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東北大学医学部小児科 イブニング・カンファレンス 報告集 「宮城の PICU: 小児救急・麻酔・集中治療の立場から」 主催: 東北大学病院 小児科 期日: 平成 23 9 13 会場: 艮陵会館 大会議室 シンポジスト: 大田千晴,水城直人,小泉 コメンテーター: 村田祐二,植松

PICU...東北大学医学部小児科 イブニング・カンファレンス 報告集 「宮城のPICU: 小児救急・麻酔・集中治療の立場から」 主催: 東北大学病院

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  • 東北大学医学部小児科 イブニング・カンファレンス

    報告集

    「宮城の PICU: 小児救急・麻酔・集中治療の立場から」

    主催: 東北大学病院 小児科 期日: 平成 23年 9月 13日 会場: 艮陵会館 大会議室

    シンポジスト: 大田千晴,水城直人,小泉 沢 コメンテーター: 村田祐二,植松 貢

  • 巻頭言

    東北大学大学院 医学系研究科 発生・発達医学講座 小児病態学分野 教授

    東北大学病院 小児科 科長 呉 繁夫

    「日本の新生児死亡率は世界一低いが、幼児 (1~4歳) の死亡率は世界 21位で先進諸

    国のなかで最低」と厚生労働省研究班の調査結果がマスコミで大きく報じられたのは 2008年のことである.この原因として,日本は新生児集中治療室 (NICU, Neonatal intensive care unit) に比し小児集中治療室 (PICU, Pediatric intensive care unit) の整備が遅れていることに起因するといわれている.この検証は今後十分行われる必要があるが,PICUの整備が先進国の中で遅れている事は事実であろう.実際,東北 6県を見渡して見ても,静岡県立こども病院小児集中治療センターのように整備された PICUを有する病院は見当たらない.

    この冊子は 2011年 9月 13日に開催された小児科イブニング・カンファレンスの概要をま

    とめたものである.カンファレンスでは,PICUに興味を持つ東北大学小児科出身の若手小児科医3名 (小泉 沢先生,太田千晴先生,水城直人先生) に,1) 宮城県PICUの将来像,2) 宮城県 PICUの現状と展望,3) 宮城県の将来像,の観点からそれぞれの意見を展開して頂いた.この冊子をお読み頂くと,PICUの整備により得られる医療効果と同時に,大学病院や自治体病院で PICUを稼働していく事の困難さを伺い知ることができる.理想の医療に向けた努力を続ける若者の姿に,清々しい感じを抱くのは私だけではないであろう.「PICU実現のために何ができるか?」それぞれの立場で自問する良い機会を頂いたように思う.

  • シンポジウム講演 I. 演題名: 小児集中治療・PICU とは ~静岡こども PICU研修を通して見えること~ 講演者: 小泉 沢 所属: 地方独立行政法人 静岡県立病院機構 静岡県立こども病院 小児集中治療科 略歴: 東北大 H14年卒

    いわき市立総合磐城共立病院にて初期研修. 国立成育医療研究センター総合診療部,東北大学小児科,宮城県立こども病院 新生児科・麻酔集中治療科,大崎市民病院小児科に勤務. 平成 21年 4月より現所属で,現在は聖隷三方原病院救急科に短期研修中.

    自己紹介: 小児の集中治療医を目指して勉強中です.夢は大きめの爬虫類を自宅で飼育すること (家族の賛同が得られればですが...).

    抄録: 静岡こども PICU の現状を報告し,PICU の理想像の一例をお示ししたいと思います.東

    北・宮城における小児救急・集中治療をさらに発展させていくための議論のたたき台となれ

    ば幸いです. 1. 静岡県立こども病院小児集中治療センター (PICU) の現状 静岡県立こども病院小児集中治療科は「365 日 24 時間,内科・外科を問わずこどもを救

    命する」という理念の下,PICU (pediatric intensive care unit) を運営している.対象患者は,① 静岡県全域の内因系・外因系を問わない小児重症救急患者,② 重症患者の周術期管理,③ 院内急変重症患者の急性期管理であり,年間 500例程度の入室がある.PICU医の業務範囲は,ICU 診療に加えて,院内救急コールへの対応,重症患者搬送,院内外でのトレーニングや教育への参画,Medical Control 協議会会員としての活動と多岐に及ぶ.また,静岡県東西ドクターヘリと自院ドクターカーを活用した重症患者搬送システムを確立し,重

    症患者の集約化を行っている. 2. 重症小児患者の医療の質を上げるためには 1) 小さな PICU より大きな PICU: 医療の質を改善,維持し,安全な医療システムを構築するためには,集約化された大きな PICUが望まれる.

    2) よどみのない小児救急・集中治療 (救命の連鎖): 消防との連携,そして小児救急,重症小児搬送システム,PICUの同時構築が必要である.

    3) Multidisciplinaryなアプローチ: PICU医だけではなく,小児に関わるすべての科・部門との共同が必要である. 上記,医療システムの構築には,「いかに重症小児の予後をよくするか」という我々一人

    一人の高い意識と,行政・大学・各病院・病院経営側の強いバックアップ,経済的サポート

    が必要です. 講演後の感想: 今回,シンポジストという過分な役目を仰せつかりイブニング・カンファレンスに参加させ

    て頂きました.私は,静岡県立こども病院の現状を紹介し,PICU のひとつの理想像 (24 時間 365 日原因を問わず救急・重症患者を受け入れる大きめの PICU,専属医の診療,専門医教育体制の整備) を示しました.また,それを実現させるために必要な小児救急体制と重症小児患者搬送システム構築,他科・他部門との協同の重要性を強調させて頂きました.当

  • 日は立ち見もでるほどの盛況ぶりで,大学病院のみではなく,複数の施設の医師,看護師

    の皆さまにご参加いただき,演者としてはその責任を感じるとともに,大変うれしく思いました.

    今後,小児救急・集中治療体制を改善し新たに構築していこうという方向性を,参加された

    多くの先生と共有できたこと,そして若手の諸先生にも小児救急・集中治療分野の重要性を

    アピールできたことは,今回のカンファレンスの大きな意義であったと感じています.一方で,

    ハード面,ソフト面ともに課題が山積していることも明らかとなりました.小児救急・集中治療

    に従事する人材確保の一案として,小児科のみではなく,救急科,集中治療科,麻酔科と

    の交流を密にすることや,システム整備を現実化する上で外科系を中心とした関係各科の

    皆さまとの意見交換も積極的に行っていく必要もあると考えます. このカンファレンスでの話し合いが,東北・宮城に小児救急・集中治療体制を構築し,生

    命の危機に瀕したこども達を守るための,小さいながらも大きな一歩になることを信じていま

    す.私は,引き続き「一」小児集中治療医になるべく静岡県立こども病院にて日々研鑚を積

    むとともに,これからのシステム構築に役立てるよう,広い視野での研修を行っていきたいと

    思います. 最後に,このようなカンファレンスを立案され,多くの方々が一堂に集まる素晴らしい機会

    を提供していただいた,呉先生,松田先生をはじめとする東北大学小児科の皆さまに改め

    て深謝いたします.

    三名のシンポジスト.向かって左から大田千晴,小泉 沢,水城直人 (敬称略).

  • 1

    1

    小児集中治療 PICU とは

    ~静岡こどもPICU研修を通して見えること~

    静岡県立こども病院 小児集中治療センター

    小泉 沢

    本日 私からは、自分の経験をもとに

    1) 静岡県立こども病院PICUの現状

    ・ PICU業務実際、対象患者

    ・ 実績

    ・ 運用のキーポイント

    2) 理想とされるPICUとは?

    がんばってるよ 東北

    1977年誕生

    静岡県立こども病院

    病床数 243床

    診療科

    救急総合診療・新生児・循環器・血液腫瘍

    神経・腎臓・アレルギー・内分泌代謝・遺伝

    外科・心外・脳外・形成・整形・泌尿器

    こころ・歯科・産科・(耳鼻・皮膚・眼・放射線)

    麻酔科・小児集中治療科・循環器集中治療科

    内科系

    外科系

    屋上 ヘリポート

    6階 外科系病棟

    5階 小児集中治療センター(PICU)

    4階 手術室・カテ室・CT

    3階 循環器センター(CCU・循環器病棟)

    2階 産科・MFICU

    1階 救急センター

    2007年西館open 静岡こども 循環器センター CCU

    病床数 12床 (集中治療加算5床)

    対象

    集中治療の必要な先天性心疾患 術前術後管理

    循環器系の重症患者

    (心筋炎・心筋症・循環不全を伴う不整脈など)

    ちなみに CCU3名 心外8名 循環器10名ぐらい 開心術300例/年

  • 2

    病床数 :12床 (集中治療加算4床)

    医師数 :常勤医10名、非常勤医4名

    (専属医が2交代のシフト制勤務)

    看護師数:30名

    (3交代性:日勤帯11名、準・深夜帯4名)

    平成22年小児救命救急センター運営事業指定

    静岡県立こども病院 小児集中治療センター PICU 対象疾患群

    • (術前)術後の主要臓器不全

    • 静岡県全域の小児重症救急患者

    (内科系・外科系問わず)

