のあるプロジェクトを支援している。一定の資格を

3

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持つプロジェクトには「CTI スタートアップ品質ラベ

ル」が与えられる。このラベルを取得することによっ

て、CTI の支援やベンチャー資金への道が開かれ、ま

た潜在的な投資家の関心を惹きつけることができる。

1996 年から 2003 年中旬までの期間、CTI スタートア

ップは750のプロジェクトを分析し92のプロジェクト

に品質ラベルを授与した。このうち 81 の新しい企業が

活動を続けており、約 90%という高い企業存続率を誇

る。このプロセスを通じて 2,500 人分の雇用が創出さ

れ、2003 年には 9,000 万スイスフランが未公開株に投

資された。

2000~2003 年期の CTI の予算は、3 億 800 万スイス

フランで、2004~2007 年期の予算は 4億 4,400 万スイ

スフランである。

CTI のプロジェクトはビジネス/イノベーションの

プロセスを開発し、中小企業の大学研究利用を高め、

アイデアが市場化されるまでの時間は短縮され、研究

者の国際的な移動が増え、CTI に支援されたスタート

アップの成功率は、先に示されているとおり高い。

2004~2007 年期には、CTI は、起業家精神、バイオ

テクノロジー、ライフサイエンス、ナノテクノロジー、

IT および通信技術、イノベーション性が高く市場可能

性の高い発見プロジェクト、科学技術への青少年の関

心、という 7 つの課題に焦点をあてる予定である。

2.2 体系的に実施されているスイスの科学技術

プログラム

次に、スイスで実施されている各種科学技術プログ

ラム制度について紹介する。

スイスには主に 3 つのプログラム制度があり、テー

マ設定プログラムもあれば、公募式プログラムもある。

その全てに、スイス国立科学財団(SNSF : Swiss

National Science Foundation)が関与している。

3 つのプログラムとは以下の通りである。

- 国立研究支援センター(NCCR :National Centers

of Competences in Research)

- 国家研究プログラム(NRP :National Research

Program)

- スイス・プライオリティー・プログラム(SPP)

2.2.1 大学間ネットワークプログラム:国立研究支

援センター(NCCR)

2001 年、スイス国立科学財団(SNSF)は、最初の 14

国立研究支援センター(NCCR)を発足させた。NCCR の

主要目標は、スイスの研究、経済、社会の将来のため

の優れた科学研究の促進である。

NCCR は、大学その他の有名な研究機関を有機的に結

ぶ組織によって管理されている。従って、センターと

いう名称であるが、恒常的なオフィスビルを持ってい

るわけではない。母組織での研究チームに加えて、NCCR

はスイスの他の研究チームとのネットワークを持って

いる。NCCR の最長存続期間は 12 年間である。

NCCRの3つの基盤となる原則は、次のとおりである。

1. 研究

NCCR は、基礎から応用まで質の高い研究を実施

する。各 NCCR 内では 8人から 15 人の要員が実際

の研究作業を行っている。NCCR のディレクター

は、個々のプロジェクトの一貫性と統合性を確保

する。

2. 知識と技術移転

NCCR は、研究結果の潜在的利用者とのつながり

を築き、最初の段階から潜在的利用者をプロジェ

クトの計画に関与させる。

3. 女性のトレーニングと進出の促進

NCCR は、若い科学者(博士課程およびポストド

クター)の研修に必要な構造を作り、措置を講ず

る。特に研究分野への女性の進出の促進に力を入

れる。

予算については、最初の 4 年間である 2002 年から

2005 年までの数字は次のとおり。

- スイス国立科学財団の出資金:2 億 2,480 万スイ

スフラン

- 母体となる機関の出資金:9,040 万スイスフラン

- その他の機関の出資金:1,450 万スイスフラン

- プロジェクト参加者の出資金:1 億 5,910 万スイ

スフラン

- 第三当事者の出資金:5,620 万スイスフラン

2002~2005 年合計:5億 4,520 万スイスフラン

14 の NCCR プロジェクトは以下の通り。

- NCCR 「気候」(ベルン大学)

- NCCR 「CO-ME」(高度情報化医療)(チュー

リッヒ大学)

- NCCR 「フィンリスク」(金融評価とリスク

管理)(チューリッヒ大学)

- NCCR 「遺伝学」(ジュネーブ大学)

- NCCR 「(IM)2」インタラクティブ・マルチ

モーダル情報管理)(IDIAP)

- NCCR 「MaNEP」(新素材)(ジュネーブ大学)

- NCCR 「MICS」(分散型情報システム)(ロ

ーザンヌ連邦工科大学)

- NCCR 「分子腫瘍学」(スイス癌研究所)

- NCCR 「ナノスケール・サイエンス」 (バ

ーゼル大学)

- NCCR 「Neuro」(神経可塑性及び修復)(チ

ューリッヒ大学)

- NCCR 「North-South」(南北問題)(ベルン

大学)

