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第1編 民法総則民法総則...-./01(23!"4 . ³6/;S/C ´ / F U Õ « ÃT7 (Ü ÝÞ Ä $ %. 12 56 - D ßw Ä ï )7z $ %.;e4CV µ ·¸ IJ A ` a b c) Úg òA Ú à %7A á Ä c Úg

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民 法 講義テキスト - 1 -

第1編第1編第1編第1編 民法総則民法総則民法総則民法総則

第1章第1章第1章第1章 自自自自 然然然然 人人人人 第1節第1節第1節第1節 能力総説能力総説能力総説能力総説 自然人に関して民法総則で問題となるのは,①権利能力,②意思能力,③行為能力という3つの能力である。以下でそれぞれの能力について検討していく。 1 権利能力 権利能力とは,私法上の権利義務の帰属主体たり得る地位・資格をいう。この権利能力がない者は,およそ民法上の権利義務の主体たりえない。自然人はいつ権利能力を取得し,いつ権利能力を失うかが問題となる。 取得時期 喪失時期 備 考 自 然 人 ※ 出 生 死 亡 死亡は相続開始原因 法人 一般社団財団法人 設立登記 清算結了 清算結了登記は必要 会 社 設立登記 清算結了 清算結了登記は必要 ※【胎児の権利能力に関する論点】 <原則> 胎児に権利能力は認められない。 <例外> ①相続(886Ⅰ) ②不法行為に基づく損害賠償請求(721) ③遺贈(965・886) ✻学説・判例問題論点表 【胎児の権利能力】 問題の所在 「生まれたものとみなす」をどのように解釈するか。 停止条件説(大判昭7.10.6) 解除条件説 意 義 胎児は,胎児のままでは権利能力がなく,生きて生まれることを停止条件として,不法行為の時点や相続開始の時点等に遡及して権利能力を取得する。 生まれたものとみなされる範囲内で,胎児は,権利能力を取得するが,生きて生まれなかったことを解除条件とし,遡及して権利能力を失う。 理 由 胎児については,法定代理に関する規定がない。 胎児の段階での権利能力を認めていないと解される。 胎児の権利保護のため,胎児に権利能力を認めるべきである。 反対説への批判 ①胎児を代理する者いかんによっては,胎児中の権利行使が必ずしも胎児に有利になるとは限らない。 ②解除条件説では,死産の場合に,取引の安全を害するおそれがある。 停止条件説は,解除条件説では取引の安全を害するおそれがあるというが,医療の発展により,死産率が格段に低下している。 取引の安全を害する確率は格段に低下している。 2 意思能力 意思能力とは,法律上の判断ができる能力をいう。たとえば,幼児や重度の精神病を罹患した者などである。これらの者は権利能力を当然に有するが,法律上の判断をする能力を有しない。よって意思能力を欠く者がなした法律行為は無効と解されている。

「既に生まれたものとみなす」と規定されている。

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択一式対策 択一合格アドバンス講座 - 2 -

3 行為能力 行為能力とは,単独で確定的に有効な法律行為をなす能力をいう(5Ⅰ,21,102,120等)。民法は,この行為能力が制限されている者(制限行為能力者)として①未成年者②成年被後見人③被保佐人④被補助人の4者を定めている。 ✻学説・判例問題論点表 【意思能力と行為能力をめぐる二重効の問題】 問題の所在 制限行為能力者が同時に意思無能力者であるとき,無効と取消しの双方の要件を満たしていることになるが,この場合,表意者はどちらを主張すべきか。 二重効肯定説(通説) 二重効否定説(取消しのみ認める説) 意 義 制限行為能力を根拠に取り消してもよいし,意思無能力を根拠に無効を主張してもよい。 制限行為能力を根拠とする取消しのみ可能である。 理 由 ①いずれも主張し得ると解するのが,制限行為能力者の保護に資する。 ②表意者保護の観点から,二重効は認めるべきである。 制限行為能力者制度は,意思無能力の特則として取引の安全の観点も加味して定められたものであるから,特別規定としての制限行為能力規定が優先する。 批 判 そもそも無効な行為を取り消すことはできないはずである。 制限行為能力者保護,表意者保護という法の趣旨に反する。 第2節第2節第2節第2節 制限行為能力者制限行為能力者制限行為能力者制限行為能力者 1 制限行為能力者に関する論点表 未成年者 成年被後見人 被保佐人 被補助人 意 義 20歳未満の者 cf.成年擬制(753) 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常 況 に あ る 者で,家庭裁判所から後見開始の審判を受けた者(7) 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく 不 十 分 な 者で,家庭裁判所から保佐開始の審判を受けた者(11)

精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者で,家庭裁判所から補助開始の審判を受けた者(15) *審判の実質要件たる原因が消滅した場合の審判の取消しの要否:必要的(10,14,18) 請求権者

本人,配偶者,四 親 等 内 の 親族,未成年後見人,未成年後見監 督 人 , 保 佐人 , 保 佐 監 督人,補助人,補助監督人,検察官(7) 本人,配偶者,四 親 等 内 の 親族,後見人,後見監督人,補助人 , 補 助 監 督人 , 検 察 官(11)

①請求権者:本人,配偶者,四親等内の親族,後見人,後見監督人,保佐人,保佐監督人,検察官(15) ②本人以外の者の請求によって審判をするには,本人の同 意 が 必 要(15Ⅱ) ∵自己決定権の尊重

✍成年後見制度の理念 ①自己決定権の尊重 ②残存能力の活用 ③ノーマライゼーショ ン

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民 法 講義テキスト - 3 -

能 力 原 則 法律行為をするには法定代理人の同意が必要(5Ⅰ本文)。 →同意なき行為は取り消すことができる(5Ⅱ)。 成年被後見人が単独で行った法律行為は取り消すことができる(9)。 単独で法律行為をすることができる。 単独で法律行為をすることができる。 例 外