    • 院内急変重症患者

    • 地域救急車の条件付常時受け入れ 重症と思われる小児

    こども病院が最寄り

    他院が受け入れ不可能

    これまでの診療実績 2009.1.1-12.31

    入室患者数

    院内 手術室より

    233 (47%)

    救急患者

    他病棟より

    63 (13%)

    院外 外来より10(2%)

    他病院より

    129 (26%)

    ドクターヘリ 51

    当院ドクターカー44

    救急隊・

    ドクターヘリにて直接

    57 (12%)

    一般救急車 76

    他院救急車 15

    492

    これまでの診療実績 2009.1.1-12.31

    院外3次救急患者196人の傷病詳細 外因系 59人 (30%) 交通外傷: 25人 転落・転倒:20人 熱傷: 8人 気道異物:4人 溺水:2人

    内因系 137人(70%) (含む 心肺停止:6人) 神経系 :54人 痙攣重積、急性脳炎・脳症、失神等 呼吸器系:48人 重症肺炎、細気管支炎、喉頭蓋炎等 消化器系:16人 消化管出血、肝不全、急性腹症等 その他 :19人 重症脱水、敗血症性ショック等

    2010年1月~12月

    入室患者数 486例

    平均在室日数 6.3日

    転帰 軽快89% 不変6% 死亡2.5%

    搬送元 院内60% 院外40%(県外4%)

    PICU医の業務 ①

    診療 PICUでの集中治療

    救急外来での重症患者診療支援

    Medical Emergency Teamのリーダー

    (院内救急コールへの対応)

    ドクターカーによる重症患者搬送

  • 3

    PICU医の業務 ②

    教育 院内でのトレーニング・教育への参画

    院外でのトレーニング・教育への参画

    県内小児科・看護師・救急隊員との勉強会

    Medical Control協議会への参加 消防(救急隊)と医療をつなぐ協議会

    プレホスピタルケアの質の管理、プロトコール・搬送基準作成

    (real timeの指示・指導・助言、事後検証、救急隊員再教育)

    PICU診療の実際

    Multidisciplinary(集学的な多職種の)チーム医療

    小児集中治療医が、各専門診療科にコンサルトかつディスカッションを行い、意見をまとめ最終的にチームとしての治療方針を決定

    PICU入室患者の主科は小児集中治療科

    PICU内の指示だしは、すべてPICU医が行う

    シフト制のチーム医療のため、申し送り・ディスカッションは念入りに。 1日2回 1回1-2時間程度

    当直じゃありません、夜勤です

    救命の連鎖

    県内のMedical Controlとして

    重症のこどもは「こども病院へ」という方針

    重症小児の転院搬送もヘリコプターを積極的活用

    運営のキーポイント PICU医が専属で診療

    24時間365日 小児3次救急患者受け入れ

    専用ホットラインあり、つねにPICU医が対応

    内因系(内科)・外因系(外科)を問わない

    重症患者搬送システムの確立

    静岡県 東・西ドクターヘリ、自院ドクターカー

    病床10-20+α PICU専門医の育成

    結果 静岡県の小児死亡数の推移

    118 95 91 86

    12 20 13

    31

    19 33

    21

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    120

    140

    160

    平成18 平成19 平成20 平成21

    こども病院

    (PICU外) PICU

    こども病院

    以外

    118 95 91 86

    静岡こどもPICU 成功の秘訣?

    ①小児集中治療医の強いリーダーシップ 高度な集中治療の質を維持 ②院長・県のバックアップ

    重症管理の科、救急総診科を新設し、人件費確保 病院として救急患者を受け入れる方針に 静岡は小児救急システム構築が遅れていた 小児救急・重症患者診療を担う大きな中核病院不在

  • 4

    静岡こどもPICU 成功の秘訣?

    ③患者の集約化 24時間体制の重症救急患者受け入れ (消防からも他病院からも電話一本)

    重症患者搬送システムの確立 消防との連携 地域小児科との連携

    静岡こどもPICU 成功の秘訣?

    ④医療資源の集約化 院内各科との連携 全身管理はPICUで行い専門各科は手術など専門診療

    に集中

    PICU専門医による専属診療 PICU専門医養成のための教育体制整備 疲弊しない勤務体制 (シフト制・休日しっかり 開設時常勤10名非常勤2名)

    本日 私からは、自分の経験をもとに

    1) 静岡県立こども病院PICUの現状

    ・ PICU業務実際、対象患者

    ・ 実績

    ・ 運用のキーポイント

    2) 理想とされるPICUとは?

    小児重症患者の予後を良くするには?

    がんばってるよ 東北

    生命の危機に瀕した「こども」の予後を改善させるためには?

    どんなPICUがよいのか?

    質の高い医療を継続的に提供するためには?

    医療の質って

    PICUだけで予後がよくなるのか?

    小児集中治療医だけいればいいのか?

    医療の質 とは?

    1 安全性 2 有効性 3 平等性 4 迅速性 5 患者中心の医療 6 効率性(無駄の尐ない医療)

    To err is Human ヒトはミスをする

    危険

    医療事故

    能動的ミス

    潜在的ミス

  • 5

    To err is Human ヒトはミスをするもの

    より安全な医療システムの構築が必要

    特に救急・集中治療(ICU・PICU)はミスが起こりやすい職場であるという認識

    尐数精鋭よりチーム医療へ

    専従医と専属看護スタッフを中心とした医療

    集約化による施設全体の経験値↑

    疲弊しない勤務体制(継続性の保証)

    小児の重症患者は成人ほど多くない

    「いろいろな病院で、たまに診る」 では、診療の質は上がらない。

    独立した病床/病棟・看護単位

    専属スタッフによる切れ目のない診療提供

    救急・搬送システムの構築による患者の集約化

    が望まれる

    「小さなPICU」 より 「大きなPICU」

    大きなPICUは小さなPICUに比べて治療成績が良い

    Pearson G, et al. Lancet 1997; 349: 1213-17

    Tilford JM, et al. Pediatrics 2000; 106: 289-94

    治療の標準化を進めやすい

    医療スタッフにもより能率的な労働条件

    (疲弊しない勤務体制)

    専門トレーニングの場を提供可能

    (医師、看護師)

    PICU入室患者数と予後

    よどみのない救急・集中治療

    例えば・・・

    目撃のある心停止 VF/ pulseless VT

    Surviving Sepsis Campaign Guideline 2008

    迅速なトリアージ・救急治療の開始

    → 集中治療への引き継ぎ

    がこどもの予後に直結する

    SSCG2008 小児

    Seamlessな

    救急・集中治療が

    患児の予後改善に必要

    0-5分

    15分

    60分

  • 6

    PICUのみでは 予後は改善しない 救命の連鎖

    救急システム 搬送システム 構築の重要性 医療機関の連携

    小児集中治療医のみでは 予後は改善しない

    PICU

    専門各科との連携

    急性期より回復後のフォロー体制

    の確立は必須

    全身管理・支持療法 より尐ない合併症で

    根治治療が効果的に働く環境を提供

    多分野の適切な統合

    じゃこれから・・・ 重症小児の医療の質を担保するには

    ① 集約化された大きなPICUの構築が

    医療の質の点から望まれる

    患者も医療資源も集約化!!

    ② PICUのみでは重症小児の予後は改善しないPICU 小児救急 重症小児搬送システム

    同時構築が必要

    じゃこれから・・・ 重症小児の医療の質を担保するには

    ③ Multidisciplinaryなアプローチ

    小児内科重症患者を・・・という視点のみでは本当の小児3次救急は不可能

    小児に関わるすべての科・部門との共同が必要 小児科救急・集中治療から小児救急・集中治療への転換

    ④ 小児医療の質を改善させるため、行政・大学・病院経営側の強いバックアップと経済的サポート

    いかに、

    重症なこどもの予後を改善できるか?

    こどもの防ぎえる死を減らせるか?

    という我々一人一人の高い意識

    熱い気持ちが最も大切

    がんばってるよ 東北

    都立こども 静岡

    24時間救急患者受け入れる

    PICU

    東北につくるのなら

    やっぱり ○○ ですよね 仙台

  • シンポジウム講演 II. 演題名: 宮城県における小児集中治療室 (PICU) の整備状況

    ~基幹病院へのアンケート調査に基づいた分析および考察~ 講演者: 大田千晴 所属: 東北大学大学院 医学系研究科 発生発達医学講座 小児病態学分 大学院生 (先進感染症予防学講座に出向中) 略歴: H12年 東北大卒 H12-15年 厚生年金病院小児科で,一般小児科を貴田岡節子先生,新井宣博先生,黒

    羽根郁夫先生に,新生児医療を斎藤潤子先生に教わりました. H15-16年 北九州市立八幡病院小児救急センターで市川光太郎先生のもと,小児救急

    医療を学びました. H16-17年 大学,気仙沼市立病院. H17-20年 宮城県立こども病院麻酔集中治療科.谷口晃啓先生のもと,小児集中治療,

    小児麻酔を学びました.水城先生,小泉先生とはその時にご一緒しました. H20-21年 ミシガン州立大学に夫とともに留学,呼吸器関係(主に胎便吸引症候群)の

    研究を行い,アメリカでの妊娠,出産も経験しました. H22-現在 東北大学先進感染症予防学講座大学院生.久保裕司先生のもと,肺胞上皮

    細胞の再生の研究に携わっています. 自己紹介: 小児科外来診療の際には,入ってきた瞬間に,必ずこどもと保護者の方に,診

    療以外のことで声をかけるようにしています.たとえば,「あ,今日はお母さんとお

    そろいの格好だね.」とか.そういう一言で格段に診療しやすくなるようです.診療

    の際の座右の銘は「100人の軽症のこどもから 1人の重症を見つけること」.そう思っていると沢山来てもいやにならない(うそです・・・).

