15
1 流砂水理学(土木 専門) (宿題)20 世紀(もしくは 21 世紀)に発生した土砂・洪水災害を 30 程度挙げ,死傷者・ 行方不明者も示せ. 1. 基礎方程式 (1.1) 流水の連続式( x 軸は流れに沿う向き) 0 = + x Q t A (1.1) (1.2) 流水の運動方程式 e i gA x H gA A Q x t Q = + 2 (1.2) (1.3) 流砂の連続式 ( ) { } 0 1 = + x Q t A b s λ (1.3) (1.4) 流砂の運動方程式(流砂量式・・・運動方程式の代用品) b s b q B Q = (1.4) ( ) 1 , , , , , = ρ σ ν τ g h u d f q b ここに, A :流水の断面積( ( ) h x A A , = ), Q :流水の流量, v :断面平均流速( A Q v = ), H 水位( = h + b z ), b z :河床位, h :水深, e i :エネルギー勾配(摩擦勾配), λ :流砂の空隙率 = * c ), * c :砂の静止堆積濃度, s A :流砂の断面積, b Q :流砂の流量(流砂量), s B :流砂幅, b q :単位幅流砂量, d :粒子径, τ u :摩擦速度, h :水深, g :重力加速度,ν :動粘性係数, σ 砂粒子の質量密度, ρ :流水の質量密度. ここで,流水断面・流砂断面が矩形( A = Bh s A = b s z B B =consts B =const)であるとすると, 図-1.1 開水路流れと座標系 h b z z s A h s B Q A v x H B λ b Q h b z z s A h s B Q A v x H B λ b Q h b z b z z s A s A h s B s B Q A v x H B λ b Q b Q h b z b z z s A s A h s B s B Q A v x H B λ b Q b Q

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1

流砂水理学(土木 専門) 担当者 伊藤 隆郭 (宿題)20 世紀(もしくは 21 世紀)に発生した土砂・洪水災害を 30 程度挙げ,死傷者・

行方不明者も示せ.

1. 基礎方程式 (1.1) 流水の連続式( x 軸は流れに沿う向き)

0=∂∂

+∂∂

xQ

tA

(1.1)

(1.2) 流水の運動方程式

eigAxHgA

AQ

xtQ

−∂∂

−=

∂∂

+∂∂ 2

(1.2)

(1.3) 流砂の連続式

( ){ } 01

=∂

∂+

∂−∂

xQ

tA bsλ

(1.3)

(1.4) 流砂の運動方程式(流砂量式・・・運動方程式の代用品)

bsb qBQ = (1.4)

( )1,,,,, −= ρσντ ghudfqb

ここに, A :流水の断面積( ( )hxAA ,= ), Q :流水の流量, v :断面平均流速( AQv = ), H :

水位(= h + bz ), bz :河床位, h :水深, ei :エネルギー勾配(摩擦勾配), λ :流砂の空隙率

(= *c ), *c :砂の静止堆積濃度, sA :流砂の断面積, bQ :流砂の流量(流砂量), sB :流砂幅,

bq :単位幅流砂量, d :粒子径, τu :摩擦速度, h :水深, g :重力加速度,ν :動粘性係数,σ :

砂粒子の質量密度, ρ :流水の質量密度. ここで,流水断面・流砂断面が矩形( A = Bh , sA = bs zB , B =const, sB =const)であるとすると,

図-1.1 開水路流れと座標系

h

bz

z

sA

h

sB

QA

v

x

H

B

λ

bQ h

bz

z

sA

h

sB

QA

v

x

H

B

λ

bQ h

bzbz

z

sAsA

h

sBsB

QA

v

x

H

B

λ

bQbQ h

bzbz

z

sAsA

h

sBsB

QA

v

x

H

B

λ

bQbQ

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2

式(1.1)→ 0=∂∂

+∂∂

xvh

th

or 0=∂∂

+∂∂

xq

th

式(1.2)→ eighxHgh

xvq

tq

−∂∂

−=∂∂

+∂∂

→運動方程式・エネルギー保存則(ベルヌーイ式)の両

方から「同形」の式が得られる.