- NCCR 「Plant survival」(植物環境)(ヌ

ーシャテル大学)

- NCCR 「量子光通信学」(ローザンヌ工科

大学)

- NCCR 「構造生物学」(チューリッヒ大学)

これらは、センター名であり、プロジェクトの内容

が分かりにくいものは括弧書きで内容を示す。各大学

等は母体機関を示す。

興味深いことに、日本からも多くの大学や会社の研

究所が参加している。

2.2.2 国家的学際研究開発:国家研究プログラム

(NRP)

スイス国家研究プログラム(NRP)は、スイスにとって

4

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重要な現在の問題の解決策に貢献することが目的とさ

れている。その多くは学際的なものである。実務利用

を促進するために、研究と応用は密接に結び付けられ

ている。研究課題は、連邦政府(連邦委員会)によっ

て選定される。

国家研究プログラム(NRP)は国家的に重要な緊急課

題を解決する上で科学的な貢献を行っている。重要な

現代の問題を検討するには、一般に研究への学際的な

アプローチと理論研究と実用応用との組み合わせが必

要とされる。典型的な NRP は 4、5年間続き、500 万か

ら 2,000 万スイスフランという多額の資金が与えられ

る。

最初の NRP は 20 年以上も前に開始し、現在までに

56 のプログラムが採択されてきた。現在は 40 番台以

上のプログラムが進行中である。

以下に、現在進行中の NRP のリストを示す。

- NRP 40+「右翼過激主義-原因と対策」

- NRP 42+「スイスと南アフリカの関係」

- NRP 43 「形成と雇用」

- NRP 45 「福祉国家の将来の問題点」

- NRP 46 「移植」

- NRP 47 「超分子機能素材」

- NRP 48 「アルプスの地勢と動植物の生息

環境」

- NRP 49 「抗生物質への抵抗」

- NRP 50 「外因性内分泌かく乱物質:人間、

動物および生態系との関連性」

- NRP 51 「社会的統合と社会的排除」

- NRP 52 「青少年と変化する社会における

世代間関係」

- NRP 53 「筋骨格の健康-慢性痛」

- NRP 54 「構築環境における持続可能な開

発」

- NRP 56 「スイスにおける言語の多様性と

言語能力」

2.2.3 優先的プログラム:スイス・プライオリティ

ー・プログラム(SPP)

1992 年、スイス国立科学財団(SNSF)はプライオリテ

ィ・プログラム(SPP)をスタートさせた。この SPP プロ

グラムの目的は、スイスの研究活動が国際的な進歩に

遅れをとらないようにすること、そしてスイスの大学

での研究支援センターやコンピテンス・ネットワーク

の設立を支援することにあった。SPP は、戦略的に重

要な研究が取り上げられるように設定され、その研究

課題と予算はスイス議会が決定した。

各 SPP は 8 年から 10 年間続き、6,000 万から 1 億

1,000 万スイスフランの予算が割り当てられた。スイ

ス連邦が 5 億 900 万スイスフランを、第三当事者が 2

億 8,800 万スイスフランを投資し、総投資額は 8 億ス

イスフランだった。

実施された SPP は 8 つであるが、これらのプログラ

ムは既に終了しており、新しい SPP が開始される計画

は無い。

5

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3. スイスの科学技術関連予算の規模と資金

の流れ

次に、スイスの科学技術関連予算の規模について述

べる。

スイスでは、科学技術開発費用の推計をとるための

調査が 4 年毎に行われている。この調査はスイス連邦

統計局とスイスの経団連である Economy Swiss の共同

で行われる。最新の調査は 2000 年に行われ、調査結果

は 2001 年末に発表された。

以下、この統計データをもとに報告する。

3.1 2000 年のスイス科学技術関連予算の総計

スイスの2000年の科学技術開発投資は約213億フラ

ン(約 1.9 兆円)にのぼる。

その内訳は以下の通りであった。

- 科学技術関連費用の場所別内訳:

o スイス国内の科学技術開発:102 億 1,500 万ス

イスフラン

o 国外での科学技術開発:97 億 8,500 万スイスフ

ラン

o 国際機関の科学技術開発:13 億 7,000 万スイス

フラン

合計:213 億 7,000 万スイスフラン

- 資金別内訳:

o スイス企業およびスイス企業の海外子会社の出

資:183 億スイスフラン

o 連邦、州および他の機関の出資:30 億 7,000 万

スイスフラン

合計:213 億 7,000 万スイスフラン

3.2 2000 年科学技術開発資金の流れ

スイスの科学技術開発活動が大規模で複雑であるが

ために、その資金の流れも複雑である。

科学技術開発活動には、

o 出資者および科学者

o 政府機関および民間企業

o 国内での活動および国外での活動

o 基礎研究および応用研究

といった、多くの人と活動分野が関与しているためで

あり、その流れを分析することも困難であるが、幸い、

スイス連邦統計局および Economy Swiss が資金の流れ

を分析した次のチャートがあるので、参照されたい(図

2)。

<図2> スイス国内の科学技術開発に関する資金の流れ、2000 年

出資者 利用者 単位:百万スイスフラン

民間企業

民間企業

連邦

応用科学大学(HES)