    抄録: 【背景】 日本におけるPICUの整備状況は,欧米各国に比較して大きく遅れている.2010年に中川らが行った調査では,「看護単位が独立した PICU」は全国に 24 ヶ所,総病床数は196床と,以前と比べ漸増傾向にはあるが,依然小児人口 10万人あたり 1床の割合であり,欧米各国の 10万人対 2.5~5.4床には遠く及ばない.桜井らによる 14歳以下での小児の「不慮の事故による死亡率」を都道府県ごとに比較した研究では,PICU のある都道府県における死亡率は 5.5 ±4.3 と,ない都道府県の 8.0 ±5.9 に対して有意な差が認められた.また,2010 年度の人口動態統計によれば,乳児死亡率 (千対比) の都道府県比較では,全国2.3に対し,仙台市 2.7,東京区部 1.8,静岡市 1.2,北九州市 1.9 (宮城県 2.5,東京都 2.0,静岡県 2.1) と,仙台市および宮城県では死亡率が高かった.現在,宮城県立こども病院のPICU 7床は周術期管理を中心に稼働しており,事故や急性疾患などの重症救急に対する受け皿となるような PICU病床は稼働していない. 【仮説】 宮城県内の小児救急・集中治療システムを再整備することによって小児の死亡数を減少できる. 【方法】 宮城県の基幹病院小児科に対するアンケート調査によって,以下を明らかにする. 1. 小児の重症患者をどのような体制で診療しているのか. 2. 小児の重症患者の管理は主に誰が行っているのか.

  • 3. どのような疾患で ICU管理が必要とされているのか. 4. 宮城県における小児科病床数に対して必要な PICUはおおよそ何床か. このアンケート調査の結果をまとめて具体的な数値として指標化し,さらに他県の PICU との比較も加え,宮城県の小児救急・集中治療システムの再整備を考える上で必要とされてい

    る課題を明らかにする. 講演後の感想:

    9 月 13 日に開催されました小児科イブニング・カンファレンスの際には,数多くの先生にお集まり頂き,ありがとうございました.また,震災後ますますお忙しい日常診療の中,アンケ

    ート調査にご協力くださいました宮城県内の市中病院小児科の先生にも,この場をお借りし

    て厚く御礼申し上げます. 私自身が小児科医になりました 2000 年ころから,小児救急・小児集中治療の質を高めよ

    うという機運が全国的に高まってまいりました.そのような状況の中,これまでその分野には

    あまり積極的ではなかったと思われる宮城県で,今回多くの先生にお集まり頂けたことは,

    大きな一歩だと感じております.半年前に起きた未曾有の大震災の経験も,あるいはこうし

    た流れにつながってきたのかもしれないと胸が熱くなる思いです. さて今回のカンファレンスでは,アンケート調査から,宮城県内で過去にどの程度の

    PICU 患者が発生しており,およそ何床必要なのかという試算を出しましたが,まとめてみますと,まだまだ正確な試算にあたっては様々なデータを必要とすることがわかりました.その

    中で今後最も必要とされるデータは,以下の 3点に集約されるように思います. 1.宮城県で (あるいは東北地方全体で),実際に毎年,PICU 管理を必要とする重症小児患者が何人発生しているのか.

    2.これらの患者のうち,実際に PICU で管理された患者と管理されなかった患者はどの程度の割合で存在するのか.

    3.PICU で管理された患者の予後は管理されなかった患者の予後よりもどの程度良好であるのか. これらの問題を明らかにするためには,各病院共通のデータベースを作成し,PICU のあ

    る病院と連携して,前方視的に研究していくことが重要であると考えられます.また同時に,

    将来的に PICU 開設時にスタッフとなり,診療と教育にあたることのできる人員を今から養成し,確保しておく必要があります. 上記のようなシステム構築のためには,「宮城県小児救急・集中治療研究会」の創設がス

    タートラインになると思います.この研究会では,宮城県のみならず,全国,あるいは欧米で

    はどのようなレベルであるのかといったことも研究していければよいと思います.例えば,先

    日出席した小児麻酔学会で,最重症の小児疾患のひとつである横隔膜ヘルニアは施設に

    よっては intact survival rateが 9割を越えているという報告がありました.(宮城県立こども病院でもほぼその数値を達成していました.) 高い技術と知識,そして豊富な経験を生かしてチーム医療を行えば,このような高いレベルの PICU 構築も可能です.このような小児救急・集中治療の発展を目指し,皆さまと共に歩んでいければと考えております.今後ともどうぞよ

    ろしくお願いいたします.

  • 11/10/17

    1

    東北大学小児科

    先進感染症予防学講座大学院生

    大田 千晴

    宮城県における小児集中治療室
の現状と今後の展望

    背  景

    1.  小児集中治療室(PICU)の定義と意義

    2.  欧米におけるPICUの現状

    3.  日本におけるPICUの現状

    4.  宮城県における小児重症患者の現状とPICU

    1.小児集中治療室(PICU)とは

      小児で呼吸循環管理の必要な重症患者が管理され、    看護単位が独立した部屋のこと(桜井ら、2003年)  

         一時的に生命が危険な状態にある小児患者に対し    その原因、病態、基礎疾患を問わず、病院の総力    を挙げて治療する場である。  

       院内外の急変患者、救急患者にとっては  「最後の砦」であり、術後に全身管理の必要にな    る手術(開心術など)を受ける患者にとっては    安全に手術を受けるための「必要条件」である。

    小児集中治療部設置のための指針―2007  年3  月―日小児会誌111:  1338-‐52,  2007

    PICUで管理するメリット  成人ICUとの比較

    0  

    5  

    10  

    15  

    20  

    25  

    30  

    ICU群 PICU群

    死亡率(%)

    実死亡率 予測死亡率 (PIM2)  

    人工呼吸管理を要した15歳未満の小児患者33名 (ICU群/PICU群:22/11名)の実死亡率と予測死亡率を比較

    武井健吉、清水直樹、他:小児重症患者の救命には小児集中治療施設への患者集約が必要である。  日救急会誌19:  201-‐07,2008.

     小児集中治療医、小児麻酔科医、小児科医など、小児の特性を熟知した医師、小児専門のコメディカルスタッフによる、よりきめ細かな治療を行える。  

     小児のサイズや疾患、適応に合った医療機器を選択できる。  

     小児重症患者をPICUに集約することで、    救命率向上が期待できる。  

    PICUのメリット 2. 欧米におけるPICUの現状


    アメリカ合衆国

      349PICU, 3899床 (1床/18歳未満小児人口18542人)  15床以上のPICUが全体の24%  94%の施設にPICU専従医

    1床/15000人

    1床/15000-25000人

    1床/25000-50000人

    1床/50000-75000人

    なし

    Randolph A, et al: Growth of pediatric intensive care units in the United States from 1995 to 2001. J Pediatr 144: 792-98, 2004より引用、改変。

    モンタナ州、日本と同じ面積

  • 11/10/17

    2

    3.  日本におけるPICUの現状

    PICUの総数

    2005年 16施設、97床 (桜井ら) 2010年 22施設、196床 (中川ら)

    漸増しているが、まだまだ不足している

    小児人口10万人当のPICU床数

    0.0

    1.0

    2.0

    3.0

    4.0

    5.0

    6.0

    アメリカ カナダ ヨーロッパ オーストラリア 日本

    5.4    

    4.2    

    2.5    

    1.5    

    1.0    

    PICU床数/小児100,000人

    4.乳児死亡率から見た宮城県の現状

    0

    0.5

    1

    1.5

    2

    2.5

    3

    新 潟 市

    静 岡 市

    岡 山 市

    名古屋市

    東京都区部

    札 幌 市 堺 市

    北九州市

    横 浜 市

    浜 松 市

    京 都 市

    神 戸 市

    広 島 市

    福 岡 市

    大 阪 市

    仙 台 市

    千 葉 市

    さいたま市

    川 崎 市

    宮城県

    全国平均

    2010年度乳児死亡率(対1000出生)

    何が問題なのか 小児科医不足?  

    救急搬送システムの問題?  

    PICUの整備不足?    小児1000人あたり1.3-‐1.5人/年のPICU患者が発生する(オーストラリア、オランダなど)と仮定  

    ↓    宮城県の15歳以下の小児人口=320,000人    1.5x320  =  480人/年のPICU患者が発生しうる            ↓    1ベッド当たり年間41人収容と仮定して、約12床/県のPICUベッドが必要?

