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082 SLED SNOWMOBILE MAGAZINE 083 SLED SNOWMOBILE MAGAZINE ❶安全な場所を選びビバークする 周囲を見回し、雪崩や落石の危険の無い場所を探す ツエルトがある場合は風を避ける事ができる場所。雪洞を掘る場合は風が入りにくい方角に ❷食料、水、燃料、電池(携帯電話等も)は極力節約して長期戦に備える 水は最も貴重なので炊事や喉の渇きを癒す最低限の使用に抑える。 電池はできるだけ節約し作業は明るいうちにする事を心掛ける。 ❸保温に十分注意する 着用できるものはすべて着込み体力の消耗を防ぐ。特に頭、手、足が冷えない様に注意する 濡れた衣類は脱ぎ、乾いた衣類を身に着ける様にする事 ❹出来る限り体力を温存し、疲労回復に務める 疲労が激しい場合は、甘いものを口にすると良い 極端な疲労状態で意識障害や昏睡状態でない限り、眠くなったら睡眠を取る。寒さの中で寝ると凍死するというのは誤りである 山で起こっている大半の事故は意識や行動、計画ミスによるもの。まず、山に入ろうと思った 場合、その日の天候やここ数日間の気候の変化で雪が安定していないと判断できる時は入山し ないこと。別の場所、別の日にすることを考えよう。遊びに行く計画を断念するのは残念な事 だが、勇気ある判断が事故を起こさない一番の要因になる。バックカントリーエリアにスノー モビルで入る場合は必ず二人以上のグループで! 一人で入るのは絶対に止めよう。理由は簡 単。何かあった時に対処不可能になる確立が高いから。いつも行っている、何年も行っている 場所だから大丈夫と過信すると、思わぬ事故を起こす場合がある。しっかりその日の行動計画 を毎回立てる様にし、無理な計画はしない事。余裕のある時間内に楽しんで帰ってくる。これ がベスト!! 意識・行動・計画 BASIC KNOWLEDGE OF THE AVALANCHE & etc... 雪崩とバックカントリーエリアで 必要な基礎知識 現在、バックカントリーエリアでスノーモビルを楽しむ人のほとんどが、雪崩やバックカントリーエリアでの行動に対する基礎知識を持っていない人がほとんど ではないだろうか。ここで取り上げる項目は本当に初歩の基礎知識。基本的には山岳登山を楽しむ人やバックカントリーでスキーやスノーボードをする人と同 じ。自分で知識を増やしていくことが大事だ。山でスノーモビルを楽しむという事は危険との隣り合わせだという事を常に頭に置き、行動する事を心掛けよう。 もし、山中でビバークをしないといけない状況になった場合は下記の項目に注意する。 雪崩はなぜ起こるのか? それが分かった ら苦労はしないが、起こりそうだ・・・と か起こる可能性があるのでは? という判 断はある程度の状況で予測する事ができる。 ただし、この時点で回避、もしくは行動を 止めていれば問題無いが、多くの雪崩事故 は予測不可能な場面や大丈夫だろうという 過信で起こるものだ。とにかく雪崩の予兆 に最大限に注意を図る事が大事になる。例 えば、地形からも雪崩の危険は予測できる。 凹凸状の急斜面や樹木の無い開放された斜 面はもっとも雪崩を警戒すべき地形と予想 できる。こういう斜面は一貫して走行した ら楽しいと感じる場所だ。『イェーイ!』と 飛び出す前に、十分注意が必用なのと、も しも雪崩れたらどうするか? を想定して、 雪崩が起こった場合にデブリ(雪の固まり) が流れる道になる場所に人がいないか、逃 げる場所はあるか? それ以前に走るのを 止めたほうがいいのか? など、いろいろ な事を考えてから走行する意識を持つ様に。 また、雪崩の危険を判断するためには、当 日の天候だけでなく、1週間ぐらい前からの 気象データを調べるとよい。具体的には天 気、気温(最高、最低気温)、風(風向、風 力)、降雪状況のデータ等が参考になる。こ れらの情報で弱層(雪崩が起こりやすくな る層の形成)と吹きだまりや雪庇の形成さ れる時期があったかどうか予想できる。も し気温が上がった日があるとすれば、積雪 表面近くに霜ざらめ雪ができるものと考え られる。この後に気温が下がり降雪がある と、雪崩の原因になる弱層ができる事に繋 がる。また風の強い日が続くと吹きだまり や雪庇が形成されることが予想できる。何 度か行った場所で地形を覚えていれば、風 向きによってどこに雪庇ができ、どこに雪 が吹きだまりが出来るのか予想できるだろ う。普段から地形やその場所の方角を気に していれば経験で判断出来る訳だ。 写真の様に、通常はなんら普通のバックパックだが、雪 崩を感じた瞬間にレバーを引くと、写真の様にエアバ ッグが登場し、雪崩の上層部に身体を浮かせてくれる というアイテムだ(写真はBRP/SKI-DOOから販売され ているものだが、日本国内での販売は未定)。ドイツの 会社が開発しているアイテムで、バックカントリーエ リアを滑るスキーヤーやスノーボーダーにも対象にな っている。今後、この様なアイテムがどんどん登場し てくるのは、雪崩から身を守れる可能性が高くなるが、 この様な道具に頼れば確実に助かると言う訳ではない ので、いろいろな知識を身につける事が一番大事だ。 雪崩から身を守れる確立が高くなるアイテム ABS Avalanche Airbag (BRP JAPANでの発売は未定) 最低限、以下の非常用装備は携帯しておくと良いだろう。下記の装備は、20Lか ら30L程度のバックパックにも収まるし、最近各メーカーから出ているマシンに 装着出来るバックにも十分収まるもの。使用しないに越した事は無いが、『もし も!』の時を想定して持って行くようにしよう。 装備例 ツエルト、ヘッドランプ、非 常 食( チョコ や 飴、 ナッツ、 パワーバー等)、ライター/マ ッチ、レスキューシート、フ ァーストエイドキット、セカン ドレイヤー(小さく収納出来 るダウンなど) 携行すべき非常用装備 ファーストビバーク時の注意 雪崩の知識 【段差のある斜面に出来る吹きだまり】 【面発生表層雪崩】 BASIC KNOWLEDGE - 1 BASIC KNOWLEDGE - 2 TIPS