①単に権利を得,又は義務を免れる行為(5Ⅰ但書) e.g.❶負担なき遺贈❷債務免除 ②保護者により処分を許された財産の処分(5Ⅲ) ③保護者により許可された営業に関する法律行為(6Ⅰ)※1 日用品の購入その他日常生活に関する行為については,単独で行うことができる(9但書)。 ∵残存能力の活用 *この規定は,保佐,補助についても準用されている。

13条1項に列挙されている行為及び同条2項による場合,保佐人の同意を要する(13)。※4 →同意なき行為は取り消すことができる。 13条1項各号に挙げられたものの中から,家庭裁判所が定めた特定の一部の行為については,補助人の同意が必要である(17Ⅰ)。※6 →同意なき行為は取り消すことができる。 保護者 第 1 次 : 親 権 者(818) 第2次:未成年後見人(838条)※2 成年後見人(8) ※2 保佐人(12) 補助人(16) ※7 代理権 〇(824) 〇(859)※3 ※3・※5 ※3・※5 同意権 〇(5Ⅰ本文) 『×』 〇(13Ⅰ) 〇(17Ⅰ) 追認権 〇(122) 〇(122) 〇(122) 〇(122) 取消権 〇(120) 〇(120) 〇(120) 〇(120) 監督人 未成年後見監督人 成年後見監督人 保佐監督人 補助監督人 ※1 営業の許可に関する論点 ① 一種又は数種の営業を特定する必要がある。 ② 許可された営業に関する法律行為につき,法定代理人の代理権は消滅する。 ③ 包括的許可や一種の一部の許可は認められない。 ※2 後見人に関する論点 ① 後見人の員数:成年後見・未成年後見ともに制限がない。 ② 法人後見:成年後見(843Ⅳ括弧書)・未成年後見(840Ⅲ括弧書:23年改正)ともに認められる。 ※3 居住用不動産の処分について 成年後見人,保佐人,補助人が,本人の居住用不動産につき,売却,賃貸,賃貸借の解除,抵当権の設定,その他これらに準ずる行為(譲渡担保権,仮登記担保権,不動産質権の設定等)をする場合,家庭裁判所の許可が必要となる(859の3,876の5Ⅱ,876の10Ⅰ)。 許可なき処分行為は無効となる。 cf.不登法:当該許可書は登記原因に関する第三者の許可を証する情報となる。

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※4 同意に代わる許可について 保護者の同意を要する行為につき,本人の利益を害するおそれがないにもかかわらず,保護者が同意しない場合,家庭裁判所は同意に代わる許可を与えることができる(13Ⅲ,17Ⅲ)。 ※5 保佐人・補助人の代理権に関して 家庭裁判所により,特定の法律行為につき代理権を付与する旨の審判をすることができる(876の4Ⅰ,876の9Ⅰ)。ただし,本人以外の者の請求による場合は,本人の同意が必要(同Ⅱ)である。なお,代理権の範囲は,13条1項列挙の行為には限られない。 <保佐人> <補助人> 同意権 同意権 代理権 代理権 <13Ⅰ> 法律行為 ※6 補助人の権限と補助開始の審判の関係について 補助人には代理権だけを付与することも,同意権(取消権)だけを付与することも,その双方を付与することも可能であるが,補助開始の審判を受けていながら,いずれの権限も付与しないということは許されない。 2 相手方保護の制度 2-1 相手方の催告権(20) 行為能力者となった後 制限行為能力者である間 催告の 相手方 1か月以上の期間を経過しても確答なき場合の効果 催告の 相手方 1か月以上の期間を経過しても確答なき場合の効果 未成年者 本 人 追 認 (1項) 法定代理人 (双方に催告すること) 単独で追認し得る行為 → 追認(2項) 特別の方式を要する行為 → 取消し(3項) 成年 被後見人 本 人 追 認 (1項) 成年後見人 単独で追認し得る行為 → 追認(2項) 特別の方式を要する行為 → 取消し(3項) 被保佐人 本 人 追 認 (1項) 本 人 取消し(4項) 保佐人 単独で追認し得る行為 → 追認(2項) 特別の方式を要する行為 → 取消し(3項) 被補助人 本 人 追 認 (1項) 本 人 取消し(4項) 補助人 単独で追認し得る行為 → 追認(2項) 特別の方式を要する行為 → 取消し(3項) * 無権代理における本人に対する催告は,「相当の期間」内に確答なき場合は,「追認を拒絶」したものとみなされることに注意(114後段) 制限行為能力者の行為が,取り消すことのできるものである場合に認められる相手方保護の制度

✍Memo 制限行為能力者制度は私的自治の補完であるため,制限行為能力者の保護がメインとなるが,制限行為能力者の保護規定だけしかないとすると,あまりにも取引の安全が害される。そこで,民法は相手方保護の制度を設けている。

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民 法 講義テキスト - 5 -

2-2 無返答の効果 催告された者が ① 受領能力を有しないときは,その催告は効果がない。 ② 単独で法律行為をなし得るときは追認したと扱われる。 ③ その他の場合は取消しと扱われる。 2-3 制限行為能力者の詐術(21) 意 義 能力を欺いた制限行為能力者の取消権を剥奪する制度 趣 旨 制限行為能力者への制裁 具体例 ①制限行為能力者であることを隠さず,同意権者の同意があるかのように信じさせた場合は,「詐術」に当たる(大判大12.8.2)。 ②制限行為能力者であることを単に黙秘するのみでは,「詐術」に当たらない。しかし,制限行為能力者の他の言動等と相まって相手方を誤信させ,又は相手方の誤信を強めさせたような場合には,「詐術」に当たる(最判昭44.2.13)。 第3節第3節第3節第3節 不在者の財産管理及び失踪宣告不在者の財産管理及び失踪宣告不在者の財産管理及び失踪宣告不在者の財産管理及び失踪宣告 1 不在者の財産管理 1-1 不在者の意義及び制度趣旨 不在者の意義 「不在者」とは,従来の住所を去って容易に帰って来る見込みのない者一般をいう。行方不明であるか否か,又は生死が不明であるか否かを問わない。 e.g.長期の海外出張 制 度 趣 旨 不在者本人の利益保護 cf.失踪宣告 1-2 不在者の財産管理 不在者が財産管理人を置いた場合 不在者が財産管理人を置かなかった場合 <原則>不在者と管理人の間の委任契約に従い管理される。 <例外>①本人の不在中に管理人の権限が消滅した場合 家裁は,利害関係人又は検察官の請求により,財産管理につき必要な処分(=財産管理人の選任を含む)を命ずる(25)。 ②不在者の生死が不明となった場合 家裁は,利害関係人又は検察官の請求により,財産管理人を改任する(26)。 家裁は,利害関係人又は検察官の請求により,その財産の管理について必要な処分(=財産管理人の選任を含む)を命ずる(25)。