式(1.3)→ 011

1=

∂∂

−+

∂∂

xQ

Btz b

s

b

λ

式(1.1)~式(1.3)→非定常流(不定流),式(1.1)~式(1.3)で 0=∂∂ t →定常流, 0=∂∂ x →等

流. ここで,エネルギー勾配 ei =?←通常,Manning の式(抵抗則)など

(1.5) エネルギー勾配 ei の表示式は?・・・いろいろの方法がある(抵抗則・平均流速公

式).

(a) Manning の平均流速公式 21321eiR

nv = → 34

22

Rvnie = (1.5)

(b) Chézy の平均流速公式 eiRCv = → RC

vie 2

2

= (1.6)

(c) Darcy-Weisbach の抵抗則 2

8vf

b ρτ = → gRvfie 8

2

= (1.7)

(d) 河床せん断力と摩擦速度 eb gRiρτ = → gRuie

2*= (1.8)

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2. 土砂・水の材料特性 (2.1) 土砂 c :粒子の体積濃度(体積分率), λ :流砂の空

隙率(=1- *c ), *c :砂の静止堆積濃度, d :粒

子径, sµ :摩擦係数(= tan sφ :摩擦角), 0w :

粒子の沈降速度,σ :砂粒子の質量密度 など. (2.2) 水 µ :粘性係数, ρ :流水の質量密度,ν :動粘

性係数(= ρµ ), など. 3. 河床せん断力 (3.1) 河床せん断力 定常・等流の流れにお

いて,図を参照して,河

床から z だけ上方の位置

の流れ方向における力

の釣り合いを考える. 単位面積をもつ水柱を

図のように設定すると,

重力の流れ方向成分と

せん断力(抵抗力)がつ

り合っている. まず,重力W を求める.

( )zhggdzWh

z−== ∫ ρρ (3.1)

よって, ( ) bizhgG −= ρ (3.2) 重力の流れ方向成分とせん断力(抵抗力)がつり合っているので, τ=G が成り立つ. ( ) ( ) bizhgz −= ρτ (3.3) 式(3.3)がせん断応力(水の抵抗力)の鉛直分布を表す式である.式(3.3)において, 0=z (河床)

に作用するせん断力を 0τ (または, bτ )とおくと,これは次式のように表される.

bighρτ =0 (3.4)

式(3.4)に表される 0τ を河床せん断力という.なお,式(3.4)において,河床勾配 bi は勾配θ (deg.)を

用いると, θsin=bi のように表される. (3.2) 摩擦速度 式(3.4)より次のような式展開を行う.

( )2

0 bb ighigh ρρτ == (3.5)

ここで, bighu ≡τ のように定義すると,式(3.5)は次式のようになる.

σ

σ水

砂粒子

d 駆動力(重力・流体力 等)

µ,

sµ摩擦力(= 垂直抗力×  )

σ

σ水

砂粒子

d 駆動力(重力・流体力 等)

µ,

sµ摩擦力(= 垂直抗力×  )

図-2.1 砂・水の材料特性

h

bz

Q

λ

h

bz

z

Q

xsA

h

sB

AH

B

sA

h

sB

AH

B

λ

z

bi

単位面積

W

G

N

τ h

bzbz

Q

λ

h

bzbz

z

Q

xsA

h

sB

AH

B

sA

h

sB

AH

B

sAsA

h

sBsB

AH

B

sAsA

h

sBsB

AH

B

λ

z

bi bi

単位面積

W

G

N

τ

図-3.1 流れの模式図

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20 τρτ u= ,

ρτ

τ0=u (3.6)

式(3.5)および式(3.6)で表されている bighu ≡τ を摩擦速度という.

摩擦速度の意味は,①河床せん断力 0τ を「速度」の次元で表したもの,②(これは,付随した意

味であるが)摩擦速度は河床近傍における流速 bu に比例する.