連邦 応用科学大学(HES)

非営利機関他非営利機関他

スイスのR&D合計(2000 年): 10,675 百万スイスフラン

外国 外国

6

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このチャートから分かるように、

- グラフ中の投資の総額は 106 億 7,500 万スイスフ

ランで、この金額はスイス国内で実施された科学

技術開発コストの総額である。このうち4億6,000

万スイスフランは外国資金である。

- 民間企業からの出資は 69%、国(連邦および州)

からの出資は 23%、残りは高等教育機関、外国資

金および民間基金からの出資である。

- 民間企業が科学技術の総予算の 74%を、大学およ

び工科大学が 23%を、連邦および非営利組織が 3%

を使用している。

1992年の総額は90億 9,000万スイスフランだった。

この金額は1996年には99億9,000万スイスフランに、

2000年には106億 7,500万スイスフランへと増加した。

遅いながらも安定した増加傾向にある。

3.3 分野別費用/資金の利用者別費用

図 3 は、2000 年にスイスにおける科学技術活動に投

資された 106 億 7,500 万スイスフランの実際の利用者

を示している。

<図3> 2000 年のスイスにおける科学技術 – 分野/利用者別

SECTOR [industry, ministry or others] Million CHF % of total

民間企業:

- 薬品・化学 2,475 24.23

- 科学技術 研究所 1,085 10.62

- 電子技術 355 3.48

- 機械金属 2,910 28.49

- 食品 390 3.82

- 情報技術 320 3.13

- その他の産業 355 3.48

民間企業合計 7,890 77.24

高等教育機関:

- 大学 1,935 18.94

- 連邦工科大学 415 4.06

- 応用科学大学 90 0.88

高等教育機関合計 2,440 23.89

国家:

- 内務省 15 0.15

- 国防省 10 0.10

- 経済省 70 0.69

- その他の連邦政府機関 15 0.15

- 中央行政 – 厳密には割り当てられていない 20 0.20

- スイス国立銀行 10 0.10

国家合計 140 1.37

その他の民間の非営利団体: 205 2.01

2000 年のスイスにおける R&D 統計(国内) 10,675 104.50

控除対象額:外国資金分 460 4.50

スイスの出資者によって拠出された

2000 年のスイスにおける R&D 統計(国内) 10,215 100.00

7

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3.4 1981 年から 2000 年の科学技術関連費用の

推移

民間企業の出資によるスイスの科学技術関連費用は

常に増加しているが、増加の度合いは過去に大きな変

化を遂げている。1980 年代には非常に大きく、1990

年代には僅かで、2000 年代に入って再び大きく増加し

ている。

これが、スイスの科学技術が 1990 年代に停滞して

いたと評価される一因である。

<図4> 民間企業によるスイスの科学技術開発予算の推移(1981~2000 年)