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1-3 管理人とその職務権限 委任管財人 選任管財人 委任管財人(=不在者が置いた財産管理人)の職務権限は,不在者と委任管財人との間の委任契約の際に決められた内容による。 選任管財人(=家庭裁判所により選任される財産管理人)は,財産の保存行為及び利用・改良行為(103)をする権限のみ有するのが原則である。ただし,家裁の許可を得て権限外の行為を行うこともできる(28前段)。 不在者財産管理人の選任請求については,失踪宣告(30)のような時間的制約はない。 2 失踪宣告 不在者の生死不明の状態が継続することは,不在者の財産・身分に関して利害関係を持つ相続人や残留配偶者等の地位を不確定な状態に置くことになるため,不在者を死亡したものと取り扱って,‘利害関係人の法的関係を確定させる’制度が失踪宣告である。 この失踪宣告は,後見開始の審判などと同様に,家庭裁判所によってなされ,失踪宣告がなされると,失踪者は死亡したものとみなされる。 ただし,いくら死亡したものとみなされるといっても,失踪者の権利能力が消滅するわけではなく,あくまでも失踪者の従来の住所又は居所を中心とする法律関係について,失踪者が死亡した場合と同じ法律効果を認めるだけである。なお,失踪宣告の請求は,不在者財産管理人の選任の有無にかかわらずすることができる。 失踪宣告がなされる場合としては,①普通失踪と②特別失踪とがある。 2-1 要件及び効果 普通失踪(30Ⅰ) 特別失踪(30Ⅱ) 要 件 ①最後に不在者の生存が確認された時から7年が経過したこと ②利害関係人から失踪宣告の請求があること ③家庭裁判所の審判があること ①危難が去った時から1年が経過したこと ②利害関係人から失踪宣告の請求があること ③家庭裁判所の審判があること 効 果 7年間の期間の満了の時に死亡したものとみなされる(31)。 危難が去った時に,死亡したものとみなされる(31)。 2-2 失踪宣告の取消し(32) 要 件 ①本人又は利害関係人から失踪宣告取消しの請求があること ②失踪者の生存の証明,又は異なる時期での死亡が証明されたこと ③家庭裁判所の審判があること 効 果 原 則 失踪宣告の取消しにより,失踪宣告の効果として生じた財産上・身分上の法律関係は遡及的に消滅する。 例 外 取消前に善意でした行取消前に善意でした行取消前に善意でした行取消前に善意でした行為為為為 現存利益の返還現存利益の返還現存利益の返還現存利益の返還 失踪宣告後,取消前に「善意でした行為」には影響を及ぼさない(32Ⅰ後段)。 ※1 失踪宣告によって財産を得た者は,その取消しによって権利を失うものの,現に利益を受けている限度においてのみ,財産を返還する義務を負う(32Ⅱ)。 ※2 ※1 ① 当該行為が「契約」である場合,32条1項後段の「善意」とは,契約当事者双方が善意であることを要する(大判昭13.2.7,通説)。 ② 32条1項後段は,身分行為にも適用される(通説)。 [②に関する事案検討]

*過去問チェック

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民 法 講義テキスト - 7 -

婚姻関係にあったABにおいて,Aについて失踪宣告がなされたことに伴い,残留配偶者BがCと再婚したところ,その後Aの失踪宣告が取り消された。 この事案において,BCが婚姻時において双方とも善意であれば,BCの婚姻は完全に有効であり,ABの前婚は解消したままで復活しない。 しかし,BCのいずれか一方又は双方が婚姻時において悪意の場合,失踪宣告の取消しにより,婚姻解消の効果は失われ,ABの前婚が復活する。他方,BCの後婚は重婚関係(732)となる。この状態は,ABの前婚については離婚原因(770Ⅰ①)となり,BCの後婚については取消原因となる(744,732)。 ∵身分関係における意思の尊重 ※2 32条2項ただし書(現存利益の返還規定)は,善意者のみに適用され,悪意者には適用されない(通説)。 <理由>失踪宣告の誤りを知りながら利害関係に入った者までもが,現存利益の返還で許されるとするのでは,失踪宣告を信頼した者の保護という制度趣旨に反する。 2-3 失踪宣告の取消しの効果まとめ 甲(夫、死亡とみなされる) 乙(妻) 相続(土地、現金) 丙(第三者) 土地売却 乙 丙 土 地 現 金 善 意 善 意 丙所有(変動なし) 土地売却代金を含めて,現存利益を甲に返還 善 意 悪 意 甲に戻る 乙丙間は他人物売買(560) 丙は解除のみ(561) 現存利益を甲に返還 悪 意 善 意 甲に戻る 乙丙間は他人物売買(560) 丙は解除,損害賠償請求(561) 全額を甲に返還(704) 悪 意 悪 意 甲に戻る 乙丙間は他人物売買(560) 丙は解除のみ(561) 全額を甲に返還(704) 第4節第4節第4節第4節 同時死亡の推定(同時死亡の推定(同時死亡の推定(同時死亡の推定(32323232の2)の2)の2)の2) 要 件 数人の者が死亡した場合において,その死亡の先後が不明であること 効 果 同時に死亡したものと推定する。 事案検討 [事案] 父A―子B(―Bの子C):ABが死亡したが,死亡の先後が不明 ①AB間の相続は,相互に開始しない。 ∵相続における同時存在の必要性 ②AがBに「甲土地をBに遺贈する」旨の遺言をしていたとしても,当該遺贈は効力を生じない(994Ⅰ)。 ∵遺贈における同時存在の原則 ③Bに子Cがいる場合,Cは,Aを代襲相続する(887Ⅱ)。