BASIC KNOWLEDGE OF THE AVALANCHE & etc …現在、バックカントリーエリアでスノーモビルを楽しむ人のほとんどが、雪崩やバックカントリーエリアでの行動に対する基礎知識を持っていない人がほとんど

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Page 1: BASIC KNOWLEDGE OF THE AVALANCHE & etc …現在、バックカントリーエリアでスノーモビルを楽しむ人のほとんどが、雪崩やバックカントリーエリアでの行動に対する基礎知識を持っていない人がほとんど

082 SLED SNOWMOBILE MAGAZINE 083SLED SNOWMOBILE MAGAZINE

❶安全な場所を選びビバークする*�周囲を見回し、雪崩や落石の危険の無い場所を探す*�ツエルトがある場合は風を避ける事ができる場所。雪洞を掘る場合は風が入りにくい方角に❷食料、水、燃料、電池(携帯電話等も)は極力節約して長期戦に備える*�水は最も貴重なので炊事や喉の渇きを癒す最低限の使用に抑える。*�電池はできるだけ節約し作業は明るいうちにする事を心掛ける。❸保温に十分注意する*�着用できるものはすべて着込み体力の消耗を防ぐ。特に頭、手、足が冷えない様に注意する*�濡れた衣類は脱ぎ、乾いた衣類を身に着ける様にする事❹出来る限り体力を温存し、疲労回復に務める*�疲労が激しい場合は、甘いものを口にすると良い*�極端な疲労状態で意識障害や昏睡状態でない限り、眠くなったら睡眠を取る。寒さの中で寝ると凍死するというのは誤りである

山で起こっている大半の事故は意識や行動、計画ミスによるもの。まず、山に入ろうと思った

場合、その日の天候やここ数日間の気候の変化で雪が安定していないと判断できる時は入山し

ないこと。別の場所、別の日にすることを考えよう。遊びに行く計画を断念するのは残念な事

だが、勇気ある判断が事故を起こさない一番の要因になる。バックカントリーエリアにスノー

モビルで入る場合は必ず二人以上のグループで! 一人で入るのは絶対に止めよう。理由は簡

単。何かあった時に対処不可能になる確立が高いから。いつも行っている、何年も行っている

場所だから大丈夫と過信すると、思わぬ事故を起こす場合がある。しっかりその日の行動計画

を毎回立てる様にし、無理な計画はしない事。余裕のある時間内に楽しんで帰ってくる。これ

がベスト!!

意識・行動・計画

BASIC KNOWLEDGE OF THE AVALANCHE & etc...

