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ROSAT 衛星による X 線プラネタリウムの基礎開発 P03086 西尾 光史、指導教官:久保田あや 2008 1 25 1 背景と目的 X 線は可視光の 1000-1 万倍も高いエネルギーの電磁波で あり、ブラックホールや超新星残骸、銀河団などの高温・高 エネルギーの天体を起源としている。近年、 XMM-Newton ROSAT、すざくなどの X 線天体観測衛星が次々と登場 し、より鮮明なそれらの天体の映像を得られるようになっ た。そこで本総合研究ではこの映像データを用い、普段見 かける一般的な可視光のプラネタリムのような X 線デジタ ルプラネタリウムを開発する。今回はその X 線プラネタリ ウムに用いる画像を ROSAT 衛星による全天サーベイ観測 によって得た映像データをプラネタリウム投影用のフォー マットでつなげるプログラムを作り、実際にプラネタリウ ムに投影することを目指し、研究を進めた。 2 ROSAT 衛星 2.1 概要 ROSAT(ROentgen SATellite)[1][2] 衛星は、 1990 6 1 日にアメリカより打ち上げられ、1999 2 12 日に役 目を終えた X 線観測衛星である。設計、運用はドイツで行 われた。動力は 3 枚のソーラーパネルと充電式バッテリー により供給された。ROSAT には焦点面に PSPC(Position Sensitive Proportional Counter :位置検出型比例計数管)[3] HRI(High Resolution Imager) が搭載されており、X 望遠鏡である XMA(X-ray Mirror Assembly) と組み合わせ て用いられた [4]ROSAT 1994 9 11 日まで PSPC による全天サーベイを行っており、X 線プラネタリウム作 成のために最適の公開データがそろっている。 2.2 PSPC による全天サーベイ PSPC はマックスプランク研究所により開発されたマル チワイヤー比例計数器である。これらの検知器は、適度な エネルギー分解能 ( ΔE/E =0.43(E/0.93) -0.5 )2 度以 上の直径視野の高空間分解能 (1keV 25 秒角) と、130 イクロ秒までの相対的な時間分解能を提供する。PSPC エネルギーバンドは 0.1-2.4keV で、全天サーベイのデー タは 0.1-0.4keV0.4-0.9keV 0.9-2.4keV 3 バンドに 分かれて記録された。 ROSAT の全天調査により得られた全天マップは幅 6.4 度× 6.4 度ごとの 1378 RASS フィールドに分けられ隣同 士の視野は最低 0.23 度の重なりを持っている [5][6]。デー タは前述の 3 つのエネルギーバンド毎にそれぞれ 1378 fits[7] というフォーマットで作成されたファイルがあり、 ROSAT サイエンスアーカイブ 1 より、前述の 1378 × 3 fits 形式全天サーベイデータを取得する。 3 開発 ROSAT サイエンスアーカイブより 1378 個の全天サー ベイデータを 3 つのエネルギーバンドに付いて取得し、 Hammer-Aitoff 投影 (AIT) などのプラネタリウム投影用 の形式に従ってそれぞれのバントについて全天の X 線画 像を作成するプログラムを C 言語で作成する (§3.1)。各バ ンドの画像について画質を良くするための画像処理を施し (§3.2)、これらを合成してカラー画像を得る (§3.3)3.1 全天の X 線画像の作成 FITS ファイルを読み書きするためのサブルーチン・ラ イブラリである CFITSIO 2 と座標変換をインプリメントし たルーチン集である WCSLIB 3 を用い、全天の X 線画像を 作成するためのプログラムを作成した。図 1 がその実行結 果である。 1: 1378 枚の画像をつなぎ合わせた画像 (AIT) 1 http://www.xray.mpe.mpg.de/rosat/archive/rra/ddp/s/ 2 http://heasarc.nasa.gov/lheasoft/fitsio/fitsio/html 3 http://www.atnf.csiro.au/people/mcalabre/WCS/ 1

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ROSAT衛星によるX線プラネタリウムの基礎開発

P03086 西尾 光史、指導教官:久保田あや

2008年 1月 25日

1 背景と目的 X線は可視光の 1000-1万倍も高いエネルギーの電磁波であり、ブラックホールや超新星残骸、銀河団などの高温・高エネルギーの天体を起源としている。近年、XMM-NewtonやROSAT、すざくなどのX線天体観測衛星が次々と登場し、より鮮明なそれらの天体の映像を得られるようになった。そこで本総合研究ではこの映像データを用い、普段見かける一般的な可視光のプラネタリムのようなX線デジタルプラネタリウムを開発する。今回はそのX線プラネタリウムに用いる画像をROSAT衛星による全天サーベイ観測によって得た映像データをプラネタリウム投影用のフォーマットでつなげるプログラムを作り、実際にプラネタリウムに投影することを目指し、研究を進めた。

2 ROSAT衛星2.1 概要

ROSAT(ROentgen SATellite)[1][2]衛星は、1990年 6月1日にアメリカより打ち上げられ、1999年 2月 12日に役目を終えたX線観測衛星である。設計、運用はドイツで行われた。動力は 3枚のソーラーパネルと充電式バッテリーにより供給された。ROSATには焦点面に PSPC(PositionSensitive Proportional Counter:位置検出型比例計数管)[3]とHRI(High Resolution Imager)が搭載されており、X線望遠鏡であるXMA(X-ray Mirror Assembly)と組み合わせて用いられた [4]。ROSATは 1994年 9月 11日までPSPCによる全天サーベイを行っており、X線プラネタリウム作成のために最適の公開データがそろっている。