(宿題)河床せん断力を図・式を用いて導出し,その後,摩擦速度の定義を示せ.さらに

摩擦速度の意味を示せ.ギリシャ文字(小文字)を全て示し,読み方も示せ. (3.3) 河床せん断力の無次元化(無次元掃流力) 式(3.4)より,河床せん断力 0τ は,次式で与えられている.

bighρτ =0 (3.7) これは,先程述べたように,単位面積に作用するせん断力であった.ここで,図-3.1 を参照して,

砂粒子 1 つに作用するせん断力 0τ ′ を求める.砂粒子の直径を d とおくと,河床の砂粒子の面積は,

2d に比例する(ちなみに,砂粒子が球形の場合→断面積= ( ) 24 dπ ).

20 digh b ×∝′ ρτ (3.8)

次に,砂粒子 1 つが河床に作用する力 N ′を求める.このとき,砂粒子には重力と浮力が作用する

ので,その差の分(有効応力)が河床に作用する.砂粒子の質量密度σ ,水の質量密度 ρ ,砂粒

子 1 つの体積 sV とすると, sV は3d に比例する(ちなみに,砂粒子が球形の場合→断面積

= ( ) 36 dπ ).

( ) ( ) ( ) ( ) gdgVgVgVN sss3ρσρσρσ −∝−=−=′ (3.9)

粒子 1 つに作用する重力に対するせん断力の比をとる(式(3.8)と式(3.9)の比をとる).

( ) ( )

( ) ( ) *

2

3

20

3

20

11τ

ρσρσ

ρστ

ρσρτ

τ ≡−

=−

=

=−

=′

gdu

gdghi

gdd

gddghi

N

b

b

(3.10)

式(3.10)に示されている *τ を無次元掃流力という. 無次元掃流力 *τ の意味は,砂粒子 1 つに作用する重力に対する水流のせん断力の比を表し,

砂粒子 1 つが水流によって移動するときの移動しやすさを表している. (宿題)無次元掃流力を図・式を用いて導出し,さらに,その意味を示せ.

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(3.4) 限界掃流力 限界掃流力 cτ は,砂粒子が移動する限界状態のときに作用している流体力のことである.これを

理解するためには,幾つかの基本的事項を押さえておく必要がある. (3.4.1) 流体力 学生実験において学習した

かも知れないが,流体力につ

いて簡単に復習しておこう.簡

単な例として,清水中を固体

粒子が沈降していく状態を想

定する. 図-3.2 に示すように,粒子

に作用する力には,表面抵抗

fD と形状抵抗 pD の 2 つが

あり,抵抗力 F = fD + pD の

ように表される.抵抗力 F を粒子の表面周りに積分して,それを流れ方向と流れに垂直方向に分

けた成分が,それぞれ抗力,揚力と呼ばれる.揚力については,レイノルズ数が大きいときには,形

状抵抗に比べて表面抵抗が十分小さいとして扱うことが多い. さて,揚力が無視できるような流れ場を想定すると,粒子の抵抗力は抗力のみになるので,このと

き,静止流体中における粒子の運動は次式に従う.

( ) DFGdt

dwmm −=′+ 0 (3.11)

( ) sgVG ρσ −= ,2

021 wACF DD ρ= (抗力), Vm ρ= , m′:付加質量(仮想質量), sV :粒子

の体積, A :流れ方向に直交する面で切断される粒子の面積(射影面積),σ :粒子の質量密度,

ρ :流体の質量密度, 0w :粒子の沈降速度, Dc :抗力係数.

式(3.11)において,定常状態においては, 00 =dtdw であるので,沈降速度が次式のように求

められる.

2

1

1120

−=

DCAVgw

ρσ

(3.12)

上式より、 Dc が与えられると、 0w が算定できる。一般に, Dc はレイノルズ数の関数になることが知

られている. (例)粒子が球形の場合 ストークス領域: eD RC 24= ( )1<Re ,抗力 dwFD 03πµ= (3.13)

ここに, ( ) νdwRe 0= ストークス領域を超える領域: Rubey は、レイノルズ数の

広い領域で次のような半理論式を提案している. 224 += eD RC ( )500<Re (3.14)

(3.4.2) 流体力 ここまでの話を,河床に置かれた砂粒子に対して適用し

てみよう.砂粒子に作用する流体力(抗力)は,抗力係数

DC を使うと,次のように表される(図-3.3 参照).