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第2章第2章第2章第2章 法法法法 人人人人 第1節第1節第1節第1節 法法法法 人人人人 1 法人総論 1-1 法人学説 ✻学説・判例問題論点表 法人実在説(通説) 法人擬制説 意 義 法人は自然人と同様の独立した1個の社会的実在である。 法人は権利義務の主体となるべく法によって技術的に自然人に擬されたものである。 (代表)理事の地位及び法人の行為能力 法人の行為が認められ,(代表)理事が法人の代表機関となる。したがって,法人の目的の範囲内の(代表)理事の行為が法人の行為となる。 法人自体の行為が認められない以上,(代表)理事は法人の代理人となる。したがって,代理人としての(代表)理事の行為の効果が法人に帰属するにすぎない。 法人の不法行為能力 法人自体の行為が認められる以上,法人の不法行為能力も認められる。 法人自体の行為が認められないため,法人の不法行為能力も認められない。 法人が不法行為責任を負う場合の不法行為をした(代表)理事個人の責任 (代表)理事は法人の代表機関であると同時に一人の自然人であるため,その不法行為は二面性を有する。したがって,(代表)理事は不法行為責任を負う。 (代表)理事個人の不法行為として,(代表)理事は責任を負う。 (代表)理事の占有 法人自身の行為が認められる以上,法人の占有のみ認められる。(代表)理事は,占有補助者にすぎない。 法人自体の行為が認められないため,(代表)理事には独立の占有が認められる。 1-2 法人の権利能力 法人の権利能力は,定款その他の基本約款で定められた目的の範囲に限定される(34,最判昭45.6.24参照)。 ただし その意味するところは,目的自体に包含される行為の他,目的遂行に必要な行為も含まれる。 そして 目的遂行に必要か否かは,その記載自体から観察して客観的・抽象的に判断すべきである(最判昭27.2.15)。 [考え方][考え方][考え方][考え方] 目的による制限 …客観性・抽象性… 法人構成員の利益 目的達成に必要な行為も含まれる。 第三者の取引安全の利益

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民 法 講義テキスト - 9 -

1-3 代表者の権限に加えた制限 原 則 (代表)理事は,一般社団・財団法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する(一般法人77Ⅳ,197)。 例 外 定款等の内部規範により(代表)理事の代表権に制限を加えることができる。 再例外 ((代表)理事の)代表権に加えた制限〔※1〕をもって善意〔※2〕の第三者に対抗することはできない(旧54,一般法人77Ⅴ,197)。 ※1 e.g.一定金額以上の借財をする場合には社員総会の承認を得る。 ※2 善意とは,定款の定め自体を知らないことをいう。 定款による(代表)理事の代表権の制限につき,相手方が悪意であっても,当該(代表)理事の行為につき,代表権があると信ずるにつき,正当な理由があれば,110条の類推適用により相手方が保護される余地はある(最判昭60.11.29)。 1-4 法人の不法行為責任 □□□ 一般社団・財団法人は「代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」(一般法人78,197)。 <要件> ① 代表機関の行為であること ② 代表機関が職務を行うについてなした行為であること 「職務を行うについて」の判例解釈 客観的に行為の外形から判断して,法人の目的の範囲内の行為と認められるほか,社会観念上,職務行為と相当な牽連関係に立つ場合を含む(最判昭37.9.7:外形理論)。ただし,外形上,職務行為に属する行為から損害が生じた場合であっても,当該行為が,実際には,職務行為に属さないことについて,相手方が悪意又は重過失であるときには,法人は責任を負わない(最判昭50.7.14)。 ③ 代表機関の行為が709条の要件を具備していること 代表機関も個人として責任を負う(大判昭7.5.27)。 [考え方] 理事個人の行為:個人の不法行為責任 理事の行為 709条の一般要件充足の必要性 法人の代表機関としての行為:法人の不法行為責任 一般社団・財団法人の役員等が,その職務を行うについて悪意又は重過失があったときは,当該役員等は,これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う(一般法人117,198:特別の法定責任)。

*過去問チェック

*関連論点

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択一式対策 択一合格アドバンス講座 - 10 -

2 一般社団・財団法人法の概要 2-1 機関設計 一般社団法人 一般財団法人 ⑴ 機関設計の基本構造 一般社団法人には,社員総会のほか,1人又は2人以上の理事を置かなければならず(一般法人60Ⅰ),また,定款の定めにより,理事会(*),監事,会計監査人を置くことができる(同Ⅱ)。 * 理事会設置一般社団法人においては,理事は3人以上必要である(一般法人65Ⅲ)。 ⑵ 監事の設置義務 理事会設置一般社団法人及び会計監査人設置一般社団法人は,監事を置かなければならない(一般法人61)。 ⑶ 会計監査人の設置義務 大規模一般社団法人(※)は,会計監査人を置かなければならない(一般法人62)。 ⑷ 一般社団法人の機関設計一覧 ①社員総会+理事 ②社員総会+理事+監事 ③社員総会+理事+監事+会計監査人 ④社員総会+理事+理事会+監事 ⑤社員総会+理事+理事会+監事+会計監査人

⑴ 機関設計の基本構造 一般財団法人には,評議員,評議員会(=3人以上の評議員から構成される),理事,理事会,監事を置かなければならず(一般法人 170Ⅰ),また,定款の定めにより,会計監査人を置くことができる(同Ⅱ)。 ⑵ 会計監査人の設置義務 大規模一般財団法人(※)は,会計監査人を置かなければならない(一般法人 171)。 ⑶ 一般財団法人の機関設計一覧 ①評議員+評議員会+理事+理事会+監事 ②評議員+評議員会+理事+理事会+監事 +会計監査人 ※大規模一般社団・財団法人とは,最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計が200億円以上である一般社団・財団法人をいう(一般法人2②③)。 2-2 概要図表 一般社団法人 一般財団法人 設 立 名称 ・名称中に「一般社団法人」という文字を使用(一般法人5) ・名称中に「一般財団法人」という文字を使用(一般法人5) 社員数 ・社員2名以上(同10Ⅰ参照) 財産保 有規制 ・なし(ただし,定款で基金制度の採用が可能) ・設立には,300万以上の財産の拠出が必要(同157,153Ⅱ) 定款 ・設立時社員が作成(同10) ・設立者が作成(同152Ⅰ) 機関