8

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4. スイスの科学技術政策の現状と課題

4.1 世界最高水準の研究開発能力

スイスの科学技術水準はさまざまな調査で、世界最

高水準とされている。ここでは、各種論文やデータを

用いて、その国際比較を検討する。

4.1.1 世界大学ランキング

88 ヵ国 1,300 大学を対象に行われた英「タイムズ」

誌の最近の調査(本調査は卒業生が自分の専攻分野で

最高の学術機関について意見を述べるという形で行わ

れ、その他の基準としては、専門誌への発表回数、学

生数および外国人学生の割合が採用されている。)で、

チューリヒ連邦工科大学は世界の優れた大学として第

10 位に選ばれた。

当連邦工科大学はアインシュタイン、パウリ等の著

名な学者を輩出し、30 人以上のノーベル賞受賞者を送

り出した大学として名を馳せており、それが正当に評

価されたものであり、ヨーロッパ大陸にある大学で 20

位以内に入ったのはチューリヒ連邦工科大学のみであ

る。

また、スイスの 2つめの連邦工科大学であるローザ

ンヌ連邦工科大学も 32 位と上位に付けている。

4.1.2 スイスの科学技術開発効率

2004 年 7 月、科学雑誌「ネイチャー」誌は、先進国

31 ヵ国を対象とした調査の結果スイスの科学技術が

最も効率が高いことが判明したと掲載した。

この記事の著者である David A. King 氏は、調査対

象となった国々の経済的裕福さと科学論文の発表への

影響力を比較した。98%の科学論文が発表される 31 ヵ

国が対象となっている。ここでは、各国の国民 1 人あ

たり GDP と発表された論文が引用される回数、さらに、

引用の寿命も考慮し、論文が発表されてからその論文

が引用されるまでの時間が長ければ長いほど、高い相

関関数が与えられた。

この手法は、質的アプローチも取り入れているとい

う点で、発表論文数だけを検討する他の調査より実態

をより反映しているといえる。さらに、最も評判の高

い科学雑誌の 1 つである「ネイチャー」誌で発表され

たことも、この手法の信頼性の高さを物語っている。

また、スウェーデンが 2 位、次いでイスラエル、フ

ィンランド、デンマークというのも大変興味深い。こ

れらの諸国は、教育システムが非中央集約的なこと、

国際交流の水準が高いことを特徴としている。

一方で、規模が大きく、中央集約的な教育システム

をもつ国の成績は芳しくなかった。例えばフランスは、

真ん中あたりにランクされている。間違いなく科学技

術でリードしているアメリカも、この調査ではあまり

効率がよいとはされていない。

大学の質を測定することや、ある国の科学技術の効

率を計量化することは困難である。しかし、スイスの

大学や科学技術が、多くの場合、スイス以外の国の雑

誌や組織から世界最高水準として定期的にランクづけ

されていることは、スイスの教育システムや研究政策

の質と効率の高さを示していると言える。

9

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<図5> 購買力の同等性を考慮した各国の科学技術 効率(ネイチャー誌 2004 年 7 月号)

10

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4.1.3 2000 年の科学技術開発費用対 GDP 比較

少なくとも科学技術のような分野での国際比較と分

析は、通常、アメリカや日本などの世界最大の経済国

同士とより小さい経済国同士の比較を行う。絶対的な

数値で見ると、規模の違いは以下のように非常に大き

い。

- アメリカの投資額:スイスの科学技術投資の 38

- EU の投資額:スイスの科学技術投資の 24 倍

- 日本の投資額:スイスの科学技術投資の 15 倍

しかし、国内での科学技術関連費用の GDP 比という

相対的な数字では、スイスは 1 位のスウェーデン、2

位のフィンランド、3位の日本、4位のアメリカに次ぐ

5位である。

<図6> GDP 比でみた 2000 年の国内科学技術関連費用[出典:OECD]

11

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4.1.4 民間企業による科学技術開発の比重

スイスでは、日本と同様に、民間企業が科学技術関

連費用の大部分を出資している。全般的に EU、中でも

一部の公共分野の重要性がずっと高いフランスのよう

な国と比較すると、政策上大きな違いがある。

<図7> 民間企業の出資による科学技術関連費用の比率- 国際比較

国内における科学技術:民間企業の出資比率

国 名 対科学技術総計比

日本 72.4 %

フィンランド 70.3 %

スイス 69.1 %

アメリカ 68.2 %

スウェーデン 67.8 %

ドイツ 66.1 %

OECD 平均 63.9 %

EU 55.5 %

フランス 54.1 %

4.1.5 高い特許取得件数

スイスの特許件数は1999年で全世界の2%を構成す

るに過ぎない。これに対し、アメリカは 36%、EU は

32%、日本は 27%である。しかし、人口比で比較した

場合、スイスは首位に躍り出る。

<図8> 国別百万人あたり特許数

12

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4.2 スイスの科学技術政策の課題

以上のように、スイスの研究開発能力は世界最高水

準にあると言える。

一方で、研究開発成果の商業化や、技術移転に関し、

スイスは課題を抱えている。これは、スイスの産業構

造が、日米欧に比較して単純で、重層的になっていな

いことなどに起因しているものと思われる。

4.2.1 科学技術における企業の参加状況:大企業が

支配的

スイスでは、中小企業の多くが全く研究活動を行っ

ていない。例外としては、研究所や IT 分野などの新し

い技術の開発を行う会社であろう。従業員数 100 人以

下の企業が支出した科学技術関連費用は、スイスの科

学技術総投資額の約 16%である。

これが、スイスの高い研究開発能力を十分に商業化

できない一因となっている。

<図9> 2000 年のスイスにおける科学技術 – 企業規模別

小 中 大

企 業 従業員数

< 50 人

従業員数

50 – 99 人

従業員数

> 100 人

合計

(百万 SFR)

比率

(%)

産業:

機械および金属加

220 150 2,540 2,910 38

薬品・化学 25 70 2,380 2,475 32

研究機関 285 125 675 1,085 14

食品 5 5 380 390 5

電子技術 45 20 290 355 5

情報コンピュータ

技術

245 15 60 320 4

その他 15 35 125 175 2

合計 840 420 6,450 7,710 100

比率 10.89 5.45 83.65 100.00

13

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4.2.2 アメリカや低コスト国への頭脳流出

スイスおよび欧州では、この問題はしばしば取り上

げられている。

頭脳流出には 2種類あると考えられる。

最も目に付くのはアメリカへ向かう頭脳流出である。

アメリカは科学や技術革新を含む多くの分野で世界を

リードしている。アメリカの 3,000 大学のうちの数校

は世界最高水準にある。また、シリコンバレーやボス

トン等のアメリカの特定地域は、世界最高水準の科学

者にとって魅力的なハイテク開発と経済的ダイナミズ

ムの同義語となっている。アメリカで働く外国人科学

者数についての正確な数字は得られないが、EU 委員会

の推定ではその数は 40 万人にのぼる。

多くのスイス人科学者はアメリカやアメリカで享受

できる魅力的な条件に惹かれているだけではなく、硬

直して、管理規則が多く、個人的なイニシアティブを

発揮する自由が少ないと考えられているスイスのシス

テムへの批判も表明している。

また、企業の動向も無視できない。Novartis はスイ

スに多額の投資を行っているが、アメリカにはさらに

多額の投資を行っている。Novartis は、マサチューセ

ッツ市ボストンの Bio Medic Center に 40 億米ドルの

投資を行った。2003 年には 400 人の科学者がここで採

用された。その理由は次のとおり明白である。

- ボストン地域には世界で最も才能のある科学者が

集まっており、さらにより多くの優秀な科学者を

引き寄せているというユニークな特徴がある。

アメリカの規則はヨーロッパの規則ほど硬直的では

ない。例えば、製薬会社は自由に価格を設定すること

ができるが、ヨーロッパでは必ずしも全ての価格を自

由に設定することはできない。

ここ数年現れているもう 1 つの傾向は、スイスの科

学技術活動の低コスト国への移行である。世界第 2 位

の遺伝子加工薬品会社で Novartis のメンバー企業の

Sandoz は最近インドのボンベイに研究所を設立した。

ここでは 1,200 人の従業員が働いており、Sandoz は、

インドの科学者は非常に優秀であると述べている。さ

らに、遺伝子加工薬品の生産で重要な要素となる給与

水準はスイスやヨーロッパと比べてずっと低い。また、

工場建設の承認にかかる機関は 16 ヵ月とヨーロッパ

で要する時間の約半分である。遺伝子加工製品の生産

において時間は死活的問題であるため、これは非常に

大きい。最後に、ヨーロッパでは特許保護が非常に硬

直的でジェネリック生産上問題となっている。

4.2.3 それほど高くないという評価のスイスの技術

移転政策

4.2.3.1 欧州と米国、日本

EU は、日本、スイス、アメリカ等の非 EU 加盟国と

の比較も含めた EU 加盟国のイノベーション能力につ

いて評価するために、いわゆるスコアボード・イノベ

ーション・インデックス(SII)を計算する詳しい調査

を行った。その調査の結果は、EU とアメリカや日本と

格差は大きいばかりでなく、さらにその大きさは増大

しているのである。

具体的なスイスの位置付けは、欧州スコアボード・

イノベーション・インデックスにみることができる。

14

<図10> 技術移転::SII で測った EU とアメリカおよび日本の格差

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この状況は EU 当

思われる。4 年前に、EU

る広がりが懸念されるためである。

4.2.3.2 スイスにおける技術移転

それでは、スイスは他のヨーロッパと同様に、技術

移転が弱いのであろうか。

具体的なスイスの位置付けは、欧州スコアボード・

イノベーション・インデックスに見ることができる(図

先にも述べたように、2000 年に開かれたリスボン欧

州理事会は、2010 年までに EU を世界で最も競争力の

あるダイナミックな知識ベースの経済圏にし、持続可

能な経済成長、より充実した雇用の拡大、社会的結束

の向上を実現するという戦略的目標を設定した。イノ

ベーションは、このリスボンのプロセスでは中心的課

題として認識され、欧州委員会は欧州イノベーショ

ン・インデックスを毎年作成し公表するよう求められ

た。このスコアボード・イノベーション・インデック

ス(SII)の 2004 年のサマリーを見ると、スイスは平

均的なヨーロッパよりも高い実績を示し、むしろアメ

リカや日本に匹敵するという印象を受ける。

<図11> スコアボード・イノベーション・インデックス(SII)の 2004 年のサマリー

局にとっても波紋を呼んだものと 11)。

の閣僚が 10 年以内に EU を世

界で最も競争力のあるダイナミックな経済圏にする旨

のリスボン宣言を行ったにもかかわらず、この傾向で

は、科学技術およびその他の分野における格差の更な

15

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このチャートではスイスは、日本、スウェーデン、

フィンランドおよびアメリカの首位諸国に次ぐ第 5 位

である。

イスのイノベーション・パフォーマンス・インデ

ックスを構成する個々の指標の詳細の結果、EU25 ヵ国

に比べて、スイスは次の 2 分野に弱いということが判

明している。

- 科学や工学の学位を持つ人の数(EU25 ヵ国の平均

の 62%)

- ハイテク・ベンチャーキャピタル(EU25 ヵ国の平

均の 64%)