z

xub

F

R

dA

(摩擦力)

(流体力)

z

xub

F

R

dA

(摩擦力)

(流体力)

図-3.3 河床近傍の粒子に作用

する力

U

LF

DF

F

z

x

dS

nr F

( )nx,x軸と単位法線ベクトル

のなす角

U

LF

DF

F

z

x

z

x

dS

nr F

( )nx,x軸と単位法線ベクトル

のなす角

図-3.2 流れの模式図

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dbDD AuCF 2

21 ρ= (3.15)

ここに, dA :砂粒子を流れに垂直な面に投影した面積で,砂粒子が球形の場合には,

=dA ( ) 24 dπ , bu :砂粒子の図心に作用する水の底面付近の流速である. 砂粒子と河床との摩擦力は,粒子に作用する浮力を考慮すると次式のようである.

( ) ss gVR µρσ

4342143421

重力-浮力

質量

−= ( ) sgd µπρσ

−= 3

6 (3.16)

ここに, sµ :砂と河床の静摩擦係数( sφtan= ), sφ :摩擦角, sV :砂粒子の体積である. 式(3.15)と式(3.16)の辺々の比をとると,

( ) ( )gduC

gd

duC

RF b

s

D

s

bDD

143

6

421

2

3

22

−=

=ρσµ

µπρσ

πρ

( ) ( ) *

2*

2*

2

1143 τ

ρσρσµβ

=−

∝−

=gd

ugd

uC

s

D (3.17)

ここに, *uub=β であり,粒子レイノルズ数 ( )νduRe ** = の関数である.

さて,式(3.10)のところで,無次元掃流力 *τ の意味は,砂粒子 1 つに作用する重力に対する水流

のせん断力の比を表し,砂粒子 1 つが水流によって移動するときの移動しやすさを表していること

を紹介した.式(3.17)より,無次元掃流力 *τ は砂粒子に作用する流体力と固体摩擦力との比とも

言うことができる. 式(3.17)において,粒子に作用する流体力と固体摩擦力とが釣り合う状態( 1=RF )とし,

cuu ** = (限界摩擦速度)のようにおくと,限界掃流力 cτ の無次元表示(無次元限界掃流力 c*τ )

が次式のように得られる.

図-3.4 粒子レイノルズ数と限界掃流力 (椿 東一郎 著:水理学Ⅱより抜粋(一部修正))

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( ) cc

cD

s

gdu

C *

2*

2 134 τ

ρσβµ

=−

= (3.18)

ここに, ( )cbc uu *=β であり,粒子レイノルズ数 ( )νduR cce ** = の関数である.これを図示すると,

図-3.4 のようである.図は,粒子レイノルズ数 ceR * と無次元限界掃流力 c*τ の関係を示している. *----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------* (付記)無次元限界掃流力 c*τ の導出の仕方には,幾つかの方法(粒子の揚力に着目したもの,粒

子に作用する掃流力に着目したもの等)があるが,ここでは,粒子に作用する抗力に着目して導出

した場合の式展開を示している. *----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------* (宿題)式・図を用いて,式(3.13)のストークスの抵抗則を導け. (3.5) 対数型流速分布 (3.4.2)の流体力の説明で,河床近傍の流速 bu についての記述が出てきたので,流速(流速分

布)について簡単にまとめておく.図-3.3 を参照すると,河床近傍(砂粒子の近傍)での流速が与

えられている. 清水の流れが,乱れている時,および乱れていない時で流れの形態は異なる.それぞれ,「乱

流」,および「層流」と呼ばれる.層流と乱流の違いは厳密に言うとかなりややこしいが,例えば,レ

イノルズ数 eR を用いると,層流と乱流との境界のレイノルズ数(限界レイノルズ数) ecR を用いると,

eR < ecR →層流, eR ≦ ecR →乱流のように区別される.なお,開水路流れにおいては,断面平均

流速 u ,水深 h ,水の動粘性係数ν を用いて, eR νhu≡ のように定義されることが多い.また,

このとき, ecR ≒500 程度である. 通常の河川・湖沼の流れは,乱流であることが多いため,ここでは,乱流の流速分布について説

明する.プランドルやカルマンによって提案された流速分布がよく用いられている.これは,対数則

と呼ばれており,次式に示される.