    仮  説

    宮城県の小児救急・集中治療システムを 再整備すれば小児の死亡数を減少できる

    宮城県内の小児救急患者のうちPICU管理が 必要な患者について、症例数、疾患の内訳、 外来受診患者に対する割合などを検証する

    目  的

  • 11/10/17

    3

    宮城県内で小児科を標榜する24病院への アンケート調査

    方  法 質問項目 1.  小児科病床数  2.  救急診療体制(1次、2次、3次)  3.  年間の外来受診患者数および入院患者数  4.  外傷診療の有無  5.  ICUの有無  6.  ICUベッド数  7.  ICU入室患者数(小児科)  8.  ICU管理担当者  9.  ICU管理のために転送した患者数  10.  主な転送先  11.  ICU患者の具体的な疾患名、年齢、入室期間、手術の有無、         

    人工呼吸管理の有無、CHDFおよびECMOの有無  12.  日頃小児集中治療を意識して診療にあたっていること(自由記載)  13.  宮城県でのPICUの発展にとって必要なものは何か(自由記載)  

      24病院中、19病院(79.1%)より回答を得た。

    結  果 ICUの有無

    有 26%

    無 74%

    5病院/19病院にICUベッド有   成人ICUとの混合:4病院   PICU: 1病院(7床)

    診療体制とICUの有無

    0  

    1  

    2  

    3  

    4  

    5  

    6  

    7  

    8  

    9  

    10  

    1次救急 2次救急 3次救急

    病院数

    ICU無 ICU有

    小児科病床数とICUの有無

    0

    1

    2

    3

    4

    5

    6

    7

    0床 4-‐6床 7-‐10床 11-‐15床 16-‐20床 21-‐30床 30床≧   50床≧  

    ICU無 ICU有

  • 11/10/17

    4

    年間外来患者数とICUの有無との関係

    0  

    1  

    2  

    3  

    4  

    5  

    6  

    7  

    ~500   4000  -‐10000  

    10000  -‐15000  

    15000  -‐20000  

    50000  -‐60000  

    病院数

    患者数(名)

    ICU無 ICU有

    年間入院患者数とICUの有無との関係

    0  

    1  

    2  

    3  

    4  

    5  

    0-‐10   100  -‐200  

    200  -‐500  

    500  -‐1000  

    1000  -‐1500  

    1500  -‐2000  

    5000≧  

    病院数

    患者数(名)

    ICU無 ICU有

    小児科での外傷診療とICUの有無

    0  

    2  

    4  

    6  

    8  

    10  

    12  

    14  

    16  

    18  

    無 有

    病院数

    外傷診療

    ICU無 ICU有

    転送先病院の内訳

    仙台市立病院 35%

    東北大学病院 31%

    宮城県立 こども病院

    17%

    大崎市民病院 17%

    ICUへの搬送患者の疾患内訳

    0    

    5    

    10    

    15    

    20    

    25    

    30    

    35    

    呼吸器系

    脳神経系

    循環器系

    内分泌・代謝

    消化器系

    血液腫瘍

    SIDS

    その他

    外傷

    中毒

    溺水

    誤嚥

    内因系(89.4%) 外因系(10.5%)

    全症例に対する割合(%)

    内因系疾患の分類と搬送先

    0  

    5  

    10  

    15  

    20  

    25  

    呼吸器系

    脳神経系

    循環器系

    内分泌・代謝

    消化器系

    血液腫瘍

    SID

    S

    その他

    仙台市立病院 東北大学 宮城県立こども病院 大崎市民病院

    内因系疾患に占める割合

    (%)

  • 11/10/17

    5

    外来受診者数とICU搬送患者数の割合

    0  

    2  

    4  

    6  

    8  

    10  

    12  

    14  

    16  

    0   5000   10000   15000   20000  

    ICU搬送患者数(名)

    外来受診者数(名)

    外来受診患者10,000人当の ICU搬送/収容患者数

    0  

    5  

    10  

    15  

    20  

    25  

    0   20   40   60   80   100   120   140  

    仙台市立病院

    国立療養所宮城病院

    外来受診患者10000人当の平均ICU収容患者数=1.6人 気仙沼市立病院

    仙台市中心部(東北大学病院)までの距離(km)

    仙台市中心部からの距離とICU搬送患者数 (外来受診患者10,000人当)

    0  

    2  

    4  

    6  

    8  

    10  

    12  

    14  

    16  

    18  

    0   20   40   60   80   100   120   140  

    ICU搬送患者数(名)

    仙台市中心部(東北大学病院)までの距離(km)

    仙台市中心部からの距離とICU搬送患者数との相関関係(外来受診患者10,000人当)

    仙台市中心部から距離的に遠いほどICU搬送患者の割合が  増加する傾向がある

    Spearmanの相関係数:0.7025  (p=0.0035)より  仙台市中心部からの距離とICU搬送患者数の間に相関があるといえる。  

    仙台市立病院ICU管理症例一覧  (2010年)

    0  

    5  

    10  

    15  

    20  

    25  

    脳神経系

    呼吸器系

    循環器系

    内分泌・代謝系

    消化器系

    CPAOA

    蘇生後

    外傷

    中毒

    溺水

    熱傷

    外科系各科で診療

    計61症例/年

    症例数(名)

    平均年齢4.9歳  (中央値2) 平均在室期間5.9日(中央値4)

    宮城県立こども病院ICU管理症例一覧(2010年)

    緊急入室症例:計68症例 予定入室症例:計155症例

    0  

    5  

    10  

    15  

    20  

    25  

    外来

    病棟

    手術室

    NICU

     

    カテ室

    0 20 40 60 80

    100 120 140 160

    手術室

    病棟

    NICU

     

    外来

    計223症例/年

    症例数(名)

    平均年齢5.8歳  (中央値1)  平均在室期間10日(中央値9)

  • 11/10/17

    6

    結果のまとめ-1  宮城県内で小児科を標榜する病院のうち、ICUを有する病院は5病院であった。  

      ICUを有する病院では、  1.  主に2次から3次救急を担っていた。  2.  病床数は16床以上であった。  3.  年間外来受診患者数は10,000人以上、入院患者数は500人以上であった。  

     主な転送先は、仙台市立病院、東北大学病院、宮城県立こども病院、大崎市民病院であった。  

     

    結果のまとめ-2  疾患は呼吸器系、脳神経系が主であったが、施設の特色毎に疾患の内訳が異なる傾向があった。

     外来受診患者10000人当の平均ICU搬送患者数は1.6人であった。

     搬送人数は仙台市中心部から遠いほど増加する傾向にあった。

     仙台市立病院と宮城県立こども病院の2010年のICU管理症例の合計は284症例であった。

    1.宮城県には何床のPICUが必要なのか こども病院と市立病院でICU管理されている 小児の合計が約280人/年。ここに大学、大崎 市民病院で管理されている症例を併せて約300 人/年のICU患者が発生している。

    ↓ 0.93人/小児1000人

    1.3-‐1.5人/小児1000人の患者の発生を仮定すると

       

    考  察

    約120-180人の重症疾患の小児の予後が PICU管理によって改善する可能性があ

    2.救急+PICU型モデルケース -北九州市立八幡病院-

     北九州市(人口99万人、小児人口13万人)と、周辺領域(人口14万人、小児人口2万人)を医療圏とする1-3次救急対応病院

     小児科医3名での当直

     併設の1次急患センターに小児科スタッフ1名  救命救急センターに小児科スタッフ1+レジデント1名を配置

     小児科スタッフ18名+レジデント7名  絶対断らない。

    「100人の軽症患者から1人の重症患者を発見する」

     年間外来受診者数49,000人、入院者数3900人  

      ICUは成人型との混合。  

     術後管理目的のICU入室は殆どなく、大部分の症例がプレホスピタル領域からのICU入室。  

     内因系、外因系の両方を小児科医が主治医として診療している。  

      ICU入室患者数41人(内因系32/外因系9)   内因系平均6.53人/外来受診患者10,000人   外因系平均1.83人/外来受診患者10,000人  

    当科での2003年~4年間の状況 ICU入室患児 平均17人/年 病床利用数 最大3-4床 病床利用率 37/病床数(%)

    PICUの必要病床数の推論 (北九州市立八幡病院市川光太郎先生より)

    当科での2008年~3年間の状況 ICU入室患児 平均33人/年 病床利用数 最大3床 病床利用率   63.3/病床数(%)

    北九州市全体での推測 ICU入室患児 約92.4人/年 病床利用数 最大8.4-14.2床 病床利用率    177.2/病床数(%)

    子ども人口15万人で ICU利用のプレホスピタル 症例は100人/年程度       ↓ 病床利用率50%としても 15万人に4床のPICUが必要

    外来受診者数   平均49,000人/年 ICU入室患児   平均 33人/年 外来受診1万当り6.7人

  • 11/10/17

    7

    八幡型3次救急施設へのPICU併設案

      1次急患センターの併設   小児科スタッフによる患者のトリアージは重症症例の発見に非常に有効。見つけた重症者をすぐにICU管理できるメリットもある。  

     病院併設であることで「その場しのぎ」的診療が    減らせる。  

     小児科医の重点的配備   小児集中治療のスペシャリストの配置  

     小児麻酔科、PICUでの勤務経験5年以上    教育の面、財政面からを考慮すると、救急だけではなく、術後管理併設型にすべき。  

      PICU管理患者の数から試算すると現在の7床から12床への増床が望まれる。  

    PICUにとって必要なこととは? (アンケートより、自由記載)

      集中治療ができる施設間のネットワーク 、空床情報。    ICU患者の早急な受け入れといつでも受け入れ可能な体制(満床でも断らない)。  

      人手が必要 。小児科医の数の確保、勤務医の集約。    医師や看護師等のスタッフの充実。密な人事交流。    人件費をまかなえるだけの診療報酬改定なども必要。 小児を診られる看護師の養成  

      拠点となり人材を育てるPICUと、若手を育てる小児集中医療専門医が必要。  

      知識のみならず医師の人間性も向上すべき。    宮城も静岡のようにこども病院に集約すべき。    PICUが経営的に赤字に陥った際の一般の人々の理解。  

     宮城県の重症救急患者についてのアンケート調査を行った。  

     外来受診患者10,000人当平均1.6人の患者がICU管理されていた。  

     宮城県小児人口1,000人当0.93人がICU管理されていた。これを欧米並みの1.3-‐1.5人に引き上げることで、宮城県内の重症患者の予後が改善する可能性がある。  

     宮城県におけるPICU構築のためには、人的、財政的など多角的な支援が必要である。  

       

    結  語  

      アンケートへのご協力ならびにご清聴ありがとう ございました。

      今後さらに研究を深め、宮城県の小児集中治療の

    発展のために努力して参りたいと存じます。

    Autumn  in  Michigan

  • シンポジウム講演 III. 演題名: 宮城県における小児救命集中治療の将来像 講演者: 水城直人 所属: 東京都立小児総合医療センター 救命・集中治療部 集中治療科 略歴: 山形大 H13年卒. 出身地は長野県松本市.日立製作所日立総合病院小児科にて初期研修.