必要的 ・理事(同60Ⅰ,170Ⅰ) ・社員総会(同35参照) ・評議員,評議員会,理事会,監事(同170Ⅰ) 任意的 ・理事会,監事,会計監査人(同60Ⅱ) ・会計監査人(同170Ⅱ) 社員総会,評議員会の決議事項 ・社員総会は,当該法人に関する一切の事項について決議。ただし,理事会を置く場合は,法律・定款で定めた事項に限り決議(同35) ・評議員会は,法律・定款で定める事項に限り決議(同178Ⅱ) 理事等 の選任 ・社員総会の決議によって選任(同63Ⅰ) ・評議員会の決議によって選任(同177・63Ⅰ) その他 ・理事会は,業務執行の決定,理事の職務執行の監督,代表理事の選定・解職をする(同90Ⅱ,197)。 計算 ・事業年度毎の計算書類,事業報告等の作成が必要(同123,199) ・貸借対照表(大規模一般社団・財団法人は貸借対照表及び損益計算書)の公告が必要(同128,199)

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その他 ・定款で基金制度の採用が可能(同131以下) ※基金:一般社団法人に拠出された金銭その他の財産であって当該法人が拠出者に返還義務を負うもの ・社員による役員の責任追及の訴えが可能(同278以下) ・目的,評議員の選解任方法についての定款の変更には制限あり(同200) ・二期連続して純資産額が300万円未満となったときは解散(同202Ⅱ) ・一般社団・財団法人法においては,一般社団・財団法人は,他の一般社団・財団法人と合併することができる旨を規定している(同242)。 第2節第2節第2節第2節 権利能力なき社団権利能力なき社団権利能力なき社団権利能力なき社団 1 意義及び成立要件 意 義 権利能力なき社団とは,実質的には社団法人と同様の実体を持ちながら,法人格のない団体をいう。 一般社団法人と異なり,営利を目的とするものでもよい。 成立要件 ( 最 判 昭39.10.15) ① 団体としての組織を備えていること ② 意思決定に多数決の原則が行なわれていること ③ 構成員が変更しても団体は存続すること ④ 代表の方法,総会の運営,財産管理,その他団体として主要な点が確定していること 2 法律関係 一般的解釈 具体的帰結 積極財産の帰属 権利能力なき社団は,実質的には社団法人と同様の実体を持つため,その権利義務は,構成員に総有的に帰属すると解されている(最判昭32.11.14)。 権利能力なき社団の構成員は当該財産に対し,具体的持分及び分割請求権を有しない。 構成員等の責任 権利能力なき社団の債務は,社団の構成員全員に総有的に帰属するので,社団の総有財産のみがその責任財産となる。 ①構成員は,債権者に対し直接には債務ないし責任を負わない(最判昭48.10.9)。 ②代表者も,直接には債務ないし責任を負わない(最判昭44.11.4)。 登記の方法 ※ 不動産登記法上,権利能力なき社団名義の登記は認められていない。また,虚偽登記防止のため,権利能力なき社団の肩書の付いた代表者名義の登記も認められていない。 ①代表者の個人名義(最判昭47.6.2) ②構成員全員の共有名義(昭23.6.21民甲1897号) ③規約等に定められた手続によって登記名義人に指名された,代表者ではない構成員の個人名義(最判平6.5.31) (④市区町村の認可を受けた地縁団体名義(平3.4.2民三2246号,地方自治法260条の2)) 訴 訟 権利能力なき社団には,訴訟上の「当事者能力」が認められている(民訴29)が,事件によっては,「当事者適格」が否定される場合もある。 不動産登記請求に関する訴訟については,その代表者に当事者適格が認められる。(※)

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※ 最判平26年2月27日において,「権利能力のない社団は,構成員全員に総有的に帰属する不動産について,その所有権の登記名義人に対し,当該社団の代表者の個人名義に所有権移転登記手続をすることを求める訴訟の原告適格を有すると解するのが相当である」としている。 【民法の共同所有の形態】 民法上の共同所有の形態としては,①共有,②合有,③総有の3つがある。 以下整理しておこう。 ①共有 共有は,共同所有の原則的形態である。共有の特徴は,共有者一人一人に,具体的持分が認められる点にある。各共有者は,目的物を使用・収益できることに加え,単独でその持分を処分することができるし,目的物の分割を請求することができる(256Ⅰ)。 ②合有 合有においては,各人に具体的持分は認められず,ただ潜在的持分が認められるに過ぎない。すなわち,合有者各人は,目的物を使用・収益できるものの,具体的持分をもたないため,持分の処分や目的物の分割請求は認められない。ただし,共同所有関係を離脱する際に持分の払戻しを請求することはできる。組合における組合財産は,組合員全員の合有に属する(676ⅠⅡ,681参照)。 ③総有 共有,合有に比べ,更に特殊な共同所有形態である。総有の場合は,各人において持分が認められない。すなわち,総有者各人は,目的物を使用・収益することができるだけであり,持分の処分や分割請求はもとより,共同所有関係を離脱する際の持分の払戻しすら認められない。権利能力なき社団(同窓会や大学のサークルなど)の財産がこれにあたる。 【一般社団法人・権能なき社団・組合の比較表】 一般社団法人 権利能力なき社団 民法上の組合 財産帰属 社団に帰属 構成員の総有 組合員の合有 団体債務に対する構成員の責任 構成員は個人的責任を負わない 組合員は個人的責任を負う (675) 団体の債権者による,構成員の個人財産への差押え できない できる 構成員の債務に対する団体の責任 法人(社団)は責任を負わない 組合は責任を負わない (676,677) 構成員の債権者による,構成員が団体に拠出した財産の差押え できない 団体名義の登記 できる できない 営利目的 できない できる