( )

sr k

zAu

zu ln1κτ

+= (3.18)

ここに,Ar:(河床が粗面の場合の)普遍定数(= 8.5),κ :カルマン定数(= 0.4),ks:河床の凸凹の

粗さを示す指標で,「相当粗度」と呼ばれる. *----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------* (付記)式(3.18)の導出について 河床近傍の河床から z だけ上方に位置する微小要素に着目する.ここでの流速,および河床か

らの高さを,それぞれ ( )zu ,z とおく.鉛直高さ方向に zδ 進んだ位置では,流速は ( )zzu δ+ とな

る.z まわりでテーラー展開をすると, ( ) ( ) ( )[ ] zdzzduzuzzu δδ +≅+ となるので,z からみた流

速の勾配(速度勾配)は,次式のようになる.

( ) ( )( )

( ) ( ) ( )dz

zduz

zuzzuzzz

zuzzu=

−+=

−+−+

δδ

δδ

(3.19)

いま,河床近傍の流れを対象としているので, ( ) τuzdu ∝ , lz ∝δ (空間の長さ)のように仮定し,

zl κ= とする.式(3.19)に適用すると,速度勾配は次式のように表される.

( )

zu

dzzdu

κτ= (3.20)

z= z で ( )zu = Ar τu として,式(3.20)を積分して流速 ( )zu を求めると,式(3.18)が求められる.

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図-3.5 乱流の流速分布(対数則) *----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------*

θ x

hv

z

du(z)d z速度勾配

u(z+δ z)

u(z)

z+δ z

z

ks

u(z)~ uτ

(乱流)

θ x

hv

z

du(z)d z速度勾配

u(z+δ z)

u(z)

z+δ z

z

ks

u(z)~ uτ

θ x

hv

z

du(z)d zdu(z)d z速度勾配

u(z+δ z)

u(z)

z+δ z

z

u(z+δ z)

u(z)

z+δ z

z

ks

u(z)~ uτ

(乱流)

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4. 流砂形態(掃流砂流・土石流・・・)

図-4.1 流砂形態の模式図

5. 流砂量式(掃流砂量式)←砂粒子の運動方程式の代用品 (5.1) 流砂量の定義 図-4.1 (c)を参照すると,流砂量 bq の定義は次のようである.

∫= sh

b cudzq0

(5.1)

ここに, c :流砂の体積濃度,u :流砂の移動速度, sh :流砂の移動する層の厚さである. 流砂量を無次元表示する際には,次式のようなパラメータが用いられる.

z

( )c z

( )u zh

hs

xθc*c*

x

z

( )c z

( )u z

θ

h

c*c*

(a) 土石流

z

( )c z

( )u zh

hs

xc*θ

(c) 掃流砂流

(b) 土砂流

z

( )c z

( )u zh

hs

xθc*c*

z

( )c z

( )u zh

hs

( )c z

( )u zh

hs

xθc*c*

x

z

( )c z

( )u z

θ

h

c*c* x

z

( )c z

( )u z

θ

h

c*c*

z

( )c z( )c z

( )u z( )u z

θ

hh

c*c*

(a) 土石流

z

( )c z

( )u zh

hs

xc*θ

z

( )c z( )c z

( )u z( )u zhh

hshs

xc*θ

(c) 掃流砂流

(b) 土砂流

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du

qq bb

** ≡ (5.2)

( ) 3*

1 gdqq b

b−

≡ρσ

(アインシュタイン型) (5.3)

※最近は式(5.3)の形式はあまり用いられていない. (5.2) 掃流砂量式の関数形(過去の研究より)

流砂量式に関する研究は幾つもあるが,式(5.2)の定義を用いると,流砂量式は概ね次式のよう

に表される.

δγ

β

ττ

ττατ

−=

*

*

*

*** 11 cc

bq (5.4)

α :係数定数(= 6~17), β ~ δ :べき乗定数である.大まかに,5.1

** τ∝bq (3/2 乗則),

5.2** τ∝bq (5/2 乗則)の 2 つのタイプがある.