雪崩とバックカントリーエリアで必要な基礎知識

現在、バックカントリーエリアでスノーモビルを楽しむ人のほとんどが、雪崩やバックカントリーエリアでの行動に対する基礎知識を持っていない人がほとんどではないだろうか。ここで取り上げる項目は本当に初歩の基礎知識。基本的には山岳登山を楽しむ人やバックカントリーでスキーやスノーボードをする人と同じ。自分で知識を増やしていくことが大事だ。山でスノーモビルを楽しむという事は危険との隣り合わせだという事を常に頭に置き、行動する事を心掛けよう。

もし、山中でビバークをしないといけない状況になった場合は下記の項目に注意する。

雪崩はなぜ起こるのか? それが分かった

ら苦労はしないが、起こりそうだ・・・と

か起こる可能性があるのでは? という判

断はある程度の状況で予測する事ができる。

ただし、この時点で回避、もしくは行動を

止めていれば問題無いが、多くの雪崩事故

は予測不可能な場面や大丈夫だろうという

過信で起こるものだ。とにかく雪崩の予兆

に最大限に注意を図る事が大事になる。例

えば、地形からも雪崩の危険は予測できる。

凹凸状の急斜面や樹木の無い開放された斜

面はもっとも雪崩を警戒すべき地形と予想

できる。こういう斜面は一貫して走行した

ら楽しいと感じる場所だ。『イェーイ!』と

飛び出す前に、十分注意が必用なのと、も

しも雪崩れたらどうするか? を想定して、

雪崩が起こった場合にデブリ(雪の固まり)

が流れる道になる場所に人がいないか、逃

げる場所はあるか? それ以前に走るのを

止めたほうがいいのか? など、いろいろ

な事を考えてから走行する意識を持つ様に。

また、雪崩の危険を判断するためには、当

日の天候だけでなく、1週間ぐらい前からの

気象データを調べるとよい。具体的には天

気、気温(最高、最低気温)、風(風向、風

力)、降雪状況のデータ等が参考になる。こ

れらの情報で弱層(雪崩が起こりやすくな

る層の形成)と吹きだまりや雪庇の形成さ

れる時期があったかどうか予想できる。も

し気温が上がった日があるとすれば、積雪

表面近くに霜ざらめ雪ができるものと考え

られる。この後に気温が下がり降雪がある

と、雪崩の原因になる弱層ができる事に繋

がる。また風の強い日が続くと吹きだまり

や雪庇が形成されることが予想できる。何

度か行った場所で地形を覚えていれば、風

向きによってどこに雪庇ができ、どこに雪

が吹きだまりが出来るのか予想できるだろ

う。普段から地形やその場所の方角を気に

していれば経験で判断出来る訳だ。

写真の様に、通常はなんら普通のバックパックだが、雪

崩を感じた瞬間にレバーを引くと、写真の様にエアバ

ッグが登場し、雪崩の上層部に身体を浮かせてくれる

というアイテムだ(写真はBRP/SKI-DOOから販売され

ているものだが、日本国内での販売は未定)。ドイツの

会社が開発しているアイテムで、バックカントリーエ

リアを滑るスキーヤーやスノーボーダーにも対象にな

っている。今後、この様なアイテムがどんどん登場し

てくるのは、雪崩から身を守れる可能性が高くなるが、

この様な道具に頼れば確実に助かると言う訳ではない

ので、いろいろな知識を身につける事が一番大事だ。

雪崩から身を守れる確立が高くなるアイテムABS Avalanche Airbag

(BRP JAPANでの発売は未定)

最低限、以下の非常用装備は携帯しておくと良いだろう。下記の装備は、20Lか

ら30L程度のバックパックにも収まるし、最近各メーカーから出ているマシンに

装着出来るバックにも十分収まるもの。使用しないに越した事は無いが、『もし

も!』の時を想定して持って行くようにしよう。

装備例ツエルト、ヘッドランプ、非常食(チョコや飴、ナッツ、パワーバー等)、ライター/マッチ、レスキューシート、ファーストエイドキット、セカンドレイヤー(小さく収納出来るダウンなど)

携行すべき非常用装備

ファーストビバーク時の注意

雪崩の知識

【段差のある斜面に出来る吹きだまり】

【面発生表層雪崩】

BASIC KNOWLEDGE - 1

BASIC KNOWLEDGE - 2

T I P S

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084 SLED SNOWMOBILE MAGAZINE 085SLED SNOWMOBILE MAGAZINE

ビーコンは簡単に言えば電波送受信機である。送信専用タイプもあるが、

基本的には送受信が切り替えられる様になっている。周波数は世界共通

で457kHz。アンテナが内蔵されており、(イラストA)の様に縦軸に楕

円を描く様に発信している。アンテナに沿った縦方向は遠くまで届き、

横方向はあまり届かない。発信間隔が1秒ごとなのでゆっくり上下左右

に振る事も大事になる。最近のビーコンはかなり進んだものが出てきて、

一瞬で方向と距離を出すものもあるが、ある程度埋没者に近づかないと

いけないなどの欠点もある。以下が基本になるビーコンでの捜索方法。

❶最大レンジで電波を拾えない場合は、まず電波を拾う事が必用。雪崩

の幅が広い場合は、人海戦術で捜索するかジグザクに歩くなどして予想

される範囲を捜索する(イラストB参照)