2.2 PSPCによる全天サーベイ

PSPCはマックスプランク研究所により開発されたマルチワイヤー比例計数器である。これらの検知器は、適度なエネルギー分解能 ( ∆E/E = 0.43(E/0.93)−0.5 )、2度以上の直径視野の高空間分解能 (1keVで 25秒角)と、130マイクロ秒までの相対的な時間分解能を提供する。PSPCのエネルギーバンドは 0.1-2.4keVで、全天サーベイのデー

タは 0.1-0.4keV、0.4-0.9keVと 0.9-2.4keVの 3バンドに分かれて記録された。

ROSATの全天調査により得られた全天マップは幅 6.4度× 6.4度ごとの 1378のRASSフィールドに分けられ隣同士の視野は最低 0.23度の重なりを持っている [5][6]。データは前述の 3つのエネルギーバンド毎にそれぞれ 1378個の fits[7]というフォーマットで作成されたファイルがあり、ROSATサイエンスアーカイブ1より、前述の 1378× 3個の fits形式全天サーベイデータを取得する。

3 開発ROSATサイエンスアーカイブより 1378個の全天サーベイデータを 3 つのエネルギーバンドに付いて取得し、Hammer-Aitoff投影 (AIT)などのプラネタリウム投影用の形式に従ってそれぞれのバントについて全天の X線画像を作成するプログラムをC言語で作成する (§3.1)。各バンドの画像について画質を良くするための画像処理を施し(§3.2)、これらを合成してカラー画像を得る (§3.3)。

3.1 全天のX線画像の作成

FITSファイルを読み書きするためのサブルーチン・ライブラリであるCFITSIO2と座標変換をインプリメントしたルーチン集であるWCSLIB3を用い、全天のX線画像を作成するためのプログラムを作成した。図 1がその実行結果である。

図 1: 1378枚の画像をつなぎ合わせた画像 (AIT)

1http://www.xray.mpe.mpg.de/rosat/archive/rra/ddp/s/2http://heasarc.nasa.gov/lheasoft/fitsio/fitsio/html3http://www.atnf.csiro.au/people/mcalabre/WCS/

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3.2 画像処理

図 1では 6.4× 6.4の視野で隣同士が最低で 0.23度重なっている様子が見られる。これを除去するために §3.1で作成したプログラムの入力を 1に書き換えたプログラムを作成した。図 2はその実行結果である。

図 2: 入力を 1にした画像 (AIT)

図 1の画像を図 2の画像で割り算することで、図 3の様な重なりを除去した全天画像を得た。ここで画像の割り算には fitsファイルの四則演算を行う farith4というツールを用いた。

図 3: 重なりを取り除いた画像 (AIT)

3.3 カラー合成

これまでの作業を繰り返し、3バンド全てについて画像を作成した後、STIFF5を用いてエネルギーバンドごとに色付けされた画像を合成し、カラーイメージを得た (図 4)。STIFFとは FITSファイルを TIFファイルに変換するソフトウェアで、入力する FITSファイルが 3つあると 3色合成することが出来る。

図 4: 3つのバンドを低エネルギーを赤、中間エネルギーを緑、高エネルギーを青としてカラー合成した画像 (AIT)

4http://heasarc.gsfc.nasa.gov/lheasoft/ftools/5http://terapix.iap.fr/rubrique.php?id rubrique=178

4 上映2008年 1月 16日に平塚市博物館のプラネタリウム (ドー

ム径 10m、後藤光学研究所製 G1014)で実際に投影した。AIT射影で作成した全天画像と星座、天体のカタログを重ねてドームに投影し、画像の位置情報が正しいことが確認できた。図 5に上映の様子を示す。天の川付近の X線放射を示している。青で示した高エネルギーの放射 (高温のガス)が天の川全体に光っていることがわかる。

図 5: 上映の様子

5 まとめと今後の課題プラネタリウムで上映することが出来るところまで進んだが、まだ画像が所々粗かったり、スキャンのラインが入ってしまっているといった問題がある。今後は、これらの問題を解決し、さらには他の X線天文衛星で観測した画像を同じようにプラネタリウムで上映できるようにするということが考えられる。

参考文献[1] Trumper,J. 1983, Adv. Space Res., 2(4) 241[2] Trumper,J. 1992 QJRAS, 33. 165[3] Axchenbach et al. 1985

ROSAT PSPC - scientific Data Processing Re-quirement Document, MPE Internal Report 44,Max-Planck-Institut fur extraterrestrische Physik,D 85740 Garching near Munich, Germany

[4] 川埜 直美 修士論文 (広島大学)2003[5] Snowden, S.L., & Schmtt, J.H.M.M. 1990, Ap&SS,

171, 207[6] Voges,W. 1992, in Proc, Satellite Symp. 3,

Space Science With Particular Emphasis onHigh-energy Astrophysics, ed. T.D.Guyenne &J.J.Hunt(Noordwijk:ESA), 9

[7] M.R.Calabretta &E.W.Greisen 2002, A&A 395,1077