(5.2.1) 流砂量式(掃流砂量式)のいろいろ(過去の研究より)

(a) 佐藤・吉川・芦田式(1958 年)

δγ

β

ττ

ττατ

−=

*

*

*

*** 11 cc

bq (5.5)

α = ( )cF ττϕ 0 , β = 3/2,γ = 0,δ = 0 のようにおくと,

2/3** ατ=bq

ここに, 5.3)49(623.0 −= nϕ : n<0.025 , 623.0=ϕ : n≧0.025

( )( )4

00 81

1ττ

ττc

cF+

(b) Meyer Peter-Muller 式(1948 年)←スイス公式

δγ

β

ττ

ττατ

−=

*

*

*

*** 11 cc

bq (5.6)

α = 8, β = 3/2,γ = 3/2,δ = 0 のようにおくと,

2/3

*

*2/3** 18

−=

τττ c

bq

※式(31)において, =c*τ 0.047 である.

(c) 芦田・道上式(1972 年)

δγ

β

ττ

ττατ

−=

*

*

*

*** 11 cc

bq (5.7)

α = 17, β = 3/2,γ = 1,δ = 1 のようにおくと,

−=

*

*

*

*2/3** 1117

ττ

τττ cc

bq

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(d) 林・尾崎式(1980,1981 年)

δγ

β

ττ

ττατ

−=

*

*

*

*** 11 cc

bq (5.8)

α = 14, β = 3/2,γ = 3/2,δ = 0 のようにおくと,

2/3

*

*2/3** 114

−=

τττ c

bq

(e) Brown 式(1950 年)

δγ

β

ττ

ττατ

−=

*

*

*

*** 11 cc

bq (5.9)

α = 10, β = 5/2,γ = 0,δ = 0 のようにおくと,

2/5** 10τ=bq

(f) 江頭・宮本・伊藤式(1997 年)

δγ

β

ττ

ττατ

−=

*

*

*

*** 11 cc

bq (5.10)

α = fd ff

KK+

22

1

154

10, β = 5/2,γ = 0,δ = 0 のようにおくと,

=*bqfd ff

KK+

22

1

154 2/5

ここに,

{ }[ ] 11 tantancos −−= θφθ sK

5.0

2 11

−=

hh

cK s

s

, ( ) ( )θφρσθ

tantan1tan

−−=

ss

s

chh

( )( ) 3/121 sdd cekf ρσ−= , ( ) 3/23/51 −−= ssff cckf , =fk 0.16, =dk 0.0828, 2*ccs = ※流砂量式が理論的に求められているのは,(f)の式(式(5.10))だけである. (宿題)両対数用紙に,

2/5** 10τ=bq と ( ) 23

*** 10 cbq ττ −= のグラフを描き,両者を比較せ

よ.なお, *τ の範囲は,0.05~10, c*τ = 0.05 とする. *----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------* (付記) 流砂量式から分かること・・・ 式(5.4)から,掃流砂量式には 2 つのパターン: 5.1

** τ∝bq (3/2 乗則),5.2

** τ∝bq (5/2 乗則)があ

ることを紹介した.例えば,比例係数α を用いて,5.1

** τ∝bq (3/2 乗則)→5.1

** ατ=bq とする.

単位幅流砂量 bq について,式(5.3)を考慮して見てみよう. *----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------*

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( )

2/322/3

** 1

==gd

uqb ρσαατ τ

( )

=− 31 gd

qb

ρσ ( ) ( ) ( )gdgdu

gdu

111

32/32

−−=

− ρσρσ

αρσ

α ττ (5.11)

よって,式(5.11)より次式が得られる.

=bq ( )gu

1

3

−ρσα τ (5.12)

式(5.12)より,単位幅流砂量は摩擦速度の 3 乗に比例し,その比例係数は粒子径には依存しない

ことが分かる.しかし・・・,流砂量は粒子径の大小に関係しないのだろうか?

(宿題)式(5.9)において,5.2

** ατ=bq とおいて,式(5.12)と同様の展開を行って,単位幅流砂量の

粒子径の依存性について検討せよ.