❷電波を捉えたらビーコンをゆっくり振って一番電波が強くなる方向を

探す(電波の特性上同じ様な強さになるところが2カ所あるはず)。この

際にレンジを電波が捉える限りで下げていく

❸一番電波が強い方向に進んで、電波が弱くなるようなら逆方向に進む。

4、5m進んで再びビーコンを振って電波が強い方向に進む。この❷と❸

を繰り返し、埋没者に近づいていく。

❹ある程度特定したら、ビーコンを雪面に近づけ、ビーコンの向きと雪

面からの距離を変えないで左右にゆっくり直線的に動かす。受信強度が

最大になるところをみつけ、さらに同じ要領で前後にゆっくり動かし特

定範囲を絞り込む。その範囲をプローブを使用して埋没位置を確定する

とにかく、ビーコンは操作方法を習得していなければ意味が無いのと無

駄に時間を割くだけになるので、『宝探し』等遊び感覚で普段から練習

する事をおススメする。

プローブを持っている場合(持っている人

がいる場合)は、ビーコンでの捜索と並行

して行なうとより効果的だ。慣れないピン

ポイント捜索にこだわるより早く捜索でき

る事もある。プローブによる基本になる操

作方法は、(イラストC)の様にプローブ

を持った人を横に並べ、リーダーの掛け声

と共につま先のすぐ右を刺し、次に左を刺

してから人数がいる場合は一歩前に出る、

人数が少ない場合は横方向も同じ様にカバ

ーしていく。この際に個々の捜索範囲の間

隔は肩幅程度(35cmから40cm)を目安

にする。プローブ捜索は組織的かつ間隔範

囲をしっかり守って行なう。プローブで捜

索する人数が2人以上いる場合は、合図と

共に同じ動作で左右を刺し、前進していく。

真下にプローブの長さ目一杯差し込むのが

ポイント。人間やバックパックなどを刺し

たらどんな感覚か事前に覚えておくのも必

用だ。

山に入るスレッダーならショベルは持っている人が

多いと思う。スタックした際などによく使用するか

らだ。ただし、ビーコンやプローブはスノーモビル

で山に行くのに絶対に必用という訳ではない。ただ

山で雪崩が起こり捜索する時に必用だというだけ

だ。もちろん持っているだけでは意味が無く、ビー

コンなどは操作方法をしっかり熟知していなければ

持っていても意味が無い。埋没した人が持っていな

ればさらに意味が無いものだ。これはまさに意識の

問題。雪山に入る上で、そのパーティー(グループ)

がどれだけ『もしものときに!』という意識を持っ

ているかに関係してくる。

もし雪崩に遭遇し仲間が埋没してしまったら、救助を要請するとと

もに埋没者をいち早く救出する為に行動に出ないといけない。いざ

と言う場合の最低限の知識を頭に入れておこう。タイムリミットは

15分!

確認すべき状況はいくつかある。まず、雪崩が起きまさに人が流さ

れている瞬間を見ている場合は、その流されている人をよく見る事

だ。その人の身体の一部でも身につけていたものが見えるだけでも

発見に大きくプラスになる。また消失ポイントがハッキリすれば、

雪崩の流れる道でだいたい埋没している場所が特定できる。ビーコ

ンやプローブを使用しての捜索に無駄が無くなりできるだけ早く探

す事に繋がっていく。最も重要な事は落ち着く事。状況を整理して

焦らず迅速に行動に移る事が大事になる。二次災害が起こらない様

に、アイランドオブセーフティー(安全な場所)でリーダー(前も

って決めておくとよい)が指示を出し、ビーコン装着者は受信に切

り替えて操作を開始する。

セルフレスキュー

状況の確認

AVALANCHE BEACONビーコン

AVALANCHE PROBEプローブ(ゾンデ)

三種の神器(ビーコン・ショベル・プローブ)

【イラストA】

【イラストB】

BASIC KNOWLEDGE - 3

ビーコン

ショベル

プローブ

【イラストC】

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