イスの技術移転の効率性の問題について確定的な

回答を出すことはなかなか困難である。さまざまな研

究者が、スイスの技術移転は明らかにアメリカ、日本

に劣っているという意見を出す一方で、上記のインデ

ックスでは、スイスはそれほど悪くない位置にいるよ

うに見える。確かなことは、スイスが科学技術の成果

を産業応用することの重要性について認識していると

いうことである。

この問題認識は、最新のスイスの科学技術計画にも

十分に反映されている。

5. 2004~2007 年のスイスの新しい科学技術

政策

2002 年 11 月、スイス連邦委員会(政府)は議会に

対し、1990 年代の停滞期から脱却し、教育、研究およ

び技術への予算を 173 億スイスフランに増やすよう求

めた。2000 年の財務計画と比較した場合、この要請は

年率平均 6%の増加になる。政府はこの資金を 4 つの

優先課題に割り当てた。

- 指導体制の改正

- 研究活動の増加

- イノベーションの促進

- 国内および国際協力の強化

連邦委員会の勧告に従い、議会は教育、研究、技術

およびイノベーションを支援する合計 166 億スイスフ

ランの予算を可決した。科学技術政策は、緊縮財政の

中、予算増加が認められた非常に少ない分野の 1 つで

ある。

5.1 4 つの優先課題

上記の 4 つの優先課題の予算割当ては以下の通りで

ある。

指導体制の改正

工科大学:

新規予算: 78 億 3,000 万スイスフラン

増加額 : 8 億 6,500 万スイスフラン

州立大学:

新規予算:26 億 7,000 万スイスフラン

増加額 : 5 億 6,100 万スイスフラン

職業教育:

新規予算:21 億 3,600 万スイスフラン

増加額 : 4 億 1,700 万スイスフラン

応用科学系大学:

新規予算:11 億 3,900 万スイスフラン

増加額 : 2 億 8,500 万スイスフラン

研究活動の増加

スイス国立科学財団:

新規予算:21 億 4,700 万スイスフラン

増加額 : 6 億 8,000 万スイスフラン

研究機関:

新規予算: 1 億 5,300 万スイスフラン

増加額 : 5,500 万スイスフラン

学界:

新規予算: 1 億 600 万スイスフラン

増加額 : 2,400 万スイスフラン

イノベーションの促進

技術革新委員会(CTI)は、応用研究と開発の促進を

担当するスイスの機関である。民間部門が少なくと

コストの半分を負担する。

新規予算: 4 億 6,700 万スイスフラン

増加額 : 1 億 5,900 万スイスフラン

国内および国際協力の強化

- EU FP および COST 等の国際機関及び国際的プログ

ラム

新規予算: 1 億 400 万スイスフラン

増加額 : 1,700 万スイスフラン

- 科学技術海外交流のためのスイスハウス等二国

及び多国間活動

- 新規予算: 7,700 万スイスフラン

- 増加額 : 4,200 万スイスフラン

5.2 スイスの新科学技術政策の体制:イノベー

ションの連鎖強化

図 12 は研究およびイノベーションの促進のため

スイス政府の取り組みを示している。これには、最

重要な貢献を含め、アイデアから基礎研究、応用研究、

イノベーションそして最終的な市場への過程であるイ

ノベーションの連鎖にどの機関が関与しているかが示

されている。

16

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科学技術会議の専

基づき、また議会および

4

策を策定した。

る。

立した基礎研究への出資

<図12> スイスの組織体制とイノベーションの連鎖

(出所)スイス統計局

5.3 各組織ごとの 200

5.3.1 スイス国立科学財

スイス

策に基づき、SNSF は 200

この新政策は以下のよう

づけられ

は、過

トへの支援が

SNSF の主な目的

学プロジェク

に、独立した基礎研究へ

い科学者のための資源の

2 番目の目的は、次の予

のための資源を増加するこ

では、革新的で高い意欲の

ている。

るような手段リスクをとれ

スイス国立科学財団(SNSF)

アイデア 基礎リサーチ

国家研究プログラム

(NRP)

市 場

門家グループの所見と勧告

政府に承認された予算と政

~2007 年期に向けた新しい

4~2007 年期の新政策

団 (SNSF) :

な明確な目的によって特徴

去 10 年間にわたり一部の科

低迷し いることを補うた

とである。

の出資を増やすこ

増加

間算期 において若い科学者

とである。基礎研究の分野

ある若手の才能が求められ

を開発す ことる

臨床研究の支

リスクをと

ない。Leonha

究者に数年間

くの予算を提

もう 1つの

増えている応

科学系大学が

る。

新しい研究プ

SNSF は、SN

援センター

Research)及

である。

多角的協力の

SNSF は今後

力を改善する

く。ヨーロッ

てられる。

17

国家研究支援センター

(NCCR)

EUフレームワーク

応用リサーチ&開発:

用科学大連邦工科大学、応 学

その他大学

技術革新委員会(CTI)