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6. 浮遊砂量式 (6.1) 流砂量の定義

5.1 で述べた式(5.1)と定義は同じ.例えば,図-4.1 (c)を参照すると,流砂量 bq の定義を再掲す

ると次のようである.

∫=h

b cudzq0

(6.1)

ここに, c :流砂の体積濃度,u :流砂の移動速度, sh :流砂の移動する層の厚さである. 流砂量を無次元表示する際には,次式のようなパラメータが用いられる.

du

qq bb

** ≡ (6.2)

( ) 3*

1 gdqq b

b−

≡ρσ

(アインシュタイン型) (6.3)

※最近は式(6.3)の形式はあまり用いられていない. (6.2) 浮遊砂量式の関数形(過去の研究より)

浮遊砂量式に関する研究も,掃流砂量式と同様に幾つも提案されている.しかし,浮遊砂量の導

出にあたっては,掃流砂量式の場合とは異なる.式(6.1)において,流速分布については,対数則

の流速分布を用い,粒子濃度(体積濃度)については,拡散方程式を基本として求めて,両者の

積を積分して求められていることが多い. そこで,式(3.18)に開水路上の粗面乱流の流速分布(対数則)を簡単に示したので,ここでは,粒

子濃度分布の求め方について説明する. (6.2.1) 拡散方程式とフィックの法則 拡散方程式(連続式)は,2 次元平面で記述すると次のようである.

0=∂∂

+∂∂

+∂∂

zcw

xcu

tc

(6.4)

この式の導出については,追って説明する. 移流による粒子の輸送量を除いて,単位時間・単位体積あたりの粒子の輸送量 iq はその場所に

おける粒子の濃度 c の勾配に比例するとして,1 次元の場合には次式のように表される.

zcKq zz ∂

∂−= (6.5)

上式は,熱輸送の拡散現象と同様の取り扱いである.式(6.5)をフィックの法則という. (付記) 式(6.5)を乱流場での運動量輸送や熱輸送と比較してみよう.まず,乱流場での運動量輸送は,

次式のようになる.

zuvu

∂∂

=′′−= ρερτ (6.6)

一方,熱輸送では熱輸送量 H は次式のようである.

zTcH p ∂

∂Γ−= ρ (6.7)

ここに, pc :定圧比熱, Γ :熱拡散係数,T :温度である.

次に,式(6.5)を用いて,浮遊砂の輸送量(フラックス)を示すと次式のようである.

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zcq sz ∂

∂−= ε (6.8)

ここに, sε は浮遊砂の拡散係数である.

このように,式(6.6)~式(6.8)は,フィックの法則の形式をとっていることが分かる.ε , Γ , sε の値

はそれぞれ等しくない.次のように,これらの係数の比をとってみよう.

Γ

rP , s

cSεε

= (6.9)

式(6.9)の rP は乱流プラントル数, cs は乱流シュミット数と呼ばれている.通常,これらのパラメータ

は 1 よりも小さい. さて,浮遊砂の濃度分布の話に戻る.図-6.1 を参照して,鉛直方

向の粒子の輸送量(フラックス)に関する釣り合いを考える.粒子

の沈降による輸送量 cw0 とフィックの法則に従うような粒子の輸送

量 zq が等しいので,次式が成り立つ.

cwqz 0= → cwzc

s 0=∂∂

− ε (6.10)

これを,変数分離形に直して積分すると,次式のようになる.

∫∫ −= zdwccd

sε0 (6.11)

式(6.11)を積分範囲を考慮して展開すると,次式が得られる.

( )

∫ −=z

asa

zdwczc

ε0ln (6.12)

式(6.12)において,未知なパラメータは sε , ac (基準点濃度:これについては後述)である.つまり,

粒子の拡散を基にして粒子濃度の分布形を求める場合, sε , ac の評価がポイントであることが分

かる. (a) Rouse(ラウス)の研究 Rouse は,①粒子の拡散係数 sε が,乱流の運動量輸送での渦動粘性係数ε に比例する,②渦

動粘性係数ε を清水乱流の対数則から求めて,放物線分布をするもの と仮定して次のように拡

散係数 sε を求めて,粒子濃度分布を求めている. 式(3.5)より,せん断力(外力)の分布は次のようである.