    長野県立こども病院麻酔科・集中治療科,東北大学病院小児科・NICU,宮城県立こども病院循環器科,仙台市立病院小児科に勤務. 平成 22年 10月より現所属.

    自己紹介: 専門は小児集中治療・小児循環器.東京都立小児医療センターは小児科専門医だけでも 200 人を超え,想像以上の規模に初めは驚きました.しかし,それでも不十分とも思える数の患者が存在しており,田舎育ちの自分にとっては,そんなこ

    とからも東京の人口密度が世界でトップクラスであることを実感しました.当施設に

    は小児集中治療を実践しようとする小児救急医が数多く集まり,日々の診療で苦

    悩しながら一緒に頑張っています.重症患者を診る集中治療は一見複雑に見え

    ますが,実際の治療方針と目指すべきゴールは極めて単純で明快であり,そんな

    単純さと明快さが自分にとっては合っているのかもしれません. 抄録: 【東京都における小児救命集中治療】 小児救命集中治療科をもつ小児総合病院は都立小児総合医療センター (多摩地区) と成育医療センター (23区) が存在している. 都立小児総合医療センターの現状: 小児救命救急科と小児集中治療科が独立して存在し,重症患者を担当している.24時間体制で小児一次から三次救急外来を行っており,小児救命救急科と総合診療科が担当している.重症患者 (三次救急) は関東地方をカバーしている. 小児救命救急科の役割: 基本的に外来勤務.一般的な小児 1次救急外来を総合診療科とともに診療し,重症患者や外傷患者の場合,診療リーダーとして外来や関連各科を調整し,

    PICU入室や手術などを手配する. 小児集中治療科の役割: 基本的に PICU 病棟勤務と病棟急変症例.PICU 入室対象症例は内因系重症疾患,外因系疾患,術後重症疾患などの多岐にわたっている.術後の重症

    患者や外傷患者の急性期管理を行うため,一般的な小児内科学の領域を超えて,その関

    連各科の領域の知識や技術も必要である.小児内科と小児麻酔科そして小児外科領域の

    オーバーラップしたその中間位の存在が小児集中治療科医. 重症患者を取り巻く関連各科: 初療は小児救命救急科と総合診療科が中心になって各小児専門科とともに担当.急性期のPICUでの重症診療は小児集中治療科が担当.経過観察や慢性期は総合診療科や各小児専門科 (内科・外科・精神科を含む) が担当. 【宮城県における小児救急集中治療】 理想的には: 外科的医療介入を要することが多いこと,治療後も長期的に経過観察する必要がある重症患者を診療することを考慮すると,PICU 設置は宮城こども病院が理想的と思われる. 現実的には: 現在すでに一次二次救急は主に仙台市立病院,石巻赤十字病院,大崎市民病院,3 次救急は東北大学病院,宮城県立こども病院,大崎市民病院で行われ,小児救命集中治療のハードとしての体制が比較的整っていることを考慮すると,東京都の様な一次

  • から三次救急を一つの病院で行うことは現実的ではない.しかし小児科医師の偏在による

    病院間格差,地域間格差,独立した小児集中治療科が存在していない,小児救命集中治

    療科のスタッフが不足しているといった問題もある. 今後をどうするか: まずは小児集中治療科を宮城県立こども病院,小児救命救急科を仙台市立病院,東北大学病院を小児救命集中治療の教育システム管理組織として立ち上げる.

    そして段階的に発展している小児救命集中治療においても,いずれの段階においても効率

    的で計画的な教育システムによるスタッフの育成が重要である.また社会全体さらには小児

    科,成人救命救急科や麻酔科にも小児救命集中治療の必要性を理解してもらい,同時に

    要求されるような存在になることが現在最も大切なことと思われる. 講演後の感想: 予想以上の方々に集まって頂いて本当に驚きました.本当にありがとうございました.内

    容は宮城の将来像という自分の立場からすると僭越な感じもありました.それでも皆様にお

    伝えしたいことの多くを自由に表現させていただいたのは感謝をしておりますし,自分にとっ

    ても身の引き締まる思いもあり,実りある会になったと感じています.以前からご指導してい

    ただいた大恩ある先輩医師の方々にも温かく迎え入れて頂き,大変感謝しております.そし

    て救命集中治療に関して興味を持って頂いている若い小児科医の方も予想以上に多く,そ

    れも大変心強く感じました.救命麻酔集中治療といった新たなものを立ち上げる時は,指導

    者的な立場の方々のご理解と,エネルギッシュな若い方々の情熱が最も大切であるとも感じ

    ました.東北大学小児科にはそういった人材が十分すぎるほどに存在していることも良く分

    かりました. いずれ宮城でも小児救命麻酔集中治療が組織として立ち上がり,発展し継続していける

    よう期待しながら検討を続けたいと思います.そして今現在からでも可能な限りご協力させて

    いただきたいと思うと同時に,これからも研鑽を続け,いずれ宮城に還元できればと思いま

    す.

  • 11/10/19

    1

    宮城県における小児救命集中治療の将来像

    東京都立小児総合医療センター

    救命・集中治療部 集中治療科

    水城直人

    はじめに

    ○小児救命集中治療について

    ○東京都の小児救命集中治療の体制について

    ○東京都立小児総合医療センターの

    救命集中治療について

    ○宮城県の小児救命集中治療の将来像

    小児救命集中治療の理念

    ●時・場所・疾患背景に関わらず、全ての急性期の

    重症小児患者が対象

    ●小児とその家族を中心に見据え、小児に関わる全て

    の医師、小児救命集中治療に関わる全ての部門、

    小児とその家族に関わる全ての組織が協働し、

    安全で確実で標準的な医療を提供できる

    ●急性期を乗り越えた小児と家族にも、途切れること

    のない適切で長期的な医療を提供できる

    小児救命集中治療の理念

    ●時・場所・疾患背景に関わらず、全ての急性期の

    重症小児患者が対象

    ⇒24時間体制で

    ⇒全地域の患者が平等に

    ⇒内因系・外因系の全ての疾患を

    小児救命集中治療の理念

    ●小児とその家族を中心に見据え、小児に関わる全て

    の医師、小児救命集中治療に関わる全ての部門、

    小児とその家族に関わる全ての組織が協働し、

    安全で確実で標準的な医療を提供できる

    ⇒全小児科医師・小児系外科医師・小児救命救急科・

    小児集中治療科医師など

    ⇒看護部・薬剤部・心理士・臨床工学技士・家族支援部・

    栄養部など

    ⇒消防組織・児童相談所・保健所などの行政組織など

    小児救命集中治療は段階的に発展している

    ①総合病院小児科や救命救急センターの成人ICU内で、

    小児科または外科の重症小児患者

             ↓

    ②小児総合病院PICUで、術後や各科の重症小児患者

             ↓

    ③専属小児集中治療スタッフが配置された病院で、

    術後や救命救急センターと連携した重症小児患者

    (2~3次救急)

             ↓

    ④専属小児救命・集中治療科のある救命救急センターで、

    地域全体の集約された急性の重症小児患者

    (1~3次救急)

  • 11/10/19

    2

    日本の小児救命集中治療は

    ④専属小児救命・集中治療科のある救命救急センターで、

    地域全体の集約された急性の重症小児患者

    (1~3次救急)

      により機能しているのはわずかしかない

    ⇒しかし現在も日々、多くの小児科医や救命救急医が

    重症患者を診療し、多数の小児を救命している

    ・・・それなら専属小児救命救急科と小児集中治療科を

    配置するメリットはあるのだろうか・・・

    小児救命集中治療科のメリット ○重症小児の予後がさらに改善○重症小児医療の安全性向上○小児医療の効率化○重症小児医療の教育システムの向上 小児重症患者の救命には小児集中治療施設への患者集約が必要である

                                         日救急医会雑誌2008 ; 19 : 201-7

    小児集中治療部設置のための指針―2007 年3 月―     日集中医誌. 2007;14:627 ~ 638.