する。

援を増やすこと

れるような手段が開発されなければなら

rd Euler プログラムは、選ばれた上級研

におよぶ独立研究を行うために比較的多

SNSF の現在の欠点は、独立研究の中でも

用研究、特に人文科学を専門とする応用

実施する研究への出資に関するものであ

ログラムを発足させること

SF の予算の 6分の 1を新しい国立研究支

(National Centers of Competence in

び国家研究プログラムに投資するつもり

開発

も、他の出資機関の支援を受けて国際協

ための具体的な手段を探し、出資してい

パ、北米および北東との協力に焦点があ

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5.3.2 スイス連邦工科大学

.2.1 ETHドメイ

スイスに必要とされるエンジニアと専門知識を提供

を目的として、スイス連邦工科大学は 1853

よびローザンヌ連邦工科大学(EPFL)は、世界の大学

図 13 は EPFL、ETHZ および ETH のドメインを構成す

るその他の機関の場所を示す地図である。ETH とはド

イツ語の Eidgenössische Technologischen

Hochschulen の略語で連邦工科大学の意味である。

5.3 ン:連邦工科大学と連邦研究機関

5,000 校の中で常に上位 100 校にあり、研究拠点とし

て世界をリードしてきている。

すること

年に設立された。チューリヒ連邦工科大学(ETHZ)

<図13> スイス連邦工科大学と研究機関

18

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2004~2007 年期については、ETH ドメインと連邦委

会の間で次の原則に基づく実績指令書に署名が行わ

双方が今後 4 年間にわたって資金、実績と目標を

のプロセスは定期的評価の対象となる。

- 毎年予算を通過させ年次活動報告書で分析するこ

とに対するコミットメント

5.3.2.2 スイス連邦工科大学: 6つの能力の柱の創出

2004 年 10 月に、連邦工科大学理事会は、連邦工科

大学の活動方針として、6 つの能力の柱を創出すると

発表した。

○「科学、生活、社会」

これは EPFL、ローザンヌ大学、ジュネーブ大学、

ISREC の共同プロジェクトである。このプロジェク

トは既に開始している。

○「SystemsX」

ETHZ、チューリヒ大学、バーセル大学のプロジェ

クトでバーゼル地域で行われる。

○「エネルギーと持続可能なモビィティ」

スイスのエネルギー研究の多くの部分が ETH ドメ

イン、特にポールシュラー研究所で行われている。

このプロジェクトは 2006 年に始動する。

○「Sciences des matériaux et micro-techniques」

このプロジェクトは、薬品やコンピュータ、通信、

エネルギー、建設、輸送等その他の業界向けの新素

材の開発を目指す。

○「環境と持続可能な開発」

2005年7月に開始するこのプロジェクトは持続可

能な開発と環境に関するものである。

○「バイオメディカル画像」

このプロジェクトは 2005 年 4 月に始動し、ローザ

ンヌ連邦工科大学、チューリヒ連邦工科大学、ポー

ルシュラー研究所、チューリヒ大学薬学部、バーゼ

ル大学薬学部、ベルン大学薬学部、ジュネーブ大学

薬学部、ローザンヌ大学薬学部が参加する。

れた。

- 調整するために必要な全ての方法をとることに対

する相互的なコミットメント

- 可能な限り計測可能なコミットメント。目的達成

19

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6.

1.1

スイスは

極的に参加してきた。これらのプログラムへのスイス

の参加については、EU 加盟国の参加の場合と違って、

欧州委員会が出資するのではなく、スイス(具対的に

は連邦教育科学局)が出資してきた。次の 2 つのチャ

ートでは次のことが示されている(図 14、図 15)。

- 1992 年から 2002 年の間の第 3 回、第 4 回および

第5回EU枠組みプログラムへのスイスの新規参加

数からも分かるように、フレームワークプログラ

ムへの参加はほぼ一貫して増加している。

第 5回 EU 枠組みプログラムへの年別参加状況

2002 年の間

活発化するスイスの国際プロジェクトへ

の参加

6.1 EU のフレームワークプログラム

6. スイスの参加状況

EU の加盟国ではないが、EU のフレームワ

ー プログラムを中心とする科学技術プログラムに積

<図14> スイスの第 3 回、第 4回および

1992 年から

20

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2003 年に終了した第 5 回 EU 枠組みプログラム関し

ては、スイスの参加者数は 1,418 人で、グラフで示さ

ているように広く多様な分野にまたがった。スイス

情報-社

5回 EU 枠組みプログラムへの参加

の研究者が最も関心をしめした分野は IST「

会-技術」で、全体の 31.03%を占める 440 人の参加が

あった。2 番目に関心が高かったのは「生活の質」の

分野で全体の 18.34%を占める 260 人の参加があった。

<図15> 研究分野別スイスの第

21

Page 22: スイスの科学技術政策 SWITZERLAND - JETRO · 2015-02-13 · 職業教育技術局(FOPET:Federal Office for Professional Education and Technology)は行革の一 貫として

6.