−=

−=

hzu

hzghie 11 2

τρρτ (6.13)

一方,式(6.6)に示した流体の抵抗力(乱流の場合)は,再掲すると,

zuvu

∂∂

=′′−= ρερτ (6.14)

両者がつり合うので,式(6.13)と式(6.14)から次式が得られる.

( )

( )zuhzu

∂∂−

=12

τε (6.15)

速度勾配 zu ∂∂ については,式(3.20)を適用する(対数則の速度勾配)と,式(6.15)は次のように

なる.

( )

( ) ( )hzuzzuhzu

−=−

= 112

ττ

τ κκ

ε (6.16)

式(6.16)において,粒子の拡散係数 sε が,乱流の運動量輸送での渦動粘性係数 ε に比例する

z

c

h

a0

z

c

h

a0

zcq sz ∂

∂−= εcw0

z

c

h

a0

z

c

h

a0

zcq sz ∂

∂−= εcw0

図-6.1 鉛直方向のフ

ラックスの釣り合い

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( sε εβ= )として,式(6.12)に代入して,粒子濃度分布を求めると次式が得られる.

( ) Z

a aha

zzh

czc

−−

= (6.17)

式(6.17)は,ラウス分布と呼ばれている.ここに, ( )τβκ uwZ 0= であり,ラウス数と呼ばれてい

る. (b) Lane-Kalinske(レーン・カリンスキー)の研究 Lane と Kalinske は,Rouse の研究の式(6.16)に示される乱流の渦動粘性係数ε を水深平均(断

面平均)値を用いることによって,粒子濃度分布を求めている.基本的には,Rouse の研究と同じで

ある. 式(6.16)を再掲すると,乱流の渦動粘性係数ε は次式のようである.

( )

( ) ( )hzuzzuhzu

−=−

= 112

ττ

τ κκ

ε (6.18)

式(6.18)を水深平均すると次式が得られる.

( ) hudzhzuzh

dzh

hh

ττ κκεε61111

00=−=≡ ∫∫ (6.19)

ここで, sε εβ= とし,式(6.12)に代入すると粒子濃度分布が次式のように求められる

( )

−−=

hazZ

czc

a

6exp (6.20)

式(6.20)は,レーン・カリンスキーの式と呼ばれている.ここに, ( )τβκ uwZ 0= である. (宿題)式(6.16)を式(6.12)に代入して,式(6.17)のラウス分布を求めよ.また,同様に,式(6.19)を式(6.12)に代入して,式(6.20)のレーン・カリンスキーの式を求めよ. (6.2.2) 浮遊砂量式のいろいろ(過去の研究より) 先程も述べたように,浮遊砂量式の研究は,主に粒子の拡散を基にして行われることが多い.こ

のとき,流速分布→対数型流速分布,粒子濃度分布→粒子の拡散(例えば,式(6.17)や式

(6.20))により分布形を求め,これらを式(6.1)に代入して浮遊砂量が求められている.ここでは,代

表的な関数形を紹介することに留める. 式(6.1)に乱流の流速分布(対数則)と式(6.20)の粒子濃度分布を代入すると,次式が得られる.

∫∫∫ ===h

ka

h

ka

h

b udzfcudzfccudzq000

(6.21)

ここに, =kf

−−=

−−

haz

uw

hazZ

τβκ06exp6exp である.

式(6.21)を若干演算すると,次式のような関数形が得られる.

( )

( ) ( ) 2/1*03* ,

ρστ ⋅⋅⋅=

−≡ dhuwcfc

gdqq a

bb (6.22)

式(6.22)において,無次元掃流力は,式(3.10)に示されるように,相対水深 dh = ( )1* −ρστ eiの関係があることや,基準面濃度 ac = ( )τuwf 0 であることを考慮すると,概ね次式のような関係に

なる. 2

** τsb Kq = (6.23)

ここに, sK :比例係数である.式(6.22)や式(6.23)の関数形には,幾つもの式が提案されている(例

えば,Einstein(1950),板倉・岸(1980)).