*関連論点

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第3章第3章第3章第3章 意思表示意思表示意思表示意思表示 【意思表示の成立過程】 内心的 効果意思 表示行為 表示意思 動 機 意思表示 第1節第1節第1節第1節 意思の欠缺意思の欠缺意思の欠缺意思の欠缺 1 心裡留保 意 義 心裡留保とは,表示行為に示された効果意思に対応する内心的効果意思が欠けており,かつ,表意者がそのことを知りながらする意思表示をいう(93)。 効 果 <原則>意思表示は有効である(93本文)。 <例外>相手方が,表意者の真意を知っているか(悪意),又は知ることができた(有過失)場合,当該意思表示は無効となる(同但書)。 2 通謀虚偽表示 2-1 意義及び効果 意 義 通謀虚偽表示とは,相手方と通じて,表示された効果意思と対応する内心的効果意思が欠けていることを知りながらする意思表示をいう(94Ⅰ)。 効 果 <原則>意思表示は無効である(94Ⅰ)。 <例外>意思表示の無効をもって,善意の第三者に対抗することはできない(同Ⅱ)。 2-2 94条2項の第三者 「第三者」の定義 94条2項の「第三者」とは,虚偽表示の当事者及びその包括承継人以外の者で,虚偽表示に基づいて“新たに独立の”法律上の利害関係を有するに至った者をいう(最判昭45.7.24)。 94 条 2 項 の「第三者」に該当する例 □ 不動産の仮装譲受人からさらに譲り受けた者(最判昭28.10.1) □ 仮装譲渡された不動産につき抵当権の設定を受けた者(大判大4.12.17) □ 仮装債権の譲受人(大判昭13.12.17) □ 虚偽表示の目的物を差し押さえた者(最判昭48.6.28) □ 虚偽表示による抵当権設定契約がなされた場合に,当該抵当権につき転抵当権の設定を受けた者(最判昭55.9.1) 94 条 2 項 の「第三者」に該当しない例 □ 債権の仮装譲渡の譲受人から取立てのために債権を譲り受けた者 ∵「取立てのための債権譲渡」の譲受人は,実質的には債権者の代理人に過ぎず,独立した利害関係を有するに至っていないため □ 仮装譲受人に対する一般債権者(大判大9.7.23) ∵一般債権者は仮装譲受人に対して,「全財産」について利害関係を有する反面,当該「特定の財産」については,利害関係が薄いため

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□ 仮装譲渡された債権の債務者(最判昭8.6.16) ∵債務者は新たに利害関係を有するに至っていないため □ 先順位抵当権が仮装放棄された場合の後順位抵当権者 ∵後順位抵当権者は,新たに利害関係を有するに至っていないため □ 土地が仮装譲渡され建物が建築された場合の借家人(最判昭57.6.8) ∵借家人は,土地については法律上の利害関係を有するに至っていないため □ 代理人が虚偽表示をした場合の本人 ∵本人は新たに利害関係を有するに至っていないため ⑴ 無過失と登記の要否 ア 無過失の要否 結 論 第三者は,通謀虚偽表示につき善意であれば,過失があっても94条2項により保護される(大判昭12.8.10)。 理 由 ①94条2項に無過失を要する旨の文言がない。 ②虚偽の意思表示をした者の帰責性が大きい。 イ 登記の要否 通謀虚偽表示の当事者との関係 仮装譲渡人から譲渡を受けた者との関係 通謀虚偽表示の当事者(表意者及び相手方)との関係では,第三者は,登記を備えていなくとも 保 護 さ れ る ( 最 判昭 55.9.11)。 不動産につき,「仮装譲渡人A→仮装譲受人B→善意の第三者C」という譲渡と,「A→D」という譲渡があった場合には,CとDは,対抗関係に立ち(177),先に登記を備えた者が所有権の取得を主張できる(最判昭42.10.31)。 下記(図)参照。 (図) 対抗関係 A B C

①94Ⅰ (94Ⅱ)② ③ ⑵ 転得者の保護 【事案1】第三者Cが悪意で転得者Dが善意の場合 A B C D

①94Ⅰ (善意)②譲渡 ③譲渡 (悪意) 【結論】 Cは悪意なので94条2項で保護されないが,Dは,同条2項の「善意の第三者」に当たり保護される(最判昭45.7.24)。

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【事案2】第三者Cが善意で転得者Dが悪意の場合 A B C D ①94Ⅰ (悪意)②譲渡 ③譲渡 (善意) 【結論】94条2項による善意の第三者の保護が無意味なものとならないようにするため,Cが保護される以上,その後者たるDも保護される(大判大3.7.9:絶対的構成)。 Q 転得者が悪意の場合でも保護されるか 相対的構成説 絶対的構成説(大判昭3.7.9,通説) ❶【主張】 転得者Dが善意の場合は保護し,悪意の場合は保護しない ❷【批判】 転得者Dが保護されないとすると,DはAからの返還請求を拒めず,善意者Cが追奪担保責任(民561条)を追及されることになる ↓その結果 Cは,善意者としか取引をすることができず,Cの財産処分権が事実上制約され,Cを保護した意味がなくなる ❸【批判】 Aとの関係で,相対的にDの権利取得の効果を決すると,法律関係が複雑になる ❺【批判】 善意者Cを“わら人形”として介在させれば,悪意者Dも保護されることになるが,この結論は妥当ではない ❹【主張】 ひとたび善意者Cが現れれば,転得者Dは,たとえ悪意であっても保護されるべきである 2-3 94条2項の類推適用 判例の見解 通謀虚偽表示は外観法理に基づく規定である。そこで,通謀虚偽表示そのものがない場合であっても,①「虚偽の外観」が存在し,②「虚偽の外観の作出につき権利者に帰責性」があり,③虚偽の外観を「第三者が信頼」している場合,94条2項を類推適用し,善意の第三者を保護するとするのが判例の見解である(最判昭45.7.24) 重要判例 ① AとB共有の甲不動産につき,AがBに無断でA単独所有の登記を経由したが,Bはその事実を知りながら長時間これを放置していた場合において,甲不動産がAとBの共有であることを知らないCに,Aが甲不動産を売却したときは,BはCに対し,自己の持分を主張することはできない(最判45.9.22)