    小児医療、産科・周産期医療、精神科医療領域と一般救急医療との連携体制構築のための具体的方策に関する研究 (宮坂班)                   第4回班会議 2010.11.10

    東京都の小児救命集中治療体制

    小児救命救急・集中治療機能を持つ病院が2施設ある ・都立小児総合医療センター:多摩地区 ・成育医療センター:23区

    東京都の小児救命集中治療体制

    2施設は24時間体制で

     各病院の近隣の1~2次救急

         +

     関東地方の3次救急

      (東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県、

    栃木県、山梨県など)

    を受け入れている

    東京都立小児総合医療センター

    【所在地】東京都府中市(最寄り駅:JR中央線西国分寺)【医師数】約220人(常勤、研修医)【背景】清瀬小児・八王子小児・府中病院・梅ヶ丘病院を合併東京都の西部の小児救急と児童精神医療の中心多摩総合医療センター(救命救急センター)を併設【専門分野】一般的な小児内科・外科の専門は全分野・救命救急科スタッフ3人、集中治療科スタッフ6人・救命集中治療部の研修医11人

    1~3次救急のすべてを24時間体制で対応

      救急外来の対応は救命救急科と総合診療科

      (夜間は総合診療科3人と救命救急科1人の体制)

     

     ・1次救急症例は上記2科の全員で対応

     ・2~3次救急症例は救命救急科医、または

    総合診療科の外来指導医がリーダーとなって

    チームで対応

     ・小児外傷症例は救命救急科医が対応

    東京都立小児医療センターの救急外来

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    【救急外来】

     小児重症患者の初療リーダー

     外傷などの外因系の患者の診療と処置

     救急外来全体のトリアージと安全管理

    【病院間搬送】

     集中治療科と搬送チームを構成

     病院と消防組織との交渉、情報交換

     搬送方法の選択

    小児救命救急科の役割搬送時風景

    病院間搬送について

    ○メリット

    ・初期からの一貫した治療

    ・搬送専門医師による確実安全な搬送管理

    ・小児に対する治療装備を持つ小児搬送専用車両

     使用による搬送時リスクの軽減

    ●デメリット

    ・救命救急科スタッフの一時的な人員不足

    小児救命救急科の役割 小児集中治療科の役割【PICU病棟】

     入院患者の診療

    侵襲的処置(気管挿管、血管確保など)

    集中治療(全身管理と特殊治療管理)

    麻酔管理(手術時、搬送時)

     関連各科との連携

    回診で治療方針を決定・共有

     コメディカルとの連携

    看護師、臨床工学技士、薬剤師、家族支援部など

    【病院内急変対応】

     初療リーダーとPICU入室までの調整

    当院PICUにおける集中治療
①全身管理

    呼吸

    循環

    中枢神経

    腎・消化器

    栄養

    血液

    感染

    その他

    :酸素投与、人工呼吸管理、

    :血管作動薬、水分管理

    :鎮静・鎮痛、抗痙攣薬

    :水分管理、電解質管理

    :経腸・経静脈栄養

    :輸血

    :抗生剤、感染防御・サーベイランス

    :体温管理

    特殊人工呼吸療法 特殊人工呼吸モード(HFOV、APRV) NO吸入療法、N2による低酸素換気療法 非侵襲的陽圧呼吸管理、体外式呼吸管理中枢神経保護治療 脳低体温療法、持続的脳圧・脳波モニタリング血液浄化療法 持続血液透析濾過(CHDF)、血漿交換療法(PE)、 エンドトキシン吸着療法(PMX)体外式膜型人工肺(ECMO) 呼吸補助・循環補助、ECPR(ECMO-CPR)、 ECMO搬送

    当院PICUにおける集中治療
②特殊治療や管理

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    ECMO+CHDF ECMO搬送(CT検査時)

    PICU手術時全景 PICU朝カンファレンス

    集中治療が必要または、可能性が高い症例すべて

    【内科系】

    呼吸不全、心不全、腎不全、肝不全

    中枢神経疾患(急性脳炎脳症、痙攣重積など)

    内分泌代謝疾患、血液疾患、重症感染症

    【外科系】

    内因系:心臓外科、小児外科、脳神経外科、

    形成外科、整形外科など

    外因系:外傷、虐待、溺水、熱傷、中毒など

    当院PICUの入室疾患 PICUと連携する関連各科

    【各科】

    救命救急科、総合診療科、麻酔科、循環器科

    腎臓内科、内分泌代謝科、神経科、呼吸器科

    児童精神科、新生児科、感染症科、アレルギー科

    リハビリテーション科、血液科、放射線科、遺伝科

    心臓血管外科、外科、脳神経外科、泌尿器科

    整形外科、形成外科、耳鼻科、眼科、皮膚科

    【コメディカル】

    看護師、薬剤師、臨床工学士(CE)、診療心理士、

    理学療法士、ソーシャルワーカー、家族支援部

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    当院における重症患者の流れ 救急外来 手術部

    他院

    PICU

    一般病棟

    救命救急科

    総合診療科

    による初療と検査

    総合診療科

    各専門科

    による病棟管理

    集中治療科

    薬剤部、CE

    家族支援部

    による集中治療

    救命救急科

    集中治療科

    による転院搬送

    麻酔科

    外科

    による外科治療

    退院後外来主治医科

    コメディカル

    ・小児救命集中治療を完結するには実に多くの関連 スタッフの協力と連携が必要である・小児救命集中治療科設立のメリットを最大限に得るには、 救命集中治療科スタッフのみが存在するだけでは困難

    宮城県の小児救命集中治療の将来像

    現在の宮城県の小児救命集中治療体制

    小児救急医療に関して【1-2次小児救急病院】仙台市立病院、大崎市民病院、石巻赤十字病院など【3次小児救急病院】仙台市立病院、東北大学病院、大崎市民病院【小児専門医療機関】宮城県立こども病院現状でも都市部の小児救急医療は機能している

    重症小児の医療の質をさらに改善するためには・・・

    ●小児科医師の偏在による地域間格差

    小児内専門医の偏在による病院間格差

    ●独立した小児集中治療科が存在していない

    ●小児救命救急科と小児集中治療科スタッフの不足

    といった問題を考慮しなくてはならない

    現在の宮城県の小児救命集中治療体制

    ■小児集中治療科と小児集中治療室の設立■小児救命救急科とPICUの連携で搬送チームの設立■小児科医師の集約化と分業と連携■小児救命集中治療の教育システム構築

    解決策として

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    一般的に

    まず始めに、一部分を小児専門医療機関において

    機能させることが多い

    (小児救命集中治療の発展における③の段階)

    ■小児集中治療科と小児集中治療室の設立■小児救命救急科とPICUの連携で搬送チームの設立■小児科医師の集約化と分業と連携■小児救命集中治療の教育システム構築

    小児専門医療機関である宮城県立こども病院も、

    すべてを機能させるのは極めて難しい・・・

    現実的に

    ■小児集中治療科と小児集中治療室の設立■小児救命救急科とPICUの連携で搬送チームの設立■小児科医師の集約化と分業と連携■小児救命集中治療の教育システム構築

    ①小児集中治療科

    ②小児救命救急科

    ③小児救命集中治療の教育システムの管理

    それなら・・・

    ⇒宮城県立こども病院

    ⇒仙台市立病院

    ⇒東北大学病院

    【メリット】

    ○PICU病床と小児系外科医をはじめ、専門看護師、

    臨床工学技士などコメディカルスタッフの存在

    ○小児集中治療に最も重要な小児麻酔科の存在

    【今後】

    □小児集中治療科に常勤医を設置

    □小児を総合的に診療する総合診療科の増員

    □小児重症患者に関わるコメディカルの増員

    ①宮城こども病院に小児集中治療科を設置

    PICU常勤医について

    【具体的に】

    ・宮城県総人口:230万人、14歳未満人口31万人

     PICU病床⇒10~17床が必要      米国;18歳未満の小児人口約1800人にPICU1床

          豪州:14歳以下の小児人口約500万人にPICU入室年間約7000件

    ・24時間体制の小児集中治療体制の維持

     PICU専属医⇒5人以上が必要

     PICU専任研修医⇒5人以上が必要

    【メリット】

    ○救命救急センターであり救命救急専門看護師・

    家族支援部などコメディカルスタッフの存在

    ○小児外傷を診療可能な救命救急医や外科医の存在

    ○緊急入院に対する許容力が極めて大きい

    【今後】

    □小児救命救急科を中心とした搬送チーム設置

    □宮城県内の重症小児の情報の集約

    ②仙台市立病院に小児救命救急科を設置

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    【目的】・搬送専門医師と小児専用装備により安全な搬送・病院間格差や地域間格差を解消・一般的な小児科医療と重症小児搬送の分業・重症小児の窓口と情報の一元化・病院間の連帯感