参加することを決める研究協定に調印した。

2004 年 1 月 1 日に遡及的に発効したこの協定には、

の枠組みプログラムへのスイスの参加、欧州原子力

同体(ユーラトム)の研究研修が含まれ、これによ

りスイスの研究者には

えられた。

言い換えれば、この協定は、これまでスイスの予算

から出されていたヨーロッパの研究プログラムのプロ

ジェクトへのスイスの参加費が、今後は他の EU 諸国と

同様にブリュッセルの欧州委員会から出されることを

意味している。更に、第 6 回フレームワークプログラ

ム(FP6)の実施においては、スイスが関連国として様々

な運営委員会や諮問機関に参加する機会が高まった。

今では、スイスの全ての民間および公的研究機関は

これらの研究プログラムに参加することができる。提

案書の呼びかけを基盤として、研究費の多くが最も質

の高いプロジェクトに充てられる。スイスの研究活動

はヨーロッパで高い評価を受けている。その結果、ス

イスはヨーロッパの研究協力において最も重要なパー

トナーであり、このようにして優れた研究技術センタ

ーとしての立場を向上させることができる。

6.1.3 第 6 回 EU フレームワークプログラムへのスイ

スの参加

第 6 回 EU フレームワークプログラム(FP6)は、2002

~2006 年をカバーし、ヨーロッパでの研究へ資金を提

供する主要手段となっている。次の 7 つの主要分野が

選定されている。

- 健康のためのゲノミ

- 情報社会技術

- ナノ・テクノロジーおよびナノ科学

- 航空学および宇宙空間

- 食品安全性

- 持続可能な開発

- 開かれたヨーロッパ

市民とガバナンス

当然ながら、スイスは

グラムのコストを分担する。

に則って、GDP

2 億スイスフランから

するものと予想されている。

として 8億 3,500

これは、過去のスイス

いるが、スイスの新たな

されている。

6.2 その他の EU

ラムへのスイス

順に名称のみ列挙する。

- Eureka

- ヨーロッパ中期天気予報センター(ECMWF)

- 科学技術研究分野での欧州協力(COST)

- 欧州核融合協定(EFDA)

- 欧州分子生物学組織(EMBO)

- 欧州原子核研究機構(CERN : Centre Européen de

recherches nucléaires)

- 欧州南半球天文台機構(ESO)

- 欧州宇宙機関(ESA)

- 欧州放射光施設(ESRF)

- ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラ

ム(HFSP)

- マックス・フォン・ラウエ-ポール・ランジュバ

ン国際共同利用研究所(ILL)

- インテリジェント・マニュファクチャリング・シス

テム(IMS)

- 地中海学術調査国際委員会(CIESM)

- 国際エネルギー機関(IEA)

7. 結論

スイスの科学技術政策の特徴は、世界に冠たる大学

システムと、専門教育の充実にある。スイス国内にあ

る 2 つの連邦大学、各種連邦研究機関、さらに、CERN

に代表される国際的な研究施設とあいまって、その研

究レベルは最高水準にあるといえる。

一方で、研究成果の企業への移転はさほどに強くは

無いようである。それも無理からぬことで、スイスが

世界的に競争力を有する産業分野は、金融、化学、医

薬品、産業機械、精密機械、時計産業であり、しかも、

金融、化学、医薬品では強大な企業が存在するものの、

それ以外の分野は、ハイテク高付加価値を生かしたニ

ッチ分野に特化しており、取引額自体は多くは無い。

むしろ、スイスという国のサイズ、産業規模と比較

して、大学等の研究レベルが抜きん出て高いことが特

徴といえる。

しかしながら、連邦政府をはじめ、各大学において

も技術移転の重要性が認識され始め、2004~2007 年の

科学技術政策においてもイノベーションの促進が重要

課題として設定されている。

研究レベルの基礎体力が高いことから、研究室から

のスピンオフベンチャーも多数創出しており、ますま

す高付加価値産業育成に磨きがかけられていくことと

思われる。

【ジェトロ・ジュネーブ事務所 野田 耕一】

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1.2 EU の研究プログラム:スイスの新しい立場

2004 年 1 月 16 日、スイスと EU の代表者は、将来の

欧州連合の研究プログラムにスイスが「関連国」とし

EU の枠組みプログラムへの参加に加えて、スイスは

その他複数の EU および国際的な科学技術プログラム

にも積極的に参加している。以下に、アルファベット

EU

EU の研究者と同じ参加権が与 - 欧州気象衛星機構(EUMETSAT)

- 欧州分子生物学研究所(EMBL)

クスおよびバイオテクノロジ

の知識ベースの社会における

2004~2006 年期の枠組みプロ

この分担額は EU のルール

に基づいて毎年計算され、1 年あたり約

2 億 2,000 万スイスフランに達

2002 年には 4年間の予算

万スイスフランが承認された。

の分担を上回るものとなって

立場上、やむをえないことと

および国際的科学技術プログ

の参加