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② 不動産について売買の予約がされていないにもかかわらず,相手方と通じてその予約を仮装して所有権移転請求権保全の仮登記手続をした場合,その仮登記を奇貨としてなされた本登記の無効は,94条2項,110条の法意に照らして,善意・無過失の第三者に対抗できない(最判昭43.10.17) ③ Aが不動産賃貸事務を任せていた代理人Bに登記済証を預け,またいわれるままに印鑑証明書を交付し,実印を押捺することを漫然と見ていたところ,代理人Bがその不動産を自己に所有権移転の登記をしてさらに善意無過失のCに譲渡し登記をした場合,AはCに対し,自己の所有権を主張することはできない(最判平18.2.23) 3 錯 誤 3-1 意義及び効果 意 義 「錯誤」とは,表示行為により表示された効果意思に対応する内心的効果意思が存在しないことについて,表意者自身が知らないことをいう(95,大判大3.12.15)。 効 果 <原則>法律行為の要素(因果関係及び重要性)に錯誤があるときに限り無効となる(95本文)。 <例外>重過失のある表意者は無効を主張できない(同但書)。※ ※ 表意者に重過失があっても,相手方が表意者に錯誤があることについて悪意の場合,表意者は無効主張することができる(通説)。 3-2 錯誤の分類 表示上の錯誤 内容の錯誤 動機の錯誤 意意意意 義義義義 具体例具体例具体例具体例 意意意意 義義義義 具体例具体例具体例具体例 意意意意 義義義義 具体例具体例具体例具体例 表示上の錯誤とは,表示行為自体を誤るものであり,誤記・誤談の類をいう。 10ドルと言うつもりで,うっかり「10ポンド」と言った。 内容の錯誤とは,表示行為の意味内容を誤解することをいう。 ドルとポンドの価値が同じだと考えて,「10ポンド」と言った。 動機の錯誤とは,意思表示をする動機に錯誤がある場合をいう。 受胎している良馬と誤信して,駄 馬 を 買 っ た( 大 判 大 6 .2.24)。 Q動機の錯誤を通常の錯誤と同様に取扱うことができるか? 判例 結論:動機の錯誤は,原則として「錯誤」に当たらない。しかし,動機を表示(明示若しくは黙示)して意思表示の内容となった場合には95条が適用される(最判昭29.11.26)。 理由:①外部から認識不能な動機(=表示されない動機)により意思表示が無効とされた場合,相手方は不測の損害を被り,取引の安全が害される。 ②動機の表示の有無という客観的基準を設けることにより,取引の安全に資する。

*関連論点

*重要論点

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3-3 主張権者 原 則 表意者のみ無効の主張が認められる。 ∵表意者保護 相手方や第三者が表意者の意思に反して錯誤無効を主張することはできない(最判昭40.9.10)。 例 外 【要 件】 ①表意者がその意思表示に関し要素の錯誤があることを認めている。 ②表意者の債権を代位行使する(423)必要がある。 表意者自らは錯誤無効を主張する意思がなくても,当該第三者たる債権者が無効を主張することが許される(最判昭45.3.26)。 ****picturepicturepicturepicture A B C 贋作 ☆☆☆☆Cの代位行使の前提として,CはAに対し,錯誤無効を主張できる。 再例外 法律行為に要素の錯誤があっても,表意者に重大な過失があるため,表意者が無効主張できないときは,相手方,第三者もその無効を主張することができない(最判昭40.6.4)。 3-4 錯誤無効と他制度との関係に関する論点表(二重効の問題) 判 例 通 説 詐欺取消しと 錯誤無効 の関係 二重効否定(大判大5.7.5) ①要素の錯誤:無効 ②その他の錯誤:取消し 二重効肯定 無効と取消しのいずれも主張することができる(趣旨:表意者保護)。 かつての本試験では,通説の立場で問題が出題されていた。 錯誤と 瑕疵担保責任 の関係 結論:錯誤が成立する場合,瑕疵担保責任の規定が排除される(最判昭33.6.14)。 結論:瑕疵担保責任が成立する場合には,錯誤の規定が排除される。 (理由)(理由)(理由)(理由) ① 錯誤が成立する場合には契約は無効である。 ② そもそも瑕疵担保責任の規定は有効な契約を前提としている以上,瑕疵担保責任は問題とならない。 (理由)(理由)(理由)(理由) ① 瑕疵担保責任の規定は,有償契約に関する特別規定である。 ② 錯誤無効の主張には期間制限が定められていないから,錯誤無効の主張をいつまでも認めると,法的安定を害する。