    小児の搬送チームについて

    【メリット】

    ○小児科研修医の教育システムの中核組織

    ○救命救急科と成人麻酔集中治療科がともに存在し、

    成人各科の教育システムの中核組織でもある

    【今後】

    □小児科医師へ救命集中治療教育を推進

    □成人他科の小児救命集中治療への参画を推進

    ③東北大学病院に小児救命集中治療
教育システムの管理組織

    教育システムについて

    【目的】

     ・小児科内に救命集中治療の専門分野

     ・成人麻酔・救命救急科内に小児の専門分野

      を明確化し提示する

    【具体的には】

    小児科医、成人麻酔科医・救命救急科医に対して

     ・・・東北大学病院なら救命救急、集中治療

     ・・・仙台市立病院なら小児救命救急、小児集中治療

     ・・・宮城こども病院なら小児麻酔、小児集中治療

       などの専門性をアピールし積極的に開放

    小児救命集中治療の発展は段階的である

    ◆この今回の提言が実現しても、それで宮城の 小児救命集中治療の整備が完了ではない◆また現在の理想的と考えられている小児救命・ 集中治療スタイルが、将来に変化している可能性や、 宮城県や東北地方には適合しない可能性もある◆小児重症患者診療する医療環境は、現在も段階的 に発展していることを念頭に、今後も今回提言の 次段階も考察していく必要がある

    小児救命集中治療発展における最重要因子

    ①いずれの発展段階でも共通して重要なことは、 重症小児医療に関わる教育システムである②また現在最も必要なのは重症小児医療に対する 関連医師や社会の理解がさらに深まり、その結果、 重症小児医療が必要な医療として広く認識されること【今後の目標】小児科・救命救急科や社会全体から要求されながら、地道に重症小児医療に関わるスタッフを広く育成し、小児救命集中治療を段階的に発展させ整えていく

    まとめ

    ◎重症小児患者に関わる急性期医療について 少しでも興味を持っていただければ幸いです◎多くの重症小児患者は、急性期医療を乗り越えた後、 慢性期医療の必要性が高いことも重要です◎救命救急医や集中治療医だけが重症患者に関わる ものではないことを理解し、退院後の小児の長期的 なそして全人的な医療につなげることも、小児救命 集中治療の重要な責務だと考えています

  • シンポジウムでの質疑応答の記録

    東北大学病院 周産母子センター 新生児室 病棟医長・助教

    渡邉達也 #1. 小泉先生の講演後 植松: 内因系の患者の内訳で神経系の患者が多かった.実際の診療の中でこのような神経

    系の患者を見る場合,神経科医師にコンサルトしているのか,それとも専属医の中で

    神経系が得意な医師がいるのか? 小泉: スタッフは小児科医が一番多く,他に救命救急や麻酔科の医師も含まれている.24

    時間体制で脳 MRI や脳波を検査できるので,PICU の医師がそれに基づいて判断している.判断が難しい場合には神経科医に相談する.他にも透析を行う場合には腎

    臓科の医師と一緒に回路を作ったり体液管理をしたりしている. 村田: 静岡のシステムをどのように宮城県に導入するべきかと考えて聞いていた. 藤原: 静岡県立こども病院小児集中治療センターPICU の常勤医の年齢構成はどうなって

    いるのか? また,教育については具体的にどのように行っているのか? 小泉: 部長が 40歳代半ば,20歳代が 2名,その他が卒後 6-13年目の 30歳代.教育につ

    いては模索中.部長の植田先生から講義がある.またシニアの医師がジュニアの医師

    に教えたりしている. #2. 大田先生の講演後 村田: 北九州は入院患者数が仙台市立の倍近いが,プレホスピタルのみではPICUの 6床

    が埋まらないのではないか? 宮城県ではこども病院との間で棲み分け (こども病院が術前術後管理,仙台市立がプレホスピタル ICU症例と棲み分けている) ができているため,個人的には (新しい仙台市立病院病院では) 八幡病院のように一次救急から行いたいと考えている.仙台市立もプレホスピタル ICU 症例を扱っているが,集中治療専門医もおらず,ぬるま湯の中で治療を行っているともいえる.棲み分けを続けなが

    ら診療のレベルはあげていかなければならない.どうもありがとう. 太田: 北九州市立八幡病院は実際には ICU 部門は十分ではなかった.術前術後管理は

    行っていない. 松田: 例えば NICUでは加算ベッド 9床以上で黒字となるが,PICU領域ではどうか.静岡

    こどもは宮城こどもに比べて病床数あたりの常勤医師数が非常に多いが,どうか? 小泉: 現在は補助金ももらっておりあまり赤字は出ていないと思う. 太田: 小児科のほうで稼いでいる.ICUの稼働率は 60%程度.

  • #3. 水城先生の講演後 村田: 外因系の診療を行っており搬送も含めて教育が充実していると思った.小児科医の

    視点で各サブスペシャリティをつなぐ役割が集中治療医なのですね. #4. 総合討論 < 宮城の現状をどう捉えるか? > 松田: 大田先生のアンケート結果には入っていなかったけれども,宮城ではPICUに入院す

    ることなく死亡した重症患児はどの程度いたのか? 大田: 今回のアンケートでは搬送先での転帰は判らない.理論値とアンケートでの差を考え

    ると 100-200人/年程度が PICUに入院すべきなのに入院できなかったものと推定できる.PICUを拡充するためには,医療スタッフの現状も考慮するとこども病院を増床するのが現実的だろうと考えている.

    松田: 具体的にデータを解析することによってこうした問題を実感できるので,これからも継続してデータを集計する必要がある.虻川先生いかがですか.

    虻川: データを正確に出すことは実際には難しいのではないかと考えている. 坂本: 高次施設に搬送されない患児や,ICU入院の適応があるのに入院していない患児の

    状況については分からないので,現状を知るためのデータはあったほうが良い. 村田: 実際の死亡原因で多いのは不慮の事故.救急や PICU を拡充する必要がある.また,

    外因系に関わっていくスタンスも必要.成人領域の学会でも小児救急の研修コースが

    始まっているので教育システムを整備することが必要.シンポジストのみなさんが仙台

    に戻ってきたら一緒に仕事がしたい. 松田: 小児救命集中治療に関するデータを蓄積する必要がある.その上で死亡例の検討

    を行ない現状システムについてその課題を明らかにすることが重要. < 今後の展望は? > 松田: 演者の話をまとめると,ネットワークの充実をはかること,こども病院に小児集中治療

    科 (常勤 5+研修医 5) を作ることなどがあげられていた. 川合: 話が少しそれるが質問が二つある.ひとつは外因系の手技などのトレーニングをどの

    ように身につけるのか? もうひとつはキャリーオーバー (小児科卒業) の患者がどの程度いて,どこの部門で見ているのか?

    小泉: 一つ目に対して.静岡こどもでは重症の外傷症例が少ないので,そのトレーニング

    は成人の救急で行った方が良い.自分は聖隷三方原病院で現在研修中.アメリカで

    は小児外傷センターが人口 1000 万人に対して 1 ヶ所あるが,日本で同じ事をするのは難しいだろう.外傷の初期診療を身につけるため JATEC を受講するのも一つの方法.静岡こどもでは少ない症例の中で 1例ずつ勉強会を行っている.また,PICUに麻酔科医や外科医がいることも大事.二つ目に対して.静岡こどもでは 15歳以上の小児患者は受け入れない.病院自体に 30 年以上の歴史があり,そうした患者さんは他の県立病院に当院医師が出張して診療を行っている.

    坂本: 大学ができることは人を集めること.小児集中治療に 10 人も小児科医を投入するの

  • であれば,研修医のリクルートをもっと頑張らなければならない. 水城: 外から医師を集めることはできないか? 虻川: 現状では宮城こどもは二次救急以上の内因系患者を診ており,とくに二次救急の患

    者をかなりの数をみている.高次外傷については整形外科が不在のため診ていない. 内因系の重症患者は各科で診療している.心疾患は循環器科が,重症心身障害

    児の呼吸不全は神経科が診療し,それ以外は総合診療科が受け持つことが多い.総

    合診療科は 5 人のスタッフと 2 人のフェローがそれぞれの専門領域 (消化器,アレルギー,腎臓,リウマチ) を中心に診療しており,専門領域に関しては強いが,集中治療を専門とするスタッフはいない.一方,平成 23年以降はこども病院独自の後期研修医募集は行っておらず,プログラム in MIYAGIからの派遣となった.現在総合診療科には後期研修医がおらず,若手のマンパワーもやや不足している.私自身が,こども病

    院における小児集中治療専門医や PICUの必要性を強く感じている. ICU は7床だが実質 6 床で稼働しており,外科系の術後管理が多いが,内科系の

    重症患者も快く受け入れてもらっている.麻酔集中治療科はスタッフが 3人,研修医が1 人で,一時よりも人数が増え,手術は回るようになった.重症管理に関して協力や助言はしてもらえるが,ICUの患者管理に直接主治医として関わっていない. 今後こども病院における小児救急医療・集中治療を考える上で,4年後の拓桃医療

    療育センターとの統合が非常に重要な転機となる.統合によって通院患者総数が増

    加するため,必然的に救急外来を訪れる患者数,特に重症の呼吸障害患者や神経

    疾患患者が増加することが予想される.さらに整形外科が加わることにより,外傷を受

    け入れる体制を整備する必要が生じる.これらの将来像を踏まえて,新病棟建築建設

    に併せて現在の狭隘な救急処置室の拡張や ICU の拡張・増床が可能かどうか,現在検討中である. 一方で,財政的なバックアップが問題となるが,今のところアテがない.また,PICU

    を運用するための医師が宮城県にいるのか? PICUを作るにあたり何をすべきか? 水城: 人を集めること.そのために宮城県としての新しいビジョンが必要. 小泉: 救急を診ると施設の収益が上がる.重症部門が安定すると各科の診療に余裕が出て

    教育にも力を入れることができる. 大田: こども病院に麻酔科医が 5 人いたときにはかなりの業務をこなせていたが,それでも

    疲れは出る.当時は大学麻酔科との連携が上手くいかず,それを継続できなかった. 大竹: 仙台市立病院は平成 26年に新病院ができる.もう設計は済んでおり,もうすぐ工事が

    始まる.ICU 内に PICU として独立することは難しい.人工呼吸管理の患児数は年間36名で,PICU 6床を常時埋めることは難しくせいぜい 3床程度.新たな診療科を作ることも難しいため PICU は宮城こども病院に設置するのが良いと考えている.これからみなさんと考えていく必要がある.

    松田: 今回のシンポジスト 3名の話は将来につながる話.今後はこの分野の研究会を東北・宮城に立ち上げる話しもあり,ここで臨床データの検討を行っていくとよいと考える.

    呉: 非常に良い話だった.自分の仕事は金と人を集めること.今回の提言を元に拓桃医

    療療育センターと宮城こども病院の合併について県庁の担当者と話し合いたい.それ

    から宮城では仙台市立病院が八幡病院のようになるのが好ましい.人の動きを作るこ

    とで是非これを実現したい.また,医学生教育も重要な課題なので本日のシンポジスト

    には来年から医学生に講義をお願いしたい.

  • シンポジウムに対するコメント

    「9.13... 宮城県での小児救急,小児集中治療分野 発展の記念日になるか」

    仙台市立病院 救命救急部 副部長・小児科 医長

    村田祐二

    9月 13日,日本の最先端をいく病院で研修されている若手医師の生の声を聞き,聴衆一同新たな世界に一歩足を踏み入れた印象を持ったと思う.彼らが責任ある立場になったとき,

    この日はきっと記念日になるだろう. 我々が受けた医学教育は,小児科であっても臓器別の専門を極める所から始まった.小

    児救急などは時間外のバイト的な関わりであったような気がする.まして外傷など最初からお

    断りであった.集中治療は好きで関わっていたが,今考えると自己流であった感は否めな

    い. 小児救急現場では多くの軽症者から一握りの重症者を見つけ出すスキルが要求される.

    鑑別診断より病態診断が,重症度より緊急度が重視される.ベテランの勘も大事だが,小児

    救急医学として学問的に確立されてきている.当院も人の問題等を抱えているが,“八幡型”救急が一つの目標となるだろう.臓器別の鑑別診断,高いレベルの専門知識が必要なこと

    は言うまでもないが,初療では “こども” として横断的に関わる必要がある.小児科医にも外傷の初療にもぜひ関わってほしい.宣伝になるが,まず PALS コースを受講することをお勧めしたい (仙台でも年 1 回あり).当院の救急部に籍を置いて,一般の救急と小児科の両方で働くことも可能である(院長の確認済). また,小児麻酔・集中治療も飛躍的に進化している.我々が知らないだけかもしれない.

    各臓器別の治療を結ぶ,しっかりとした横糸になっている.PICU に重症者を集約し高いレベルの集中治療を行えば,予後を改善できるのは当然理解できる.ただ,多くのハードルを

    越える必要があるのも事実である.でも目標を掲げできるところから始めなければ,夢はかな

    わない.いいサイクルに回り,患者は他県からも集まり,医者も全国から応募が来るようにな

    ればいい・・・ (楽天的かな).集約化すれば搬送医療も重要となり,病院前医療にも関わらざるを得なくなる.重症患者を死なせないためには,一番重要な分野かもしれない. 今回のカンファレンスで,東北大学病院との関連施設の間に,“宮城県での小児救急・麻

    酔・集中治療の整備に本格的に取り組もう” という合意ができたことは,大変有意義なことだと思う.今後多くの若い力が必要となってくる.我々は,ハード面も重要だが,きちんとした研

    修プログラムを整備できるよう真剣に取り組んでいきたいと考えている.

    「このような議論を今後も継続を」 東北大学病院小児科 講師

    植松 貢

    PICU で有名な静岡県立こども病院 (小泉先生) と都立小児総合医療センター (水城先生) の現状を知ることができ,大変勉強になったと共に,そこで活躍している二人を大変頼もしく感じました.さらに,宮城県における PICU 整備の基礎となるアンケートの報告 (大田先生) があり,議論のたたき台ができた,という印象を強く持ちました.個人的には神経疾患

  • が PICU関連入院で最も多いということに驚き,きちんとした協力体制をとるために小児神経科医をしっかり養成していくことが今後必要であることを自分の役割の一つとして自覚しまし

    た.道のりは長いですが,仙台に PICU が必要であることは皆が感じていることだと思いますので,このような考える会を今後も定期的に (市民向けも含めて) 行って,PICU 整備への機運がどんどん高まっていくことに期待します.

    「宮城に PICU設置を!」に対する仙台市立病院の現況 仙台市立病院 小児科部長

    大竹 正俊

    本日は若手小児集中治療医による「宮城に PICU設置を!」に関しての現状報告が聞けて非常に有意義な会であったと思います. 仙台市立病院はご存じのごとく平成 26年 8月予定の新病院開院に向け着々と準備が進

    んでおり,着工も間近となっております.建築設計の中で救命救急センターの病床数は 40床で,内訳として ICU 16床,HCU 8床,一般病床 16床となっており,ICUの病床数 16床は現状と変わりなく,小児の人工呼吸管理もこの ICU 16床の中で実施して行く予定です. 平成 22 年度の小児科呼吸管理症例数は 36 例でこの 10 年間で最多でした.内訳は中

    枢神経疾患 16例,呼吸器疾患 15例,その他 (一酸化炭素中毒,溺水,敗血症性心筋症,低酸素性脳症,熱傷) 5 例でした.小児科患者の ICU 病床占有状況としては,呼吸管理をせず経過観察を行う症例を含めても通常は 1~2名の場合が多く,稀に一時期に 3名の患者を扱うことがありました. 小児集中治療部設置のための指針 -2007年 3月- (日児誌, 111: 1338, 2007) では,

    看護単位が独立していることが推奨され,病床数は 6床以上とされています.当院においては心臓血管・胸部外科および小児外科が診療科として存在しないことなどから,新病院設

    計にあたっても PICU 設置は入室患者数の予測からみて考慮されなかったものと思われます. 当院以外で宮城県内に PICU の設置が可能な病院は宮城県立こども病院しかないと考

    えますが,病院内のコンセンサス,宮城県の財政支援,人的資源,救急患者を受け入れる

    ための改築など乗り越えるハードルは高そうです.静岡県立こども病院のような PICUができれば良いと祈念します.

    「当日の発言のプレイバックと感想」

    宮城県立こども病院 総合診療科 部長 虻川大樹

    < こども病院の現状と今後のビジョン > 現在こども病院では,内科系の重症患者は各科で診療している.心疾患は循環器科が,

    重心児の呼吸不全は神経科が診療し,それ以外の重症は総合診療科が受け持つことが多

    い. 総合診療科は5人のスタッフと2人のフェローがそれぞれの専門領域 (消化器,アレルギ

    ー,腎臓,リウマチ) を中心に診療しており,専門領域に関しては強いが,集中治療を専門

  • とするスタッフはいない.一方,平成 23年度以降は当院独自の後期研修医募集は行っておらず,プログラム in MIYAGIからの派遣となった.現在総合診療科には後期研修医がおらず,若手のマンパワーもやや不足している.私自身が,当院における小児集中治療専門医

    や PICUの必要性を強く感じている. ICU は 7 床だが実質 6 床で稼働しており,外科系の術後管理が多いが,内科系の重症

    患者も快く入れてもらっている.麻酔集中治療科はスタッフが 3人,研修医が 1名で,一時よりも人数が増え,手術は回るようになった.重症管理に関して協力や助言はしてもらえるが,

    ICUの患者管理に直接主治医としては関わっていない. 今後の当院における小児救急医療・集中治療を考える上で,4年後の拓桃との統合が非

    常に重要な転機となる.統合によって通院患者総数が増加するため,必然的に救急外来を

    訪れる患者数,とくに重症の呼吸障害患者や神経疾患患者が増加することが予想される.

    さらに整形外科が加わることにより,外傷を受け入れる体制を整備する必要が生じる.これら

    の将来像を踏まえて,新病棟建設に併せて現在の狭隘な救急処置室の拡張や ICU の拡張・増床が可能かどうか,現在検討中である. < こども病院に PICUを設置するために >

    PICUを稼働させるためには,人と場所とお金が必要である. ICUの拡張・増床は,将来的に PICU を稼働させるためのスペース確保と考えているが,

    築 10年未満の病院をそうそう増改築してもらえるはずがなく,今回の拓桃との統合が当面は最大にして最後のチャンスであろう. お金に関しては,大震災もあって宮城県の財政は相当厳しく,あまり期待できない. 最大の問題は人である.人を集めるにしても,そもそも日本に小児集中治療専門医は多

    くはいない. シンポジストの先生にご質問だが,こども病院に PICUを設置するために,まず何をしたら

    よいだろうか? 水城先生 「やはり人を集めること,