☆本試験の傾向☆

絵 ①100万円で売買 ②100万円 ①’不当利得返還請求 ③無資力

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第2節第2節第2節第2節 瑕疵ある意思表示瑕疵ある意思表示瑕疵ある意思表示瑕疵ある意思表示 1 詐 欺 1-1 意義及び効果 意 義 詐欺とは,①人をだまして(欺いて),錯誤に陥らせ,②その錯誤によって意思表示させる行為をいう(96Ⅰ)。詐欺があったといえるためには,詐欺者に上記①②の二重の意思が必要であるとするのが判例である(大判大11.2.6)。 効 果 <原則>詐欺による意思表示は取り消すことができる(96Ⅰ)。 <例外>①第三者の詐欺による意思表示は,相手方が悪意であるときに限り,取り消すことができる(同Ⅱ:取消し自体が制限される)。 e.g.保証契約は,債権者と保証人との間の契約であるから,保証人(=表意者)が,主たる債務者(=第三者)に騙されて,債権者と保証契約を締結した場合には,債権者(=相手方)が主たる債務者の詐欺の事実を知っていたときに限って,保証人は,保証契約を取り消すことができる。 ②詐欺による取消しは,善意の第三者に対抗することができない(同Ⅲ:取消し自体は制限されない)。 1-2 96条3項の「第三者」 意 義 96条3項の「第三者」とは,表意者及び相手方並びにそれらの包括承継人以外の者であって,詐欺による意思表示に基づき形成された法律関係につき,新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者をいう。 96 条 3 項 の「第三者」に該当しない者 ①詐欺により1番抵当権が放棄されたため順位が上昇する2番抵当権者 ②連帯債務者の一人が詐欺により代物弁済した場合における他の連帯債務者 ∵いずれも,新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者ではないため,96条3項の「第三者」には該当しない。 範 囲 96条3項は,取消しの遡及効を制限するものである以上,「第三者」とは,取消前に利害関係に入った者に限られ,取消後に利害関係を有することになった第三者は,同条3項の「第三者」には含まれない。取消後の第三者と表意者との関係は,対抗問題として処理される(大判昭17.9.30)。 無過失及び登記の要否 無過失の要否無過失の要否無過失の要否無過失の要否 登記の要否登記の要否登記の要否登記の要否 従来の通説は無過失までは要求されないと解していたが,近時,無過失要件は必要とする説も有力である。 ①96条3項の文言上,登記は要求されていないこと,②第三者の取引安全を図る必要があることから,登記は不要とする不要説が多数説である。なお,仮登記をした第三者は保護されるとする判例がある(最判昭49.9.26)。 2 強 迫 意 義 強迫とは,人に害悪(=その者にとって害になること:e.g.生命・身体・財産の侵害,精神的侵害等)を示して恐怖心を生じさせ,瑕疵ある意思表示を行わせる行為をいう(96Ⅰ)。 効 果 表意者は強迫による意思表示を取り消すことができる(96Ⅰ)。詐欺の場合のような制限はない。 取消と第三者との関係 ・96条が適用されるのは取消前の第三者との関係に限られる(第三者保護規定なし 取消権者は善意の第三者に対抗OK!)。 ・取消後の第三者との関係では177条が適用される。

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3 詐欺及び強迫の第三者の保護 取消しの理由 取消し前の第三者 取消し後の第三者 ①詐欺 96条3項で保護 177条により処理 ②強迫 保護されない ③制限行為能力 4 意思表示まとめ 心裡留保 虚偽表示 錯 誤 意 義 表示行為に示された効果意思に対応する内心的効果意思が欠けており,かつ,表意者がそのことを知りながらする意思表示をいう(93) 相手方と通じて,表示された効果意思と対応する内心的効果意思が欠けていることを知りながらする意思表示をいう(94Ⅰ)

表示行為により表示された効果意思に対応する内心的効果意思が存在しないことについて,表意者自身が知らないことをいう(95,大判大3.12.15) 効 果

【原則】 意思表示は有効である(93本) 【例外】 相手方が,表意者の真意を知っているか(悪意),又は知ることができた(有過失)場合,当該意思表示は無効となる(同但書) 【原則】意思表示は無効である(94Ⅰ) 【例外】 意思表示の無効をもって,善意の第三者に対抗することはできない(同Ⅱ)

【原則】 法律行為の要素に錯誤があるときは無効となる(95本) 【例外】 重過失のある表意者は無効を主張できない(同但書)(※) ※ 表意者に重過失があっても,相手方が表意者に錯誤があることについて悪意の場合,表意者は無効主張することができる(通説)。

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択一式対策 択一合格アドバンス講座 - 20 -

第3節第3節第3節第3節 意思表示の効力発生意思表示の効力発生意思表示の効力発生意思表示の効力発生 発 信 了 知 到 達 表 白 1 隔地者に対する意思表示 意思表示の効力発生時期 <原則> 意思表示は相手方に到達した時に効力を生ずる(※)(97Ⅰ)。 <例外> 契約における承諾の意思表示は,発信した時に効力を生ずる(526)。 意思表示発信後の表意者の死亡・能力の喪失 <原則> 意思表示の効力に影響はない(97Ⅱ)。 <例外> 契約の申込みの意思表示については,①申込者が反対の意思表示をしていた場合,②相手方が申込者の死亡又は能力喪失を知っていた場合,意思表示は効力を失う(525)。 制限行為能力者の意思表示の受領能力 未成年者・成年被後見人未成年者・成年被後見人未成年者・成年被後見人未成年者・成年被後見人 被保佐人・被補助人被保佐人・被補助人被保佐人・被補助人被保佐人・被補助人 意思表示の受領能力はない 意思表示の受領能力はある <原則>未成年者,成年被後見人に対する意思表示をもってこれらの者に対抗することはできない(98の2本文)。 <例外>法定代理人がその意思表示を知った後は,未成年者,成年被後見人に対する意思表示をもってこれらの者に対抗することができる(同但書)。 ∵未成年者,成年被後見人とは異なり,管理能力は認められるからである。

※ 到達とは,意思表示が相手方の了知し得べき状態に置かれることをいう。 相手方によって直接受領され又は了知されることを要するものではなく,意思表示又は通知を記載した書面が,相手方のいわゆる支配圏内に置かれることをもって足りる(最判昭36.4.20)。又は,郵便箱に投入され,又は同居の親族・内縁の妻・雇人に手渡されれば足り(大判昭17.11.28),相手方の家族が正当な理由なく受領を拒んだときには,到達があったとみてよい(大判昭11.2.14)。 2 到達主義の効果 ⑴ 不着・延着による不利益は,表意者が負担する。 ⑵ 表意者は意思表示を発信した後でも,到達前ならば撤回が可能 ⑶ 発信の後,到達前に表意者が死亡し,又は行為能力を喪失しても,意思表示はその効力を失わず到達によって効力を生ずる(97Ⅱ)。 * ただし,契約の申込みにつき521条1項,524条。承諾については争いあり。